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6 今度は執事のお兄さん来襲、なにコイツ!
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「疲れたっ」
若奥様が俺の周りをウロチョロする様になってから、ボロボロの作業小屋が今や唯一のセーフティゾーンだ。流石にこんな汚い場所には若奥様も寄り付かねぇからな。
薄暗く埃臭い作業小屋の中、ドサッと積み上がった麻袋に背を預ける様に座り込み、乾燥してパサパサになった黒パンに齧りついて、水と一緒に流し込む。
今日、若奥様に昼飯の事を聞かれた時に「食べてない」って言えば、こんな手の平サイズの硬いパンじゃなくて、フワフワで沢山の肉や野菜が挟まった今世で一度も食った事が無い様な豪華なサンドウィッチが食えたのかも知れない。
そう思うと、飯だけでも恵んで貰える様に動けば良かったかも……なんて、今更浮かぶ後悔と卑しい考えを、頭を叩いて振り払う。
ダメだダメだ。飢えは人を駄目にする。さっさと食って作業に戻ろう。
「ここにいたか」
俺が口を大きく開いたと同時に作業小屋の扉が開き、先日若奥様を押し付けた執事見習いのお兄さんが入って来た。
予想外の人物の登場に、齧ろうとしたパンも口もそのままに俺の動きが止まる。
「きったね」
「あ“?」
勝手に入って来て早々、言う事がそれか! マジ口悪いなコイツ!
「なんのご用ですかー? 俺、今、飯時なんですけどー?」
この前、若奥様を押し付けた事に対しての苦情なら後にしてくれねぇかな。
「飯って、そのパンが?」
「悪ぃかよ。こんなんでも俺には立派なランチなの!」
信じらんねぇって顔で俺が持つパンを見るお兄さんの目からパンを隠す。そりゃ、お兄さんみたいに、まともなモン食ってる人から見りゃ鳩の餌位のもんかも知れないけどさ。
そうやって見られると、恥ずかしくなんだろ。
「それに、なんでこんな所で飯食ってるんだよ。こんな所で食ってたら埃食ってる気にならねぇか?」
「わ、る、か、っ、た、な! お兄さんには関係ないだろ!! 本当に何? この前、若奥様を押し付けた事の仕返し?」
本当に腹立つなぁ! 文句があるならハッキリ言えば良いだろ!
「若奥様対策か」
「え?」
「最近、ずっと若奥様に付き纏われてるんだろ? お前が困ってる感じは見てて分かった。確かに、ここなら若奥様も入って来ないだろうな」
作業小屋の中を見回して言うお兄さんを座った体勢のまま見上げる。
人間、本当に予想外な事を言われるとリアクション取れないもんなんだな。
若奥様が俺の所に来てるのは知られてるだろうとは思ってたけど、俺が困ってるって分かって貰ってたのは意外だ。だって、若奥様本人が俺の素っ気ない態度だとか、ぞんざいな受け答えですら都合良く受け取って全然通じねぇんだもん。
もしかして、俺の態度って曖昧過ぎて分かんねぇのかと不安に思っちゃってたじゃねぇか。
「で、お前の昼飯ってそれだけ?」
「え? あ、ああ、うん」
「じゃ、ちょっと食うの待て」
「へ?」
「食わずに待ってろ」
すっげぇ、一方的に言うだけ言ってお兄さんは作業小屋から出て行った。
何だったんだ? 本当に何をしに来たのか分からない。
しばらく、お兄さんが出て行った扉をボーゼンと見つめ、俺は手に持っていたパンを包み紙に包み直して作業に戻った。
「待ってろって言っただろ」
作業小屋の裏で剪定した枝や葉を集め、堆肥を作る為に細かく切っていると背後からお兄さんのちょっと不機嫌な声が聞こえ振り返った。
「だって、何もせずに待つだけって時間の無駄じゃん。俺やる事多いのよ」
それに、どれ位で戻るとかも言わなかったじゃん。
俺がそう言うと、微かにお兄さんの舌打ちの音が聞こえた。
ええ!? なんで舌打ち!? 俺、舌打ちされるような事言った?
「パンは? もう食っちまったのか?」
「食べて無いけど?」
「どこ?」
「小屋の中」
「待ってろ」
また、待ってろ!?
ぶっきらぼうにそれだけ言って、また立ち去るお兄さんの意味が分からなさ過ぎて面倒臭くなって来た。もう、知らんわ。
気にするのも時間の無駄だ、と俺は枝を切る作業に戻るが、今度はお兄さんは直ぐに戻って来た。
手に肉がいっぱい挟まったサンドウィッチを持って。
「ほら食え。厨房から貰った余り物の端肉を挟んだだけだが、さっきのよりは良いだろ」
「え? え? ぅええ!?」
目の前にズイッと差し出されたサンドウィッチのパンは俺が持って来ていた黒パンで、それに端肉とは名ばかりの分厚くて瑞々しい肉を何枚も無理やり小さな黒パンで挟んでいた。
若奥様が俺の周りをウロチョロする様になってから、ボロボロの作業小屋が今や唯一のセーフティゾーンだ。流石にこんな汚い場所には若奥様も寄り付かねぇからな。
薄暗く埃臭い作業小屋の中、ドサッと積み上がった麻袋に背を預ける様に座り込み、乾燥してパサパサになった黒パンに齧りついて、水と一緒に流し込む。
今日、若奥様に昼飯の事を聞かれた時に「食べてない」って言えば、こんな手の平サイズの硬いパンじゃなくて、フワフワで沢山の肉や野菜が挟まった今世で一度も食った事が無い様な豪華なサンドウィッチが食えたのかも知れない。
そう思うと、飯だけでも恵んで貰える様に動けば良かったかも……なんて、今更浮かぶ後悔と卑しい考えを、頭を叩いて振り払う。
ダメだダメだ。飢えは人を駄目にする。さっさと食って作業に戻ろう。
「ここにいたか」
俺が口を大きく開いたと同時に作業小屋の扉が開き、先日若奥様を押し付けた執事見習いのお兄さんが入って来た。
予想外の人物の登場に、齧ろうとしたパンも口もそのままに俺の動きが止まる。
「きったね」
「あ“?」
勝手に入って来て早々、言う事がそれか! マジ口悪いなコイツ!
「なんのご用ですかー? 俺、今、飯時なんですけどー?」
この前、若奥様を押し付けた事に対しての苦情なら後にしてくれねぇかな。
「飯って、そのパンが?」
「悪ぃかよ。こんなんでも俺には立派なランチなの!」
信じらんねぇって顔で俺が持つパンを見るお兄さんの目からパンを隠す。そりゃ、お兄さんみたいに、まともなモン食ってる人から見りゃ鳩の餌位のもんかも知れないけどさ。
そうやって見られると、恥ずかしくなんだろ。
「それに、なんでこんな所で飯食ってるんだよ。こんな所で食ってたら埃食ってる気にならねぇか?」
「わ、る、か、っ、た、な! お兄さんには関係ないだろ!! 本当に何? この前、若奥様を押し付けた事の仕返し?」
本当に腹立つなぁ! 文句があるならハッキリ言えば良いだろ!
「若奥様対策か」
「え?」
「最近、ずっと若奥様に付き纏われてるんだろ? お前が困ってる感じは見てて分かった。確かに、ここなら若奥様も入って来ないだろうな」
作業小屋の中を見回して言うお兄さんを座った体勢のまま見上げる。
人間、本当に予想外な事を言われるとリアクション取れないもんなんだな。
若奥様が俺の所に来てるのは知られてるだろうとは思ってたけど、俺が困ってるって分かって貰ってたのは意外だ。だって、若奥様本人が俺の素っ気ない態度だとか、ぞんざいな受け答えですら都合良く受け取って全然通じねぇんだもん。
もしかして、俺の態度って曖昧過ぎて分かんねぇのかと不安に思っちゃってたじゃねぇか。
「で、お前の昼飯ってそれだけ?」
「え? あ、ああ、うん」
「じゃ、ちょっと食うの待て」
「へ?」
「食わずに待ってろ」
すっげぇ、一方的に言うだけ言ってお兄さんは作業小屋から出て行った。
何だったんだ? 本当に何をしに来たのか分からない。
しばらく、お兄さんが出て行った扉をボーゼンと見つめ、俺は手に持っていたパンを包み紙に包み直して作業に戻った。
「待ってろって言っただろ」
作業小屋の裏で剪定した枝や葉を集め、堆肥を作る為に細かく切っていると背後からお兄さんのちょっと不機嫌な声が聞こえ振り返った。
「だって、何もせずに待つだけって時間の無駄じゃん。俺やる事多いのよ」
それに、どれ位で戻るとかも言わなかったじゃん。
俺がそう言うと、微かにお兄さんの舌打ちの音が聞こえた。
ええ!? なんで舌打ち!? 俺、舌打ちされるような事言った?
「パンは? もう食っちまったのか?」
「食べて無いけど?」
「どこ?」
「小屋の中」
「待ってろ」
また、待ってろ!?
ぶっきらぼうにそれだけ言って、また立ち去るお兄さんの意味が分からなさ過ぎて面倒臭くなって来た。もう、知らんわ。
気にするのも時間の無駄だ、と俺は枝を切る作業に戻るが、今度はお兄さんは直ぐに戻って来た。
手に肉がいっぱい挟まったサンドウィッチを持って。
「ほら食え。厨房から貰った余り物の端肉を挟んだだけだが、さっきのよりは良いだろ」
「え? え? ぅええ!?」
目の前にズイッと差し出されたサンドウィッチのパンは俺が持って来ていた黒パンで、それに端肉とは名ばかりの分厚くて瑞々しい肉を何枚も無理やり小さな黒パンで挟んでいた。
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