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9 なんか色々と理不尽!
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これはこれで気まずいな、と思っていたら横を向いていたお兄さんの顔が不意にグリン、と俺の方に向きビクッと肩が跳ねる。
「お食事ってなに?」
「あ? え……、いや、飯食いながら相談のってくれって、お誘い?」
「のるの?」
「絶対ヤダ!」
「ふーん」
ふーんって、そんだけ!? なんで聞いた!?
聞くだけ聞いて興味無さそうなお兄さんに、毎回の事ながら訳が分からん。
「飯」
更に訳が分らんのが目の前に差し出されるサンドウィッチだ。
以前、作業小屋の裏で即席の肉のサンドウィッチを貰ってから、お兄さんは毎日こうやってサンドウィッチを俺に持って来るようになった。
「なんで?」って聞いたら「昼飯代現物支給」とか言うもんだから、最初俺の給料からこんな高級な飯代が引かれるのかと思って焦ったわ。給料からは何も引かれないって聞いて安心したけど。
しかも、このサンドウィッチは親方からって事でもないらしいし、じゃぁ、この毎日運ばれてくる肉たっぷりのサンドウィッチは何なのって感じだよな。もしかして俺が折った『昼飯のサンドウィッチイベント』のフラグを拾いでもしたのか? なんてふざけて考えてみたりもしたけど良く分からん。
賄いの残り物だとは言われたけど……てか、使用人なのに毎日、こんな美味いもん食ってんのかよ。
疑問は残れど、御馳走の前には長年の飢えは勝てない。
無造作に紙に包まれた塊から微かに緑と赤が覗き、そのコントラストを見ただけでこの数日で擦り込まれたサンドウィッチの美味さを思い出しグゥ~、と腹の虫が泣いた。
「ぐ……ぬぬぬ」
自分の節操のない腹を押さえた所で腹から出た音を無かった事に出来る訳もなく。恥ずかしさのあまり、俺の腹の虫を聞いたであろうお兄さんを睨む。が、お兄さんはそんな俺を歯牙にもかけずサンドウィッチを持っていない方の手で俺の首根っこを掴むと、近くの木陰へと引きずって行く。
「俺も色々と忙しいんだ。さっさと食え」
「だったら、飯だけ置いてけよ」
サンドウィッチに手を伸ばして掴み取ろうとするけど、いつもお兄さんは絶対に俺に渡してくれない。
「手汚いから駄目だつってんだろ!」
「手洗うから! それだったら良いだろ!!」
「時間がもったいない。いいから早く食え」
「意味が分かんねぇよ!!」
有無を言わさず頭を押さえ付けられ、渋々地面に座った俺の口元に、包んでいた紙を全部剥したサンドウィッチが差し出される。
これも訳が分かんねぇんだけど、絶対に自分で食べさせてくれねぇんだよな。
多少汚れていようが俺は気にしないし、それでどうこうなる様なヤワな腹もしてねぇ。手だってすぐに洗って来るって言ってんのに!
くっそー! とは思うけど食えるなら文句は言えない。大きく口を開けて、お兄さんの手からサンドウィッチを食べる。
俺が普段から食ってる黒パンと違って表面カリカリ中フワフワなバケットにシャキシャキの野菜と柔らかいチキンにチーズまで入って、今日のも滅茶苦茶美味ぇ!
こんな美味ぇのを食わせて貰えるなら手ずからとか何だとか、どうでも良いわ。
肉もだけど、野菜だってシナシナのクズ野菜しか食べれない生活の俺には、こんなフレッシュなレタスやトマトなんて神の食い物だわ。
「なんでお前、あんなに若奥様に懐かれてるんだ? 何かしたのか?」
「ひはへーほ。ほっひへふぁふほはへひへーほ」
「何言ってるか分かんねぇんだよ。飲み込んでから喋れ」
お前が食ってる最中に聞いたんだろうが!
でも、お兄さんの言う通り、今のままだと喋れないから口の中いっぱいに頬張った物を飲み込む。
「うんま! 今日のタレなにこれめっちゃ美味い! 甘いのにちょっと辛いって初めて食った! で……ああ、若奥様が来る理由ね。うーん、俺が知りたいよ。俺なんもしてねぇし、愛想も悪いのに何でか毎日来んだよ。旦那様の事誰かに話したいんじゃねぇかな? だから、お兄さん達の方でさぁ、お話相手作ってあげてくれん? 俺じゃ手に余るのよ。仕事の邪魔だし」
質問にも答えたし、もう食っていい? ってサンドウィッチを持ってるお兄さんの手を掴んで見上げたら口にサンドウィッチを突っ込まれた。
なんでそう乱暴かなぁ!! 美味いから文句言わないけど。
「アルフだ」
「んんぅ?」
「お兄さんじゃない、アルフだ。それと、タレじゃない。ハニーマスタードソースだ」
このタレ、ハニーマスタードソースって言うんだ……よし! 覚えた! それとアルフさんね、はいはい覚えた。
「むぐむぐ、んっく……アルフさん」
「アルフでいい。お前に『さん』付けされると背筋に寒気が走る」
なんで敬称付けてそこまで言われなきゃいけないんだよ!! 本っ当に口悪ぃな!!
「だったら、俺もお前じゃなくてドニー君って名前があるんだけど?」
「ぁ…………ド、ド……ニ、ィ…」
「え? なんて?」
声が滅茶苦茶ちっさくって全然聞こえないんだけど。さっきまで活舌良く聞き取りやすい声で暴言吐いてたじゃん。
凄い目をキョロキョロしながらモゴモゴ言うから、気を利かして耳を寄せて聞き直したのに、お兄さん……じゃなくてアルフは馬鹿にされたとでも思ったのか顔を赤くして俺の耳元で怒鳴りやがった。
「お前はお前で充分なんだよ!! 早く食え!」
「はぁ!? 理不尽!!」
腹が立ったからサンドウィッチを掴んでるアルフの手をフォーク扱いでガッチリ握ってサンドウィッチを平らげてやる。勢い良く食べたもんだからハニーマスタードソースもいっぱいアルフの手に垂れちゃったけど、全て残さず綺麗に舐め取ってやった。だって、これは手じゃ無くってフォークだからな。
顔を真っ赤にして怒りで震えてたけど、ざまあみろだぜ!
これに懲りたら、口の悪さを慎めってんだ。
後、自分の手で食べさせろ! じゃないと、毎回ベロベロ舐めまくってやる!
これで一矢報いてやったぜ! って思ってたんだけど……
「おい、ソース垂れてんぞ。ちゃんと舐め取れよ。……あ、肉の欠片。口開けろ、入れてやる」
懲りる所か悪乗りして来るようになりやがった。本気でなんなのコイツ!!
「お食事ってなに?」
「あ? え……、いや、飯食いながら相談のってくれって、お誘い?」
「のるの?」
「絶対ヤダ!」
「ふーん」
ふーんって、そんだけ!? なんで聞いた!?
聞くだけ聞いて興味無さそうなお兄さんに、毎回の事ながら訳が分からん。
「飯」
更に訳が分らんのが目の前に差し出されるサンドウィッチだ。
以前、作業小屋の裏で即席の肉のサンドウィッチを貰ってから、お兄さんは毎日こうやってサンドウィッチを俺に持って来るようになった。
「なんで?」って聞いたら「昼飯代現物支給」とか言うもんだから、最初俺の給料からこんな高級な飯代が引かれるのかと思って焦ったわ。給料からは何も引かれないって聞いて安心したけど。
しかも、このサンドウィッチは親方からって事でもないらしいし、じゃぁ、この毎日運ばれてくる肉たっぷりのサンドウィッチは何なのって感じだよな。もしかして俺が折った『昼飯のサンドウィッチイベント』のフラグを拾いでもしたのか? なんてふざけて考えてみたりもしたけど良く分からん。
賄いの残り物だとは言われたけど……てか、使用人なのに毎日、こんな美味いもん食ってんのかよ。
疑問は残れど、御馳走の前には長年の飢えは勝てない。
無造作に紙に包まれた塊から微かに緑と赤が覗き、そのコントラストを見ただけでこの数日で擦り込まれたサンドウィッチの美味さを思い出しグゥ~、と腹の虫が泣いた。
「ぐ……ぬぬぬ」
自分の節操のない腹を押さえた所で腹から出た音を無かった事に出来る訳もなく。恥ずかしさのあまり、俺の腹の虫を聞いたであろうお兄さんを睨む。が、お兄さんはそんな俺を歯牙にもかけずサンドウィッチを持っていない方の手で俺の首根っこを掴むと、近くの木陰へと引きずって行く。
「俺も色々と忙しいんだ。さっさと食え」
「だったら、飯だけ置いてけよ」
サンドウィッチに手を伸ばして掴み取ろうとするけど、いつもお兄さんは絶対に俺に渡してくれない。
「手汚いから駄目だつってんだろ!」
「手洗うから! それだったら良いだろ!!」
「時間がもったいない。いいから早く食え」
「意味が分かんねぇよ!!」
有無を言わさず頭を押さえ付けられ、渋々地面に座った俺の口元に、包んでいた紙を全部剥したサンドウィッチが差し出される。
これも訳が分かんねぇんだけど、絶対に自分で食べさせてくれねぇんだよな。
多少汚れていようが俺は気にしないし、それでどうこうなる様なヤワな腹もしてねぇ。手だってすぐに洗って来るって言ってんのに!
くっそー! とは思うけど食えるなら文句は言えない。大きく口を開けて、お兄さんの手からサンドウィッチを食べる。
俺が普段から食ってる黒パンと違って表面カリカリ中フワフワなバケットにシャキシャキの野菜と柔らかいチキンにチーズまで入って、今日のも滅茶苦茶美味ぇ!
こんな美味ぇのを食わせて貰えるなら手ずからとか何だとか、どうでも良いわ。
肉もだけど、野菜だってシナシナのクズ野菜しか食べれない生活の俺には、こんなフレッシュなレタスやトマトなんて神の食い物だわ。
「なんでお前、あんなに若奥様に懐かれてるんだ? 何かしたのか?」
「ひはへーほ。ほっひへふぁふほはへひへーほ」
「何言ってるか分かんねぇんだよ。飲み込んでから喋れ」
お前が食ってる最中に聞いたんだろうが!
でも、お兄さんの言う通り、今のままだと喋れないから口の中いっぱいに頬張った物を飲み込む。
「うんま! 今日のタレなにこれめっちゃ美味い! 甘いのにちょっと辛いって初めて食った! で……ああ、若奥様が来る理由ね。うーん、俺が知りたいよ。俺なんもしてねぇし、愛想も悪いのに何でか毎日来んだよ。旦那様の事誰かに話したいんじゃねぇかな? だから、お兄さん達の方でさぁ、お話相手作ってあげてくれん? 俺じゃ手に余るのよ。仕事の邪魔だし」
質問にも答えたし、もう食っていい? ってサンドウィッチを持ってるお兄さんの手を掴んで見上げたら口にサンドウィッチを突っ込まれた。
なんでそう乱暴かなぁ!! 美味いから文句言わないけど。
「アルフだ」
「んんぅ?」
「お兄さんじゃない、アルフだ。それと、タレじゃない。ハニーマスタードソースだ」
このタレ、ハニーマスタードソースって言うんだ……よし! 覚えた! それとアルフさんね、はいはい覚えた。
「むぐむぐ、んっく……アルフさん」
「アルフでいい。お前に『さん』付けされると背筋に寒気が走る」
なんで敬称付けてそこまで言われなきゃいけないんだよ!! 本っ当に口悪ぃな!!
「だったら、俺もお前じゃなくてドニー君って名前があるんだけど?」
「ぁ…………ド、ド……ニ、ィ…」
「え? なんて?」
声が滅茶苦茶ちっさくって全然聞こえないんだけど。さっきまで活舌良く聞き取りやすい声で暴言吐いてたじゃん。
凄い目をキョロキョロしながらモゴモゴ言うから、気を利かして耳を寄せて聞き直したのに、お兄さん……じゃなくてアルフは馬鹿にされたとでも思ったのか顔を赤くして俺の耳元で怒鳴りやがった。
「お前はお前で充分なんだよ!! 早く食え!」
「はぁ!? 理不尽!!」
腹が立ったからサンドウィッチを掴んでるアルフの手をフォーク扱いでガッチリ握ってサンドウィッチを平らげてやる。勢い良く食べたもんだからハニーマスタードソースもいっぱいアルフの手に垂れちゃったけど、全て残さず綺麗に舐め取ってやった。だって、これは手じゃ無くってフォークだからな。
顔を真っ赤にして怒りで震えてたけど、ざまあみろだぜ!
これに懲りたら、口の悪さを慎めってんだ。
後、自分の手で食べさせろ! じゃないと、毎回ベロベロ舐めまくってやる!
これで一矢報いてやったぜ! って思ってたんだけど……
「おい、ソース垂れてんぞ。ちゃんと舐め取れよ。……あ、肉の欠片。口開けろ、入れてやる」
懲りる所か悪乗りして来るようになりやがった。本気でなんなのコイツ!!
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