SOLNEFIA(ソルネフィア)

森永らもね

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第一部 二章 教会編

16 金のロザリオ

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 身の毛もよだつ寒さに目が覚めた。眼前に広がるのは物置のような本に埋め尽くされた暗がりの一室で、地面につけた自分の手の甲を足の多い何かが通り過ぎていくのを感じる。ツグナは思わずその手を引っ込めようと腕を動かすが、柱に括りつけられてまるで身動きがとれない。不思議に思って少し目線を下げてみると、柱に腕ごと鎖で縛りつけられている自分の姿が浮かび上がってきた。
 自分の状況がはっきりとした時、ツグナは過去の記憶から肩を上下に大きく震わせて、前屈みになりながら逃げ出そうと身体をひねらせる。ラヴァル卿に捕まった時のように、脳内は恐怖で真白に塗り替えられたが「目が覚めたか」という暗い一声に、ツグナはゆっくりと声の聞こえるほうを見つめた。柱の側面には、自分と同じ鎖で拘束されて身動きがとれないレイが蒼白した顔面で俯いている。全ての希望を失って、抜け殻になってしまったかのように、その瞳の中は生気を失って空虚だけを映していた。
「レイ……」
 ツグナがそこまで言いかけた時、先程レイがドミニクに犯されている光景が過ぎる。聞きたいことは沢山あった。あれは一体何をしていたんだとか、合意の上だったのかとか、純情ぶって関係性の崩壊を恐れた臆病な疑問である。けれど、それが彼の傷心に追い打ちをかける言葉になってしまうだろうと、なんとなくツグナには想定がついた。そこからなんて声をかけていいか分からず、ただ気まづいと黙り込む。状況の説明がなくても拘束されている二人の末路が平和な日常ではないことは理解出来ていた。
 どうすればいいかとツグナは俯いて一人考えていると、自分の首から下げているロザリオがシアンから預かったものではなく金のロザリオとすり替わっていることに気づく。
「あれ、なんでロザリオ……」
 ツグナの胸元にある金のロザリオは天井近くの地上が見える窓から入った光を反射して、キラリと輝きを放っている。確か昼間ドミニクが渡そうとしていたやつだ。
「いつの間に……」
 困惑したツグナの声に「ドミニク神父が、入れ替えたんだ」と先程から黙り込んでいたレイが未だ目を合わせずに答えた。その言葉の語尾は、最後までよく聞き取れない程弱々しい。
「そのロザリオはドミニク神父の物の証だよ」
「物? なんだよそれ」
「奴隷の烙印みたいなものさ。それをかけられたら、もうおしまいだ」
「でも、これお前が誕生日に貰ったって……」
 そこまで言葉を放ってからゆっくりと生唾を飲み込んだ。喉の奥に吸い込まれていた唾液の後残りのある感触がやけに気持ち悪く感じる。隣で俯いていたレイは「今更隠してても無駄か」と諦めがついたかのように、唇の僅かな隙間を動かした。
「察しの通りだよ。あの日から今まで、ずっとだ」
「今までって……そんな何年もなんで……」
「ツグナは宗教における十戒って知っているか?」
 そう言えば、説教の際にも何度か耳にしたことがあった。とはいえ、それがなんだったのかははっきりと覚えていない。
「なんか、神との約束事みたいなやつ?」 
 ツグナは曖昧な記憶から言葉を濁すようにして小さく答えた。
「そう。そんな感じ。正確には聖職者が神の洗礼を受ける為に守るべきルール見たいなやつだよ」とレイが軽く訂正して返した。
「俺もあまり詳しくないけど。その一つの中に聖職者は女性との交わりを禁止するものがあるらしいんだ」
「ああ。子供ができるから?」
「まあね。たぶん、それが一番強いと思うとけれど、宗教的に言えば身が穢れるからって」
 ああ、思い出した。確かコナーとの会話だっただろうか。信者もとい聖職者が神の洗礼を受けるために守るべき十つの戒律があって。だから自分が結婚しないのは宗教的なルールがあるからであって、決して女性に好かれないからというわけではないと言っていたような気がする。
「でも、だったら。お前のだって」
 申し訳なさや気まずさで言葉を濁らせると、レイは顔を上げてツグナを見つめながら「愛がないからだよ」と硬直した頬のまま不格好に口角を吊り上げた。自嘲的なその苦笑いの瞳はどこか虚ろで、恐怖に似た竦み上がりがツグナの脳天からビリビリと爪先を貫いた。
「男色は神への冒涜になるけど、ドミニク神父のあの行為に愛はないから。だから、いいように使われていた」
「なんだよその理屈……頭おかしいだろ。大体なんでお前は助けを求めなかったんだよ」
「俺が逃げたらどうなると思う? 今度はビルや他の子供が標的にされる。だから、兄弟を標的にしない代わりに俺が相手するってドミニク神父と約束したんだ。けどそれも、今日で終わりだ……」
 項垂れたレイは何度か瞬きをさせてから、震わせた下唇を噛みしめる。自分の歯によって食い破られた唇からは血が流れ出していた。
「ごめん……ツグナまで、巻き込むつもりはなかったのに。俺のせいで」
 ぽつりぽつりと口にするレイの瞳は見開かれ、そこから滂沱と涙が零れ落ちていく。その言葉にはいつものレイの姿はなかった。溜め込んでいたものが決壊して、どうしようもできない自分の悲しみが溢れだしているみたいだ。
「どうしよう……ツグナも、皆! もう、何も守れない……! 俺のせいでっ、俺のせいで!……俺気持ち悪いっ、気持ち悪い! 気持ち悪い!」
 鎖を通してもレイの震えが異常なことに気がつく。いや、今まで平気でいられる方がおかしかったのか。あんな事をされていたのに、昼間は何事もなく笑顔でいなくてはいけない。誰にも悟られないために。それが他人に知られて、今崩壊しようとしている。
 レイは半狂乱になって、手足を床に叩きつけるようにその場で暴れだした。聖歌隊の練習からは考えられないその絶叫に、ツグナは過去の自分とレイが重なり合う。
「落ち着け! お前は気持ち悪くない! お前のせいでもない!」
「ツグナに何が分かるんだよ!」
 極限に追い込まれてしまったせいか、レイは枯れた声で弾けるように怒鳴り散らす。その声にツグナは「分かるよ!」と声を張り上げた。答えたツグナの語尾がレイと同様に掠れて震える。レイはハッと自我をとり戻して、ツグナを見つめた。
「気持ち悪いはずがない。だってお前は、家族を守る為に一人で戦っていたんだろう! そんな奴を気持ち悪いなんて誰も思うものか!」
 つい感情的になって涙目になるツグナの言葉に、レイは項垂れていた頭を起こすと、噛み締めた歯の間から嗚咽の声を上げた。ごめん、ごめんなとしゃくり上げるレイの隣でツグナはその声を聞きながら鼻を啜る。
「泣いてても始まらない。今日で全部終わらせるんだ、お前の戦いを。まずはここから脱出しないと」
 自分も一緒に泣いているわけにはいかないと、前向きに声に出す。それは鼻声だったが、傷心のレイを引っ張るには十分すぎるほど力強い言葉だった。いつまでもここにいるわけにもいかない。なにより、ここに監禁される事によって目の届かない場所にいるドミニク神父の行動が気になった。
「うん……でも、これじゃあ無理だろ」
 自分達を締めつける太い鎖にレイはため息をつく。柱に完全に密着するように拘束され、尻さえも持ち上がることが出来ない。手錠や足枷なんかよりもよほど頑丈だ。
「だからって諦めるのか。お前は何を期待している? お前が待ってても、この状況は何も変わらない。 助けてくれる人なんていない。だったら、自分で変えるしかないだろ。奇跡は待っていても起きない。自分で生み出すしかないんだ!」
 自分で言葉にしながら、実験施設での記憶が過る。以前の自分も誰かが助けてくれるのを心のどこかで待っていた。鉄格子の向こうで、本当は屈辱に耐えながらずっと待っていたのだ。でも、状況は変わってはくれなかった。
『向こうから変化が来ると期待している人間の元に、決して変化が起きる事はない。ましてや、そんな変化に自ら怯えて拒む人間が変われるはずもない。やりもしないで何故無理だと分かるんだ』
 今になってあの時のシアンの言葉が力強く聞こえてくる。ああ、全くその通りだ。あいつもたまにはいい事を言う。ツグナは太い鎖を引きちぎろうと、外側に圧力をかけた。けれど、ガチャガチャと鎖の擦れる音が響くだけで、鎖が離れることはない。以前、ラヴァル卿に捕まった時と同じだ。
「くそっ! また……なんでっ!」
「だから言っているだろ。鎖で拘束されている時点で無理だよ」
「いや、でも……いつもなら絶対脱出出来るのに!」
 ツグナは鎖で拘束されながら、体をよじって暴れ出す。その度に肌を摩擦させ、ツグナの腕の間接部分かは擦り切れて血が流れ始めた。ギリギリとくい込み、薄い皮膚が剥がれていく。
「もういいからやめろよ! それじゃあ腕が……」
「だからなんだよ。絶対に僕は諦めるものか!」
 ツグナは腕を外側にして圧力をかけながら前屈みになって柱から離れようと試みる。力んだ首は血管が浮かび上がり、手にはじわりと滲んだ汗が腕から流れた血と混ざって染みた。そんな諦めの悪いツグナに眉を下げていたレイは、先程とは違って力のない笑みを浮かべる。
「ありがとう、ツグナ。そうだよな、お前の言う通りだ。俺は諦めてばかりで、何も変えようとしなかった。守るだなんてカッコつけて、結局ツグナのことも巻き込んだ」
 レイの後ろ向きな言葉に「違う」とツグナは反論する。重々しい場の空気を切り裂くその声は堂々としていて、いつまでも耳に残る心地良さがあった。
「あの時、お前が」と言いかけて昼間のレイの怯えた瞳を思い出す。危険を顧みず自分を助けようとしてくれた。その強気の裏には助け求めていた。だから、ツグナは今ここにいる。けれど、それを言ってしまうのはレイを更に追い詰めてしまうだろう。
「お前のせいじゃない。僕が勝手についてきただけだ」
 ツグナはただそう口にした。ああ、そうか。彼は強い人だと、レイは自分の愚かさに羞恥心が込み上げてくる。
「ありがとう。絶対にここから脱出して終わりにしてやる。なにもかも」
 レイは涙を振り払うと決意を固めたのか無理にツグナに向かって口角を上げてみせた。その表情は未だ不安や恐怖が解けないぎこちなさがあったが、レイの瞳には確かな決意が映し出されている。ツグナは思わず両腕に入れていた力を抜いて「ああ、そうだな」とレイを見つめ返した。
「とはいえ、ここから抜け出さない事には、危機的状況に変わりないんだよな」
 自分を縛りつける鎖を解こうとレイは先程のツグナのように両腕を開こうとする。けれど、レイの力では当然のようにビクともしない。鎖はデタラメに巻きつけているせいか絞めつけも強く、しっかりとしていて、どうやら鍵がかかっているらしかった。同じ鎖でも、ラヴァル卿の時のように簡単にはいかないだろう。
「もういっその事ドミニク神父が戻ってきたら、隙をついて逃げ出すしかないんじゃ……」
「いや、それは駄目だ!」
 先程のドミニクを思い出して、レイは声を張り上げた。その声は未だ安定することなく震えている。
「次ここに来た時は、ツグナも俺と同じ目に遭う。さっき言っていたんだ」
「同じめって……」
 次の瞬間。ツグナの脳裏におぞましい記憶が駆け巡った。その記憶は先程のレイがされていた光景と重なり合い、体内の熱が下腹部に集まっていく感覚に襲われる。ツグナは瞳孔を開き、顔を俯かせながら太腿を擦りつけて縮こまった。
 大丈夫、落ち着け。大丈夫だ。恐れるものはどこにもいない。ツグナはふうふうと呼吸を荒くし、先程込み上げてきた涙がまた溢れだしそうになったが、傷心したレイの前で不安を見せるわけにはいかないと唇を噛み締めて耐えた。
「ツグナ……? 大丈夫か?」
「あ、う、うん。大丈夫だ……えっと。聖職者なのに、最悪な人だな」
 慌てて思い浮かんだ言葉を返すと、レイは少し間を開けて「そうだよな」と呟いた。何だか不満げなその答えにツグナが不思議に思っていると、言いにくそうに「でも」とレイが更に続ける。
「……俺が幼い頃は本当に面倒みが良くて、優しい人だったんだ。血は繋がっていないけど、本当の父さんのようで……まあ、今思えばその頃からずっと騙されていたのかもな」
 それを聞いてツグナは少しばかり混乱した。レイにとっては間違いなく最低な人のはずなのに、なぜそんなに庇護するようなことを言うのだろう。何か理由があるのかとそこには触れず「幼い頃って十歳までか?」と話を続けた。
「うん。突然だったよ。まるで人が変わったみたいだ」
「なんで十歳までは何もなかったのだろう」
「流石に十歳未満の子供だと引き目があるんじゃないのか? 分からないけど」
 レイは思い出すのが辛いのか、後半は吐き出す言葉が投げやりのように聞こえた。しかし、ツグナの中には未だ疑問が絶えずにある。見境ない神父が果たして幼い子供だからといって負い目を感じ、手を出さなかったのかと考えるとどうしても呑み込めないのだ。第一、十歳を境目に豹変するのもおかしい気がする。本人のこだわりでもあるのだろうか。
「なあ、十歳の時にドミニク神父の周囲で何かあったか?」
「どうだろう。何せ七年前の事だから」
 それもそうか。ツグナはその答えを聞いて黙り込む。以前、元からの狂人はいないと何かの本で読んだことがあった。だから、豹変する理由がもしかしたらあるのではないのかと思ったのだが、被害者にそんな事を聞いても分かるはずがない。結局何も出来ずに二人して脱出方法を考えていると、途端に眼前の扉が勢いよく開いた。
 丈の長い黒いスカートのシルエットと共に燭台の炎によって映し出されたのは、眼鏡をつけたシスターシェリーの顔面だった。
「あっ……」
 ツグナがそこまで言いかけた時、隣にいたレイは「待て」と小声で引き止める。隣を見てみればレイは無言でツグナを見つめたまま首を振っていた。
「もしかしたら、さっきのシスターみたいにドミニク神父に取りこまれているかもしれない」
 レイは真剣にツグナを見つめながら小声で話す。確かに、ここでは誰を信用したらいいのか分からない。二人は硬直した頬で改めて眼前の階段を降りてくるシェリーを見つめた。シェリーは二人の目の前で立ち止まると、燭台の炎を向けて二人を見下ろす。炎の光が眼鏡のガラスに反射して映し出されていて、二人の警戒を更に引き立てた。
「なによ、その警戒する目は。折角助けに来たのに、相変わらず生意気なクソガキね」
 聞き覚えのある声のトーンと粗暴な口調に、ツグナは思わず「え?」と一驚の声を上げる。一ヶ月間でずっと一緒に過ごしてきたからだろうか。いや、それよりももっと前からこの声を知っている気がする。
「何よその反応。もしかして気づいてなかったの?」
 馬鹿にするような口振りでシェリーは頭を隠していた黒いベールをとって見せた。鎖骨まで伸びた栗毛の髪は記憶にあるものとは違って下ろされ、長い前髪の間からはヘーゼルのつり目が睨みつけるようにしてツグナを捉えている。そこには、以前屋敷で目を合わせれば口喧嘩を繰り広げていたミシェル・ベイカーが立っていたのだ。
「は、はあ? な、なんでお前こんな所にいるんだよ!」
「なんでってあんたの監視よ。監視! シアン様から直々に仰せつかったの」
「シアンが?」
 久々に聞いたその名前に思わず顔を顰蹙させる。とはいえ、ミシェルは自分が来る前からこの教会にいた筈だ。そんな奴が身内だなんて誰が疑うだろう。
「そう。あんたがシアン様と話してからすぐにね」
「はあ? それでなんでお前なんだよ」
「んなのこっちが聞きたいわ! こんなクソガキのために私がわざわざ教会でシスターだなんて! シアン様の無茶ぶりにも困ったものだわ」
 部屋に突然呼び出された事を思い出してミシェルはため息をついた。元々相性の悪かった二人が睨み合っていると、その隣で言い出せずにいたレイが「あの」と気まづそうに割入る。
「えっと。何? 二人は知り合いだったのか? というかシアン様って?」
 レイの言葉に言い合っていたミシェルとツグナは顔を見合わせたまま黙り込む。恐らく自分のように、ミシェルにもブラッディ家と関連付けないようにとシアンから口止めされていたのだろう。ここまできて黙り込むのは逆に不審だ。
「ええっと。あれだよな、あれ」
「そうそう。あれよね、あれ」
 二人は目を逸らしながら言葉を濁らせる。言い訳を考えていると、ミシェルが入ってきた扉が急に音を立てて閉まった。後からガチャりと鍵をかけた音が部屋に響く。
「少し気になって様子を見に来たけれど、やはり貴方は邪魔者でしたね。シェリーさん」
 落ち着いた声がやけに不気味だ。その声にレイは「シスターリトア……」と震えた声で扉を見つめた。
「見に来て正解でした。この扉、外側から鍵をかけるタイプなんですよ。だから、あなた方は外から鍵を開けられない限り出ることは出来ない。次に開ける時は……そうですねえ。三人共地獄に落ちる時でしょうか」
「はあ? 冗談じゃないわ!」
 ミシェルはすぐさま扉に駆け寄ると、重厚なドアノブを何度も引いたり押したりする。けれど、既に鍵が閉められていて、扉は向こうの部屋の景色を見せてくれることはなかった。
「開けなさいよ! アバズレクソ女!」
「ふふっ。ごめんなさい。言葉が汚くて何を言っているか聞き取れないわ」
 扉の向こうでリトアは笑いながら答えた。優しい声色は普段通りなのに、全く別人のように聞こえる。ミシェルは奥歯を噛み締めて扉の向こうにいるであろう人物を睨みつけた。
「さて、もうすぐ典礼の時間。それが終わるまで、皆さんはゆっくりと部屋で休んでいてくださいね。それでは」
 扉の向こう側にいる三人に向かってリトアは一度声をかけると、扉の鍵を持ってその場から離れた。典礼? 一体なんだろう? ツグナはシスターの放った言葉に首を傾げていると、立ち去ったシスターにミシェルの怒りは膨れ上がっていき、大きく振り上げた足でドアを強く蹴り始めた。
「あのクソアマ……逃げてんじゃねえよ!! 戻ってこい!! そしてくたばれ!!」
 扉の前で叫ぶミシェルに後ろで見ていたレイはポカンと口を開けている。普段大人しいがシスターとして仕事をきちんとこなすミシェルの様子と、あまりにもギャップがあったからだ。
「あの人って、あんなだったか? 確かに他のシスターと違って落ち着きはなかったけど」
「ああ。あれで通常運転だ」
 呆れたようにその背中を見つめてからツグナは「おい」と怒り散らすミシェルに声をかける。ここに閉じこめられたとなれば、今は怒りを爆発させている場合ではない。あの様子だとドミニク神父にミシェルの事も言われてしまうだろうし、問題は更に広がるばかりだ。早急にこの部屋から出なければ。
「お前、ここに来たってことは僕達を助けに来てくれたんだよな? 早くこの鎖を何とかしてくれ」
 腕が痛いんだとツグナは少し腕を動かして鎖をガチャガチャと鳴らす。ミシェルは扉の前で息を切らしてから二人の方を振り返り「分かっているわよ」と隠していた鍵で鎖の錠を解いた。複雑に絡まっていた気がしていたが、錠を解いたらあっという間に腕から鎖が離れたので少し驚く。久々の解放感にツグナは肩を伸ばしたり、腕を回したりして強ばった筋肉を解いた。
「助かったよ。お前に感謝とかしたくないけど」
「一言余計なのよ、クソガキ。殴られたいわけ?」
 ミシェルはツグナを睨みつけて毒を吐く。ずっと硬い地面に座っていたからか、尻に妙な圧迫感が残っていて変な感じがする。ツグナは服についた汚れを払いながら部屋の扉の方へ歩き出した。
「解放されたはいいけど、あまり状況は変わらないぞ? 部屋の扉を閉められたし……もう」
 レイの言葉にミシェルは助けに来るなんて余計な事をしなければ良かったと隣で頭を抱えて嘆いた。確かに、鍵をかけられた部屋では、鎖で縛られている時とさして変わらない。二人は絶望したが、ツグナは鍵の閉まった扉を掌で触っている。
「いい加減に諦めなさいよ、クソガキ。もう、どうすることも……」
 ミシェルがそこまで言った時、ツグナは振り上げた足を扉に向かって蹴り下ろした。扉は蹴られた表面を歪ませて、蹴り飛ばされる。その音に、二人は唖然と扉の方を見つめた。
「な、なんで? 私の時は全然ビクともしなかったのに」
「いや、普通に壊れた」
「いやいやいや! おかしいわよ! なによその力……」
 ミシェルはそこまで言ってからハッと思い出す。そう言えば、こいつは確かシアン様の護衛という立場で屋敷に置かせて貰っていると聞いていた。あの時は何を言っているのかよく分からなかったが、まさかこの事を言っていたのだろうか。そう考えればこんな貧弱なクソガキに護衛なんて大層な職が与えられる理由も分かる。ミシェルが以前の疑問を解決していると、その隣ではレイが「……凄い」と感動の言葉を漏らしていた。
「というか、そんな力があるならさっさと鎖から抜け出せたんじゃないの?」
 無駄足だったとミシェルは愚痴を垂れながらレイと共に部屋の外から出る。先に部屋から出ていたツグナは「いいや」と俯いた。
「違うんだ。僕にもよく分からないけど、力が出る時と出ない時があって……前にも同じような事があったんだ」
「ふうん。なによそれ。随分と都合悪いのね。あんたの気持ちの持ちようなんじゃないの?」
 知らないけどと、ミシェルは頭上に腕を組んで背伸びをする。ミシェルの言葉の意味がよく分からず、ツグナはまあいいかと、脱出出来たことにホッと胸を撫で下ろした。
「で? これからどうするわけ?」
 解放されてほっとしたのかミシェルは呑気に欠伸をしている。安心出来たらこれかと、ツグナは呆れながらレイの方を見つめた。レイは俯いていて表情が分からないが、恐らく躊躇っているのではないのかと密かに悟った。
「ああ。確かあんたって、あの神父に無理やり犯されているんでしょ?」
 唐突なミシェルの言葉にツグナは思わず「お前……! なんで!」と言葉を濁らせた。
「分かるわよ。そりゃあ、毎晩部屋から抜け出していたら。クソガキもそれで分かったんでしょう?」
「そうだけど……というか知ってるなら、なんで助けてやらなかったんだよ!!」
「言ったでしょ。私はあんたの監視できている。それ以上の仕事をする義理はないわ」
「ふざけんなっ!! お前っ、レイがどんな気持ちで今まで……!」
「どんな理由があるかは知らないけど、抵抗しないこいつだって悪いじゃないの? もしかして、結構ハマっていたとか?」
 ミシェルの言葉にレイは大きく肩を揺らした。瞳孔を開き、目を見開きながら小刻みに体を震わせている。その言葉にツグナは何かがプツンと切れたようだった。自分より背の高いミシェルの胸ぐらを掴み「おい」と声色を低くさせて睨みつける。
「いい加減にしろ。冗談でも言っていいことと悪いことがある」
「言っておくけど、私は自分が間違っている事を言っているとは思わないわ。さっさとこの事を憲兵に伝えれば事は早く終わったのに。あんな事をされても、こいつは神父を庇っていたんじゃないの」
 庇うの言葉に「それは……」と胸ぐらを掴んでいた手が思わず緩んだ。離しなさいよチビ、とミシェルがその手を払う。というのも、レイの話を聞いた時にミシェルと同じ事を考えていたからだ。いくら家族を守るためとはいえ、捕まれば全て解決できたのに。緊張した空気の中、背後から「もういいよ」とレイの弱々しい声が聞こえてきた。
「ミシェルさんの言う通りだ。俺は、あんなドミニク神父でも、心のどこかで庇っていたんだ。だってそうだろう? 俺はあの人に育てられた。あの人に言葉を教えて貰った。あの人から名前を貰った。住む場所を、一緒に生きていく家族を貰った。そりゃあ、あんな事されるのは嫌だよ! けど、もしかしたらいつか前のドミニク神父に戻ってくれるんじゃないかって……そう思うんだ。優しかったあの人に」
 レイの発言から、どれだけドミニク神父が彼にとって大切な人だったかを感じ取った。その気持ちは少しだけ、分かる気がする。だからこそ、確信がもてた。ドミニク神父がただの狂人ではないということを。
「レイ。何もかも終わりにするって言ったもんな。だったら、今は前に進むべきだ」
 ツグナはそう言ってレイと向き合った。
「今ので確信になった。きっとドミニク神父がこうなったのにはわけがある筈だ。だから、行こう。ドミニク神父の元に」
「ツグナ……」
 レイは鼻の詰まった声で顔を上げると、すかさずミシェルは「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」と声を張り上げた。ツグナは不機嫌そうに顔を顰めながら「なんだよ」と睨みつける。
「あんた馬鹿なの? 憲兵に突き出す流れだったじゃない!」
「お前こそ馬鹿か。初めから憲兵に突き出す気でいたら怒って話をしてくれないかもだろ? ちゃんと話し合えばきっと……」
「だから! あのクソ神父がまともに話をしてくれると思うわけ!? 話をして改心するような奴が世にゴロゴロいたら憲兵はいらない! おわかり!? あいつは神父じゃなく悪人! 打ち解ける平和脳は捨てて捕らえる気でいかないと、何されるか分からないわ!」
「その時はその時だ」
「もうやだこいつ! だから嫌いなのよ!」
 両手で顔を覆ってミシェルは地団駄を踏む。こいつの頑固さは本当に目に余る。腹の中がムカムカするような苛立ちが抑えきれないミシェルを見て、ツグナはしばらく考えるようにして見つめた。
「別にお前は好きにすればいいだろ? 迷惑なんてかけない」
「だから私は、シアン様からあんたの監視を……」
 ミシェルはそこまで言ってツグナを見つめ返す。その瞳はもう決意を固めていて、一切揺るごうとしない。そんなツグナの瞳に、ミシェルはここに来る前のシアンとの会話を思い浮かべた。
『はあ。教会に先回りしてあいつの監視ですか』
 ミシェルは明らかに嫌そうに顔を歪めながらシアンと向き合う。第一、監視に至った経緯も解せない。
『なにか不満か』
 シアンは新聞を見つめたまま、声色でミシェルの不満を読み取った。心を見透かすようなシアンの一言にミシェルは慌てて『い、いえ。で、でも理由がちょっと不十分かなあ、なんて』と答える。
『理由か。実は三日程王都の方にいかなくてはいけなくてね。ツグナを連れていくには少し都合が悪いんだ。折角だし、ひと月ほど社会勉強させようと思ったのさ。どうせ、あいつがひと月いなくても問題ない』
『だったら、私もシアン様とご一緒に……』
『俺は君に頼んでいるんじゃない。命令しているんだ。行け』
 空気を割るようにぴしゃりと言ってみせると、シアンはそのまま紅茶を口に運ぶ。なんて理不尽な人だと、ミシェルは俯きながら『はは……そうですか……』と弱々しく返す。普段は女性を優先的にするような紳士的な人ではあるが、仕事に対しては男女平等な扱いだ。ある意味そのおかげで助かっている部分は多くある。
『手続き等の準備は任せろ。仕事については、飲み込みの早い君なら問題ないだろう。まあ、君はただツグナの行動を手紙で送ってくれればいいよ。出すのは週に一回。宛先はこれだ』
『はあ』
 疲れ切った返事で王都の住所が書かれた紙切れを受け取る。なんでこんな面倒な事をする必要があるのかは疑問だが、きっとそれを聞いても先程の会話が繰り返されるだけだろう。無能な奴だとは思われたくないので、ミシェルは無言で受け取った紙を手帳の中にしまった。
『すまないな。何事もなければそれでいい。あったらきっとあいつは面倒事だろうと首を突っ込むだろうから、なるべくないことを祈ろう』
『それはどういう事です?』
『ん? ああ。あいつの性格の話さ。知っての通りあいつは頑固なクソガキだからさ、自分の正しいと思うことは間違いだろうと突っ走る悪い癖があるんだ。最も悪い癖は他人のしがらみに自ら絡まりに行っているところだけど』
『なんですかそれ、馬鹿なんですか』
『そう。馬鹿なんだよ。余計なお世話なんだけどね。そうなってしまえば、何を言っても無駄だ。聞く耳を持たず、やり遂げようとするだろうね』
『迷惑な話ですね』
『ああ。本当に。ただ、腹を括った時のあいつは強いよ。それだけは信用してくれていい』
 シアンのいうツグナ像にますます面倒だとミシェルは思った。あの時は他人事のように聞いていたが、全くもってその通りだ。まさかこんなに酷いとは誰が想像しただろう。よくシアン様はこんな奴と一緒にいられるなと改めて尊敬する。
 背負う覚悟も無いくせに中途半端な優しさを振りまく偽善者は嫌いだ。悪だの正義だの、口だけなら誰もが善い人間だと言える。誰もが善人になれる。けれど、こいつは多分相手と破滅する覚悟が本当にあるのだろう。きっとこういう馬鹿だからこそ、救える人間もいるんだなとミシェルは思った。
「……ちょっとだけ」
 ミシェルの呟きにツグナは気がつき「なんだよ?」と答える。自然と出てしまった言葉にミシェルは顔を真っ赤にすると「ちょっとだけだから!」と言い直すように声を張り上げた。
「……私も付き合ってやるわよ」
 先程否定していた分照れくさいのか、目を背けながら小さく呟く。
「はあ? だから別にお前は……」
「勘違いするなクソガキ! これはシアン様からいただいた監視という任務を果たすだけであるからして! 言っておくけど本当にヤバくなったらあんた達置いて逃げるから!」
「あ、ああそう。別にいいけど」
 ツグナは面倒そうに顔を顰蹙させながら答えた。ミシェルはツグナの目線が外れたと同時に、肩の力を抜いて俯く。
 自分を犠牲に他人を救おうだなんてどうかしている。結局人間は自分が一番可愛いものだ。本当に見れば見るほど。ミシェルは喉まで来ていたその言葉を隠すように飲み込んだ。
「それで? まさか何の考えもなしに無責任な事を言っているわけじゃないわよね?」
 ミシェルはふと脳裏を過った記憶を振り払うようにして再度ツグナに問いかける。ツグナはその声に「ああ。さっきのシスターリトアを覚えているか?」と答えた。先程のリトアとは、扉を閉めに来た時の事だろう。あの時はただひたすら怒りしかなかったので、正直よく覚えていない。ミシェルとレイは同じように先程のことを振り返っていた。
「そう言えば、典礼とかなんとか言っていたような」
「そう。典礼の時間だからってシスターはその場を去った。それが終わるまでここで待っていろって」
「典礼って確か、礼拝とか儀式みたいなものよね? 昼間の公的礼拝とは違うわけ? というかなんでこんな夜中に? あっ、あんたは知っているの?」
 顎に手を当てながらミシェルはレイに話を逸らす。話を振られたレイは先程ミシェルに散々言われていたせいか怯えるように目を逸らしながら「いや……分からないです」と呟いた。その反応を見て「何怯えているのよ。別に取って食ったりしないわ」とミシェルが不満そうにレイをじっと睨みつける。ミシェルのデリカシーのなさというか、気遣いなく直球なのはツグナもブラッディ家に来たばかりの時に思い知らされていたので、レイが怯えるのも理解出来た。こいつ、これが自然なんだよなあとツグナは憐れむようにミシェルを見つめていると、一生懸命に思い出そうとしていたレイは、突然「あっ」と声を小さくあげた。
「そう言えば、月に一度だけ少し早く解放される時があるんだ。ルミネア様に会うって」
「まあた、ルミネア様? 神なんて実際目にできるわけが……というか、あんたを犯した後に会いに行くなんてよく出来るわね。どんな神経しているのよあの神父」
「お前……一応まだシスターなんだから、言動は少し控えろよな」
 目を細めてツグナはミシェルを凝視した。とはいえ、ルミネア様か。ツグナはひと月前に自分がこの教会に踏み入れたばかりの時を思い出す。自分と似た容姿をした、キラキラと美しい光を放つ人間。やはりあれがルミネア様という人で間違いないのだろうか。あれがもしそうだとしたら神という存在があの神父の目に映っているのも事実なのかもしれない。
「ツグナはそれが何か引っかかるのか?」
「えっ。あ、いや普通にドミニク神父の現在地を知ろうとして辿り着いただけなんだ。でも、こんな夜に儀式だなんて確かにおかしいよな。お前が知らないなら、尚更怪しいし……あっ。だったら、その儀式に行けば何か分かるんじゃないのか」
「はあ。やっぱりこのまま逃げるって選択はないのね。その方が楽だと思うけど」
「逃げてもなんの解決もしないだろ。とりあえず警戒させないように話をするのが目的で、捕まえるのはもしもの時だ。あまり荒々しいことはしないで、あくまで平和的に」
「……はっ、綺麗事ね。まあ、いいわよ。あのクソアマもいるだろうし。一発殴らないと気が済まないわ」
 ミシェルは呆れつつ、ツグナの横に立った。平和の意味がわかっているのかと思いつつ、決意表明がある言葉に納得してくれたようだと安心する。レイも同じようにツグナの隣に進み出ると「俺も後悔しないよ。戦うって決めたから」とツグナに向かって笑顔を向けた。我儘を押し通しているようで断られるかと思っていたが、二人の瞳は揺るぐことなくしかと自分に向けられている。
「よし、行こう」
 三人は決意を固めると、ドミニク神父がいるであろう礼拝堂へと歩き出した。

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