11 / 68
第一部 一章 舞踏会編
10 終結
しおりを挟む
振り積もった雪夜のような静寂が、二人の間に漂う。睨み合って動こうとしない二人の耳には、自身の鼓動がやけに大きく聞こえた。険しい顔で見つめるシアンに対して、ツグナの表情には未だ戦うことへの戸惑いや焦りが見える。
先に動いたのは、ツグナだった。跳ね上がる鼓動の音を聞いているのに耐えきれなかったのだろう。先手を取ってさっさと終わらせてやろうという、ツグナの気持ちの先立ちがあったためだ。
その様子を見たシアンは慌てることなく冷静に銃を構え、ツグナに向かって放つ。しかし、ツグナは驚くべき速さで、予測もせずに無理やり避けたのだ。そのままシアンのところへ突き進む。
「……チッ」
短く舌打ちをすると、シアンは素早くその場にしゃがみこんだ。動きが単純で読みやすい。横に回された蹴りは素早く屈んだシアンの頭上を通った。蹴りで出来た冷気がカッターのように空気を割る。その蹴りが全て横切ったと同時に、屈んだ状態でツグナの腹部めがけて銃弾を放った。
「……っ!」
身体を捻り、ツグナはギリギリのところで攻撃を避けた。が、体の速さが間に合わず、片足に銃弾を受ける。痛みで一度は崩れるも、空中ですぐに体勢を直し、着地した。銃弾を受けたところからポタポタと血が流れ、肌をゆっくりと伝っていく。
「うっ……」
普通なら歩けなくなってもおかしくはない。すかさず銃を構え、動きが止まった瞬間にと思ったが、ツグナはすぐにシアンに向かって蹴りを放った。
「お……っ?」
予想していなかった事で身体が反応せず、シアンは蹴りを肌に掠める。爆破したかのような破壊音と共に地面が揺れ、石壁が吹き飛ばされた。先程の魔法陣が見える。
「はぁっ、あぶな……」
再度現れたその出入口を見て、思わずツグナから距離を置いた。スレスレに避けきれたとは言え、掠めただけでも切り傷ができる程の蹴りだ。一発でも当たっていたら、もう自分の身体はこの瓦礫の山のように粉々に砕け、使い物にならなくなるだろう。改めてツグナとの近距離戦は危険だと判断する。
それにしても、ツグナはやり方が脳筋で単純だ。ただひたすら、こちらに突っ込むことしか頭にない。本当に戦ったことがないようだった。だからこそ、動きが単調で予測しやすい。シアンが先程から余裕そうにしていたのはそれによる勝利の確信からのものだった。力じゃ劣るが、戦闘の素人となればいくらでも策はある。
「逃げてばっかで、勝つ気あるのか!?」
早く終わらせたい。そんな気持ちのままに声を張り上げ、また懲りずにツグナが向かってくる。それを見て、シアンは手に持った先程の瓦礫の一部を二・三回投げつけた。
「ああ、勿論だ」
要は近づかなければいい。あとはあいつが攻撃をよけられない状況を作ればこの勝負、勝てる。
「こんなの効くもんか!」
自分に飛んでくる瓦礫を避けずにツグナが振り払うとそのままシアンの所に向かおうとした。しかし、瓦礫を避けた時間差で、刃物が肌に突き刺さる。
「ああ、確かに。君に瓦礫は効かないな」
「……っうぐ」
カランッ……と短剣が床に落ちる。それらはツグナが顔を塞いだ腕と、塞ぎきれなかった身体に深く突き刺さっていた。頭を塞ぐことができたのは幸いだったが、腕は大惨事である。もし腕で止められなかったらと考えて血の気が引いた。
「先程から戦い方を見ていて、瓦礫程度だったら君が腕で振り払うんじゃないかって思ってさ。わざとその瓦礫の死角に短剣を投げつけた。目の前の攻撃に目を奪われて、短剣に気づかなかっただろ」
そう言ってシアンは指の間に短剣を挟んで見せつける。単純だからこそ瓦礫に気を取られすぎて、短剣に反応が遅れてしまったのだ。人の目を欺くことは戦闘の中では基本である。もしこれが、戦い慣れていればすぐに気がつくことが出来ただろう。
「君の動きは単純なんだ。攻撃の仕方も大振りで、次の行動が予測しやすい。君こそそんな動きで勝つ気があるのか?」
「……っく」
片方の腕から短剣を引き抜き、握りしめる。過信していた。この力ならあいつをすぐに負かすことができると。ツグナが戦おうとした理由もそうだった。けれど、そう簡単にこいつは倒れてくれない。
「これで分かったろ。この勝負、君の負けだ。確かに君の力は凄い。けれど所詮力を持っていたとしてもそれを使いこなさなきゃ意味がない。力だけでは俺には勝てないよ」
シアンに言い放たれた言葉にツグナは悔しそうに唇を噛みしめる。そうだ。いくらこの力があった所で、こいつとの戦闘経験の差が埋まったわけじゃない。それでも、人殺しをして平然としているシアンが許せなかった。
「……僕はずっと、人が殺されるのが当然な世界で生きてきた。何人目の前で死んでいったかは分からない」
「こんな時に自分語りか?」
「傷が塞がっても、時々あの時の痛みを感じる。お前に分かるか? 意識がある中で腕を切り落とされる感覚も、骨に沿って虫が肉を食い進んでいる感覚も」
その言葉に再びシアンの口から皮肉が出ることはなかった。彼の以前の生活が劣悪だということを知ってはいたものの、本人の口から実験施設の話が出るのはこれが初めてだったのだ。
「あいつらは人の命を数として扱っていた! 同じ人間なのにだぞ!? なあ、教えてくれよ、シアン。人はいつか死んでしまうのに、どうして人の命を奪おうとするんだ? どんな人にも、僕たちが知らないその人だけの人生があるんだぞ……! 過去も未来も、愛も、思い出も、生きている間にしか感じられない物を、人が奪う権利なんてないはずだ! だから……お前がこれを繰り返すなら、僕は何度だってお前を止めてやる! お前はあいつらのように無情な……悲しい人間になるな! 人の痛みを分かることが出来ない、あいつらのようになるな!」
血の滴る短剣をツグナは強く握りしめ、へし折る。少しでも分かって欲しかった。死を軽視する事がどんなに愚かなことだと言うことを。けれど、ツグナの願いは届かなかったようだ。
「くだらない。話はもう終わったか」
ツグナの答えを聞くなりシアンは銃口を向ける。心做しかその表情は先程向けられたものよりも険しく、冷たいものだった。向けられたそれにツグナは動揺したのか、一度肩を上下に震わせて、睨みつけた瞳に涙を浮かべる。シアンに絶望したわけではなく、単に悔しさからくるものだ。
一方、シアンはツグナに対して呆れていた。そこまで自分を痛めつけた人間に対して受け身のまま、憎しみに変わることもなく恐怖が根付いているのは、長期間拘束されていたからなのだろう。だが、人を殺せる力を手に入れておいて考えが変わらないのは、単なるこいつが恐怖に立ち向かう勇気がないからである。もしこれが続くなら、いずれこいつは足枷になるだろう。邪魔だ。
的から目を離さずに、シアンはトリガーにかけた指をゆっくりと引いた。ただ避けてもさっきの二の舞だろうと、ツグナは悟る。銃弾を避けなくても死、避けても死だ。なら、道は一つしかない。
ツグナは何か思いついたように、シアンの方へと走り出す。馬鹿なのかと、シアンは驚いたように目を大きく見開いた。避けたとしても結果はさっきと同じ。それは先ほど身をもって知ったはず。なのに、こいつは分かった上で向かってくるのか。策がないにしろ、もっとマシな方法があった筈だ。これ以上、ガッカリさせないでくれと奥歯をかみ締めた。
『……お前は何演じてるんだよ! 自分の本心を隠すほど、何がそんなに怖いんだよ!』
先程のツグナの言葉が過ぎる。その言葉にどんな意図があるのかは分からない。実のない話をして相手を苦悩に翻弄させようにも、おそらくこいつにそれができるほどの頭はないだろう。
弱みを握っているがその切札を切る意思がない……いや、弱みを切札として認識していないのか。切り札と認識した時点で自分との関係が危うくなると、あいつ自身も本能的に核心を突くことを恐れているのだろう。だから、自信はあるが核心は突かない曖昧な言い方になったに違いない。
だが、それは僅かにシアンの心をぐらつかせ、手に持っていた銃を震わせるほどの効果はあったようだ。自分でも分からない戸惑いに、銃の狙い目がずれる。何故、こいつを殺すことに戸惑っているのだ。
そんな心境のシアンを知らずに、ツグナは天井を仰ぐようにして放たれた銃弾を避ける。そのまま背中で地面を滑り、身体を捻らせてシアンの背後へと回った。身体を捻らせる時にシアンの足を使って走った時の勢いを緩め、そこから回ることが出来たのだ。勢いに掴まれたシアンの足は耐えきれず、その場で崩れるような体勢になった。
「なっ、いつの間に……!」
それはほんの一瞬のことで、シアンでさえも追いつけない。ツグナは素早く回り込み、崩れながらも振り向こうとしたシアンと目が合った。瞬間、過ぎ去った冷たい風に血の気が引き、シアンは思考が停止する。スローモーションのように迫ってくるツグナの拳は、体勢を崩したシアンには避けられそうになかった。
殺される────すぐさま自分の身体に伴うであろう痛みに、身体は意志と反して硬直する。しかし、ツグナの拳は自身に当たる寸前ところで動きを止められた。拳の衝撃がビリビリと空気を伝って自らの肌に感じる。それと共に衝撃波に似た冷気が身体を貫くようにして横切っていった。
「……っあ」
思わず全身の力が抜けると、その場に尻餅をついた。何があったのか、思考がまるで追いつかない。そんなシアンの耳元では速くなった心臓の音と、荒くなった息が大きく、周りの音をかき消していた。
「何故、止めた? 俺は負けなんて認めていない。まさかとは思うが、情けをかけたんじゃないよな?」
俯いたまま、声の主に向かって嫌味を言うように問いかけた。悔しさと、殺し合いで相手に生かされた屈辱に、気が立ったような強い言い方だ。
「俺は君を殺そうとしたのに」
「お前って、嘘つきなんだな。迷っていたくせに」
ツグナに言われてシアンは肩を小さく揺らした。圧倒的な力の差を感じて身体は動いてくれない。全身は小刻みに震え、未だに思考は追いついていなかった。迷い。何故俺は、迷いを感じた? それさえも自分では分からない。
そんな疑問に呆然としていると、自分の姿が影に重なって視界が薄暗くなる。影の主に何か言ってやろうと少し顔を上げてみれば、そこには身体中に血を流し、ボロボロになったドレスを身にまとったツグナが涙を浮かべながらシアンを見下ろしていた。
「……何故君が泣くんだ」
泣きたいのは俺の方なんだけど、とシアンは呆れた顔でツグナを見上げる。女装しているせいか、メソメソしている様がより女っぽくて実に面倒くさい。
「ごめん……お前を傷つけて」
力なくその場で膝をつくと、ツグナはシアンの頬にできた切り傷を親指で優しくなぞった。先程避けた際に掠ってできたものだろう。
「謝る意味が理解できないな。これぐらいなんとも……」
「やっぱり、嫌だ。誰かを傷つけるなんて嫌だ……」
「……あそ」
「怖いんだっ……もう、人が死ぬどころなんて見だぐない」
「……うん」
「……お前がっ、死んじゃっだらっ、どうしようっで」
「…………うん」
ボタボタと幼い子供のように顔を歪めて、思いっきり汚い顔で泣きじゃくる。それを見て、シアンはツグナかどれだけ人の死に対して恐怖心を抱いているのかが分かった気がした。
自分の手で人間を傷つけることにここまで怯えるか。明らかにツグナの方がひどい傷なのに。大怪我を負わせた相手に向かって死んでしまったらどうしようなんて、変な奴だ。一瞬の迷いとはいえ、君を殺そうとしたのは本当なのに。それでも君はそんな馬鹿げたことを言うのか。本当に、変で馬鹿なヤツ。
暫くして嗚咽が途絶えると、ツグナは糸が切れたように地面に倒れて動かなくなった。恐らく、出血多量による失神だろう。
憂いを漂わせる瞳で見つめてから、シアンはツグナの首筋に手を伸ばした。頸動脈を抑え、少し力を入れてやるとドクンドクンと規則正しく脈打つ鼓動が聞こえてくる。このまま首を絞めたら、こいつは死ぬのだろうか。そんなことを考えたが、実行する気にはならなかった。生きていて安心してしまっている自分がどこかにいた為である。確認したあと、シアンはふらつきながらその場から立ち上がった。
「はあ、疲れた」
途中まで本気で殺りにかかったっていうのに、最後まで俺に指一本触れなかった。いや、初めから殺すつもりなんてなかったのだろう。それはツグナとの戦いの最中にも感じられた。あいつは攻撃する直前に酷く怯えた顔で攻撃の速度をゆるめていた。俺が避けられたのもきっとそのせい。
何より、あの血のように真っ赤な瞳に殺意はなかった。この戦いを受けたのも、あの言葉通り本気で俺を止めようとしたからに違いない。なんて茶番だ。シアンは思い詰めたような暗い表情で弱々しく笑ってみせた。
「で? いつまでそこにいるつもりだ? 早く出てこい」
そう言ってシアンは瓦礫の山の方に目を向ける。瓦礫を踏み越えて、部屋に入ってきたのはシアンとは少し違う燕尾服を着た執事の姿だった。
「気づいていましたか」
「当然だろう。覗きなんて随分と悪趣味だな」
「フォッフォッフォッ。それは申し訳ございません。本当は止めるつもりでしたが、これはこれでよろしいものかと」
微笑みながら執事はシアンの前に立つ。そこは止めてくれよ、と後からシアンの呆れた声が飛んだ。
「おや、連れていかれるんですか」
ツグナを抱えたシアンを見つめて目を細めると、嫌味のような言い方をした。
「悪いか。というか、背負ってくれてもいいんだが」
「私は年寄りゆえ、力仕事は苦手なんです。それにしてもてっきり彼はここまでかと思っていましたが」
「はっ、戯言を。まあ、別にこのまま置いていっても構わないけれど。こいつの力は利用できると改めて知れた。ここで捨てるには勿体ないからな」
シアンの冷徹な言葉に、執事は小さく声を上げて笑った。その笑い声にシアンは「なんだ」と顔を顰蹙させる。
「いや、失敬。シアン様は思いの外、自分の事をご存知ないのですね」
「……どういう事だ」
「貴方はそう簡単に他者に心を許せる方ではない。今まで婚約者を作ろうと思わなかったのも、自分を知られるのが怖かったからなのではないですか? それぐらい、他者に怯えていた貴方が長時間密室で彼の勉強に付き合うなど、そもそも出来なかったはずです」
「……計画の為だったんだ。それに、言葉に理解があるものの、教養がなくては今後使いにくいからな」
「フォッフォッフォッ、無意識ならいい事です。自然に相手に心を許せている証拠ですから」
執事の声にしばらく間を開けてから「貴方の事は信頼している」とだけ言う。執事はそれを聞いて笑みを浮かべると「勿体ないお言葉です」と言ってシアンの後に続いた。
ラヴァル卿の死、大量の女性の遺体、そして地下で行われていた黒魔術。遺体は酷く損傷していて、確認されただけでも三十体以上発見された。それでも未だ見つかってない遺体は多くあるらしい。残念ながら生存者はツグナ達を除いて一人も居なかった。
けれど、見つかった遺体の一部では無事に遺族の元へ帰れたものもあったという。ツグナの目の前で殺されたあの彼女も。どうやら黒魔術によって白骨化が進行せずに、生身の姿が保たれたからだとか。帰れなかった遺体は、後に鎮魂式を執り行うそうだ。
だが、黒魔術が行われていた事実は世間一般には知られていない。表に出しにくい情報なのだから、当然といえば当然だろう。結局、黒魔術がなんだったのか。ラヴァル卿は一体何処から黒魔術を知ったのか。それは未だに謎のままである。
こうして連続女性行方不明事件は幕を閉じた。
◆
舞踏会から一日経った夜。今朝届いた新聞には、昨日命懸けで解決した行方不明事件についての記事が載っていた。とは言え、真相を知ってる側としてはあまりにも薄い内容で、その内容でさえも真実をねじ曲げられている。いい加減な記事だな、と眉をひそめながらツグナはベッドに身を投げた。
昨夜の疲れがまだ残っているのか、身体と瞼が重い。溜息をつきながら仰向けになり、そう言えば今日シアンの奴に会っていないや、なんて事を天蓋を見つめながら考える。いや、別に会いたくはないけれど。天蓋に向かって手を伸ばしてから、腕に巻いていた包帯を取った。
あれだけの刺し傷が跡形もなく消えている。普通の人間ならもっと時間がかかるだろうに。ゆっくりと抱え込み、猫のように丸くなった。鎖がとれた今でも牢にいた頃の癖は治らない。
夜は嫌いだ。静かになると色々と思い出してしまうから。眠るのが怖い。落ち着きなく、反対側に寝返る。ああ、今日も眠れない日だ、と無理矢理寝るために目を瞑った。
暗くなった自室を月明かりが照らし出す。それから時間が経って、部屋の窓から入る月明かりがツグナの寝ているベッドの奥まで延びていった。
「……あの」
「うわっ!!」
ベッドの前に立っていた執事に驚いて、執事とは逆方向に転げ落ちる。ぶつけた頭を涙目で抑えた。ただただ心臓に悪い。
恐る恐るベッドから顔を出すように執事を眺める。申し訳なさそうに眉を下げた執事が「大丈夫ですか」と口を開いた。
「あ、あの……いつからそこにいたんですか……」
「ほんの数分前です。もう就寝しているかと思って静かに部屋に入ったので……まだ寝ておられなくて助かりました」
そう言って執事がニコリと微笑む。就寝している部屋に入ってくるのは執事としてどうなんだ? と思ったが、あえて口を噤んだ。
「……な、何か用です、か?」
眠れないためか、ツグナは少々気が立った様子で問いかけた。しばらく間を開けた後「……少しだけ、お願いがございまして」と執事は顔を俯かせて話始めた。
先に動いたのは、ツグナだった。跳ね上がる鼓動の音を聞いているのに耐えきれなかったのだろう。先手を取ってさっさと終わらせてやろうという、ツグナの気持ちの先立ちがあったためだ。
その様子を見たシアンは慌てることなく冷静に銃を構え、ツグナに向かって放つ。しかし、ツグナは驚くべき速さで、予測もせずに無理やり避けたのだ。そのままシアンのところへ突き進む。
「……チッ」
短く舌打ちをすると、シアンは素早くその場にしゃがみこんだ。動きが単純で読みやすい。横に回された蹴りは素早く屈んだシアンの頭上を通った。蹴りで出来た冷気がカッターのように空気を割る。その蹴りが全て横切ったと同時に、屈んだ状態でツグナの腹部めがけて銃弾を放った。
「……っ!」
身体を捻り、ツグナはギリギリのところで攻撃を避けた。が、体の速さが間に合わず、片足に銃弾を受ける。痛みで一度は崩れるも、空中ですぐに体勢を直し、着地した。銃弾を受けたところからポタポタと血が流れ、肌をゆっくりと伝っていく。
「うっ……」
普通なら歩けなくなってもおかしくはない。すかさず銃を構え、動きが止まった瞬間にと思ったが、ツグナはすぐにシアンに向かって蹴りを放った。
「お……っ?」
予想していなかった事で身体が反応せず、シアンは蹴りを肌に掠める。爆破したかのような破壊音と共に地面が揺れ、石壁が吹き飛ばされた。先程の魔法陣が見える。
「はぁっ、あぶな……」
再度現れたその出入口を見て、思わずツグナから距離を置いた。スレスレに避けきれたとは言え、掠めただけでも切り傷ができる程の蹴りだ。一発でも当たっていたら、もう自分の身体はこの瓦礫の山のように粉々に砕け、使い物にならなくなるだろう。改めてツグナとの近距離戦は危険だと判断する。
それにしても、ツグナはやり方が脳筋で単純だ。ただひたすら、こちらに突っ込むことしか頭にない。本当に戦ったことがないようだった。だからこそ、動きが単調で予測しやすい。シアンが先程から余裕そうにしていたのはそれによる勝利の確信からのものだった。力じゃ劣るが、戦闘の素人となればいくらでも策はある。
「逃げてばっかで、勝つ気あるのか!?」
早く終わらせたい。そんな気持ちのままに声を張り上げ、また懲りずにツグナが向かってくる。それを見て、シアンは手に持った先程の瓦礫の一部を二・三回投げつけた。
「ああ、勿論だ」
要は近づかなければいい。あとはあいつが攻撃をよけられない状況を作ればこの勝負、勝てる。
「こんなの効くもんか!」
自分に飛んでくる瓦礫を避けずにツグナが振り払うとそのままシアンの所に向かおうとした。しかし、瓦礫を避けた時間差で、刃物が肌に突き刺さる。
「ああ、確かに。君に瓦礫は効かないな」
「……っうぐ」
カランッ……と短剣が床に落ちる。それらはツグナが顔を塞いだ腕と、塞ぎきれなかった身体に深く突き刺さっていた。頭を塞ぐことができたのは幸いだったが、腕は大惨事である。もし腕で止められなかったらと考えて血の気が引いた。
「先程から戦い方を見ていて、瓦礫程度だったら君が腕で振り払うんじゃないかって思ってさ。わざとその瓦礫の死角に短剣を投げつけた。目の前の攻撃に目を奪われて、短剣に気づかなかっただろ」
そう言ってシアンは指の間に短剣を挟んで見せつける。単純だからこそ瓦礫に気を取られすぎて、短剣に反応が遅れてしまったのだ。人の目を欺くことは戦闘の中では基本である。もしこれが、戦い慣れていればすぐに気がつくことが出来ただろう。
「君の動きは単純なんだ。攻撃の仕方も大振りで、次の行動が予測しやすい。君こそそんな動きで勝つ気があるのか?」
「……っく」
片方の腕から短剣を引き抜き、握りしめる。過信していた。この力ならあいつをすぐに負かすことができると。ツグナが戦おうとした理由もそうだった。けれど、そう簡単にこいつは倒れてくれない。
「これで分かったろ。この勝負、君の負けだ。確かに君の力は凄い。けれど所詮力を持っていたとしてもそれを使いこなさなきゃ意味がない。力だけでは俺には勝てないよ」
シアンに言い放たれた言葉にツグナは悔しそうに唇を噛みしめる。そうだ。いくらこの力があった所で、こいつとの戦闘経験の差が埋まったわけじゃない。それでも、人殺しをして平然としているシアンが許せなかった。
「……僕はずっと、人が殺されるのが当然な世界で生きてきた。何人目の前で死んでいったかは分からない」
「こんな時に自分語りか?」
「傷が塞がっても、時々あの時の痛みを感じる。お前に分かるか? 意識がある中で腕を切り落とされる感覚も、骨に沿って虫が肉を食い進んでいる感覚も」
その言葉に再びシアンの口から皮肉が出ることはなかった。彼の以前の生活が劣悪だということを知ってはいたものの、本人の口から実験施設の話が出るのはこれが初めてだったのだ。
「あいつらは人の命を数として扱っていた! 同じ人間なのにだぞ!? なあ、教えてくれよ、シアン。人はいつか死んでしまうのに、どうして人の命を奪おうとするんだ? どんな人にも、僕たちが知らないその人だけの人生があるんだぞ……! 過去も未来も、愛も、思い出も、生きている間にしか感じられない物を、人が奪う権利なんてないはずだ! だから……お前がこれを繰り返すなら、僕は何度だってお前を止めてやる! お前はあいつらのように無情な……悲しい人間になるな! 人の痛みを分かることが出来ない、あいつらのようになるな!」
血の滴る短剣をツグナは強く握りしめ、へし折る。少しでも分かって欲しかった。死を軽視する事がどんなに愚かなことだと言うことを。けれど、ツグナの願いは届かなかったようだ。
「くだらない。話はもう終わったか」
ツグナの答えを聞くなりシアンは銃口を向ける。心做しかその表情は先程向けられたものよりも険しく、冷たいものだった。向けられたそれにツグナは動揺したのか、一度肩を上下に震わせて、睨みつけた瞳に涙を浮かべる。シアンに絶望したわけではなく、単に悔しさからくるものだ。
一方、シアンはツグナに対して呆れていた。そこまで自分を痛めつけた人間に対して受け身のまま、憎しみに変わることもなく恐怖が根付いているのは、長期間拘束されていたからなのだろう。だが、人を殺せる力を手に入れておいて考えが変わらないのは、単なるこいつが恐怖に立ち向かう勇気がないからである。もしこれが続くなら、いずれこいつは足枷になるだろう。邪魔だ。
的から目を離さずに、シアンはトリガーにかけた指をゆっくりと引いた。ただ避けてもさっきの二の舞だろうと、ツグナは悟る。銃弾を避けなくても死、避けても死だ。なら、道は一つしかない。
ツグナは何か思いついたように、シアンの方へと走り出す。馬鹿なのかと、シアンは驚いたように目を大きく見開いた。避けたとしても結果はさっきと同じ。それは先ほど身をもって知ったはず。なのに、こいつは分かった上で向かってくるのか。策がないにしろ、もっとマシな方法があった筈だ。これ以上、ガッカリさせないでくれと奥歯をかみ締めた。
『……お前は何演じてるんだよ! 自分の本心を隠すほど、何がそんなに怖いんだよ!』
先程のツグナの言葉が過ぎる。その言葉にどんな意図があるのかは分からない。実のない話をして相手を苦悩に翻弄させようにも、おそらくこいつにそれができるほどの頭はないだろう。
弱みを握っているがその切札を切る意思がない……いや、弱みを切札として認識していないのか。切り札と認識した時点で自分との関係が危うくなると、あいつ自身も本能的に核心を突くことを恐れているのだろう。だから、自信はあるが核心は突かない曖昧な言い方になったに違いない。
だが、それは僅かにシアンの心をぐらつかせ、手に持っていた銃を震わせるほどの効果はあったようだ。自分でも分からない戸惑いに、銃の狙い目がずれる。何故、こいつを殺すことに戸惑っているのだ。
そんな心境のシアンを知らずに、ツグナは天井を仰ぐようにして放たれた銃弾を避ける。そのまま背中で地面を滑り、身体を捻らせてシアンの背後へと回った。身体を捻らせる時にシアンの足を使って走った時の勢いを緩め、そこから回ることが出来たのだ。勢いに掴まれたシアンの足は耐えきれず、その場で崩れるような体勢になった。
「なっ、いつの間に……!」
それはほんの一瞬のことで、シアンでさえも追いつけない。ツグナは素早く回り込み、崩れながらも振り向こうとしたシアンと目が合った。瞬間、過ぎ去った冷たい風に血の気が引き、シアンは思考が停止する。スローモーションのように迫ってくるツグナの拳は、体勢を崩したシアンには避けられそうになかった。
殺される────すぐさま自分の身体に伴うであろう痛みに、身体は意志と反して硬直する。しかし、ツグナの拳は自身に当たる寸前ところで動きを止められた。拳の衝撃がビリビリと空気を伝って自らの肌に感じる。それと共に衝撃波に似た冷気が身体を貫くようにして横切っていった。
「……っあ」
思わず全身の力が抜けると、その場に尻餅をついた。何があったのか、思考がまるで追いつかない。そんなシアンの耳元では速くなった心臓の音と、荒くなった息が大きく、周りの音をかき消していた。
「何故、止めた? 俺は負けなんて認めていない。まさかとは思うが、情けをかけたんじゃないよな?」
俯いたまま、声の主に向かって嫌味を言うように問いかけた。悔しさと、殺し合いで相手に生かされた屈辱に、気が立ったような強い言い方だ。
「俺は君を殺そうとしたのに」
「お前って、嘘つきなんだな。迷っていたくせに」
ツグナに言われてシアンは肩を小さく揺らした。圧倒的な力の差を感じて身体は動いてくれない。全身は小刻みに震え、未だに思考は追いついていなかった。迷い。何故俺は、迷いを感じた? それさえも自分では分からない。
そんな疑問に呆然としていると、自分の姿が影に重なって視界が薄暗くなる。影の主に何か言ってやろうと少し顔を上げてみれば、そこには身体中に血を流し、ボロボロになったドレスを身にまとったツグナが涙を浮かべながらシアンを見下ろしていた。
「……何故君が泣くんだ」
泣きたいのは俺の方なんだけど、とシアンは呆れた顔でツグナを見上げる。女装しているせいか、メソメソしている様がより女っぽくて実に面倒くさい。
「ごめん……お前を傷つけて」
力なくその場で膝をつくと、ツグナはシアンの頬にできた切り傷を親指で優しくなぞった。先程避けた際に掠ってできたものだろう。
「謝る意味が理解できないな。これぐらいなんとも……」
「やっぱり、嫌だ。誰かを傷つけるなんて嫌だ……」
「……あそ」
「怖いんだっ……もう、人が死ぬどころなんて見だぐない」
「……うん」
「……お前がっ、死んじゃっだらっ、どうしようっで」
「…………うん」
ボタボタと幼い子供のように顔を歪めて、思いっきり汚い顔で泣きじゃくる。それを見て、シアンはツグナかどれだけ人の死に対して恐怖心を抱いているのかが分かった気がした。
自分の手で人間を傷つけることにここまで怯えるか。明らかにツグナの方がひどい傷なのに。大怪我を負わせた相手に向かって死んでしまったらどうしようなんて、変な奴だ。一瞬の迷いとはいえ、君を殺そうとしたのは本当なのに。それでも君はそんな馬鹿げたことを言うのか。本当に、変で馬鹿なヤツ。
暫くして嗚咽が途絶えると、ツグナは糸が切れたように地面に倒れて動かなくなった。恐らく、出血多量による失神だろう。
憂いを漂わせる瞳で見つめてから、シアンはツグナの首筋に手を伸ばした。頸動脈を抑え、少し力を入れてやるとドクンドクンと規則正しく脈打つ鼓動が聞こえてくる。このまま首を絞めたら、こいつは死ぬのだろうか。そんなことを考えたが、実行する気にはならなかった。生きていて安心してしまっている自分がどこかにいた為である。確認したあと、シアンはふらつきながらその場から立ち上がった。
「はあ、疲れた」
途中まで本気で殺りにかかったっていうのに、最後まで俺に指一本触れなかった。いや、初めから殺すつもりなんてなかったのだろう。それはツグナとの戦いの最中にも感じられた。あいつは攻撃する直前に酷く怯えた顔で攻撃の速度をゆるめていた。俺が避けられたのもきっとそのせい。
何より、あの血のように真っ赤な瞳に殺意はなかった。この戦いを受けたのも、あの言葉通り本気で俺を止めようとしたからに違いない。なんて茶番だ。シアンは思い詰めたような暗い表情で弱々しく笑ってみせた。
「で? いつまでそこにいるつもりだ? 早く出てこい」
そう言ってシアンは瓦礫の山の方に目を向ける。瓦礫を踏み越えて、部屋に入ってきたのはシアンとは少し違う燕尾服を着た執事の姿だった。
「気づいていましたか」
「当然だろう。覗きなんて随分と悪趣味だな」
「フォッフォッフォッ。それは申し訳ございません。本当は止めるつもりでしたが、これはこれでよろしいものかと」
微笑みながら執事はシアンの前に立つ。そこは止めてくれよ、と後からシアンの呆れた声が飛んだ。
「おや、連れていかれるんですか」
ツグナを抱えたシアンを見つめて目を細めると、嫌味のような言い方をした。
「悪いか。というか、背負ってくれてもいいんだが」
「私は年寄りゆえ、力仕事は苦手なんです。それにしてもてっきり彼はここまでかと思っていましたが」
「はっ、戯言を。まあ、別にこのまま置いていっても構わないけれど。こいつの力は利用できると改めて知れた。ここで捨てるには勿体ないからな」
シアンの冷徹な言葉に、執事は小さく声を上げて笑った。その笑い声にシアンは「なんだ」と顔を顰蹙させる。
「いや、失敬。シアン様は思いの外、自分の事をご存知ないのですね」
「……どういう事だ」
「貴方はそう簡単に他者に心を許せる方ではない。今まで婚約者を作ろうと思わなかったのも、自分を知られるのが怖かったからなのではないですか? それぐらい、他者に怯えていた貴方が長時間密室で彼の勉強に付き合うなど、そもそも出来なかったはずです」
「……計画の為だったんだ。それに、言葉に理解があるものの、教養がなくては今後使いにくいからな」
「フォッフォッフォッ、無意識ならいい事です。自然に相手に心を許せている証拠ですから」
執事の声にしばらく間を開けてから「貴方の事は信頼している」とだけ言う。執事はそれを聞いて笑みを浮かべると「勿体ないお言葉です」と言ってシアンの後に続いた。
ラヴァル卿の死、大量の女性の遺体、そして地下で行われていた黒魔術。遺体は酷く損傷していて、確認されただけでも三十体以上発見された。それでも未だ見つかってない遺体は多くあるらしい。残念ながら生存者はツグナ達を除いて一人も居なかった。
けれど、見つかった遺体の一部では無事に遺族の元へ帰れたものもあったという。ツグナの目の前で殺されたあの彼女も。どうやら黒魔術によって白骨化が進行せずに、生身の姿が保たれたからだとか。帰れなかった遺体は、後に鎮魂式を執り行うそうだ。
だが、黒魔術が行われていた事実は世間一般には知られていない。表に出しにくい情報なのだから、当然といえば当然だろう。結局、黒魔術がなんだったのか。ラヴァル卿は一体何処から黒魔術を知ったのか。それは未だに謎のままである。
こうして連続女性行方不明事件は幕を閉じた。
◆
舞踏会から一日経った夜。今朝届いた新聞には、昨日命懸けで解決した行方不明事件についての記事が載っていた。とは言え、真相を知ってる側としてはあまりにも薄い内容で、その内容でさえも真実をねじ曲げられている。いい加減な記事だな、と眉をひそめながらツグナはベッドに身を投げた。
昨夜の疲れがまだ残っているのか、身体と瞼が重い。溜息をつきながら仰向けになり、そう言えば今日シアンの奴に会っていないや、なんて事を天蓋を見つめながら考える。いや、別に会いたくはないけれど。天蓋に向かって手を伸ばしてから、腕に巻いていた包帯を取った。
あれだけの刺し傷が跡形もなく消えている。普通の人間ならもっと時間がかかるだろうに。ゆっくりと抱え込み、猫のように丸くなった。鎖がとれた今でも牢にいた頃の癖は治らない。
夜は嫌いだ。静かになると色々と思い出してしまうから。眠るのが怖い。落ち着きなく、反対側に寝返る。ああ、今日も眠れない日だ、と無理矢理寝るために目を瞑った。
暗くなった自室を月明かりが照らし出す。それから時間が経って、部屋の窓から入る月明かりがツグナの寝ているベッドの奥まで延びていった。
「……あの」
「うわっ!!」
ベッドの前に立っていた執事に驚いて、執事とは逆方向に転げ落ちる。ぶつけた頭を涙目で抑えた。ただただ心臓に悪い。
恐る恐るベッドから顔を出すように執事を眺める。申し訳なさそうに眉を下げた執事が「大丈夫ですか」と口を開いた。
「あ、あの……いつからそこにいたんですか……」
「ほんの数分前です。もう就寝しているかと思って静かに部屋に入ったので……まだ寝ておられなくて助かりました」
そう言って執事がニコリと微笑む。就寝している部屋に入ってくるのは執事としてどうなんだ? と思ったが、あえて口を噤んだ。
「……な、何か用です、か?」
眠れないためか、ツグナは少々気が立った様子で問いかけた。しばらく間を開けた後「……少しだけ、お願いがございまして」と執事は顔を俯かせて話始めた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる