暁の刻

煉獄薙

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全ての洗濯物をたたみ終え、それらを大広間に運び終えた。

「…ありがとうございました」

「いやいや、俺んとこの隊士が当番だったんだし、一人でやらせるのは申し訳ねーだろ?」

実際問題、今日の当番は八番隊の隊士から一名でる予定だったのだが、その隊士が体調を崩し、代わりの隊士がいなかったのだ。

そこで平助が一人でやっていた雫の助けをかってでたのだ。

「…それでも隊長だし、稽古もあって忙しいのに自分から引き受けてくれたのは助かりました」

丁寧に礼をしてその場を去ろうとした雫を呼び止め、
「…雫って刀扱えるのか?」
急に声を低くして訊ねた。

意味深な笑みで答えを待っている。

雫は自分の失言を思い出し、渇いた笑いをした。
「あー失敗。………他の人には言わないで下さいよ?」
「もちろん!」
「あー、小さいときから扱えてましたよ」
「…今は?」
続け様に質問を繰り出す。
「……今は、ほとんど使えません。用なしというやつですね」
あまり説明したくない様な態度だったが、平助は自分の部屋に引っ張り込んだ。

「…ちょ、何するんですか」
「…あ、コレ何だかわかるか?」
平助が見せたものは、傷のない独楽だった。
「…わかりますけど、これがどうかしたんですか?」
平助は呆れたようにため息をつき、
「傷のない独楽なんて普通あり得ないんだけど、遊んだことないのか?」
「あ…自分は小さい頃遊んだことがないので」
「…あっそ。……ちなみにコレは俺が家を出されたときに渡されたもの」
家を出るではなく出された、ということは自分の意思ではないと言うこと。

しかも独楽といえば子供の遊び道具だ。
そんなものを最後に渡されるということは、
「何か理由があるんですよね」
家にいられない事情があったということ。

雫が訊ねると、平助は懐かしそうに独楽を見つめていた。

「…俺さ、妾の子供なんだよ。父親はとある城主。小さい頃から会ってないからよくわかんないんだよ。んで、母親に育てられた」
平助は身の上話を始めた。

簡潔に、だったが、妾の子としての平助は平助なりに辛い境遇だった。

「…んでさ、俺はお前に似たような部分があるって思ってる。ってか何か普通とは違うっていうか……違う時間を生きてる感じがする………」
最後の言葉は自分でも疑問に思っているためか、声は大きくはなかった。

だが、雫はそんな平助の観察眼を凄いと感じていた。


タイムスリップなど、この時代の人間には到底思い付かないことだろうと思っていたからだ。

「…じゃあ、私も私の話を始めるよ」

そう前置きをして、雫は過去の……未来の話を始めた。
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