暁の刻

煉獄薙

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「…昨日も不逞浪士がいたんでしょ?大丈夫?」

「うん!問題ないよ。……雫、今日は何をするの?」

玄関先、一番隊の隊士6名と総司の計7人。
そして雫。

いつもはしない見送り。

雫も何か気づいているのだろうかと、そんなことを考えてしまう。

「…今日は、掃除をしようかなと思ってる……」

「そっか!…じゃあ頑張ってね!」

無駄な会話を止め、僕は市中の見廻りに行った。



「…沖田隊長、あれでよかったんですか?」
「ん?何が?」
隊員の森くんは真面目だし、雫をやけに気遣ってくれる。
今日僕が斬られても彼がなんとかしてくれるだろう。

「…暁月さんは隊長の心配を……」

「…良かったんだよ」

自分に言い聞かせるように答えた。
この役割が終わったら僕は自由になるんだから。


今回の隊編成は初見廻りとなる隊士がいる。
曰く、この隊士が戦闘慣れしていないために、庇った沖田総司が斬られる、というわけだ。


見廻りコースの橋に差しかかると反対側から数人の男たちが現れた。

「…隊長……」
「…完全に敵、だね。殺気が出てるし」

本当は少し前から感じてはいたけど、気づかないふりをしていた。


真ん中にいる灰色の髪が吉田っていうやつかな。

後は弱そう……
殺気も隠せない連中だし……

僕が刀を抜くと、隊士も続いて刀を抜く。

「新撰組だ。長州の人間だな。…歯向かう奴は皆殺しだ!」

吉田が仲間に合図して戦闘が始まった。
人数はほぼ同等。

問題があるといえば……

ガキィン!

刀が大きく音をたてる。
「…やぁ、初めまして、でいいのかな?」
吉田が笑顔で訊ねた。

「…そうだね。雫がお世話になりましたって答えるのがいいのかなー」

鍔迫り合いになるが、互いに一度距離を置く。
「そっかぁー……あの子の身元引き受け人は君なんだもんね。じゃあ君に先に言わなきゃいけなかったかな?」

「何をだ?」

総司の攻撃をいとも簡単に受け流し、今度は吉田が攻撃する態勢になった。

周りの隊士たちはそれぞれに自分の敵と戦っている。

人数としてはこちらに少し歩があるが、常に周りにも警戒を払っていなければいけない。

「…暁月雫をこっちにちょうだいよ」

吉田はまだ余裕があるのか、笑みを浮かべている。

攻撃と防御が交互に入れ替りながらも、二人の会話は続いていた。


「ふざけるな」

この時代に暁月雫という少女は存在しない。

だからこそ、あの子をこの時代のいざこざに巻き込むわけにはいかない。

「…あの子の赤い目……もう一度見てみたいんだよね」

赤い目。
その言葉を聞いたとき、僕は動揺してしまい

ザシュッ

「……っ」

腕を斬られてしまった。
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