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void
still
しおりを挟む「…あの、どうして?」
「…ちょっと黙ってて。舌噛むよ」
薄暗い路地を抜け、宿までの道を一心不乱に走った。
久坂やその仲間たちに見つかったら危険だと本能的に思っていた。
「…あ、連れてきちゃったんだ」
「悪いかよ」
息をきらして部屋に入った俺に、真琴は興味のない様子で見ていた。
雫はというと、ぼんやりと周りを見渡して、
「はじめまして」
と真琴に向かって挨拶した。
真琴は軽くため息をついて、
「…自我が薄れるだけじゃなくて記憶までなくなってるんだ。しかも……」
懐に隠していた短刀を抜き、雫の目の前に降り下ろした。
「赤い眼を使ってなければ視力も戦闘力もなし、と。」
何かの確認をしているような真琴は、ただ淡々と雫の現状を確認していた。
そして、吉田を振り返る。
「こんなことをしても、この子は救われないよ。もう死に向かって進んでる」
真琴は事実だけを告げた。
最後に雫と会ったのは2週間ほど前。
そのときは、まだ沖田総司に関する記憶だけは必死に無くさないようにしていた。
この様子だともう自分の記憶は全く残っていないのだろう、と推定している。
吉田は、何かしたかったのだろうけど、ここまで進んでしまえばもう戻れない。
「…吉田、あなたはどうしたい?」
そう問いかけた。
「…俺は………」
*****
沖田総司含め9人の新撰組隊士は、暗闇に溶け込むように、池田屋近くの路地に息を潜めていた。
「…どうやらこっちが正解だったみたいだね」
「山崎くんは今土方さんたちに増援を求めに行ったし、少し待って……」
「いや、感づかれて逃げられたら困る。この人数で行こう」
目の前では近藤さんと平助や永倉さんたちが作戦を決めている。
僕が関与するまでもなく、突入は決められた。
歴史通りに池田屋事件が幕を開けようとしていた。
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