2 / 23
本編
迷える子ども
「彼の様子はどうだ? 困っている様子は無いか?」
「はい。特に不満を訴えるような様子はみられません。とても物静かな方です。言葉が分からないために、遠慮されているなら可哀相ですが……」
施設の警護についている部下は、そう彼の事を心配していた。
「本来なら、まだ大人に庇護されているべき年齢のはずだ。心細く感じていなければいいのだが」
街の外れの街道で、迷子の子どもを保護したという報告が上がってきたのは、三週間前の事だった。
我が国だけでなく、世界全体で出生率の低下が加速している今、子どもは殊の外大切にされる。
深夜で、そのうえ盗賊や獣の脅威にさらされる城門の外で子どもが一人でいるとは、事件以外に考えられなかった。
すぐに我々警備隊に保護されたその子どもには、不可解な点が多かった。
まず、言葉がまったく通じなかった。
意思疎通は出来る、こちらが問いかけると、この国の言葉ではない言語で反応があった。
動揺はしていたが、泣きもせず年の割にとても落ち着いている様子だったのが印象深い。
そして、調べてみたが身寄りが無かった。ブラウンの髪にブラウンの瞳、我が国でもよく見られる配色だったため、行方不明の届けが出ている子どもがいないかは当たったのだ。だが、該当者はいなかった。
保護してから現在にいたるまで、あらゆる情報機関に当たっているが、ヒットするものはない。
国民は大切な国の財産。生まれてすぐに、管理番号が振られ、入出国は厳しく管理されている現状、少なくともこの国の者ではない可能性が高い。
何より、この事件の最大の問題点。
擦り傷もあったし、他に傷は無いかと警備隊にいる医師に診せた所、子どもはΩ性だったのだ。
もっと悪いことに、医師は暴行されたような痕があると、深刻な表情で告げた。
また栄養状態も悪く、薬物を使用された反応もあると。
我が国でΩを害することは重罪である。
ましてやその尊厳が損なわれる事は絶対にあってはならないと、女神の下で定められている。
これは、ただの警備隊の抱えられる問題ではないと、すぐ上にお伺いを立てた。
劣悪な環境にいたと思われる身寄りのないΩの子どもがいる。しかも言葉は通じない。
他国から犯罪に巻き込まれて逃げて来た可能性もあった。
外交問題ならば、私たちの手に負える事ではないし、かなり長期的な観察が必要になる。
もし仮に、その子はうちの国のΩなので帰して下さいと言われても、はいそうですか、と安直に頷けるわけもない。
それが本当だったとしても、こんなめに合う事を良しとする国に彼を帰せるわけがない。
対応は迅速だった。すぐに緘口令が敷かれ、子どもは手厚く保護される事となった。
我が国ではΩ性の子どもはある一定以上の警護の体制を整えられる、それこそ貴族でなければ、基本的に国の管理下にある区域で家族と暮らす事になる。
子どもはただでさえ、人身売買等犯罪に巻き込まれやすい。そのうえΩともなると、その危険が跳ね上がる。
その区域の一角の屋敷で、ひとまずの生活をおくれるように整えた。
Ωを支援保護する政府機関から人手がでて、彼の身の回りの世話をしてくれている。
そして、現場で接触した私を含めた数人は、通常業務から、彼を警護する業務へと移された。
国としては、一刻も早く彼に番を見つけて欲しいようだった。
αとΩの番関係は、何よりも優先される。神話の時代からの不文律だ。
いきなり保護者だと名乗り出てくる怪しい人物や、自国のΩだと急に主張してくる外国の要求を退けるのが簡単になる。
「はやく番が見つかると良いのですが。毎日、訪れるアルファの方々は、彼の気を引こうと一生懸命です。彼の方は、いつも穏やかに頷くだけですが」
ほとんど毎日、こちらが促せばアルファとの面談を彼が断ったことはない。
彼がはいと言いたいのか、いいえと言いたいのかくらいは、言葉が通じなくてももう分かる。
いつだって彼は、嫌がる素振りもみせずに、ただ頷くのだそうだ。
まるでそれが仕事だとでも言うように。
「今日でもう20人を超えたんだったか?」
「残念ながら一人も、良い反応をしめした方はいなかったそうですよ。私には分かりませんが、専門家が言うには、もし番と対面したなら部屋のフェロモンを測定する装置に目に見える反応があるそうですから」
この国にも番を求めるαは多い。
人生の伴侶、運命の相手。βである私でも憧れる。
αにとっては特に、番がいない状態は未完成で欠けたような感覚を覚えるらしい。
それでも、ここ数百年Ωの数は減るばかり。
いまでは10人に1人、番がいるかどうかといった具合だ。
もちろんβと結ばれて子供を作るαもいる。いるにはいるのだが、本能が求めるのだろうか、αはΩと番になりたがった。
βと結ばれるのは一定の適齢期が過ぎて、番を持つということにある程度の諦めをもったαが多い。
その中でも、温かな家庭を築いている者も多いし、そういう人々によっても国は支えられている。
ただ、αやΩは、その性を持つ両親からの方が生まれやすい。国としても、その確率をあげるために番関係を結んだ者が多くなることは歓迎すべきことだった。
近年では長く、国内のαと番関係が望めなかったΩのために、国際的な交流会なども盛んになってきている。
番は他国にいた。なんて話はもう珍しいものでは無くなった。
この世界にたった一人、貴方には運命の相手がいる。そう言われて、その一人を捜さない者など極少数だった。
「本当に彼にもはやく見つかると良いのだが」
また、僅かに関わっただけだが、苦労してきただろう事が伺える子どもだった。
こちらからの提案に一度も拒否を示さない。いつも淡々と受け入れている。
その様子は、拒むことを許されなかったようにもみえた。
まだ子どもだろうから、正式な番関係を結ぶというわけにはいかないだろうが、信頼を寄せられる庇護者が出来るなら、少しは安心できるのではないかと思う。
あなたにおすすめの小説
異世界唯一のオメガ、恋を選ぶまでの90日
秋月真鳥
BL
――異世界に「神子」として召喚されたのは、28歳の元高校球児、瀬尾夏輝。
男性でありながらオメガである彼は、オメガの存在すら知られていない異世界において、唯一無二の「神に選ばれし存在」として迎えられる。
番(つがい)を持たず、抑制剤もないまま、夏輝は神殿で生活を共にする五人のアルファ候補たちの中から、90日以内に「番」となる相手を選ばなければならない。
だがその日々は決して穏やかではなく、隣国の陰謀や偽の神子の襲撃、そして己の体に起きる変化――“ヒート”と呼ばれる本能の波に翻弄されていく。
無口で寡黙な軍人アルファ・ファウスト。
年下でまっすぐな王太子・ジェラルド。
優しく理知的な年上宰相・オルランド。
彼らが見せる愛情と執着に、心を揺らしながら、夏輝は己の運命と向き合っていく。
――90日後、夏輝が選ぶのは、誰の「番」としての未来か。
神の奇跡と恋が交錯する異世界で、運命の愛が始まる――。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
【完結】逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。
しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです…
本当の花嫁じゃないとばれたら大変!
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
世界一大好きな番との幸せな日常(と思っているのは)
かんだ
BL
現代物、オメガバース。とある理由から専業主夫だったΩだけど、いつまでも番のαに頼り切りはダメだと働くことを決めたが……。
ド腹黒い攻めαと何も知らず幸せな檻の中にいるΩの話。
転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される
Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。
中1の雨の日熱を出した。
義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。
それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。
晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。
連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。
目覚めたら豪華な部屋!?
異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。
⚠️最初から義父に犯されます。
嫌な方はお戻りくださいませ。
久しぶりに書きました。
続きはぼちぼち書いていきます。
不定期更新で、すみません。
【完結】半端なあやかしの探しもの
雫川サラ
BL
人の子として生まれながら人ならざる「力」に目覚めてしまった少年・蘇芳。生きる場所を失い、絶望の淵に一度は立った蘇芳だが、ひとりのあやかしとの鮮烈な出会いによって次第に内側から変わり始める。
出会いも最悪なら態度も最悪なそのあやかしにどうしようもなく惹かれる理由は、果たして本当に血の本能によるものだけなのか?
後ろ向きな考え方しかできなかった少年が突然自分に降りかかった宿命にぶつかり、愛することを知り、生きようとする理由をその手で掴むまでのお話。
本作で第11回BL小説大賞に参加しております。投票やご感想大変嬉しいです。
※オメガバースの世界観を下敷きとした、前近代(近世)日本に似た異世界のお話です。独自設定はほんの味付け程度ですが1話目に作中に登場する用語の説明があります
※R描写あり回には*をつけます
【完結】あなたのいない、この異世界で。
Mhiro
BL
「……僕、大人になったよ。だから……もう、───いいよね?」
最愛の人に先立たれて3年。今だ悲しみから立ち直れず、耐えられなくなった結(ゆい)はその生涯を終えようとする。しかし、次に目が覚めたのは、生命を見守る大樹がそびえ立つ異世界だった。
そこで亡き恋人の面影を持つ青年・ルークと出会う。
亡き恋人への想いを抱えながらも、優しく寄り添ってくれるルークに少しずつ惹かれていく結。そんなある日、ある出来事をきっかけに、彼から想いを告げられる。
「忘れる必要なんてない。誰かを想うユイを、俺はまるごと受け止めたい」
ルークの告白を受け入れ、幸せな日々を送る結だったが、それは突然終わりを迎える。
彼が成人を迎えたら一緒に村を出ようと約束を交わし、旅立つ準備を進めていた矢先、結は別の女性と口づけを交わすルークの姿を目撃してしまう。
悲しみの中で立ち止まっていた心が、異世界での出会いをきっかけに再び動き出す、救済の物語。
※センシティブな表現のある回は「*」が付いてますので、閲覧にはご注意ください。
ストーリーはゆっくり展開していきます。ご興味のある方は、ぜひご覧ください。