絵の女

八花月

文字の大きさ
4 / 9

004

しおりを挟む
 思い余った私は、とうとう占い屋に足を踏み入れてしまった。占いなどに頼ろうと考えたのは生まれて初めてのことだ。

 通常の運勢占いではなく、失せ物・当て物専門の占い師である。

 知人の伝手を辿り、その筋では有名な人を紹介してもらった。

 宣伝しているわけでも看板を出しているわけでもなく、通常の手段ではなかなかその人に観てもらうことは出来ないらしい。

「これでいいかい?」

 私はクリアファイルから、あの絵のコピーを出してその人物に渡した。デジカメで写真に撮って印刷機で出力したものだ。やはり本物のほうが良いのだろうか?

「ええ、これで充分ですよ」

 占い屋は顔も身体も厚いヴェールで覆っていて、なかなか雰囲気があった。

 室内は薄暗く、声も何かの手段をもって変えているらしく男か女かも判別出来ない。

 占い屋はしばらく絵を矯めつ眇めつしてから、おもむろに人間の顔ほどもある水晶玉をどこかから取り出し、私との間の机の上にデンと鎮座させた。

「黙って座ればピタリと当たる、ってワケにはいかないかね?」
「ええ……今回は少々手強そうなので……」

 この占い師は時間はかからない、と聞いていたのに、随分長い間水晶に向かって手をかざしたり顔を近づけたりしている。

「霊査は終わりましたが……」

 だいぶ待たされたのち、苦しそうに息を喘がせながら占い屋は語り始めた。

「これは良くないですね……良くないですよ」

「あのね、君。私は運勢占いしてもらいに、わざわざ来たんじゃないの。良いだの悪いだの聞いてないでしょう? この絵の場所を聞いてるの」

「いえ、ええ……なんと言いますか、良くないのです」

 占い屋はしばらく口をモゴモゴしながら要領を得ないことを言っていたが、
「探索はお止めになったほうがよろしいでしょうね」
突然、意を決したようにハッキリをこう口に出した。

「良いだの悪いだのは聞いてない、と言ったよね?」

「あの、しかし……これはとても良くないものなんです。関わらないほうが……正直私もこの仕事を受けたことを後悔していて……」

 占い屋は震える手で〝絵の女〟を指し示している。冷や汗? なのか液体が一滴、A4コピー紙の上に落ちて汚い染みを作った。

「君ねぇ、君は一応、金を貰って仕事しているプロなんでしょう? 今の君のこれがそれに見合う成果だと思う? 恥ずかしくないの?」

「お代はまだ頂いておりませんが……? あ、いえ、勿論結構ですよ。このような結果になった以上……」

 私は最後まで言わせなかった。私は気取った水晶玉を鷲掴みにし、目の前のうらなり占い野郎に投げつけた。

「おぎゃあ、すぎゃらすっとめこんだらっとらん、しっとぐすぞ!」

 私は喚きながら、呻きながら床に転がっている占い屋に馬乗りになり、顔と思われる辺りを殴り続けた。

 私に反抗した。生意気な口を聞いた。約束を果たさなかった。〝あの女〟を悪く言った。

 許せない。これは当然の報いだった。

 最後に、手探りで床に転がっている水晶を探り当てると、ボウリング玉を投げつける心持ちで占い屋の頭にブチ当ててやった。
 
 水晶は砕け散り、占いは動かなくなった。

 まったく時間の無駄だ。私はプリプリしながら占い屋を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo
ホラー
この世には、知ってはいけない話がある。  怪談、都市伝説、語り継がれる呪い——  どれもがただの作り話かもしれない。  だが、それでも時々、**「本物」**が紛れ込むことがある。  本書は、そんな“見つけてしまった”怪異を集めた一冊である。  最後のページを閉じるとき、あなたは“何か”に気づくことになるだろう——。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...