夏花

八花月

文字の大きさ
92 / 96
21.鵺

011

しおりを挟む
「上古、ってさっき、あの娘言ってたわね。やっぱりあの連中の差し金か」

「ああそう。あのでけー猫みたいなヤツだよ。やっぱ知ってんの?」

 薬子は小さく舌打ちした。

「もうあんなのに関わらないことね。あんな可愛い見た目だし、親しみやすそうだけど、近づかないほうがいい」

「可愛い? あの猫の方?」

 乙女は問い返したが、薬子は答えなかった。

「あいつらは、人間のことも心配してるようなこと言うけど、口だけよ。同じ盤上にいるから勘違いしがちだけど、実際は私達とは全然違うルールのゲームをやってる」

「まー、心配すんなよ。あたしそんなゲーム参加する気ないから」
「心配はしてない」

 薬子は憮然とした調子で言う。

 やすらえ みたま みたまよ やすらえ
 きみよ きみよ やすらえ ぎょくこつも
 かくりみにませば はなとちり おおつち
 ねのくらに もどりましませ……

 雅樂は、崩壊した丘の上に僅かに残った足場で、一人静かに舞っている。

「なによあの娘……出来てるじゃない……」 

 乙女にはよくわからなかったが〝薬子が言うのだから、あの骸骨ももう再び動き始めることはないのだろう〟と思った。

「あの娘、って。多分あたしらより歳上だぞ」
「常夜衛士か。まだ残ってたのね」

 ふと、乙女は薬子の顔を見下ろした。

「ここも結構色んなヤツが居て面白いだろ? このままどっか行ったりすんなよ?」

「……なんであなたにそんなこと言われなくちゃいけないの?」

『やっぱこいつ、バックレる気だったな』

 乙女は心中で口笛を吹く。

「どんな手使っておたすけし隊にもぐりこんだのか知らねーけど、一旦始めたんだから最後までやれよ。その、任期が終わるまではさ」

「考えとく」

 薬子が、味も素っ気もない返事をした時、息遣いも荒く、ミラが姿を現した。

「ちょっと! 終わったんならさっさと帰りましょ!」

 大きな怪我はないようだが、身体の表面や衣服が泥だらけになっている。

「お前……どしたの? それ?」
「聞かないで!」

 ミラはプリプリしながら、乙女に向かって片掌を突き出した。一切の質問をシャットアウトするという意思表示であろう。

「ねえ、早く行きましょ。そろそろハギモリも起きるわ。その寝てるのも連れてっていいから」

 ミラは人差し指で薬子を示す。

「おっ、優しいじゃん」
「なかなか使えそうだしね。眷属に加えようと思って」

「お断りよ」

 薬子は鋭く言ったが、地べたに寝そべったままなので、サマにならない。

「あなた負けたんだから、言う事聞きなさいよ」

 薬子の眉間に深い皺が刻まれる。明らかに気分を害していた。

「まあまあまあまあ! 雅樂ちゃん踊ってるのでも見て落ち着けよ。あれ終わったら帰ろうぜ」

「あら……?」 

 ミラは、乙女に言われて初めて雅樂に気づいたようだった。

「あれは何をやってるの?」
「もう骨が動かねーようにするんだってさ」
「へえー」

 気の抜けたような声を上げるミラ。

「なんだか凄い光景ね」

 半壊した古代の墓の上で、雅樂は鳥のように舞っている。

 呪文のような調べもずっと続いているが、薬子のものと違い、そのまま空に溶けていくような淡いものだった。

「まぁ……悪くないわ」

 やっと半身だけ起こした薬子は、雅樂を見て僅かに笑みを零した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...