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21.鵺
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「上古、ってさっき、あの娘言ってたわね。やっぱりあの連中の差し金か」
「ああそう。あのでけー猫みたいなヤツだよ。やっぱ知ってんの?」
薬子は小さく舌打ちした。
「もうあんなのに関わらないことね。あんな可愛い見た目だし、親しみやすそうだけど、近づかないほうがいい」
「可愛い? あの猫の方?」
乙女は問い返したが、薬子は答えなかった。
「あいつらは、人間のことも心配してるようなこと言うけど、口だけよ。同じ盤上にいるから勘違いしがちだけど、実際は私達とは全然違うルールのゲームをやってる」
「まー、心配すんなよ。あたしそんなゲーム参加する気ないから」
「心配はしてない」
薬子は憮然とした調子で言う。
やすらえ みたま みたまよ やすらえ
きみよ きみよ やすらえ ぎょくこつも
かくりみにませば はなとちり おおつち
ねのくらに もどりましませ……
雅樂は、崩壊した丘の上に僅かに残った足場で、一人静かに舞っている。
「なによあの娘……出来てるじゃない……」
乙女にはよくわからなかったが〝薬子が言うのだから、あの骸骨ももう再び動き始めることはないのだろう〟と思った。
「あの娘、って。多分あたしらより歳上だぞ」
「常夜衛士か。まだ残ってたのね」
ふと、乙女は薬子の顔を見下ろした。
「ここも結構色んなヤツが居て面白いだろ? このままどっか行ったりすんなよ?」
「……なんであなたにそんなこと言われなくちゃいけないの?」
『やっぱこいつ、バックレる気だったな』
乙女は心中で口笛を吹く。
「どんな手使っておたすけし隊にもぐりこんだのか知らねーけど、一旦始めたんだから最後までやれよ。その、任期が終わるまではさ」
「考えとく」
薬子が、味も素っ気もない返事をした時、息遣いも荒く、ミラが姿を現した。
「ちょっと! 終わったんならさっさと帰りましょ!」
大きな怪我はないようだが、身体の表面や衣服が泥だらけになっている。
「お前……どしたの? それ?」
「聞かないで!」
ミラはプリプリしながら、乙女に向かって片掌を突き出した。一切の質問をシャットアウトするという意思表示であろう。
「ねえ、早く行きましょ。そろそろハギモリも起きるわ。その寝てるのも連れてっていいから」
ミラは人差し指で薬子を示す。
「おっ、優しいじゃん」
「なかなか使えそうだしね。眷属に加えようと思って」
「お断りよ」
薬子は鋭く言ったが、地べたに寝そべったままなので、サマにならない。
「あなた負けたんだから、言う事聞きなさいよ」
薬子の眉間に深い皺が刻まれる。明らかに気分を害していた。
「まあまあまあまあ! 雅樂ちゃん踊ってるのでも見て落ち着けよ。あれ終わったら帰ろうぜ」
「あら……?」
ミラは、乙女に言われて初めて雅樂に気づいたようだった。
「あれは何をやってるの?」
「もう骨が動かねーようにするんだってさ」
「へえー」
気の抜けたような声を上げるミラ。
「なんだか凄い光景ね」
半壊した古代の墓の上で、雅樂は鳥のように舞っている。
呪文のような調べもずっと続いているが、薬子のものと違い、そのまま空に溶けていくような淡いものだった。
「まぁ……悪くないわ」
やっと半身だけ起こした薬子は、雅樂を見て僅かに笑みを零した。
「ああそう。あのでけー猫みたいなヤツだよ。やっぱ知ってんの?」
薬子は小さく舌打ちした。
「もうあんなのに関わらないことね。あんな可愛い見た目だし、親しみやすそうだけど、近づかないほうがいい」
「可愛い? あの猫の方?」
乙女は問い返したが、薬子は答えなかった。
「あいつらは、人間のことも心配してるようなこと言うけど、口だけよ。同じ盤上にいるから勘違いしがちだけど、実際は私達とは全然違うルールのゲームをやってる」
「まー、心配すんなよ。あたしそんなゲーム参加する気ないから」
「心配はしてない」
薬子は憮然とした調子で言う。
やすらえ みたま みたまよ やすらえ
きみよ きみよ やすらえ ぎょくこつも
かくりみにませば はなとちり おおつち
ねのくらに もどりましませ……
雅樂は、崩壊した丘の上に僅かに残った足場で、一人静かに舞っている。
「なによあの娘……出来てるじゃない……」
乙女にはよくわからなかったが〝薬子が言うのだから、あの骸骨ももう再び動き始めることはないのだろう〟と思った。
「あの娘、って。多分あたしらより歳上だぞ」
「常夜衛士か。まだ残ってたのね」
ふと、乙女は薬子の顔を見下ろした。
「ここも結構色んなヤツが居て面白いだろ? このままどっか行ったりすんなよ?」
「……なんであなたにそんなこと言われなくちゃいけないの?」
『やっぱこいつ、バックレる気だったな』
乙女は心中で口笛を吹く。
「どんな手使っておたすけし隊にもぐりこんだのか知らねーけど、一旦始めたんだから最後までやれよ。その、任期が終わるまではさ」
「考えとく」
薬子が、味も素っ気もない返事をした時、息遣いも荒く、ミラが姿を現した。
「ちょっと! 終わったんならさっさと帰りましょ!」
大きな怪我はないようだが、身体の表面や衣服が泥だらけになっている。
「お前……どしたの? それ?」
「聞かないで!」
ミラはプリプリしながら、乙女に向かって片掌を突き出した。一切の質問をシャットアウトするという意思表示であろう。
「ねえ、早く行きましょ。そろそろハギモリも起きるわ。その寝てるのも連れてっていいから」
ミラは人差し指で薬子を示す。
「おっ、優しいじゃん」
「なかなか使えそうだしね。眷属に加えようと思って」
「お断りよ」
薬子は鋭く言ったが、地べたに寝そべったままなので、サマにならない。
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薬子の眉間に深い皺が刻まれる。明らかに気分を害していた。
「まあまあまあまあ! 雅樂ちゃん踊ってるのでも見て落ち着けよ。あれ終わったら帰ろうぜ」
「あら……?」
ミラは、乙女に言われて初めて雅樂に気づいたようだった。
「あれは何をやってるの?」
「もう骨が動かねーようにするんだってさ」
「へえー」
気の抜けたような声を上げるミラ。
「なんだか凄い光景ね」
半壊した古代の墓の上で、雅樂は鳥のように舞っている。
呪文のような調べもずっと続いているが、薬子のものと違い、そのまま空に溶けていくような淡いものだった。
「まぁ……悪くないわ」
やっと半身だけ起こした薬子は、雅樂を見て僅かに笑みを零した。
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