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7 野をひらく鍵

7-013 滋野玄見

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「そもそもやな、三代目の教主の時に、直観神理に近づいてきよった復古神道の学者、滋野しげのはる、こいつがそもそもの元凶」

「教主?  教祖じゃないんですか?」
「ああ、教祖いうのは初代だけ。そこから先はみんな『教主』て呼ぶんや。ワシらはそういうとるの」

冨田は信者なので、こだわりがあるのだろう。早口で答えると、話の続きを始める。

「ようはわからんが、こいつの考えとった色々と、直観神理のやっとったことが重なったらしいんやなあ。ほんで〝ちょこっと研究させてください〝とかなんとかいうて、教団の中でウロウロしとったらしいんや」

「ちょっと待ってください。その人は、信者にはならなかったんですか?」

守が生徒のように手を上げる。

「ならん」

ブスっとした声で、冨田が即答した。

「なんや、大本やら天理やらにも出入りしとっとらしいけどな。どこの信者にもなってへん。〝対象とは距離をおきたい〝っちゅうことかもしれんな。できたらウチとは無限大に距離とって欲しかった……。まあ、今風の言い方をすると、ウチの『アドバイザー』みたいな役どころに納まっとったみたいやな」

「その人に当時の教団が引っかき回されてしまった、と……。なんかどこかで聞いたようなお話ですが……」

「そうやろ?!  アンタもそう思うやろ?」

須軽が吐いた言葉に、冨田は異様な勢いで飛び付いた。

「やから、塩見のアホにワシも言うたんや。あんなわけのわからんやつをウチに連れてくるな、いうてな。前例もあるから」

〝塩見〟は講務長である。

「佐一は信者になってるでしょ?」

未夜が指摘したが、
「カタチだけやで、あんなもんは」
吐き捨てるように、冨田は返す。

「その、滋野さんがひつきを連れてきたんですか?」

「おおそうや、そうそう……。滋野いう男はな、日本全国津々浦々を探し回って、神代(かみよ)の遺物やら遺跡やらを調査いうか、集めとったみたいでな。そん時にひつきも見つけたらしい」

「そのかたは、なんでそんなことをしてたんですか?」

須軽が興味津津といった態で訊く。

「大和心を突き固める、という目的やと本人はいうとったみたいやな。まあ、江戸時代くらいからそういうことをしとる人間はポツポツおった。要するに記紀やらに書かれとる神話が、本当のことや、と証明できれば日本人はもっと力を出せるはず、と考えたらしい。……まあ、大層なことをいうとるけれども、滋野の物はひつき以外、おおかたガラクタやろ」

信仰の力ということだろうか?  いや、それとはちょっと違う気もする。守にはあまり、ピンとこなかったが、冨田は話しを続けた。

「そんでまあ、ひつきをどっかから持ってきたんやが、滋野はこれを満州に持っていこうとしたんやな」

満州?  と守が声を上げる。冨田がああ、説明がいるなあ、と言って、頷いた。
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