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7 野をひらく鍵
7-014 紐帯
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「ウン、満州国があったころのことや。直観神理からも開拓団を出すことになってな。そん人らに持っていかそうとしたんやなあ」
冨田は唇を舐めて湿らせ、一息つく。
「最初は、お国も農業経験者を開拓団として送り出しとったんやが、だんだん応募者が減ってきてな。それで応募者を都市生活者にまで広げたんや。転業移民というやつやな。で、農民を送る場合『分村』ちゅう方式が多くとられる。これはまあ、内地の村を半分こにして、片方を満州に送るわけ。そうすると元々の地縁血縁を、そのまんま満州に移し替えることができる。これは開拓するうえで大きなメリットや。開拓いうのは要は農業で、農業いうのは共同作業。農村の人間関係をそのまんま向こうに持っていけたら、大いに効率的、っちゅうわけや。しかし転業移民にその手は使えん。それで、おんなじ宗教の人間なら結びつきも強かろうということで、お国から色んな宗教団体にお呼びがかかった。我が直観神理にもそのお達しがきたんやがっ」
冨田は、強く語尾を切る。
「ところが直観神理というのは、どっちかというと個人の内面的な体験の過程を重視しとる教えやから、そこまで信者同士ひっつきもっつきしとるわけやない。きっつい教義とかもないし。組織的な運営はしとるけれども……。まあ、割合みんな好き勝手にしとる」
「直観神理って、元々発祥は農村なんでしょう?」
「確かに教祖さんは百姓の娘やった」
須軽の質問に、冨田は目を細めて答えた。
「しかし、教祖さんが存命の時から時代が進むにつれて、直観神理は都市の宗教に変質していくんや。本部も東京に移るしな。まあその過程の、教理の構築なんかで滋野みたいな学者さんを、正直言い方は悪いが利用した面はある。やからウチにも全く責任がないとはいえんな」
「冨田さんって、元宗教ジャーナリストなんです」
未夜が話の間に滑り込むように、割って入ってきた。〝ああ、道理で〝みたいなことを言いながら、須軽が頷いている。
「それでまあ、当時の直観神理の上層部がどうしょうか、と考えとったところに、滋野が出した案が、ひつきを持ってって開拓団の精神的紐帯の柱にしよう、というもんや。中心に神様がおれば、みんなうまいことまとまるやろ、という、まあ言ってしまえば安直な案なんやが、直観神理の人間もみんなそれに賛成した。教主さんを連れてくわけにもいかんということになってな」
「この時、ひつきを直観神理に持ってくるのに協力したのが、守さんのひいおじいちゃんなんですよね?」
「おお! そうそう。具体的にはようわからんけれども、ひつきを運んでくるのに君んとこのひいおじいさんと若い衆が出張ったらしいな。何でも結構な人数やったらしいが……。何でそんなにぎょうさん人が必要やったんか。ワシはどっかに埋まっとって、掘り出してきたんやろか、と想像しとるんやが」
「僕の曾祖父って、ここの信者だったんですか?」
守が訊ねると、冨田は簡潔に〝知らん〝と答える。
「違うと思うけど……。ひつき関連のことを手伝うたのは、おそらく滋野のほうの絡みやないかな? 誰かどっかのお役所の偉いさんに頼まれて滋野に協力した、いうような話もあるけどはっきりせん」
君んとこの家にはなんか記録とか残ってへんの? と、冨田は未夜と同じような訊ね方をした。守は、もちろん首を横に振る。
「それで、ひつきはどうなったんです? 満州に持って行ったんですか?」
須軽が話の軌道を修正した。
冨田は唇を舐めて湿らせ、一息つく。
「最初は、お国も農業経験者を開拓団として送り出しとったんやが、だんだん応募者が減ってきてな。それで応募者を都市生活者にまで広げたんや。転業移民というやつやな。で、農民を送る場合『分村』ちゅう方式が多くとられる。これはまあ、内地の村を半分こにして、片方を満州に送るわけ。そうすると元々の地縁血縁を、そのまんま満州に移し替えることができる。これは開拓するうえで大きなメリットや。開拓いうのは要は農業で、農業いうのは共同作業。農村の人間関係をそのまんま向こうに持っていけたら、大いに効率的、っちゅうわけや。しかし転業移民にその手は使えん。それで、おんなじ宗教の人間なら結びつきも強かろうということで、お国から色んな宗教団体にお呼びがかかった。我が直観神理にもそのお達しがきたんやがっ」
冨田は、強く語尾を切る。
「ところが直観神理というのは、どっちかというと個人の内面的な体験の過程を重視しとる教えやから、そこまで信者同士ひっつきもっつきしとるわけやない。きっつい教義とかもないし。組織的な運営はしとるけれども……。まあ、割合みんな好き勝手にしとる」
「直観神理って、元々発祥は農村なんでしょう?」
「確かに教祖さんは百姓の娘やった」
須軽の質問に、冨田は目を細めて答えた。
「しかし、教祖さんが存命の時から時代が進むにつれて、直観神理は都市の宗教に変質していくんや。本部も東京に移るしな。まあその過程の、教理の構築なんかで滋野みたいな学者さんを、正直言い方は悪いが利用した面はある。やからウチにも全く責任がないとはいえんな」
「冨田さんって、元宗教ジャーナリストなんです」
未夜が話の間に滑り込むように、割って入ってきた。〝ああ、道理で〝みたいなことを言いながら、須軽が頷いている。
「それでまあ、当時の直観神理の上層部がどうしょうか、と考えとったところに、滋野が出した案が、ひつきを持ってって開拓団の精神的紐帯の柱にしよう、というもんや。中心に神様がおれば、みんなうまいことまとまるやろ、という、まあ言ってしまえば安直な案なんやが、直観神理の人間もみんなそれに賛成した。教主さんを連れてくわけにもいかんということになってな」
「この時、ひつきを直観神理に持ってくるのに協力したのが、守さんのひいおじいちゃんなんですよね?」
「おお! そうそう。具体的にはようわからんけれども、ひつきを運んでくるのに君んとこのひいおじいさんと若い衆が出張ったらしいな。何でも結構な人数やったらしいが……。何でそんなにぎょうさん人が必要やったんか。ワシはどっかに埋まっとって、掘り出してきたんやろか、と想像しとるんやが」
「僕の曾祖父って、ここの信者だったんですか?」
守が訊ねると、冨田は簡潔に〝知らん〝と答える。
「違うと思うけど……。ひつき関連のことを手伝うたのは、おそらく滋野のほうの絡みやないかな? 誰かどっかのお役所の偉いさんに頼まれて滋野に協力した、いうような話もあるけどはっきりせん」
君んとこの家にはなんか記録とか残ってへんの? と、冨田は未夜と同じような訊ね方をした。守は、もちろん首を横に振る。
「それで、ひつきはどうなったんです? 満州に持って行ったんですか?」
須軽が話の軌道を修正した。
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