すれ違い、勘違い

こてつ蘭丸

文字の大きさ
1 / 3

すれ違い、勘違い 1

しおりを挟む
「副長」

「あぁ、山崎くんか、入ってくれ」

天気の良い昼下がり、新選組屯所の副長室を、監察方の山崎が訪ねた。

「お呼びでしょうか」

山崎が障子を開けると、そこには、土方と向かい合って、一人の女が座っていた。
恐縮しているようだが、山崎を見て、小さく息を飲んだ。
対して、山崎も思わず声を上げそうになった。が、平静を装う。

「用とは他でもねェ、今日からコイツを女中として雇うことにした。
屯所の中を一通りと、仕事について案内して貰いてェんだ」

「御意」

山崎は軽く頭を下げ、目を伏せた。
女は山崎の後に付いて部屋を出る。

「あのっ、…私、小夜(さや)と申します。山崎さん、と、仰るのですね…」

「あぁ」

「私、すぐそこの団子屋で働いていたのですけれど、土方さんが、こちらで働かないか、と…」

山崎の後ろから、華やかな小夜の声が追いかけてくる。
山崎は少しムッとした。

(…副長の、…か。結局、そういう事、なんだろ。オレがどんなに想ったって…)

実際、山崎は稀に、小夜の働く団子屋で休むことがあった。
彼女の働きぶり、器量の良さに感心し、いつしか淡い恋心を抱くようになっていた。
だが、新選組の監察方という立場上、表立ったことは出来ない。
まさに、忍ぶ恋だった。

一方、小夜は…

(あの人、だ…新選組の人だったんだわ…山崎さん……)

山崎の名を心の中で何度もかみしめながら、山崎の広い背中をみつめた。

小夜もまた、ごくたまに来る寡黙な侍に心を奪われていたのだ。
稀にしか見ない為、何処の誰とも分からず、また、ただ黙って団子を食する姿に声を掛ける勇気は無かった。
声を掛けず、そっとしておいた方が、その侍の為になる。そう思っていたのだ。

その男が、今、目の前に居る。
小夜の心は、感動で甘く震えていた。

屯所の中を案内され、また、仕事内容を詳しく教えられ、小夜は、

この人の為に頑張ろう、精一杯やって、喜んで貰おう。

そう、心に誓った。
その心意気が伝わったのか……

「…小夜、…」

「ッ!はい!」

名前を呼ばれ、心臓が跳ねる。

「あまり力むな。肩に力が入り過ぎると、かえって良くない」

「はい!」

自分を気遣って貰った、その気持ちがとても嬉しくて、小夜はにっこりと笑った。

その笑顔を見て、山崎は一瞬ドキリ、と、目を見張ったが、すぐ、自然と笑顔になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人

通木遼平
恋愛
 アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。  が、二人の心の内はそうでもなく……。 ※他サイトでも掲載しています

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

[きみを愛することはない」祭りが開催されました~祭りのあと2

吉田ルネ
恋愛
出奔したサーシャのその後 元気かな~。だいじょうぶかな~。

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

処理中です...