すれ違い、勘違い

こてつ蘭丸

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すれ違い、勘違い 3

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すれ違い、勘違い 3

「山崎さん、…あの、……」

山崎が一人、広間で包帯等の整理をしていると、小夜が恐る恐る声を掛けてきた。

「?
…副長はここにはいらっしゃらないが…?」

「いえ、…あの……山崎さん、に……」

「オレ?」


二人で花咲く庭へ移動すると、もごもごと、小夜が口を開いた。

「あの、私、…土方さんに、…その……」

「あぁ、…恋仲に、なったんだな?」

山崎は息苦しく嘆息しながらそう吐き出した。

「いえ、そうではないのですが…土方さんに、それらしい事は告げられました」

(…だったら何だと言うのだ。わざわざそれを言う為に、オレを呼んだのか?気分が悪い)

胸に暗闇が広がり、ムカムカする。

「でも、私、本当に心からお慕いしている方が、他に、居て……」

「何だ?だったら、そいつに直接言えば…」

「…えぇ、なので、…あの…」

はっきりしない小夜の言い方にも、山崎はイライラしはじめた。

(…何だと言うのだ、一体…)

だが、彼女の次の言葉を静かに待つ。

小夜は伏せていた顔を上げ、まっすぐに山崎を見つめた。
その瞳は迷いの無い、心の決まった視線だった。

「私、山崎さんを…お慕いしているのです。ずっと…こちらへ参る以前から……」

「っ?!だ、だが、…アンタは副長が……」

「ごっ、誤解です!私、本当に、団子屋で給仕していた頃から…!」

「…オレのこと……気付いて、いたのか?」

「えっ?!もしかして、私のこと、覚えてらっしゃるのですか?!」

「……」

山崎は気持ちを吐露して良いのか分からず、口を噤(つぐ)んだ。

「私、山崎さんに再会出来て、本当に嬉しかったんです。こちらへ来て心細かったのですけれど、山崎さんがいらっしゃって、私、安心してお仕事出来たんです」

小夜は、熱のこもった目を山崎に向けた。

(……本気、だ。小夜は、オレのことを…)

これ以上黙っていることも出来ず観念した山崎は、ギュッと拳を握り締めると、苦しい息を吐き出すと共に、小夜への気持ちを呟いた。

「……オレも………アンタが…、誰にも渡したくない。副長にも……」

「…山崎さん…」

「てっきり、もう、副長と……監察方という立場上、平静を装っていたが、正直、嫉妬でどうにかなりそうだった」

小夜の差し出した白い手が山崎の指に触れる。
たまらず、山崎は柔らかくその手を包んだ。

〈終〉
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