梨とリンゴ

田中葵

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もともと

幸せ。…誰の?

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〈あらすじ〉
≪1幕目主役は武尊≫
"便利袋界のカリスマ"営業マン・月岡武尊。彼は体力は常人の1.5倍!のはずが仕事始めに出先で倒れ、即入院。初詣のとき「無病息災、家内安全」願うも、早速破る結果に…。それでも転んでもタダじゃ起きない。院内でダチが出来た☆


〈登場人物〉
≪1幕目≫
男性月岡武尊(ツキオカタケル (44))1978年生まれ。今月のアホ。そもそも出世欲が無い。潤滑油的存在
鄭葉(テイヨウ (43))1979年生まれ。武尊の妻。翔と諒介の母。ノリと流れでヤンキーになった過去を持つ両幕アンカー。今回も呆れる
少女鄭翔(テイショウ (12))2010年生まれ。武尊・葉の長女。猛進型の小6
少年月岡諒介(ツキオカリョウスケ (10))2014年生まれ。武尊・葉の長男。日和見小4
おじいさん月岡幸二(ツキオカコウジ (68))1954年生まれ。武尊の父。穏和で冷静

女性国後藍(クナシリアイ (34))155cm、44kg。コラムニスト兼作詞家。病持ち
女性星野カナヨ(ホシノカナヨ (35))180cm、60kg前後。
男性山田貴夫(ヤマダタカオ (23))カナヨと藍のアパートの別室住人の一人



〈本文〉
≪一幕目≫
2023年、元旦の昼間
ここはひなびた小さい神社
見た感じヤンキー風情の家族が来ていた
高学年の小学生が2人、それぞれ茶色い硬貨を数枚投げ入れ

女の子 “今度こそ大画面のモニター買ってもらえますように!!!”
男の子 “去年遊べなくなった◯◯と仲直りしたい…”
母っぽい中年女 “コイツ(夫)がヘマせんように…”
その夫 “今年も病まず無事に過ごせるように……そして、家族は健やかに”

よくある初詣の風景である

――――

同年1月4日8:55頃、千代田区神田にある小さな某ビルテナント6階にある某商社のフリーアドレスエリア内のテーブルの片隅に広げた個人所有のノートパソコンが突然ダウンした。原因は湘南乃風・若旦那(旧)風の姿形の男性が突然前頭部をCPUの真上に落としたからだった。他、異常はなかった
その音がして、近くにいた別の人間が即座に駆けつけ、男性の意識があやふやなので救急車を手配。男性は車内で何度も「頭・・・イテテテ!」と訴えたと救急隊員から聞いた、やれやれ
(後日壊したPCは当人が弁償した)

同日10:00頃、患者氏名:月岡武尊は虎の門病院に搬送される。氏名と生年月日と住所は彼所有の運転免許証で確認された。入院してからしばらく安静にせざるを得ず、元々アクティブな彼には相当ショックだった

翌日の昼頃か、武尊の父・月岡幸二は自らの仕事場を急遽早退し息子に面会。このときのことを振り返った息子いわく、随分と髪型も服装も乱れ、取り乱したことが見て取れたという
確かめたいことを一言二言交わした彼は息子に「母さんは別の日に見舞に来る」と伝え、病院を後にした

脳神経外科4床室の勝手に慣れてきた頃、同じフロアの個室に入院していた国後藍と仲良くなった。きっかけは、ある日の午前中に武尊が簡単な検査の帰りにフラッと個室の並びを通ったとき……
普段はウンでもスンでもない、ともすると無機質すぎる各病室の閉まった引きドアの中に、1つだけ開かれていたのがあった。武尊は覗いちゃいけない、解ってる、のに、なぜか室内を覗いてしまった
中には小柄な若い女性が背筋を伸ばしてヘッドフォンを着けたままゆっくり細く白い体とクリームイエローで艶のあるセミロングヘアーを揺らしていた。おそらく一旦ブリーチしてる…。目が合ったときサラッと
「やぁ」
「ぁあ…」
悪くなかった感触が互いの間を流れ、それはそのまま続いた

しばらく彼女の病室で話し込んだ
「あの、、、病室の番号とお名前は?そちらの病室へ届けたいものがあるので」
武尊は一瞬迷ったが、変なことはそうそう起こらないだろうと考え
「◯08号室、ツキオカタケルです。あなたのお名前は?」
彼女は迷うことなく
「クナシリアイ、です。よろしくお願いします」
どちらからとなく、サイドテーブルの上に置かれたメモキューブから紙を一枚千切り、それぞれ自分の漢字名を書いて交換。藍がすこし微笑んだ
聞くと彼女は持病の定期検査入院で来てると言う
「何度も何度も……もうウンザリだけどね」
そう言いながらも、武尊に病院関係者の対応の当たり外れや看護師による抜き打ち聴取や検査などの来やすいタイミング、それから違反スレスレのバイタル調整(コラむかっ(怒り)むかっ(怒り))など些細なネタを色々尋ねられて、内心ワクワクソワソワした
“自分の知識が求められてる!”
他愛ないことなのに気持ち弾ませながら喜ぶ
“こんなこと超久々!”
武尊も藍のそんな感触を知ってか知らずか、ポンポン小気味よいテンポで答えてくれるところに嬉しくなった
彼も、ただ自身が得をするから聞き出しただけでなく、後日妻と雅美さんの主治医探しに役立つと分かっていた
それから間を置かず、武尊がTwitterの裏垢(アカウント)を久々に更新した際に
“東京の大病院のひとつTの裏話たっぷり聞けちゃった…うお~!、ここで晒せない話だらけ顔(嬉し涙)(困)”
と小出しにするほどワクワクが押さえきれなかった

――――

この数日後に、武尊の妻・葉が事務的に面会
武尊も淡々とそつなく会って消化
葉の帰り際に一言
「子供たちは?」
彼女からはそっけなく
「来ない、って」
彼も
「そっか、翔も諒介も忙しそうだからな……」
とだけ呟き、送り出した

――――

さらに数日後、藍からもらっていたクッキーのお礼を渡しに例の個室に行ったときに感じ慣れない人気(ひとけ)がしたので、中に入ると長身の女性がいた。彼女のほうから
「あの・・・どうかなさりましたか?」
「いえ、国後さんどうしてるかな、って」
彼女はふんわりと笑って、迎え入れてくれた。優しいなぁ…と武尊は感慨に浸った
お互いに簡単な自己紹介をした後、しばらく空間をともにした
フルネームは星野カナヨ。彼女はフリーのノンフィクション系が得意な雑誌社出のライターで、藍と同じアパートに暮らしているという
「最近は取材で外出が多い中、合間を見てここに来てるんだ」と、つけ加えた
あと、彼女が目をキラキラ輝かせながら
「かつてオダジマタカシとナツハラタケシに憧れたぴかぴか(新しい)だからかな、「タ」で始まる名前にアンテナ立っちゃうんだ」って聞いても、武尊には全く馴染みがなく、彼はその2人の名前の漢字と顔と印象が浮かばず困ったあせあせ
“おそらくカナヨさんに俺の伯父が今も現役で書いてる武闘硬派ライターの金城昭って知ったら驚くから迂闊に話せないな、とも考えたり…本当は言いたくてたまらない!”
この日はもう一人来客があり、カナヨに同行していた山田貴夫。彼とも話した
「やあ」
「こんにちはぴかぴか(新しい)ぴかぴか(新しい)ぴかぴか(新しい)」
武尊は
“何だこのぴかぴか(新しい)は?”と思ったが、とりあえず流した
再訪日は週5で保育士をしている貴夫の休みにある程度は自由の利くカナヨが日程を合わせたという。
貴夫から2人にフランクに
「よければ緑茶飲みます?」
「ありがとー♪」
「じゃ、お言葉に甘えて」
話されたのは主にベンチャー企業の動向と単元株の話。どこの銘柄がこれから買いで、今売るならソフト産業の銘柄だな、とかああいうの。国後ちゃんもこっそり小耳に挟んでてほっこりスマイル元気で何より
さらに会話は続く。この中で人となりが出る出るウッシッシ手(チョキ)
トップバッターはカナヨで
「最近読んでよかった記事ってなかなか巡り会えないんだよねー表情(やれやれ)」
で、貴夫が
「わかるよ。職場で面倒見る子供の相手から解放されてウェブニュース見ても“だから?”ってやつばっか」
ここで武尊
「何?ジャンル絞り込んでもつまんないの?」
あらかた出そろったところで国後ちゃん
「それもメンドクてしなーぃがまん顔。それでさ、まだまだウラ話あるけどどうするexclamation & question」
と、彼女がそれを話し始め、その間に案外シャイなカナヨもちゃっかり国後ちゃんから院内の裏情報までガッチリ聞き出した
このとき集まった全員LINE交換
「じゃあこれから国後ちゃんで表情(嬉しい)」
藍の手元にある、月岡の名刺。
彼からは
「これ持ってればスマホ使えなくても俺に連絡できるでしょウインク」
不意に眠くなって目の前の視界がぼやけながら
"ごく最近知り合った程度の私なんか恋愛のストレート・・・いや、ヒーシンクスナッシングオブミー、つまり全く眼中に無いだろう、けど……"
彼女はそれを左手に軽く持ちながらため息を吐いた

その後、余りの激暇更新中だった武尊の意識下に人知れず相当なフラストレーションが溜まった
これを病室内の人間や備品に八つ当たりする代わりに……ある日の昼下がり、4床室のベッドが3台空っぽになったタイミングで、彼を中心にあの連中がここぞとばかりにバカ騒ぎした
ことの起こりは、国後ちゃんが一時帰宅から病院へ戻った際に持ち込んだBlu-ray DiskプレイヤーとPS5のエンタメセットうれしい顔うれしい顔表情(嬉しい)ウインク
後日師長からの聞き取りによれば、4人ともそれぞれの事情で去年の11月頃から特にストレスを溜めまくった反動で弾けたことを認めているがく~(落胆した顔)

因みに国後ちゃんは予定より早く退院ウインク♪
主治医と担当ナースたちから喜ばれた女性‍アートカプセル星

武尊は妻の葉からこっぴどく
「何でいい年して病院で騒ぐぷっくっくな顔exclamation & question」
「だって飽きちゃうんだも~ん」
「むかっ(怒り)」
当然妻からはボロクソ罵られるも、無事退院祝
帰宅直後に子供たちから
翔(実娘)「いつものことでしょボケーっとした顔メンドイ」
諒介(実息)「…(ノーコメント)」
ちなみに別れに至らないのは、武尊がオナニー派で、知り合った相手を口説かないから。クリーンでガキのごとく騒ぐだけ
現に葉は過去に武尊本人から
「前に営業から宣伝にまたがった仕事絡みで(元人気プログレ?ヒップホップ?系バンドの)ゲ◯乙女フロントマン「K谷の活動名+人間性」の単語でググったら、彼と当時人気のあった女性タレントのベ○キーとのやり取りのLINEスクショ晒されてて、吐き気がしたの。ああいうの「ホント嫌」だから。俺からは決して起こさない。保証できるくらいちっ(怒った顔)」
たしかに潔さは満点だけど、だからこそ妻は難儀ボケーっとした顔ドウスリャイイノヨ…
ここだけの話、武尊と葉の夫婦生活は2番目の子供・諒介が生まれてからはほとんど無く、普段はさほど気にならないが、たまに葉のほうから誘ってもあるときはやんわりと断られたり、また別のときはハッキリと「ごめんね考えてる顔あせあせ(飛び散る汗)あせあせ(飛び散る汗)」と謝られることも少なくなかった。葉にとってこの点は見過ごせないほどの不満の種になっていた
彼女は気がつくと、GooglePlayストアからマッチングアプリ1つをダウンロード。画面を見て
“ヤバっ!”
速攻削除して、その勢いのまま心療内科を予約したが、呼吸がますます荒れ、心臓が高鳴り脈打つのを強く感じた

――――

MRIで撮影が終わり
虎ノ門の医師からMRIフィルムの中の怪しげな写りを指されながら
「そうねぇ、特にこことそこ気になるぅ」
とつぶやかれ、軽くゲンナリした武尊はさらに精密検査を受けることになり、NCNP病院(国立精神・神経医療センター)に予約票と診療情報提供書をここの地域連携室へ送らないとならなかった
「紙かよぅ」
葉からぶっきらぼうに
「しゃあないでしょ、アンタが悪いから」
検査の当日朝から、武蔵野市にあるその病院に行きバックレずに無事受けて家路に

退院して数日経った頃、国後ちゃんからLINEメールが届く
「思い切って書きます。月岡さんのこと、一人の人間としてとても好きです。もっと、健全な意味で、ですが、交流を深めたいと思いました。そちらが可能でしたら、返信ください。国後」
武尊はチラッと戸惑ったが、来月開く予定の花見に誘うことにした


≪二幕目主役は大原里世も≫
数日後、武尊の妻が再訪、さらに今回は母と従妹が連れ立って見舞に来る
しばらく雑談と武尊の要望を聞き取り、母と従妹それぞれ近況を話す

≪二幕目からの人たち≫
女性大原里世(オオハラリセ (36)) 旧:金城真帆
1986年生まれ。元SE。叔母の大原雅美弁護士が養子にしたついでに名前も変えた。今は雅美の事務所の庶務
おばあさん月岡和子(ツキオカカズコ (72))(旧姓:鍋島)
1951年生まれ。武尊の母で里世の父方叔母。穏和かつ目端が利く
phone to[電話口]梁美鈴(ヤンミーリン (62))1960年生まれ。鄭葉の母。和子さんに武尊と面会可能か打診
phone toメール[LINEメール]鍋島早紀(ナベシマサキ (75))
1937年生まれ。武尊の親戚の一人。原則親戚つきあいしない中で、月岡一家と故・柿本由美、ナオミ、大原雅美、里世とは情けを感じるところがあり、関わっている
女性ナオミ・カキモト・ローレン(42)
里世の姉。ポーランドに暮らす薬剤師兼電子作曲家。離婚協議大詰め
人影[話に上る]大原雅美(オオハラマサミ)(56)
里世の養母で母方叔母。文京区在住の中小企業弁護士。バツイチ


≪2幕目≫
〈本文〉
まだまだ冷え込むとある日の昼下がり
枯れ木のカサカサ音がやけに大きくなっている
虎ノ門病院の車寄せにGoタクシーが止まった
後ろのドアから武尊の従妹の里世(元・真帆)、彼の事実婚妻の葉と
彼の母でこの件に最も呆れた和子さんが降り、その足で彼の病室へ
着くと本人がいない、と思いきや空ベッド陰から突然飛び出し現れた
「驚いた!?」
葉は絶句し、左肩の服がズリ落ちた
葉の素直な反応にニヤりかけた武尊
里世、多少ヒキながら
「ずいぶんと元気ですね…」
和子はすぐに
「この子はいつもこう考えてる顔むかっ(怒り)」
サプライズかましたつもりがスベる始末
皆の冷ややかな視線が突き刺さる中
トホホな状態の武尊と皆がペチャクチャし始めた
葉は
「何でこうなるかな?」
里世から
「心配してかなり損した、私のヤキモキ分お釣りつけて返せ勝ち誇り」
和子さんは
「とりあえずあんたの好きなリンゴ持ってきたから食べよりんご」
病室内で小柄な和子さんがベッドには腰かけずに武尊へリンゴをむく。彼はサンふじが好きなので、それを買ってきて持ち込んだ。甘酸っぱさ漂う匂いがベッド周りのカーテンで仕切られた手狭な空間に少し
里世からは塩なしのポテチ2袋とウィルキンソンの強炭酸1リットルの差し入れ
葉からは替えの下着と目薬を渡された
里世と葉の二人から
「早く退院しろ」
ヒョコっと小さく会釈のようなものをした武尊

始めに和子さんから近況が続々と
あまりに長いから端折る。たとえば途中から
「それでね、お隣の蓮見さん、帰省のお土産に豆大福くれて、あまりに美味しくて全部私が食べちゃったのよ。たしか家に包装紙取ってあるから、どこのお菓子か分かるはず♪ 欲しい?」
みたいな話が30分くらい
それが途切れて、武尊からの要望を何とかして聞くと
●和子さんと葉には、かなり負担かけてることを考えて退院するまで来なくていいからあせあせ(飛び散る汗)
(本音は“これ以上とやかく言われたくない”)
●会えてない昭伯父とナオミの2人と話したい
の2点だった。後のは、多忙な彼らに遠慮して切り出せないでいたという
その2人の家族である里世からは
「あの雑把でフランクになった姉や、元から異星人の実父にいつでもLINE通話しろよ」しかない。全く手間のかかる奴だコイツはボケーっとした顔、と
彼女から見て明らかに目上に違いないが、不思議なほど同年代以下の仲間と並べてしまう
“私には1年下のカズキたちと何も変わらない”
ウダウダ考えてる横で、葉と和子さんは世間話で華やいでいた。そう、これが見たかった・・・
何だかんだ話したがりが集うと、自然に連帯感みたいなものが出来ていることがある
今回もまとまりかけていたのだが……

(なんか疲れた・・・)
武尊が浮かない顔をし始めた
こんなとき、和子さんが
「あ~、ヘタらない!そうしても誰も構わないから考えてる顔」
葉にとってそれは見飽きて退屈そのものだったようだが、最近知り合った里世にとっては彼の意外な一面を垣間見れたようで軽く吹き出してしまった。それが武尊には微妙なトコロに入ったらしい。彼から里世に
「お目汚し失礼」
と一言残し、トイレへ行ってしまった

――――

避難所(笑)から帰還した武尊に、里世から小さめの声で
「前にLINEしたとき、私の名前変わったのはチェックしてる?」
珍しく和子さんがこれに素早く
「ええ。すぐに判ったわスマイル ID変わってなかったから」
ウキウキ顔になる里世、少し悔しがる武尊
「判ってたよ。改めて言うことでもなさそうでスルーしてたけど。ゴメン」
二人は納得し、次の話題へ流す
武尊が昔から仲良くしていて、むしろ気にかけ続けている里世の姉・ナオミの近況、その周辺の話になった
まずナオミが永住権を得たポーランドで帰化申請と2国間での離婚協議が大詰めに来てる件について話した。第三者に話すのは武尊たちが初めてなことも手伝って、少し緊張していた
武尊たちは飽きずに、むしろもっと知りたそうに聞いていた
武尊からおもむろに
「で、里世ちゃんのことは?あるでしょ」
里世は少しためらい
「う~ん、どこから話せばいいかな?」
武尊は
「そこは里世ちゃんの話したいように」
里世はホッと胸をなでおろし話し始めた
ずっと続けたSEを辞めて雅美おばちゃんの法律事務所へ庶務で勤め始めたこと、元同居人との件が清算途中な話、撮り続けたマンホール写真が1000枚超えて記念コメントのやり取りに追われながらも嬉しさが止まらない!ことなど、なかなか話し終われなかったあせあせ(飛び散る汗)
それでも遮らずに楽しそうに聞いてくれるこの2人を里世はありがたく思った
この中で里世がかつて付けられていた真帆から名前を変えた経緯についても触れ、皆に納得される
(里世の父・昭が、自身の行きつけの店名「茉乃穂」を軽い気持ちでもじって名づけた。ペットの名づけと変わらないかそれ以下か…)
聞かされ固まった武尊も彼女に同情したのか、話に乗って自分の名前の由来について里世に伝える
昔々……それは約45年弱前、月岡家に待望の男の子が生まれたがお七夜になっても名前が決まらず、そのとき開かれていた彼の出生祝いに来ていた父方の親戚の普段から大酒飲み野郎共(あだ名はそれぞれ“フミ”と“マス”)が、酒の席の戯れに乗じ「そいなら、我々の名前の字からそれぞれ一文字ずつ取りゃいいじゃないかとっくり(おちょこ付き)表情(嬉しい)うれしい顔とっくり(おちょこ付き)」と提案し、件の二人の名前はそれぞれ“尊文”と“益武”だったので、そこからこの名前になった。ただ、つける直前にまだ決めかねていたところに里世の父・昭が背中を押して出生屆に書いた、と父親から聞かされた。当時の彼は「ボケーっとした顔ダカラ?」。そして「小学4年生の頃まで自分の名前を古臭く感じて好きじゃなかったけど、国語の授業でこの名前の漢字を一字ずつ調べて以来、勉強が楽しくなった表情(嬉しい)」とも。それからずっと学ぶことが意外と性に合っていることも足した
和子さんは意外に初耳だったこともあり素直に驚き感心した
武尊は
「母の実家、鍋島の家系が理系に向かいやすく、父はザ・文系。おそらく俺の性格は父方の影響が強いほう」と分析した
和子さんと里世は深く頷くも
葉は「あーそうですか、はいはい」と流す

間もなくして、葉のスマホの着信音が鳴る。彼女の母からだ。何かと心配りはしてくれる優しい方には違いないが、よくピントが外れたのでご退場願う方向へ持っていきたい
葉が出た
「もしもし、ミーリン?どうしたの?」
ミーリンは漢字で“美鈴”。彼女の母の名前
用件は和子さんに武尊と面会可能かどうかの打診だった。ミーリンは和子さんの今の番号を知らない
葉はすぐ近くにいる和子さんに通話中のスマホを渡す
和子さんは
「ええ、もちろん。日時は武尊に聞いてください」
と、手早く武尊に渡す。こんな家風なのだ
葉もそのことは解りきった上で納得しているので、これまで摩擦が起きたことはない。それだけに夫婦間の「レス」が辛く感じる。クッソ、泣けてくる……

またいつになくペチャクチャ話してるところに
武尊と里世とナオミの伯母・鍋島早紀さんから武尊に直接LINEメールが届く。こちらは全く手がかからないどころか、極限なまでにシンプル。文面は
“おだいじに”
スーパーコントラスト!

――――

病院の正門で3人の帰りを見送って病室へ引き上げる武尊と、そこにもう一人の存在が彼のスマホの中で活動している。ナオミだ
皆が帰り支度を始める直前にかかってきて、ちょっと話せると言われて繋いだから
画面の中で彼女はいたずらっ子みたいに笑った
「早く治れよウッシッシ」
即座に
「ありがとうわーい(嬉しい顔)」
通話はそこで切れた


≪3月「桜」テーマ分に続く≫


――Materials――
元は2015年末、当時年配だった男性の漫画家が倒れて入院した話がベース。倒れた原因や既往症、入院先の病院は違います
神経科入院きっかけあるある
虎ノ門病院の基本情報と関連情報
https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/renkei/patient_introduction.html
Aimer「残響散歌」口ずさみ
ゲスの極み乙女「両成敗」「続けざまの両成敗」
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