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スリーピース 第2章
仮 三つ巴の「ズレ」以降
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三つ巴の「ズレ」
光党は――未来を描き換える責任を掲げた。
銀党は――芯を守ることの大切さを訴えた。
民自党は――過去から積み上げてきた現実を武器にした。
三つの理念は、すべて国のためでありながら、決して重ならない。
むしろ互いの隙間を広げ、深い溝を作っていく。
テレビの画面の向こうで国民が見ているのは、ただの言葉の応酬ではなかった。
“この国をどこに連れて行こうとしているのか”――その根本の違いが、あからさまに浮き彫りになっていた。
本会議後の夜~夜明け、翌日
山田一郎(光党・外相)
夜。
外務省の執務室。
深夜の窓の外には、霞が関の灯りがまだ点々と残っている。
山田はネクタイを外し、椅子に深く沈み込んだ。
モニターには海外特派員からのメールが並び、外交案件は山積みだ。
しかし頭の中を占めているのは、今日の野島と勝呂とのやり取りだった。
「未来……か」
彼は口に出してみて、机に置いた拳を軽く叩いた。
“現実”と“芯”を切り捨てて未来など語れない。だが、未来を言わねば国は動かない。
その板挟みを、彼は痛いほど自覚していた。
ポケットから取り出したのは、まだ若手官僚だった頃に書いた論文のコピー。
「国を守るとは、未来を準備することだ」と青臭く綴った文章を、彼は静かに撫でる。
「俺は……信じたい」
〘ピッ!〙
“ん?”
パソコンの液晶画面に通知が1件だけ来た。
ハンドルネームは「otawa941」。
「オ、タワ⋯⋯ぁ!」
普段クールなほうの山田の口から驚く声が飛び出した!
***
夜明け、翌日。
まだ陽が昇りきらぬ時間、外務省の会議室に数名の若手職員が集められていた。
山田は腕まくりのまま、ホワイトボードに大きく書き出す。
「現実 × 芯 × 未来」
職員たちは怪訝な顔をした。外交案件の話だと思っていたのだ。
山田は微笑んで言った。
「外交にしたって同じことさ。現実を無視すれば机上の空論、芯を欠けば信頼を失い、未来を示さなきゃ誰もついてこない。昨日の国会で見えた構図を、俺たちの交渉にも活かすんだ」
若手たちは顔を見合わせたあと、ゆっくりと頷いた。
“光党の山田”としてではなく、一人のリーダーとしての彼に心が動いた瞬間だった。
野島秀一(銀党・副総裁)
夜。
自宅マンション。
リビングのテーブルには資料が散乱し、横で妻が眠そうに毛布を抱えている。
野島はワイシャツの袖をまくり上げ、赤ワインのグラスを握りしめた。
頭の中をよぎるのは「芯」という言葉に込めた自分の想い。
だがニュースでは“抽象的すぎる”と切り捨てられている。
「芯がなければ、未来も現実も砂上の楼閣だろうが……」
声は低く、苛立ちと孤独が混じっていた。
机の端に置かれた、富山の実家の木彫りの熊を見つめる。
あの土地で育った自分にとって、
“芯”とは“根”であり“帰る場所”でもあった。
「言葉足らず、か……」
彼はグラスを飲み干し、冷たい夜気を求めてベランダへ出た。
遠くに国会議事堂のシルエットがぼんやり光っている。
***
夜明け、翌日。
銀党本部の小さな控室。
野島はネクタイを締め直し、朝刊を手にしていた。
一面には「芯は見えず」と辛辣な見出し。
彼は苦く笑った。
「なら、見せてやろうじゃないか」
隣に座る樫野千世実が不安げに尋ねる。
「副総裁、あの“芯”って……説明できるんですか?」
野島は少し考え、指先で机を叩いた。
「芯ってのは“国の呼吸”だ。山に根があるように、川に流れがあるように、人にも国にも動かす源がある。俺はそれを言葉にする」
樫野は驚き、そして笑った。
「やっと副総裁らしい言葉ですね」
野島は頷き、記者クラブに向けてのブリーフィング原稿を整え始めた。
彼の芯が、形を得ようとしていた。
勝呂文彦(民自党・幹事長)
夜。
議員宿舎。
小さな和室で、勝呂は背広を脱いだまま座布団に崩れ落ちている。
机の上には、読みかけの地元新聞。
そこには「現実を直視せよ」と大きな見出しで、彼の発言が取り上げられていた。
しかし勝呂の胸は晴れなかった。
自分の怒声は、果たして“現実”を国民に伝えられたのか。
それとも、ただの老害の叫びとして流されただけなのか。
「現実を背負う……そんなのは当たり前だ」
つぶやきながら、彼は故郷・長野の山の写真を手に取った。
雪をかぶった峰々――あれこそが現実だ。
自然は人間の都合を待たない。
だからこそ、現実を無視してはならない。
「……まだ終わっちゃいない」
勝呂は自分に言い聞かせるように、湯呑みの茶を一口すすった。
渋みが、胸のざらつきを少しだけ和らげた。
***
夜明け、翌日。
民自党本部の幹事長室。
勝呂はすでに地元選出の議員たちを呼び集めていた。
彼は机に新聞を叩きつけ、低い声で言う。
「“現実を直視せよ”――それが俺の言葉だ。だがな、記事は昨日の怒号ばかりを書き立てている。俺の本意は伝わっちゃいない」
若手議員が恐る恐る口を挟む。
「幹事長、ならば次は“数字”で示しましょう。医療費、年金、地方債……現実は数値で可視化できるはずです」
勝呂の目が光った。
「よし、それだ。現実は“山”でもあり、“数字”でもある。俺が次に立つ時は、数字を武器にする」
部屋に緊張が走る。
老練の政治家が、次の一手を決めた瞬間だった。
三人三様のシンキングタイム、アウトプット。
それぞれの言葉は届かず、胸に重く沈む。
だがさらに――次の一手を考える静かな熱は、まだ消えてはいなかった。
そして
冬の国会。
光党の山田は「未来」を掲げ、銀党の野島は「芯」を言葉にし、民自の勝呂は「現実」を数字に変えようとする。
三人の言葉はまだ交わらない。
だが、ズレがぶつかり合うところからしか、新しい形は生まれないのかもしれない。
光党は――未来を描き換える責任を掲げた。
銀党は――芯を守ることの大切さを訴えた。
民自党は――過去から積み上げてきた現実を武器にした。
三つの理念は、すべて国のためでありながら、決して重ならない。
むしろ互いの隙間を広げ、深い溝を作っていく。
テレビの画面の向こうで国民が見ているのは、ただの言葉の応酬ではなかった。
“この国をどこに連れて行こうとしているのか”――その根本の違いが、あからさまに浮き彫りになっていた。
本会議後の夜~夜明け、翌日
山田一郎(光党・外相)
夜。
外務省の執務室。
深夜の窓の外には、霞が関の灯りがまだ点々と残っている。
山田はネクタイを外し、椅子に深く沈み込んだ。
モニターには海外特派員からのメールが並び、外交案件は山積みだ。
しかし頭の中を占めているのは、今日の野島と勝呂とのやり取りだった。
「未来……か」
彼は口に出してみて、机に置いた拳を軽く叩いた。
“現実”と“芯”を切り捨てて未来など語れない。だが、未来を言わねば国は動かない。
その板挟みを、彼は痛いほど自覚していた。
ポケットから取り出したのは、まだ若手官僚だった頃に書いた論文のコピー。
「国を守るとは、未来を準備することだ」と青臭く綴った文章を、彼は静かに撫でる。
「俺は……信じたい」
〘ピッ!〙
“ん?”
パソコンの液晶画面に通知が1件だけ来た。
ハンドルネームは「otawa941」。
「オ、タワ⋯⋯ぁ!」
普段クールなほうの山田の口から驚く声が飛び出した!
***
夜明け、翌日。
まだ陽が昇りきらぬ時間、外務省の会議室に数名の若手職員が集められていた。
山田は腕まくりのまま、ホワイトボードに大きく書き出す。
「現実 × 芯 × 未来」
職員たちは怪訝な顔をした。外交案件の話だと思っていたのだ。
山田は微笑んで言った。
「外交にしたって同じことさ。現実を無視すれば机上の空論、芯を欠けば信頼を失い、未来を示さなきゃ誰もついてこない。昨日の国会で見えた構図を、俺たちの交渉にも活かすんだ」
若手たちは顔を見合わせたあと、ゆっくりと頷いた。
“光党の山田”としてではなく、一人のリーダーとしての彼に心が動いた瞬間だった。
野島秀一(銀党・副総裁)
夜。
自宅マンション。
リビングのテーブルには資料が散乱し、横で妻が眠そうに毛布を抱えている。
野島はワイシャツの袖をまくり上げ、赤ワインのグラスを握りしめた。
頭の中をよぎるのは「芯」という言葉に込めた自分の想い。
だがニュースでは“抽象的すぎる”と切り捨てられている。
「芯がなければ、未来も現実も砂上の楼閣だろうが……」
声は低く、苛立ちと孤独が混じっていた。
机の端に置かれた、富山の実家の木彫りの熊を見つめる。
あの土地で育った自分にとって、
“芯”とは“根”であり“帰る場所”でもあった。
「言葉足らず、か……」
彼はグラスを飲み干し、冷たい夜気を求めてベランダへ出た。
遠くに国会議事堂のシルエットがぼんやり光っている。
***
夜明け、翌日。
銀党本部の小さな控室。
野島はネクタイを締め直し、朝刊を手にしていた。
一面には「芯は見えず」と辛辣な見出し。
彼は苦く笑った。
「なら、見せてやろうじゃないか」
隣に座る樫野千世実が不安げに尋ねる。
「副総裁、あの“芯”って……説明できるんですか?」
野島は少し考え、指先で机を叩いた。
「芯ってのは“国の呼吸”だ。山に根があるように、川に流れがあるように、人にも国にも動かす源がある。俺はそれを言葉にする」
樫野は驚き、そして笑った。
「やっと副総裁らしい言葉ですね」
野島は頷き、記者クラブに向けてのブリーフィング原稿を整え始めた。
彼の芯が、形を得ようとしていた。
勝呂文彦(民自党・幹事長)
夜。
議員宿舎。
小さな和室で、勝呂は背広を脱いだまま座布団に崩れ落ちている。
机の上には、読みかけの地元新聞。
そこには「現実を直視せよ」と大きな見出しで、彼の発言が取り上げられていた。
しかし勝呂の胸は晴れなかった。
自分の怒声は、果たして“現実”を国民に伝えられたのか。
それとも、ただの老害の叫びとして流されただけなのか。
「現実を背負う……そんなのは当たり前だ」
つぶやきながら、彼は故郷・長野の山の写真を手に取った。
雪をかぶった峰々――あれこそが現実だ。
自然は人間の都合を待たない。
だからこそ、現実を無視してはならない。
「……まだ終わっちゃいない」
勝呂は自分に言い聞かせるように、湯呑みの茶を一口すすった。
渋みが、胸のざらつきを少しだけ和らげた。
***
夜明け、翌日。
民自党本部の幹事長室。
勝呂はすでに地元選出の議員たちを呼び集めていた。
彼は机に新聞を叩きつけ、低い声で言う。
「“現実を直視せよ”――それが俺の言葉だ。だがな、記事は昨日の怒号ばかりを書き立てている。俺の本意は伝わっちゃいない」
若手議員が恐る恐る口を挟む。
「幹事長、ならば次は“数字”で示しましょう。医療費、年金、地方債……現実は数値で可視化できるはずです」
勝呂の目が光った。
「よし、それだ。現実は“山”でもあり、“数字”でもある。俺が次に立つ時は、数字を武器にする」
部屋に緊張が走る。
老練の政治家が、次の一手を決めた瞬間だった。
三人三様のシンキングタイム、アウトプット。
それぞれの言葉は届かず、胸に重く沈む。
だがさらに――次の一手を考える静かな熱は、まだ消えてはいなかった。
そして
冬の国会。
光党の山田は「未来」を掲げ、銀党の野島は「芯」を言葉にし、民自の勝呂は「現実」を数字に変えようとする。
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だが、ズレがぶつかり合うところからしか、新しい形は生まれないのかもしれない。
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