YONAOSHI シリーズ for CONSUMPTION TAX

田中葵

文字の大きさ
47 / 243
スリーピース 第2章

仮 三つ巴の「ズレ」以降

しおりを挟む
三つ巴の「ズレ」

 光党は――未来を描き換える責任を掲げた。
 銀党は――芯を守ることの大切さを訴えた。
 民自党は――過去から積み上げてきた現実を武器にした。

 三つの理念は、すべて国のためでありながら、決して重ならない。
 むしろ互いの隙間を広げ、深い溝を作っていく。

 テレビの画面の向こうで国民が見ているのは、ただの言葉の応酬ではなかった。
“この国をどこに連れて行こうとしているのか”――その根本の違いが、あからさまに浮き彫りになっていた。




本会議後の夜~夜明け、翌日

山田一郎(光党・外相)

 夜。
 外務省の執務室。
 深夜の窓の外には、霞が関の灯りがまだ点々と残っている。

 山田はネクタイを外し、椅子に深く沈み込んだ。
 モニターには海外特派員からのメールが並び、外交案件は山積みだ。
 しかし頭の中を占めているのは、今日の野島と勝呂とのやり取りだった。

「未来……か」

 彼は口に出してみて、机に置いた拳を軽く叩いた。
“現実”と“芯”を切り捨てて未来など語れない。だが、未来を言わねば国は動かない。
 その板挟みを、彼は痛いほど自覚していた。

 ポケットから取り出したのは、まだ若手官僚だった頃に書いた論文のコピー。
「国を守るとは、未来を準備することだ」と青臭く綴った文章を、彼は静かに撫でる。

「俺は……信じたい」

〘ピッ!〙
“ん?”
 パソコンの液晶画面に通知が1件だけ来た。
 ハンドルネームは「otawa941」。

「オ、タワ⋯⋯ぁ!」
 普段クールなほうの山田の口から驚く声が飛び出した!

      ***

 夜明け、翌日。
 まだ陽が昇りきらぬ時間、外務省の会議室に数名の若手職員が集められていた。
 山田は腕まくりのまま、ホワイトボードに大きく書き出す。

「現実 × 芯 × 未来」

 職員たちは怪訝な顔をした。外交案件の話だと思っていたのだ。

 山田は微笑んで言った。
「外交にしたって同じことさ。現実を無視すれば机上の空論、芯を欠けば信頼を失い、未来を示さなきゃ誰もついてこない。昨日の国会で見えた構図を、俺たちの交渉にも活かすんだ」

 若手たちは顔を見合わせたあと、ゆっくりと頷いた。
“光党の山田”としてではなく、一人のリーダーとしての彼に心が動いた瞬間だった。



野島秀一(銀党・副総裁)

 夜。
 自宅マンション。
 リビングのテーブルには資料が散乱し、横で妻が眠そうに毛布を抱えている。

 野島はワイシャツの袖をまくり上げ、赤ワインのグラスを握りしめた。
 頭の中をよぎるのは「芯」という言葉に込めた自分の想い。
 だがニュースでは“抽象的すぎる”と切り捨てられている。

「芯がなければ、未来も現実も砂上の楼閣だろうが……」

 声は低く、苛立ちと孤独が混じっていた。
机の端に置かれた、富山の実家の木彫りの熊を見つめる。
 あの土地で育った自分にとって、
“芯”とは“根”であり“帰る場所”でもあった。

「言葉足らず、か……」
 彼はグラスを飲み干し、冷たい夜気を求めてベランダへ出た。
 遠くに国会議事堂のシルエットがぼんやり光っている。

      ***

 夜明け、翌日。
 銀党本部の小さな控室。
 野島はネクタイを締め直し、朝刊を手にしていた。
 一面には「芯は見えず」と辛辣な見出し。

 彼は苦く笑った。
「なら、見せてやろうじゃないか」

 隣に座る樫野千世実が不安げに尋ねる。
「副総裁、あの“芯”って……説明できるんですか?」

 野島は少し考え、指先で机を叩いた。
「芯ってのは“国の呼吸”だ。山に根があるように、川に流れがあるように、人にも国にも動かす源がある。俺はそれを言葉にする」

 樫野は驚き、そして笑った。
「やっと副総裁らしい言葉ですね」

 野島は頷き、記者クラブに向けてのブリーフィング原稿を整え始めた。
 彼の芯が、形を得ようとしていた。



勝呂文彦(民自党・幹事長)

 夜。
 議員宿舎。
 小さな和室で、勝呂は背広を脱いだまま座布団に崩れ落ちている。

 机の上には、読みかけの地元新聞。
 そこには「現実を直視せよ」と大きな見出しで、彼の発言が取り上げられていた。

 しかし勝呂の胸は晴れなかった。
 自分の怒声は、果たして“現実”を国民に伝えられたのか。
 それとも、ただの老害の叫びとして流されただけなのか。

「現実を背負う……そんなのは当たり前だ」
 つぶやきながら、彼は故郷・長野の山の写真を手に取った。
 雪をかぶった峰々――あれこそが現実だ。
 自然は人間の都合を待たない。
 だからこそ、現実を無視してはならない。

「……まだ終わっちゃいない」
 勝呂は自分に言い聞かせるように、湯呑みの茶を一口すすった。
 渋みが、胸のざらつきを少しだけ和らげた。

      ***

 夜明け、翌日。
 民自党本部の幹事長室。
 勝呂はすでに地元選出の議員たちを呼び集めていた。
 彼は机に新聞を叩きつけ、低い声で言う。

「“現実を直視せよ”――それが俺の言葉だ。だがな、記事は昨日の怒号ばかりを書き立てている。俺の本意は伝わっちゃいない」

 若手議員が恐る恐る口を挟む。
「幹事長、ならば次は“数字”で示しましょう。医療費、年金、地方債……現実は数値で可視化できるはずです」

 勝呂の目が光った。
「よし、それだ。現実は“山”でもあり、“数字”でもある。俺が次に立つ時は、数字を武器にする」

 部屋に緊張が走る。
 老練の政治家が、次の一手を決めた瞬間だった。



 三人三様のシンキングタイム、アウトプット。
 それぞれの言葉は届かず、胸に重く沈む。
 だがさらに――次の一手を考える静かな熱は、まだ消えてはいなかった。



そして

 冬の国会。
 光党の山田は「未来」を掲げ、銀党の野島は「芯」を言葉にし、民自の勝呂は「現実」を数字に変えようとする。

 三人の言葉はまだ交わらない。
 だが、ズレがぶつかり合うところからしか、新しい形は生まれないのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...