ゴッド・ブレス・ユー オンリー・ユー、オンリー・ユアーズ

田中葵

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ワタシたち

第三章 奔流★脳筋

 二〇二四年、秋。
 午前中はわりと走りやすい「東名」高速道路。
 よほどな渋滞がないかぎり、スムーズに移動できる。
 ふと目の前を走っている軽自動車が片側ウィンカーを点滅させ始める。そのすこし上に四つ葉マークが貼られている。
 車線を移り、道を空けてくれた。
 どこの誰なのか顔も名前も他のことも詳しくは分からないけど「親切」だなぁ。と感慨にふけった。

 さて、母方茜家へ久方ぶりの帰省。
 ICで下りて一般道へ。相変わらずなだらかで退屈な景色。どこまでも二階建までの高さの戸建てと畑。
 夕焼けにムクドリの鳴き声が響く。
 それにしても相変わらず肥料がにおう。
 さすがに猫よけのペットボトルやカラスよけのしかけは失くなっていたけれど、音波発生器がちゃっかり置かれてあった。

 地元で従姉の結婚式にも立ち会うことになったので、フォーマル3点セットは抜かりなく用意している。わたしと娘の二人の分をいつものレンタルサイトで。息子の分は用意しなくなって久しい。
 私から母へ、メッセを送信。
「いつも、仕送りありがとう。かぼちゃフレークのポタージュ美味しくて♪」
 数日前に、両親からこの時期必ず送られる仕送りが届いた。
 「「かぼちゃ」フレーク」。
 年中通販狂いな母から聞くところ、「北海道のECサイトで取り寄せるほど気に入ってるから、みんなにあげてるの♪多香美にも!」ってことらしい。結構、地味に助かってる。
 うちはこれを、市販の小分けされた粉状のじゃがいもポタージュと牛乳に混ぜる。おかげで家族全員に好評だ。ちなみに頭に天使の輪ができてまだポニーテールしててもギリギリ可愛いと言われる年頃の娘から「こないだ友達の家に呼ばれて行ったとき出された市販のクノールかぼちゃスープより甘さはないけど、飲み終わると体が軽くなる」と言われてニンマリ。
 高校帰りでも汗臭さ残る制服脱がずにスマホ狂いな息子はさらにオートミールを混ぜ込んでガツガツたいらげる。食べっぷりがまぁアレだけど……元気なら、いっか。

~実家に着く~
 やっとのことで、小西家に着く。
 母はなかなか出て来ず、代わりに玄関横の靴箱に陣取り続けている埴輪の素焼きがお出迎え。
多香美「無事に到着しました!」
多香美の娘「お世話になります♪」
多香美の母「お久しゅう。多香美お帰り、陽未ちゃんよろしゅうね」
 手早く着替えて茜家に移動する。

~茜家に到着~
 仲いいイトコたちと軽く話して早々と宴席へ。
 あらかじめ「お客さん」として式に出ることを伝えているからだ。

~ 披露宴の様子 ~
 今日のメインイベント。ともサン、もとい、とも子さんと夫クンの披露宴は夕方から始まっている。宴席半分くらい埋まっていて、つまみを出した後に残った小皿がやけに多く賑々しい。
 まず、頼まれなくても日本酒をしきりに勧めてくるオジサンが絡んでくる。
 こういう席に必ず湧いてきて遅くまで粘る義夫、通称義(よし)サン。しゃーねーなーと思いつつ、
「お気持ち“だけ”ありがとうございます(ニコッ」
「酒のついでに何か土産話の一つでも聞かせてよ~♪なあんてナッ😚」
 ようやく、本日の主役たちがお目見え。
 ともサンの文金高島田、色打掛。いつになく美しい……と言いたくてもさすがに「丸いだけの目」「団子鼻」「薄い唇」じゃ映えない。これだから茜家は……かく言う私も顔の造形すべて小ぢんまり。だから、他人の顔立ちについてはとやかく言えない。
 アングル変えて夫クンは、終始ニヤニヤ。それはそう、堂々としてろ!恰幅まあまあ、髪フサフサ、穏やかで健康なら顔がイノッチ(井ノ原快彦)似でも言うことなし。そのまま行けーー!!
 母の親戚たちは酒を飲めなければ早々に来て挨拶して帰り、呑めるか話がしたければ深夜もそのままいることもしばしば……
 活気(歓待ムード)とほんわか雰囲気。
 宴席のどこかでつねにかすかにグラスを鳴らす音がしている。
 娘はソフトドリンクの入ったグラスを片手に、親戚の子どもたちとワイワイやっていた。

 式がハネてから、新婦とふたりきりで、
「ともサン、おめでとう。でも、今夜はさすがにあいつと一緒じゃないのヤバそうな気がするけど……そこの事情はどうなの?」
 ともサン安定の即答!
「宴でグデングデンなってっからどこも使えねぇわ」
「よく結婚できたよね、ともサン」
 ともサンは穏やかに苦笑いしながら、トレードマークのショートボブの毛先を節のしっかりした浅黒い指で軽く揺らしながらつぶやく。
「まぁテイよくあいつがまた売れ残っててね😉。残り福なのかなぁ?ただ……」
 さすがに聞き返す。
「ただ?」
 ともサンはすこしもったいつけるような素振りで、
「数年前、床掃除でベンジン使ってたら結構な量吸っちゃって。マスクずれてたの直さず……ほら、ワタシ、巡視船乗ってるじゃない。ある意味場慣れ、いや、ここ最近バタバタしすぎて麻痺しちゃってるかも。さすがにヤバいよね……そんときも今も見た目には何もないけどさぁ」
「さすがに、ちょっと」
「そう!薄っすら気になってもどかしい」
「夫クンには?」
「まだ、言えてない」
「そう、だよね」
 ここまで話して、二人とも、ドリンクのカップに口をつけ、深呼吸していた。割と近いタイミングで。
 一息つけたところで、わたしから、違う角度からの質問をしてみることにした。
「ところで夫クンて、どんな人?仕事は?」
 ともサン、この踏み込みかけている質問にどう答えるだろう?すこしドキドキしながら……
「捉えどこないよ✨」
 わたしは思わず目をパチクリさせ、すぐに、
「へ!?謎過ぎ。それで、なぜ?」
「それがさぁ」
 ここからしばらく怒涛の“茜とも子アワー”が始まった。
「んーっと、知り合ったときはね、なーんも感じてなかったの。例えるならそこら辺のちっさな野菜。(中略)ひょんなところで再会しちゃった中学時代の男子と飲んじゃって、その店に来てたの彼も!で、話し込んだらもう何年も前にちゃっかり他の女と絡んでてソイツと籍入れてなかったけどヤることだけ済ませて結果ヤモメだし、ヒトコブラクダ!最初聞かされてビックリしたよ💥」
 わたしはただただ圧倒されながらも一応、
「さらに、、それで、なぜ?」
 ともサンは、すこし間をおいてから、
「決め手は・・・一緒に怖い映画のブルーレイを観てたとき」
 固唾をのむわたし……
「子供部屋で寝てるはずのリク(夫クンの連れ子)が私のそばまで来て「ともちゃん、おトイレ💦💦」って。その場で嬉しくなりながら連れてったよ✨あ~あたし認められかけてる!って。母性あんじゃね?って♡」
 私の見かけたともサンの夫クンは、ずっと無愛想で
 ともサンのあーだこーだが続く。ここからはかいつまむ。
「でもさでもさまだあるから聞いて!吾郎ってば昔は「キミはボクの太陽だ♡」が今は「暇つぶしくらいにはなるかな」って何様ァ???それにエッチ済んで寝入りばなに「アイカ……」って。元妻恋しいなら言えや!そりゃあワタシもそんなとき何かつぶやいちゃってるかもしんないしお互い様って思うんで、その女がらみの記録も含めてアイツなんだってことで無理矢理おさめた。フゥ…。そうでもせんと義(よし)おじたちアホどもからいつまでも「行き遅れ~売れ残り~」ってグダグダと……で、お前らそんなに「ハコ」が欲しいんだろ欲しいだけなんだろ!?ならいくらでもくれてやらァオラオラオラッ!!!」
 わたしは不覚にも“どっちもどっちだぁ……あんなのと何で!?”と口に出しかけて飲み込んだ。本当に喉仏が動いた。げっ。
 ともサンの別の、なるべくなら見聞きしたくなかった一面に触れてしまった……。今から眠れないわ、どうしよう。

 一通り話してもらった後、わたしは彼女に、
「そんなことが……、ありがとう。聴かせてもらったことは、わたしの胸にちゃんとしまっとく。身内の、とくに義さんバレしたらあっという間に広がっちゃって大変なことになるから!」

……ガチャッ。

 古い赤茶色の合板製ドアについてるレトロな銀色のノブから音がした。もちろん鍵はしてある。
 そうっ……と近づくと、人間の気配は消えた。
 二人で顔を見合わせて、わたしは首をかしげつつ、
「誰だったんだろうね」
 ともサンは、あまり気にかけずサラっと、
「座敷わらし(笑)」

 と、いうことにしておこう。

 (了)


―― cahier ――
海保の夏服に性差は無い
・このシリーズは、ドラマらしさへ寄せてOK
――  Materials――
水中考古学
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