WARAU―トラウマ、所により集中拡散

田中葵

文字の大きさ
3 / 11
本編

第1章 デリカシーなき日常(分割による再掲)

しおりを挟む
1.田辺翔太の“世界”
 田辺翔太は、デリカシーという概念が彼の辞書には存在しない人間だった。

 ●市の県立高校に通う彼は、リアルでもデジタルでも、自らを「面白い奴」と信じて疑わなかった。彼の面白さとは、他人の弱点、コンプレックス、不器用さ、失敗を、徹底的に、容赦なく、そして声高にあざ笑うことだった。

「おい、あの美術部のアブラギッシュ、また変なTシャツ着てるぜ!マジでセンスマイナスだろ。あんなもん、燃えるゴミ行きだっつーの!」

 休み時間、彼の悪友たちは、翔太の露悪的なジョークに最初は引きつった笑いを浮かべた。しかし、翔太の笑い方は常に集中砲火のようだった。相手がへこむほど、怒るほど、彼の快感は増した。そのうち、悪友たちも「面白い」というより「関わると面倒くさい」という感情に変わりつつあったが、今はまだ彼の周りにいた。

 彼の主戦場は、匿名性を隠れ蓑にしたSNSの裏アカウントだった。そこでは、彼はさらに凶悪だった。学校の教師、同級生、地域の顔見知り。彼らのちょっとしたミスや、個人的な悩みまでをネタにし、嘲笑と侮辱の言葉を浴びせていた。

翔太の裏アカ投稿
「今日の体育教師のズボン、マジで腹の肉がのっててハムみたいだった。体育ってより肉体改造失敗展だろwww」

「あの委員長、マジで偽善者の塊すぎて吐きそう。あいつの顔面、消しゴムで修正してやりたいわ」

 彼は、自分が「正義の笑い」を振りまいていると錯覚していた。誰もが陰で思っていることを、自分が言ってやっていると。


2.うっかりこぼれた言葉と、広がる炎の種
 その週末、翔太は実家で家族と夕食をとっていた。テーブルには、母の作った得意料理が並んでいたが、彼の頭の中は、次の「面白ネタ」でいっぱいだった。

父:「そういえば、お前の学校でいじめの注意喚起があったらしいな。SNSでの悪口は絶対ダメだぞ」

 翔太は鼻で笑った。

翔太:「父さん、そんなの時代遅れだよ。あれは『いじめ』じゃなくて、『ユーモア』。それにさ、バカにされる側にも問題があるんだって。デブとかキモい奴とか、ああいうのはさ、笑われて当然なんだよ。あれを真面目に受け止める奴がアホなんだ」

母:「翔太!何を言ってるの。そんなこと…⋯」

翔太:「だってさ、学校にいるんだよ。マジで生きたまま土に埋めてやりたいくらいムカつく奴が。自分の悪口書かれて、ブチギレて泣いてる奴とかマジで雑魚すぎ。俺ならもっと面白い言い方でやり返すけどね」

 父と母は顔を見合わせた。翔太の言葉には、いつものデリカシーの無さだけでなく、冷酷さが宿っていた。

 その頃、●市の学習室から始まった静かな告発の準備は、次の段階に移っていた。彼らの手によって、翔太の裏アカの過去ログ、被害者リスト、そして筆談で練り上げられた「告発文」は、夜の間に公的なネットワークと地域情報WEB掲示板へとアップロードされ、最初の拡散を始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

処理中です...