4 / 16
本編
第2章 離散と静かなる報復
しおりを挟む
3.悪友たちの沈没船からの脱出
月曜日の朝。田辺翔太はいつものように、昨夜のSNSで仕入れた他人の不幸を肴に、悪友たちを笑わせようと教室に入った。
「なあ、聞いたか?サッカー部のキャプテン、大会前の大事な時期に彼女とケンカして、ボロ泣きで練習サボったらしいぜ。マジでメンタル小学生かよ、ウケる!」
いつものように、笑いの火種を投下した。しかし、彼の周りは、いつになく重い沈黙に包まれていた。
悪友の筆頭格だった山崎は、顔を上げようとしない。他の二人も、スマートフォンを握りしめたまま、うつむいている。
翔太:「おい、どうしたんだよ?昨日の夜からなんかムード悪くね?」
山崎が、低い声でつぶやいた。
山崎:「翔太…⋯お前、見たのか?あの掲示板」
翔太:「掲示板?なに、また新しいいじめの告発でもあんの?どうせ雑魚の被害者面だろ?」
「雑魚じゃない!」山崎が、初めて大きな声を上げた。その顔は蒼白で、恐怖に歪んでいた。「お前の裏アカのログと、お前が家族の前で言ったことが、全部晒されてるんだよ!公立のネットワークだけじゃなくて、地域の情報サイトまでだ!」
翔太の背筋に、氷が滑り落ちたような悪寒が走った。しかし、すぐに彼は強がった。
翔太:「なんだよ、そんなの誰かのデマに決まってんだろ!俺の裏アカなんて誰も知らねえし、家族との会話なんて…」
山崎:「嘘じゃない。お前が「生きたまま土に埋めてやりたい」って言ったって、録音までアップされてるらしいんだよ。それと、俺たちが笑ってたあの美術部のTシャツの件。あの投稿、俺も一緒に「ダセェ」ってコメントした奴だろ」
翔太:「だからなんだよ!あれはジョークだろ!」
山崎は翔太から数歩離れた。
山崎:「ジョークじゃ済まなくなったんだ。俺たちは、ただお前のノリに乗ってただけだ。でも、このままじゃ俺たちも「共犯者」扱いだ。もう、関わりたくない。悪いけど、自業自得だろ、翔太。お前、冗談にもデリカシーがなさすぎなんだよ」
他の悪友たちも、山崎に倣い、口々に「俺たち関係ない」「被害者の気持ち考えろよ」と、手のひらを返すように冷たい言葉を浴びせてきた。
翔太は、嘲笑の弾丸を撃ち続けてきた自分が、初めて絶対的な孤立という冷たい壁にぶつかったことを悟った。彼の世界から、嘲笑の聴衆が、一瞬にして消え去ったのだ。
4.西日本を巡る静かなる波紋
その日の昼休み。翔太がスマートフォンを開くと、目に飛び込んできたのは、見たこともないほどの通知と、アカウント凍結の警告だった。彼がいつも使っていた裏アカは、通報が集中しすぎたためか、すでにアクセス不能となっていた。
そして、彼を本当に恐怖させたのは、SNSを賑わせていたハッシュタグだった。
#WARAUトラウマ #●市のエゴイズム
そこには、彼が過去にバカにした人々からの、感情のない、しかし鋭利な言葉の“刃”が並んでいた。
[北九州市・県立高校生]: 「●市のあの人。私たちが文化祭で作った作品を『小汚いゴミ』って言ったんだよね。見てる人は見てるよ。ざまあみろ」
[京都市・府立高校生]: 「私たち生徒会が企画したボランティア活動を『偽善者の集まり』って嘲笑った彼へ。ネットリンチはしない。ただ、お前の『笑い』は誰の心にも響かないって事実を知れ」
[高知市・高専生]: 「僕の吃音を裏アカで笑ってたアイツ。君の家族が君に冷たい目線を向けてる今、君は僕の何倍も滑稽だ」
拡散はもはや、●市の中学生の告発文のコピー&ペーストに留まらなかった。それは、まるでサイレント・ウィルスのように、地域情報WEB掲示板、生徒間の非公式なグループチャット、大学受験予備校の掲示板を経由し、特定の学校やコミュニティへと狙いを定めて静かに、しかし確実に集中拡散されていた。
まるで、彼の嘲笑がGPS付きのブーメランとなって、彼がバカにした人々のコミュニティを経由して、凄まじい勢いで自分に返ってきているようだった。
釧路市のフリースクールにも、練馬区と足立区と荒川区の私立校にも、そして豊田市・岡崎市・郡山市の小学校の保護者会ネットワークにまで、その話題は飛び火していた。彼がバカにした「不器用な小学生」「私立の金持ちのボンボン」「社会の枠に収まらない人間」たちが、ネットワークの向こう側で静かに結託していたのだ。
5.初めての大打撃
午後、翔太は担任教師に呼び出された。校長室に響くのは、教師たちの沈黙と、告発文の印刷物をめくる音だけだった。
担任:「田辺、この裏アカと、ここに書かれていることは、君がやったことではないと、今からでも否定するのか?」
翔太は、喉がカラカラに乾いて、声が出なかった。否定する言葉を失っていた。彼は、デジタル空間で無敵の戦士だったが、現実の冷たい目線の中では、ただの臆病な少年だった。
校長:「私たちは、社会的制裁や個人的な報復を推奨しない。しかし、君が犯した行為は、無差別的な精神の暴力だ。この事態は、もはや学校の範囲を超えている」
その時、校長室のドアがノックされた。廊下に立っていたのは、彼の父親だった。疲弊しきった顔には、怒りよりも深い絶望の色が滲んでいた。
父:「先生方、大変申し訳ありません。全ては私の教育の不徹底です。…翔太。お前のせいで、会社にまで電話がかかってきた。お前がバカにした『生きたまま土に埋めてやりたい』って言葉。あの言葉が、お前の裏アカのログと共に、私の取引先の掲示板にまで貼られたんだ」
彼は愕然とした。嘲笑の対象は、学校の生徒や教師だけではなかった。彼自身が、嘲笑されるべき『社会の迷惑』として、家族の職場までをも巻き込んでいたのだ。
父は、震える手でスマートフォンを取り出し、ある画面を翔太に見せた。
それは、彼のSNSのプロフィール画像、彼が滑稽だと嘲笑した男子生徒を真似て作った嘲りのコラージュ画像が、今や彼の顔写真に差し替えられ、地域情報サイトのトップに『WARAU―トラウマ生成者』というキャプション付きで掲載されている画面だった。
「…⋯俺は、ただ…⋯面白いことをしたかっただけなのに…⋯」
初めて、翔太の目から涙がこぼれた。それは、悔しさや悲しさの涙ではなく、「自分が笑われる側になった」という、耐え難い恐怖と、社会的抹殺の冷たい現実がもたらしたトラウマの結晶だった。
嘲笑の対象を徹底的に「集中拡散」した結果、その報復は「所により集中拡散」という形で、翔太の人生のあらゆる側面へと、静かに、しかし致命的に広がり始めていた。
月曜日の朝。田辺翔太はいつものように、昨夜のSNSで仕入れた他人の不幸を肴に、悪友たちを笑わせようと教室に入った。
「なあ、聞いたか?サッカー部のキャプテン、大会前の大事な時期に彼女とケンカして、ボロ泣きで練習サボったらしいぜ。マジでメンタル小学生かよ、ウケる!」
いつものように、笑いの火種を投下した。しかし、彼の周りは、いつになく重い沈黙に包まれていた。
悪友の筆頭格だった山崎は、顔を上げようとしない。他の二人も、スマートフォンを握りしめたまま、うつむいている。
翔太:「おい、どうしたんだよ?昨日の夜からなんかムード悪くね?」
山崎が、低い声でつぶやいた。
山崎:「翔太…⋯お前、見たのか?あの掲示板」
翔太:「掲示板?なに、また新しいいじめの告発でもあんの?どうせ雑魚の被害者面だろ?」
「雑魚じゃない!」山崎が、初めて大きな声を上げた。その顔は蒼白で、恐怖に歪んでいた。「お前の裏アカのログと、お前が家族の前で言ったことが、全部晒されてるんだよ!公立のネットワークだけじゃなくて、地域の情報サイトまでだ!」
翔太の背筋に、氷が滑り落ちたような悪寒が走った。しかし、すぐに彼は強がった。
翔太:「なんだよ、そんなの誰かのデマに決まってんだろ!俺の裏アカなんて誰も知らねえし、家族との会話なんて…」
山崎:「嘘じゃない。お前が「生きたまま土に埋めてやりたい」って言ったって、録音までアップされてるらしいんだよ。それと、俺たちが笑ってたあの美術部のTシャツの件。あの投稿、俺も一緒に「ダセェ」ってコメントした奴だろ」
翔太:「だからなんだよ!あれはジョークだろ!」
山崎は翔太から数歩離れた。
山崎:「ジョークじゃ済まなくなったんだ。俺たちは、ただお前のノリに乗ってただけだ。でも、このままじゃ俺たちも「共犯者」扱いだ。もう、関わりたくない。悪いけど、自業自得だろ、翔太。お前、冗談にもデリカシーがなさすぎなんだよ」
他の悪友たちも、山崎に倣い、口々に「俺たち関係ない」「被害者の気持ち考えろよ」と、手のひらを返すように冷たい言葉を浴びせてきた。
翔太は、嘲笑の弾丸を撃ち続けてきた自分が、初めて絶対的な孤立という冷たい壁にぶつかったことを悟った。彼の世界から、嘲笑の聴衆が、一瞬にして消え去ったのだ。
4.西日本を巡る静かなる波紋
その日の昼休み。翔太がスマートフォンを開くと、目に飛び込んできたのは、見たこともないほどの通知と、アカウント凍結の警告だった。彼がいつも使っていた裏アカは、通報が集中しすぎたためか、すでにアクセス不能となっていた。
そして、彼を本当に恐怖させたのは、SNSを賑わせていたハッシュタグだった。
#WARAUトラウマ #●市のエゴイズム
そこには、彼が過去にバカにした人々からの、感情のない、しかし鋭利な言葉の“刃”が並んでいた。
[北九州市・県立高校生]: 「●市のあの人。私たちが文化祭で作った作品を『小汚いゴミ』って言ったんだよね。見てる人は見てるよ。ざまあみろ」
[京都市・府立高校生]: 「私たち生徒会が企画したボランティア活動を『偽善者の集まり』って嘲笑った彼へ。ネットリンチはしない。ただ、お前の『笑い』は誰の心にも響かないって事実を知れ」
[高知市・高専生]: 「僕の吃音を裏アカで笑ってたアイツ。君の家族が君に冷たい目線を向けてる今、君は僕の何倍も滑稽だ」
拡散はもはや、●市の中学生の告発文のコピー&ペーストに留まらなかった。それは、まるでサイレント・ウィルスのように、地域情報WEB掲示板、生徒間の非公式なグループチャット、大学受験予備校の掲示板を経由し、特定の学校やコミュニティへと狙いを定めて静かに、しかし確実に集中拡散されていた。
まるで、彼の嘲笑がGPS付きのブーメランとなって、彼がバカにした人々のコミュニティを経由して、凄まじい勢いで自分に返ってきているようだった。
釧路市のフリースクールにも、練馬区と足立区と荒川区の私立校にも、そして豊田市・岡崎市・郡山市の小学校の保護者会ネットワークにまで、その話題は飛び火していた。彼がバカにした「不器用な小学生」「私立の金持ちのボンボン」「社会の枠に収まらない人間」たちが、ネットワークの向こう側で静かに結託していたのだ。
5.初めての大打撃
午後、翔太は担任教師に呼び出された。校長室に響くのは、教師たちの沈黙と、告発文の印刷物をめくる音だけだった。
担任:「田辺、この裏アカと、ここに書かれていることは、君がやったことではないと、今からでも否定するのか?」
翔太は、喉がカラカラに乾いて、声が出なかった。否定する言葉を失っていた。彼は、デジタル空間で無敵の戦士だったが、現実の冷たい目線の中では、ただの臆病な少年だった。
校長:「私たちは、社会的制裁や個人的な報復を推奨しない。しかし、君が犯した行為は、無差別的な精神の暴力だ。この事態は、もはや学校の範囲を超えている」
その時、校長室のドアがノックされた。廊下に立っていたのは、彼の父親だった。疲弊しきった顔には、怒りよりも深い絶望の色が滲んでいた。
父:「先生方、大変申し訳ありません。全ては私の教育の不徹底です。…翔太。お前のせいで、会社にまで電話がかかってきた。お前がバカにした『生きたまま土に埋めてやりたい』って言葉。あの言葉が、お前の裏アカのログと共に、私の取引先の掲示板にまで貼られたんだ」
彼は愕然とした。嘲笑の対象は、学校の生徒や教師だけではなかった。彼自身が、嘲笑されるべき『社会の迷惑』として、家族の職場までをも巻き込んでいたのだ。
父は、震える手でスマートフォンを取り出し、ある画面を翔太に見せた。
それは、彼のSNSのプロフィール画像、彼が滑稽だと嘲笑した男子生徒を真似て作った嘲りのコラージュ画像が、今や彼の顔写真に差し替えられ、地域情報サイトのトップに『WARAU―トラウマ生成者』というキャプション付きで掲載されている画面だった。
「…⋯俺は、ただ…⋯面白いことをしたかっただけなのに…⋯」
初めて、翔太の目から涙がこぼれた。それは、悔しさや悲しさの涙ではなく、「自分が笑われる側になった」という、耐え難い恐怖と、社会的抹殺の冷たい現実がもたらしたトラウマの結晶だった。
嘲笑の対象を徹底的に「集中拡散」した結果、その報復は「所により集中拡散」という形で、翔太の人生のあらゆる側面へと、静かに、しかし致命的に広がり始めていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる