狼の 森の子

たかせまこと

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老騎士

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 『森の子』だと?
 どうしたものかと考えていたところにかけられた声に、身構えた。
 声をかけてきたのは、いつでも戦いに出られるような装備を身につけた老騎士。
 ただ、かけられた言葉と、方向が胡散臭い。
 この老騎士、関所の向こうから来たんじゃないのか?

「ウチの伴侶がうるさくてねえ……どうしても迎えに行けと言うから半信半疑で来てみれば……狼と森の子とは、何とも珍しい組み合わせだ」
「伴侶?」

 俺の後ろにリコをかばって、明らかに警戒している俺の行動など目に入らない様子で、老騎士はふふふと笑う。
 リコもリコで、何の警戒心も見せないときたもんだ。

「そう。カプアという美しい人だよ。わたしはドラコというんだ。元、辺境伯さ」
「カプア! 兄さまの名前です!」

 リコは嬉しそうに返事をするし、老騎士は怪しいものじゃないからついておいでと手招きをするから、思わず関所の役人を見てしまった。
 困ったように笑う役人は、間違いないですよと太鼓判を押してくれる。
 元、辺境伯?
 この老騎士が?
 っていうか、元ってなんだ。
 何がなんだかな気分でその老騎士について関所をくぐったら、そこにあったのは出城だった。
 普通の、砦といったらこのサイズだよなって言う大きさの砦の中に、大きな木が立っている。
 砦の半分はその陰になるんじゃないかって言うくらいに、大きな木。

「兄さま!」

 リコが木に向かって呼びかける。
 風もないのにさわさわと木が揺れた。
 葉ずれの音に気を取られた瞬間に、リコの姿が消える。

「リコ? リコ!」

 さっきまでいたはずなのに!
 ザワリと背中が総毛立つ。
 こいつら!

「まあ、落ち着け若い狼。あの子は大丈夫。ウチの伴侶と話をしているだけだ。それよりお前には手伝って欲しいことがある」
「うるさい! リコをどこにやった?」
「どこといわれれば、ウチの伴侶の……あの木の中だね。だから若い狼よ、あの子は今のところ安全だし無事だ。まあ、お前の頑張り次第で保証の限りではないけれどね」
「は?」
「聞こえないか? 荒れ地から奴らが来る」

 言われて耳を澄ませれば、遠くから大きな獣が駆ける音がする。
 夕刻になると、荒れ地の魔物が騒ぎ出すのだそうだ。
 これから数刻の間、出城で戦えるモノたちは、安全な夜のために魔物退治の時間になる。

「なあに、ほんの数刻だし、ほんの雑魚だよ」

 伴侶の安全のためには必要なことだからねえ、と、物騒な顔で老騎士が笑った。

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