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たかせまこと

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照葉の日記

照葉の日記 5

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某月某日 夜長が帰ってきた

 二人が戻る。

*****

 行商に出ていた師匠と夜長が戻った。
 けれど。
 その姿を見たとたん、オレの口から出たのは声にならない悲鳴。

「……!」
「あー、わかった。何も言うな。言いたいことはわかってる」
「照葉……あの、ただいま……」

 面倒くさそうに腕まくりをしながら答える師匠と、困ったように帰還の挨拶を口にする夜長。
 遠くに姿が見えた時点で、なんだか不思議だなあと思ったんだ。
 なんか妙にゆっくり歩いているし、師匠が寄り添って夜長を支えているように見えた。
 その上に家の方ではなく、まず工房の方に回って行ったし。
 それほど荷物を持っているようにも見えなかったのに、だ。
 変だなと思ったけど、それでも帰ってきたのは嬉しくて、急いで工房に向かって扉を開けて、言葉を失った。
 床におろされた荷物。
 卓の上に手桶と手拭いが置かれていた。
 卓の隣に置かれた椅子の上に夜長が座っていて、師匠が包帯を持っていた。
 その夜長の額が。
 左目の上がぱっくりと裂けている。
 血の様子を見る限りは、今日、先ほどできたような傷ではない。
 でも、その大きさと生々しさが。

「な……何……? なんで……?」

 よく見たら夜長の全身は生傷だらけのようだった。
 左の腕も浅く長く、引っかかれたような傷がある。

「あー……ちょっと、足滑らせちまって……あの、もう見た目ほど、痛くはねえし」
「ま、そういうことだな。照葉、傷薬出してくれ」

 オレの衝撃はなかったかのように、あっさりとそれで済ませようとしてる。
 二人そろって。
 あれほど、行商に行くとき、無事に帰ってこいって、言ったのに。
 小さい傷が多いと言ったって。
 ほとんど治りかけの傷だと言ったって。
 傷なのに、かわりはないじゃねえか!

 キレていいよな。

 一人で心細くて、それでも待ってたのに。
 こんな怪我して帰ってきて。
 何の説明もなくて。
 ま、そういうこと、だぁ?

「ふっざけんな! なんだよその怪我! 師匠が付いていて、何で夜長に怪我させてんだよ!」

 オレがキレて怒鳴りつけたら、師匠が腹を抱えて笑った。


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