おうちにかえろう

たかせまこと

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夜長2

そしてその時

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「ちょ……照葉?」
「何?」
「何って……何してんのお前?」
「夜長の寝間着を脱がせてるけど、それが何か?」
「っていうか、お前の夜着は?」
「布団のどっか」

 夜。
 久しぶりに家に帰ってきた。
 持って帰った荷物を片付けて、普段しているように飯を食って湯を使って、師匠に挨拶をして照葉と部屋に入る。
 いつものように照葉の身体の養生をして、照葉を布団におさめる。
 使った道具を机に乗せて灯を落とす。
 寝台に乗ったら、布団の中におさめたはずの照葉がごそごそと俺の上に乗っかってきた。
 しかもいつの間に脱いだのか、全裸で。

「どっかって……さっきちゃんと着せたろ?」
「脱いだ」
「照葉……」
「夜長も脱げよ」
「ちょ、待てって、照葉……」

 俺の夜着のボタンを外して、腕から夜着を抜こうとする。
 いやいやいや。
 ちょっと待て。
 慌てて身を捩って、照葉の行動を阻止する。

「夜長……好き……」

 抵抗したから脱がせるのを諦めたのか、照葉が俺の頬に手を這わせる。
 全部外されてしまった釦。
 はだけられた部分に、さらりとした照葉の肌を感じる。

 ちゅ。

 照葉が身体をずりあげて、俺の口元に口付けを落とした。
 そのまま俺の頭を抱え込もうとするから、照葉の鎖骨が口元にくる。

 ちゅ。
 ちゅ。
 ちゅ。

 髪の上といい目の上といい、俺の顔中に照葉が口付ける。
 俺も、そっと照葉の肌に口を寄せた。
 暗闇にまだ目が慣れない中、お互いに手当たり次第に口づけを落とす。

「……照葉?」
「傷、痛むか?」
「押さえつけなきゃ、それほどでも」
「ちゃんと帰ってこいって、言ったじゃねえか」
「ごめん」
「許さねえ……こんな怪我しやがって」
「ごめんって」
「ダメ」
「照葉、ごめん」
「ちゃんとしてくれなきゃ、許さねえ」

 思いが通じてから、数えきれないほどに口付は交わした。
 けれど照葉の調子が悪かったり俺が行商に出ていたりで、結局、いわゆるその……そういうことまでは、していない。
 照葉が望んでいたのは知っていた。
 俺だってあわよくばっていうか、機会があればというか、そういう風には思っていた。
 けれど。
 師匠に何度も念を押されていたし、自分でも思っていた。
 照葉に負担はかけられない。
 ずっと一緒にいるんだし、いつだってそういう風になれる時で照葉の調子のいい時でいいんじゃね? って。
 でも今、照葉は痺れを切らせたように、俺の上に乗って俺の身体を愛撫する。

「照葉……」
「好き。俺のこと考えてくれてるって知ってる。でも、繋がりたい…」
「照…葉」
「ちゃんと、夜長と繋がりたいんだ」

 照葉が俺の体のあちこちに唇を落とす。
 ペロリと臍にまで舌を入れられて、息がつまった。

「…っく」
「夜長……固くなってる」
「バカっ…いちいち、口に出してんじゃねえよ」
「なんで? すごく嬉しいのに」
「ああ、もう! ほら、のけよ」

 照葉の身体を下ろして、寝間着も下着も脱ぎ捨てて全裸になった。
 ここまでされて我慢なんてできるわけないだろう。
 こいつはホントに、俺を煽ることがうまい。
 するりと照葉が俺の首に手を回して、抱きついてくる。
 唇を奪い、舌で口の中を味わいながら、照葉に手をのばした。
 同じように熱を持って脈動しているそれを撫でると、息を荒くしながら照葉が同じように俺を愛撫した。

「よ…なが……よな…が…」
「てるは…いい?」
「ん……アツい…おなじだ……」

 お互いのがジワリとあふれて、混ざり合う。
 熱い。
 アツくてかたくて、息が上がる。
 照葉が身体を押してくるので、逆らわずないで寝台に背を付けた。
 潤んだ眼で俺を見ながら照葉が俺に跨って……。

「ちょ、照葉っ?! 待て!」
「やだ」
「やだじゃなくて! 待て! そんまま突っ込むな! お前のが切れるから!」
「何が? だって、ここでつながるんでしょ?」

 照葉の奴、何の準備もしねえで自分の穴に俺のを突っ込もうとしやがった!

「そうなんだけどな!」
「じゃあいいじゃないか」
「よくねえよ!」
「……夜長、したくないの?」
「したい!」
「だよね、こんなになってるもんね。じゃ、そういうことで」
「そういうことじゃなくて!」
「何だよ!」
「照葉……落ち着け」

 照葉の腕を引っ張って、力任せに体勢を変える。
 薄闇の中でもわかるほどに、照葉が切羽詰っていて、その瞳に涙の膜がはっているのが見えた。
 ああ、ホントにもう!

「したくないんだ……」
「だから、違うって。ちゃんと解さないと怪我するから、ちょっと待てって言ってるだけだ」
「嫌なら嫌って……」

 ポロリと涙の膜が決壊するのが見えて、慌ててその唇をふさいだ。
 ホントにどうしてくれよう、この性悪。
 誰がしたくないっていったよ。
 むしろ体調無視してどろどろにして突っ込んでがんがん出し入れして、あんあん泣かせたいくらいだわ!
 可愛くてたまんねえ。
 くぐもった声を上げて抗議しているらしいのを無視して、散々その口の中に悪戯を仕掛ける。
 照葉の身体から力が抜けて、瞳がとろんとしたところで口づけを解いた。
 唾液が銀の糸になって、お互いを繋ぐ。

「嫌な訳、ない」
「……だ…って」
「お前、何で知った?」
「なにを……?」

 とろりとした瞳で照葉が首を傾げるから、そっと身体の奥のそこに、指を当てた。

「ここで繋がるって、何で知ったか教えろよ」
「ああ……春画」

 その答えに一人の兄弟子を思い出す。
 大好きで集めている人、いたなぁ……見せた時の反応が面白いと、照葉に見せては、面白がっていたよなぁ、あの人。
 そうか。

「で、何でいきなり受け入れようと思ったわけ?」
「何でって?」
「あのさ……お互い男じゃん。俺はそりゃあ、入れたいけど。けど、照葉とちゃんと話してからって、思ってたわけよ」
「夜長と繋がれるなら、どっちでもいいと思ったし……それに……」
「それに?」
「俺の脚じゃ、あの体勢は、無理だし……でも、受け入れる方なら、できると思って……」

 あの体勢って……ああ、春画で覚えている体勢のことを指してるわけね。
 どの体勢のか、聞きたいような聞きたくないような気はしたけれど。
 確かに照葉の脚では体勢によっては突っ込む方は難しいかもしれない。
 絶対に無理だとは言わないけど。
 でも何よりも。
 とにかく俺が嬉しかったのは。
 繋がれるなら何でもいいと思ってくれた照葉の気持ちで。

「照葉」

 抱きしめ直して、その耳元に声を落とす。

「じゃあ、方法とか準備とか道具とかは、知らねえんだ?」
「んなの……悪かったな、知らねえよ」
「悪くねえよ。すげえ嬉しい」
「何が?」
「照葉、真っ新ってことじゃん」
「何だよ! だったら何で夜長は知ってんのかよ!」
「知ってる」
「ど……いうこと……だよ! 他の誰かと……? いつの間に?」

 不安そうに照葉が声を震わせるから、種明かしは早々にする。
 お前がいるのに他の誰かとなんて、俺はそんなに器用じゃない。
 
「師匠に聞いた」
「は?」
「行商いってる間に、師匠に聞いた。照葉と繋がりたいから、照葉に負担のない方法を教えてくれって」
「はあ? お前、恥ずかしくなかったのかよ? 聞いたって、よりによって師匠にか?」

 よりによってって、他に誰に聞けっていうんだ?
 一番面倒くさくなくて、適任じゃないか。
 
「恥ずかしくねえよ。そんな訳ないじゃん。お前に負担がなくて、二人とも気持ちよくなるのが、一番大事だ」

 ぼわって、照葉の体が一気に熱くなった。
 顔をはっきり見ることができたら、きっと真っ赤になっているに違いない。

「だから照葉、俺の好きにさせて?」
「夜長……」
「ちゃんと照葉の中に入るから。照葉が傷つかないようにするから」
「バカ……お前につけられるなら、痕だって傷だってなんだっていいんだよ」

 ホントに、照葉は俺を煽るのがうまい。

 唇をそっと落とす。
 その額に。
 耳たぶを食む。
 首筋をなめあげて、歯をたてる。

 甘くやわらかなその肌。
 他の奴には解らないだろう、その肌の香り。
 俺を夢中にさせる声。

「ん……んん…」

 鼻に抜けるような甘えた声が、絶え間なく聞こえる。

「かわい……」
「ふ…ぅ……あっ……んん……」

 さっき照葉にされたように、照葉の行動をなぞるように、照葉の身体に手を指を唇を這わせる。
 俺のだ。
 照葉は、全部。
 全部、俺のだ。
 中心で熱を持って立ち上がっている照葉も、口で愛撫する。

「はぅっ…よ…なが…よなが……よなが……あ…や、放して……でる…イク……」
「いいよ」
「やだ……そこでは、や……」
「じゃあ、手ならいいだろ? 俺の手で、イって…」
「あ……ああ、よなが、よなが、よながっ……!」

 滴を流してぬるぬるしてる。
 そのぬめりを使って上下に動かしてやる。
 くり、と先をいじったら、切羽詰った声を上げて照葉が達した。

 俺の手で。
 なんて幸せなんだろう。
 指に残るその液体を舐めた。

 呆けたように宙を眺める照葉のこめかみに口付をして、俺は服の隠しに入れておいた携帯用の薬壺をとってくる。

「……よなが…?」
「軟膏を使って解す。そしたら、一つになれるから」
「うん」
「辛いかもしれないぞ?」
「いいよ…それでも、夜長と一つになりたい……」

 照葉の体調を考えた。
 照葉が辛くなくて、2人で気持ちよくなれる方法を考えて、結局、師匠を頼った。
 それは嘘じゃない。
 嘘じゃないけど、照葉にいい格好してみせたかったっていうのも、ちょっとだけある。
 初めてでも失敗したくなかったっていうか。
 そんな姑息な俺に比べて、照葉の真っ直ぐさはどうだろう。
 とにかく俺が好きで、痛かろうが辛かろうが、俺と繋がりたいと訴えてくれる。
 強くて、可愛い照葉。

「照葉、好きだ……」
「オレはもっと好き」

 へにゃ、と照葉が笑うのを見て、ああもう今夜は止まれねえなって、そう思う。
 照葉の頬を撫でて、脚の間に陣取った。
 指に軟膏を絡め取って、襞の一つ一つに塗りこめるようにして慣らしていく。

「はぅっ…ぅ…ぁ……あ……」

 師匠に教わった、特製のこれ専用の軟膏。
 照葉のいないところで、何をどこまで準備してるんだ変態! と思われてもいい。
 先人の教えには従うべきだと俺は思っているので。
 師匠は自分の伴侶をそれはそれは大事にしていたらしいから、絶対にこういうときにも、伴侶がよくなるようにしていたと思ったんだ。
 俺が恥ずかしいからとか、師匠が居た堪れないとか、そういうのよりも。

 そういうのよりも、照葉が大事で照葉をよくしてやりたくて、照葉と一緒になりたくて照葉と気持ちよくなりたかったんだ。

 違和感が快感に変わるまで、暴走しそうな自分をなだめながら必死に照葉をほぐす。
 師匠が初めて用に少しだけ媚薬を混ぜてくれたから、照葉はちゃんと手をかければ気持ちよくなれる。

「ああ…あ……よ、なが……もう…もう……や……もう…」

 感極まったように照葉が涙を流す。
 喘ぐように息をする。
 閉じることができなくなった口の端から、唾液が流れる。
 明日、照葉が寝込んだら、師匠にぶっ飛ばされるかもしれない。

「照葉、好きだ……」

 初めて入った他人の中は、この上なくアツくて。
 気持ち良くて。
 優しくて、幸せだった。





「夜長……好き」
「俺は、照葉を愛してるよ」



<END>
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