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派遣先に引越ししました
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おれ側のというか、おれの職場の都合としては、四月から環境が変わるのがありがたいのだけど、そうすると彼岸前後っていう、寺院の忙しい時期に引越しをしなきゃいけなくなる。
それは申し訳ないので、合わせることにした。
っていうか。
おれ、寺の近くでアパートでも借りる心づもりしてたんだよね。
なのに、あれよあれよという間に話が転がっていって、なぜか寺に部屋が用意されていた。
なんかできすぎじゃね?
申し訳なくなってくる。
「なんでじいじのとこなんだよ。うちに来てくれたらいいのに。そしたら、夜とかいっぱい遊べんじゃん」
つまり引っ越しといっても、寺に下宿させてもらう感じなわけで、大きな家財道具はほとんど必要ない。
せいぜいテレビとデスクとハンガーラックくらいあればいいかな? って感じだったけど、面倒だからそれもなしにした。
当然、冷蔵庫や電子レンジや洗濯機あたりは、売り払った。
本棚は持ち運びに使った段ボールを代用にすればいいし、しわを気にしなきゃいけないような服もない。
元々そんなに荷物はないんだけど、ますますない。
おれ、実はすごく身軽だったんだなあって思った。
手伝いをしてくれながら、シュンはちょっと文句たれ。
関家の方に来ればいいのに、そしたら遊べるのにと、何度も繰り返す。
「いっくんは仕事で来てるんだからな。お前と遊ぶために来てるんじゃないから」
「知ってる!」
うん、知っていても、納得できてないんだよな。
ぶつぶつ言うシュンにテルさんが突っ込んでて、楽しそうにしてくれてるのが嬉しいと思った。
長く一緒に生活したら色々出てくるもんだけど、それでも、出だしで躓かないっていうのは大きい。
それは、寮の時に知ったこと。
今日の作業そのものは、荷物を運びこむだけで終わりにした。
荷解きはおいおい、様子を見ながらでいいだろう。
先に出しておかなきゃいけないのは、仕事関係のものだけだから、あとから一人でのんびりやればいい。
昼前に到着して、用意してもらった部屋にいくつか段ボールを入れて、おしまい。
「じゃ、昼にしようか」
あっけなく終わった引っ越しに、テルさんは苦笑いする。
「せっかくだから、蕎麦用意したんだよね」
「ありがとうございます」
「オレ、葉っぱいらない!」
いきなり、シュンが声をあげた。
ウチは天ぷらそばなんだ、と言いながらテルさんがシュンをつかまえて、髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。
「葉っぱとつぼみは、じいじにあげる。オレはエビでいい」
「なんでだよ、紫蘇、美味いじゃん。っていうか、エビを要求するとは、謙虚なふりしてわがままだなお前」
先に立って台所に向かうテルさんとシュン。
後ろを、住職と一緒について行った。
「葉っぱ……」
あまりの言いように、思わず笑ってしまう。
確かに紫蘇の天ぷらって、あんまりこどもが好きではなさそうだけど、葉っぱ、ねえ。
そしてつぼみってなんだろう?
「茗荷だ」
おれの疑問になんで気がついたのか、住職が答えを言う。
「ああ、なるほど、茗荷」
確かに、つぼみだな。
「シュンは香の野菜がまだ苦手なんだわ」
そう言って二人を見る住職の目は優しい。
住職はテルさんとシュンの母方の祖父なんだそうだ。
二人の名付け親でもある。
この年齢の人にしては大柄で、元気で、大きな口をあけて笑う人だなって、正月の時に思った。
テルさんに言わせると『雑な人』らしいけど。
「そういえばおれも、昔は好んで食べませんでしたねえ」
「ああいってるテルも、ホントはあんまり好きじゃない。あいつに自分の分だけ飯の用意させたら、肉ばっかりにするんだ」
くつくつと住職が笑う。
「自分がおおっぴらに好き嫌いすると、シュンが真似ると思ってんだ、あいつ」
内緒な、と言ってのけるのが微笑ましくて、一緒に笑ってしまった。
さすが、育ての親にかかると、しっかり者のテルさんも子ども扱いだ。
ホントにいいな、この家族。
そう思う。
テルさんとシュンの年齢差だとか、存在が見えない両親のこととか、きっと、全部が全部平穏なわけじゃないんだろうってことは想像できる。
だけどこうやって見せてくれる小さな普通が、すごくいい。
「まあ、気負わないで好きに過ごしなさい」
「はい」
「ウチは修行で人を預かることもあるから、慣れてる。変に気を遣う事ぁない。やることさえちゃんとやってくれれば、あとは、自分ちと同じくらいの気持で過ごしゃいいよ」
「ありがとうございます」
住職の言葉は、ありがたい。
かしこまりすぎないように頭を下げたら、なんとも言えない顔でおれのことを見て、住職はため息をついた。
「お前さんも、難儀そうだなあ」
「はい?」
「ここにいる間は、肩の力抜けばいいさな」
少し痛いくらいの力で、ばんばんと背中を叩かれて、なんだかちょっとだけ鼻の奥がむずってなった。
それは申し訳ないので、合わせることにした。
っていうか。
おれ、寺の近くでアパートでも借りる心づもりしてたんだよね。
なのに、あれよあれよという間に話が転がっていって、なぜか寺に部屋が用意されていた。
なんかできすぎじゃね?
申し訳なくなってくる。
「なんでじいじのとこなんだよ。うちに来てくれたらいいのに。そしたら、夜とかいっぱい遊べんじゃん」
つまり引っ越しといっても、寺に下宿させてもらう感じなわけで、大きな家財道具はほとんど必要ない。
せいぜいテレビとデスクとハンガーラックくらいあればいいかな? って感じだったけど、面倒だからそれもなしにした。
当然、冷蔵庫や電子レンジや洗濯機あたりは、売り払った。
本棚は持ち運びに使った段ボールを代用にすればいいし、しわを気にしなきゃいけないような服もない。
元々そんなに荷物はないんだけど、ますますない。
おれ、実はすごく身軽だったんだなあって思った。
手伝いをしてくれながら、シュンはちょっと文句たれ。
関家の方に来ればいいのに、そしたら遊べるのにと、何度も繰り返す。
「いっくんは仕事で来てるんだからな。お前と遊ぶために来てるんじゃないから」
「知ってる!」
うん、知っていても、納得できてないんだよな。
ぶつぶつ言うシュンにテルさんが突っ込んでて、楽しそうにしてくれてるのが嬉しいと思った。
長く一緒に生活したら色々出てくるもんだけど、それでも、出だしで躓かないっていうのは大きい。
それは、寮の時に知ったこと。
今日の作業そのものは、荷物を運びこむだけで終わりにした。
荷解きはおいおい、様子を見ながらでいいだろう。
先に出しておかなきゃいけないのは、仕事関係のものだけだから、あとから一人でのんびりやればいい。
昼前に到着して、用意してもらった部屋にいくつか段ボールを入れて、おしまい。
「じゃ、昼にしようか」
あっけなく終わった引っ越しに、テルさんは苦笑いする。
「せっかくだから、蕎麦用意したんだよね」
「ありがとうございます」
「オレ、葉っぱいらない!」
いきなり、シュンが声をあげた。
ウチは天ぷらそばなんだ、と言いながらテルさんがシュンをつかまえて、髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。
「葉っぱとつぼみは、じいじにあげる。オレはエビでいい」
「なんでだよ、紫蘇、美味いじゃん。っていうか、エビを要求するとは、謙虚なふりしてわがままだなお前」
先に立って台所に向かうテルさんとシュン。
後ろを、住職と一緒について行った。
「葉っぱ……」
あまりの言いように、思わず笑ってしまう。
確かに紫蘇の天ぷらって、あんまりこどもが好きではなさそうだけど、葉っぱ、ねえ。
そしてつぼみってなんだろう?
「茗荷だ」
おれの疑問になんで気がついたのか、住職が答えを言う。
「ああ、なるほど、茗荷」
確かに、つぼみだな。
「シュンは香の野菜がまだ苦手なんだわ」
そう言って二人を見る住職の目は優しい。
住職はテルさんとシュンの母方の祖父なんだそうだ。
二人の名付け親でもある。
この年齢の人にしては大柄で、元気で、大きな口をあけて笑う人だなって、正月の時に思った。
テルさんに言わせると『雑な人』らしいけど。
「そういえばおれも、昔は好んで食べませんでしたねえ」
「ああいってるテルも、ホントはあんまり好きじゃない。あいつに自分の分だけ飯の用意させたら、肉ばっかりにするんだ」
くつくつと住職が笑う。
「自分がおおっぴらに好き嫌いすると、シュンが真似ると思ってんだ、あいつ」
内緒な、と言ってのけるのが微笑ましくて、一緒に笑ってしまった。
さすが、育ての親にかかると、しっかり者のテルさんも子ども扱いだ。
ホントにいいな、この家族。
そう思う。
テルさんとシュンの年齢差だとか、存在が見えない両親のこととか、きっと、全部が全部平穏なわけじゃないんだろうってことは想像できる。
だけどこうやって見せてくれる小さな普通が、すごくいい。
「まあ、気負わないで好きに過ごしなさい」
「はい」
「ウチは修行で人を預かることもあるから、慣れてる。変に気を遣う事ぁない。やることさえちゃんとやってくれれば、あとは、自分ちと同じくらいの気持で過ごしゃいいよ」
「ありがとうございます」
住職の言葉は、ありがたい。
かしこまりすぎないように頭を下げたら、なんとも言えない顔でおれのことを見て、住職はため息をついた。
「お前さんも、難儀そうだなあ」
「はい?」
「ここにいる間は、肩の力抜けばいいさな」
少し痛いくらいの力で、ばんばんと背中を叩かれて、なんだかちょっとだけ鼻の奥がむずってなった。
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