WaterDrop

たかせまこと

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お疲れさま会

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 かさかさと、スーパーのレジ袋の音がする。
 その音に合わせたように、あたしの手が揺れる。
 温かいものにつつまれて、ひかれてる。
 手が揺れてひかれるから、足も動く。
 ぼんやりとした茜色の視界には、見覚えのない街並み。
 長い影が、背中の方に向かってのびていた。

「……ここ、は?」
「ウチは基本的に食材ってものを買い置きしていないんです。だから、遠回りしてスーパーに行ってきました」

 あたしの手をひいて片手に紙袋とスーパーのレジ袋を下げたゆきさんは、歩調を変えることなくゆるゆると歩く。
 さっきとは全然違う、優しくて丁寧な言葉遣い。

「ゆきさん……」
「ゆきちゃんのままでもいいですよ、裕子さん。あなたの名前は知らなかったから、あの人が大きな声で名前を呼んでくれて助かりました」

 なんてことないようにゆきさんが続けた。
 いやもう、思いっきり巻き込んでしまって、ホントに申し訳ない。
 椎くんから話を聞いていたとはいえ、お互いに名前も知らない会ったこともない人だったのよね。

「初対面なのに、ごめんなさい」
「なかなかできない経験ですから、楽しかったですよ……それに時折、ふみから聞いていたので、あまり初対面という気もしませんでしたしね」

 くすくすと笑いながら、ゆきさんは言葉を紡ぐ。
 柔らかな声。

「椎くんが?」
「意外ですか?」
「そうですね、彼はあまり言葉の多い人ではないですから」
「僕に直接ではないですよ。ウチは割と親戚づきあいが濃いので、会話の中で聞こえてきたという方が正確です。職場の先輩の武勇伝は、聞いていて楽しかったので記憶に残っていたんですよ」

 武勇伝。
 椎くんはあたしのことをなんだと思っていて、どんな伝え方をしたんだろうかね?
 あたしはゆきさんに手を引かれて、どこへ行くとも知らされないのに、だまってそのあとについていく。
 普段のあたしなら、何故とかどうしてとかどこ行くのとか、絶対に聞いているのに、そういう気にもならない。
 薄い手のひらがあたしの手を握っている。
 もう、ずいぶんと長いこと、こんなことされていない。
 しばらく歩いて、大通りから一本入ったところにある、大きなショーウィンドウのあるお店の前で、ゆきさんは足を止める。
 あたしの手を離して、慣れた様子で鍵を開けているから、ここがゆきさんの家なんだって、わかった。
 ドアの木枠をおすように開けると、からんからんと、賑やかなカウベルが鳴った。

「どうぞ、あまり片付いてないですけど」
「tea box……?」
「今の僕のねぐらです。一応輸入雑貨を扱ってます。ここの雇われ店長をしているので……ああ、あらぬ噂や貞操の危機は心配しなくていいですよ」

 はい?
 あたしを中に誘い込みながら、眉を下げて笑ったゆきさんは、慣れたように言った。

「僕は多分ゲイで、飼い主がいますから」

 頑張ったあたしのお疲れ様会をしようと、ゆきさんが言いだして、あたしはそのままゆきさんのおうちへお邪魔した。
 そうか。
 あたし、お疲れさまなんだ。
 ゆきさんがあたしをソファに座らせて、キッチンへ向かう。
 ぬくもりのなくなった手を見下ろして、大きく息をついた。
 久しぶりに誰かと手をつないで歩いた。
 そこにどんな思いがあったって、どんな状況だったって、あたしのことを思って差し出された手は、優しくて嬉しかった。
 そっか。
 あたし、お疲れさまだったんだ。

 ゆきさんの作ってくれた料理を、ちびちびとつつきながら二人でゆっくりと杯を交わす。
 夜も更けたころに、心配した椎くんが仕事の後にこちらに回ってくれたのだけど、その時の椎くんの顔は、そりゃあ見ものだった。
 ありえないものをみましたっていう、ものすごく驚いた顔。

「……ゆきちゃん」
「おつかれさま、ふみ」
「ありがと、椎くん。人んちだけど、座ったら?」
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