ラスボスの兄は、早く独立したい！

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　3年前、待望の弟が生まれた。

　オリゴクレース王国、四大公爵家の1つオルロフ公爵家。建国当初より絶大な財力と権力を有し、今代に至るまで王族に引けを取らない影響力を持つ一族。
それが僕が8年間暮らす我が家だ。

　由緒正しい貴族一家の次男坊として生まれた僕には、秘密がある。

　僕には、前世の記憶があるのだ。

　社会人2年目の秋、歩道橋の階段を踏み外して、そのままポックリ逝った。
絶対に決めたい大口案件のため、飲めない酒で無理をしたのが悪かったんだろう。
まあ、飲んだ甲斐もあって無事契約を結べたのが救いかもしれない。
死んだから僕の成績にはならないけどね！

　目が覚めると、僕は赤ん坊として転生していて、本当に異世界なんてものが在るんだと感動したものだ。
　親ガチャに成功したのか、大豪邸だし、衣食住には困らないどころか、月の維持費を考えるだけで倒れそうなほど素晴らしい。
公爵である父とは、なかなか顔を合わせることはないけど、誕生日は盛大に祝ってくれる。
名門伯爵家出身の母は、三児の母とは信じられないほどの美貌を擁している。
躾には厳しいが、親バカ要素が見え隠れしているので気にはならない。
おまけに使用人達は、顔採用かってレベルで顔面偏差値が高い。
　正直、人生勝ったと思った。
　次男だから公爵家を継ぐ必要はない。
そこそこに学業と武業を学び、侯爵か伯爵クラスに婿入りすれば、安定した未来が待っている。
そう思っていた。
───5歳までは……


　事態が一変したのは、三男アルノーが生まれた日。
　ややブラコン気味の兄にかまい倒され、弟が欲しいと願いまくった過去の僕、何故そんな馬鹿な欲を抱いたんだ。
　オルロフ家特有の吸い込まれる様なガーネットの瞳を持ったアルノーは、生まれたばかりのしわくちゃな顔にも関わらず、天使の様に可愛かった。
　むちむちのほっぺを突いて堪能していた時、僕は知ってしまった。

　あれ？　紅瞳のアルノー・オルロフって、なんか既視感あるぞ？
　まだ毛は生えてないが、僕も兄も父も髪はプラチナホワイト。アルノーも恐らくそうだ。

　なんてことだ。
　前世で流行った異世界ものの小説の黒幕と同じ名前をしている。
　どうして気付かなかったんだ！
　オリゴクレース王国って、まんまそうじゃん！
　ヒロインの名前はエリーズ・オリゴクレース。
兄が彼女の婚約者候補に上がっているではないか。
気付けよ、僕！！
　マズイぞ。小説の世界に転生したことより、その内容に問題がある。
　国家転覆を目論むアルノー・オルロフによって引き起こされる様々な困難に、主人公と王女が力を合わせて立ち向かう王道ファンタジー小説だ。
　アルノーは、最後の戦いで敗れて死ぬ。
そしてオルロフ家は、もれなく一族郎党斬首。

　可愛い弟は、天使のフリをした悪魔だったのだ！


　その時、僕は決心した。
　物語が始まる前に、オルロフ家から独立して縁を切ることを。