23 / 278
第23話 モリスさんの時空間魔法講座です
しおりを挟む
僕はひたすらグラスに語り掛けた。
勿論食事を終えピノさんを家に送り届けてから、だけどね。
折角のピノさんとの楽しい時間、話し相手がグラスだなんてもったいないでしょ。
それに……僕がグラスを説得する姿をピノさんに見せたくなかったから。
勿論恥ずかしかったからってのもあるよ? でもそれよりも、僕のその姿を見てピノさんがどう思うか心配だったから。
自分と同じ事をしている誰かを見て、妙に冷静になって居た堪れなくなった事ってない?
僕は……実はあるんだ。
あれはそう――僕のバイブルであるあの物語の主人公、彼に憧れるあまり物語の中での彼の言動をそっくりそのまま真似していた頃のこと。
その日、ラビットを狩る事が出来た僕は、まるで一端の冒険者になったみたいな自分にうれしくなって、奮発して街の食堂でご飯を食べていたんだ。
するとそこに、僕より少し年上かなくらいの男の人が入ってきて……
その人は、当時の僕と同じように彼を完コピしていたんだ!
その人がやっていたコピーは決して下手じゃなく、むしろ僕よりもずっと上手だった。
でも、でもね……、ああ周りから見ると僕ってこんな風なんだなあって思ったら、急に醒めた気持ちになって……その人を見続けるうちに、どんどん居た堪れない気持ちになって……急いで食事を終えて……逃げるように家に帰ったんだ。
『坊主、人の真似をするっていうのは決して悪いことじゃあ――』
ごめん主人公、今は聞きたくないよっ!!
そして僕は僕に戻った。
そんな過去。そんな……黒歴史っ!
そう、ピノさんがその時の僕になるんじゃあないかって、本気で思ったから。
本気で心配したから。
だって付与してる時のあの姿…………ねえ?
まあそういう訳で一人だけの部屋の中、僕はずっとグラスに話し掛けてたってわけ。
それから何度も何度も失敗して、色々言い方を工夫してそれでも失敗して、どうやったら上手に説得出来るだろう……そんな試行錯誤の数時間の後、僕は一つの事に気付いた。
あ……魔力注いでないや。
いや、だって話し掛けるあのインパクトが凄すぎて、頭から『ぽーん』って飛んでたんだよ。……話し掛けながら付与する物へと魔力を注ぐんだって事を。
うん……仕方ない仕方ない。だってほら、インパクトが……ね?
真剣にお鍋を応援している(ように見える)ピノ姉さん――ふふっ、可愛かったなあ。
そしてさっきまでの僕って……
ホントにただグラスに話しかけるだけの人、だったんだよなあ。
ははは…………はぁぁ、今日はもう寝よ。
「おはようございます!」
今日もいつもの調査団の部屋。
まあ本当はギルドの個室なんだけどね。
職員の皆さん、朝の混雑で忙しかったみたいで、僕を見ると笑顔でこの部屋を指さした。
僕も笑顔で会釈して部屋まで来たけど……うーん、顔パスってやつ?
部屋に入るともうみんな勢揃いしていた。
「ああ、おはようございます。カルア殿」
「いやあ、おはようカルア君。僕達も今来たところだから、みんなほぼ同着だよ。何だろうねえ、こうして揃って同じ時間に集まるってさ、チームって感じがしていいねえ。ん? チーム……チームか。うん、そうだね。今回の件ってさ、初めからカルア君が中心だったじゃない。カルア君が転送トラップを見つけて、カルア君が【スティール】スキルを進化させて、カルア君が透明な魔石を採取して、カルア君が時空間魔法の才能を炸裂させて、カルア君が魔石の錬成とかやっちゃって、ね。だからもしチームに名前をつけるのならば、須らくチームカルアとすべきだろうって僕は思うよ」
いや僕のチームって……僕はみなさんを率いても取り纏めてもいませんけど!?
「勿論チームリーダーをやって欲しいとかじゃあないよ? そうじゃなくって……何て言うかな、君はこのチームに於いては『目的』であり『対象』であり『重心』なんだよ。だからさ、チームを象徴する名前って考えると……やっぱり君の名前になるんだよねえ」
いやチームを作るとかって話自体がもう……
「うむ、『チームカルア』か。ならば当然私もメンバー入りしているのだろうな?」
ちょっ!?
「ギルマスまで何さらっとモリスさんの冗談に乗っかってきてるんですか! もう、みんなして揶揄わないで下さいよ」
「いや、別に揶揄ったりとかではありませんよカルア殿。もう既にここにいる皆さんの目的はダンジョンからあなたにシフトしているのですから」
清々しい笑顔でそんな事を言わないで下さいオートカさん!
「――と言っても私がここにいられるのはあと僅かですけどね。今日でおそらく現地調査は一旦完了となるでしょうから。その後は時々モリスに同行して来るくらいでしょうか」
「え? そうなんですか?」
今日で終わり……?
「ええ。今回の我々の目的は『フィラストダンジョンに新しく発見された転送トラップの調査』でしたからね。調査する項目としてはその実在と構造、そして発動条件あたりでしたが、今日これから行う閾値の絞り込みで、それらはほぼ完了します。調査対象がカルア殿であったのなら、これからが本番と言ったところなんですが、そういう訳にはいかないのがとても残念です」
そうか、ここ最近ずっと一緒だったけど……
もうすぐお別れなんだ。
僕の寂しそうな表情に気付いたのか、オートカさんが優しい表情でこう続けた。
「まあ先程も言った通り時々モリスについてきますよ。モリスはもう暫くこちらと王都を往復する筈ですからね、そうでしょうモリス?」
「勿論だよ。将来有望な時空間魔法師の育成だ。何を置いてもやらなくっちゃね。まあこう見えて僕も色々とやらなきゃならない仕事があるから何とか頑張って一週間ってところだろうけど、その間にある程度は詰め込むよ? ちゃんとついてきてね、カルア君!」
「はいっ!」
それはもう全身全霊全力全開で!
「まあ本格的に始めるのはフィラストダンジョンの調査が終わってからになるけどね。今日はこれから僕達と一緒にフィラストに向かってもらうけど、その道中は時空間魔法の講義の時間だよ。到着したら僕達は調査に入るから、その間カルア君は訓練の時間だ。今日の調査は現地で合流する他の人員と一緒にやるから、カルア君はダンジョンへは入らないようにね。彼らに君の【スティール】を見せるわけにはいかないからさ」
ああ、そういえば昨日そんな事言ってたっけ。
「その『他の人員』ってどんな人なんですか?」
「僕の部下達さ。みんなギルドのインフラ技術室のメンバーだよ。現地に到着してから僕が彼らを本部に迎えに行く事になってるんだ。後で君にも紹介するけど、彼らには君の事はあくまで転送トラップの発見者で調査協力者として紹介するから、カルア君も君の抱えているヤバい秘密を彼らに喋らないように気を付けてね。彼らも当然信用出来る連中ではあるけれど、それでもやっぱり知らないままでいるのがお互いの身を守るには一番だからね」
そんな話をしていた僕達の横で、ギルドの人がギルマスに伝言を伝えに来た。
「さて、どうやら馬車の準備が出来たようだからそろそろ出発してはどうかな。今日は私も同行するつもりだ」
「おー、それはいいね。ブラック君が同行してくれると僕としても助かるよ。今回の調査ではうちの連中を一人ずつダンジョンに連れて行く事になるからさ、どうしても毎回数人ずつは外で待つことになるんだ。カルア君には訓練に集中して欲しいし、彼らの警護をしてもらえると助かるよ。まあそれは建前でカルア君との接触を防いで欲しいってのが本音だけど。カルア君ってほら、凄く大事な事でもついうっかり気軽に喋っちゃいそうじゃない?」
うん、自分でもそんな気がする。
「そうだな。もしも魔物に襲われたら考えるより先に【スティール】してしまいそうだしな」
うん、自分でもそんな気がする。
「まあどれだけ僕達が気を回して注意して準備しても、それを全部飛び越えて無邪気に想定外な事をしちゃいそうな気もするんだけどね。実績あるし」
……うん、自分でも、そんな気が……する。
「まあカルア君も気を付けてね。何たってほら、掛かっているのは自分の命だから」
「……気を付けます」
「取り敢えずこれだけ脅かしておけば多少は安心かな? ……よし、じゃあ出発しよう」
そうして僕達は今、馬車に乗ってフィラストダンジョンに向かっている。
僕が乗っているのは勿論モリスさんと同じ馬車、なのだけど今日はギルマスも一緒に乗っている。
そして始まるモリスさんの講義。
楽しい時間。
「いいかいカルア君、時空間魔法ってのは大きく空間魔法と時間魔法に分類されるんだ。で、まず空間魔法だけど……。カルア君も空間把握した時に感じたと思うけど、空間っていうのは幅と奥行きと高さで成り立っているじゃない? そしてその空間に干渉するのが空間魔法だね。次に時間魔法だけど、時間魔法はその空間の中を流れる時間に干渉する魔法なんだよ。だから空間魔法の先に時間魔法があり、それらを合わせて時空間魔法って呼ぶんだ。……どうかな、ここまでは分かるかい?」
ええっと――
「空間はイメージしやすいけど、時間っていうのがふわっとしてイメージしにくいです」
「まあそうだろうね。だからまずは空間魔法から始めるのが時空間魔法習得のセオリーなんだよ。空間の把握に慣れてくるとね、みんな何となく時間との関係が感じ取れるようになってくるんだ。だから最初は時間については深く考えなくても大丈夫。そのうち自然と理解出来るようになる筈さ」
へえ、そういうものなんだ……
「ただひとつだけ例外があってね、それが回復魔法なんだよ。回復魔法は時間魔法の括りである筈なんだけど、何故か時空間魔法の適性を持ってなくっても習得出来ちゃうんだ。その理由は未だ分かっていないけど。もしかしたら時空間魔法じゃなく独立した別の魔法なんじゃないか、なんて説もあるんだけどね。でもその説だって何の確証も得られてないから、今のところは時間魔法って事になってるんだ。まあでも僕としては回復は時間魔法だと思ってるよ。だって回復魔法の得意な人って、時空間魔法の適性がある人が多いからね」
ふむふむ。
「それで時空間魔法にどんなのがあるかって言うと……」
そう言ってモリスさんが説明してくれた、代表的な時空間魔法がこれ。
【回復】傷を治して体力を回復する。初級、中級、上級がある。
【俯瞰】空間を把握して視点を設定できる。
【探知】遠く離れた場所で指定したものを見つける。
【収納】特殊な空間に物を入れる。習得するとボックススキルが派生する。
【遠見】遠く離れた場所の様子を見る。
【転移】遠見した場所に移動する。自分以外を移動させることもできる。
【固定】指定した範囲内の時間を停止する。
【復元】指定した範囲内を指定した時間の状態に戻す。
「このうち既に君が使えてるのは【回復】【俯瞰】【探知】だよね。【探知】はまだ初歩だけど。そして今日これから君に教えるのが【収納】だ。これは君も聞いている通り【スティール】スキルを隠蔽する為に覚えてもらうよ。これから君が持つスキルは、公式には【ボックス】スキルって事になるからそのつもりでね」
凄いや。そしたら魔法の鞄がいらなくなっちゃうよ!
「その次に覚えるのが【遠見】だよ。その覚え方は【探知】を繰り返し練習する事なんだ。身体が【探知】を完全に理解したら、自然と【遠見】に至る事が出来るよ。そして【遠見】した場所に瞬間的に移動するのが【転移】だね。【転移】自体は目に見える範囲に対して行うこともできるから、短距離の【転移】だけを先に練習してもいいかもね」
「そしていよいよここからが時間魔法だよ。まずは【固定】。これは【収納】魔法とセットで使うととても便利な魔法なんだ。何と収納したものの時間を停止する事が出来ちゃうんだ。そしてボックススキルの追加機能としても使用できる。ボックススキルの一部として組み込まれるんだよ」
待って、それってボックスの中でいつまでも新鮮なまま保存できるって事!?
ナニソレ便利すぎ!!
「もちろん通常の魔法としても使えるよ。でも時間を止めている間はその範囲内に対して何の干渉も出来ないから使いどころが難しいけどね。そして次は【復元】。壊れたものを壊れる前に戻したりできる魔法だね。時間の流れは【回復】の真逆となる魔法だけど、【回復】の代わりとしても使用できる。ただし、この魔法は必要な魔力がもの凄く多いんだ。しかも遡る時間は使う魔力に比例するから、あまり前の状態には戻せない。もし【回復】の代わりに使わなきゃならない時が来たら、一秒でも早く使う事。じゃないと後悔する事になるかもしれないからね」
「まあ他にもいくつかの魔法があるんだけどね。それらはどちらかと言うと派生とか応用といった感じだね。君も色々と応用を考えてみるといいよ。ただし、人前でやる前に必ず僕に相談すること。これは絶対約束だ。君の場合、下手をすると『時空間魔法が上達したら人類の天敵になりました』なんて事になりかねないからね」
……人類の天敵にはなりたくないよ。絶対に気を付けなきゃ。
「おっと、どうやら到着したようだね。それじゃあ馬車を降りようか」
どうやら講義はここまでのようだ。
僕達は揃って馬車から降りた。
「さてと、僕はこれからメンバーを連れに行ってくるから少し待っててくれよ。オートカ、戻ったら彼らを軽く紹介してそのままダンジョンに入るから、準備よろしく。それでカルア君、実は収納魔法ってさ、概念的には時間魔法の先にある魔法なんだ。だから本当は習得は難しいんだけど、幸いな事にここには魔法の鞄があって、君もそれを使った事がある。いいかい? 今日の君の訓練はイメージする事だ。君の手のひらの上に目に見えない魔法の鞄があってその中に物を入れる、それをイメージするんだ。入れる物はそこらの石ころとかで構わない。大事なのはイメージだからね。理屈は後からついていてくるはずさ。まずはひたすら繰り返して体で覚えるんだ」
そしてモリスさんは転移していった。
「カルア君、大変に内容の濃い講義だったが、どうだった?」
「そうですね、ひとつずつやっていくしかない感じです。でも前にモリスさんが言ってましたけど、時空間魔法は全部繋がっているそうなんです。だから、モリスさんの指示してくれた順番でひとつずつやっていけば、必ず次の魔法に繋がっているんだと思います」
「そうか……きっと君ならば時空間魔法を修める事が出来ると信じている。頑張ってくれたまえ」
「はい、ありがとうございますギルマス」
そして僕達はモリスさんの戻りを待つ。
▽▽▽▽▽▽
このお話が面白いと感じてくれた方、「いいね」をお願いします。
続きが気になる方、「お気に入り」登録はいかがですか。
作者に一言ツッコみたい方やモノ申したい方、「感想コメント」お気軽にどうぞ。
勿論食事を終えピノさんを家に送り届けてから、だけどね。
折角のピノさんとの楽しい時間、話し相手がグラスだなんてもったいないでしょ。
それに……僕がグラスを説得する姿をピノさんに見せたくなかったから。
勿論恥ずかしかったからってのもあるよ? でもそれよりも、僕のその姿を見てピノさんがどう思うか心配だったから。
自分と同じ事をしている誰かを見て、妙に冷静になって居た堪れなくなった事ってない?
僕は……実はあるんだ。
あれはそう――僕のバイブルであるあの物語の主人公、彼に憧れるあまり物語の中での彼の言動をそっくりそのまま真似していた頃のこと。
その日、ラビットを狩る事が出来た僕は、まるで一端の冒険者になったみたいな自分にうれしくなって、奮発して街の食堂でご飯を食べていたんだ。
するとそこに、僕より少し年上かなくらいの男の人が入ってきて……
その人は、当時の僕と同じように彼を完コピしていたんだ!
その人がやっていたコピーは決して下手じゃなく、むしろ僕よりもずっと上手だった。
でも、でもね……、ああ周りから見ると僕ってこんな風なんだなあって思ったら、急に醒めた気持ちになって……その人を見続けるうちに、どんどん居た堪れない気持ちになって……急いで食事を終えて……逃げるように家に帰ったんだ。
『坊主、人の真似をするっていうのは決して悪いことじゃあ――』
ごめん主人公、今は聞きたくないよっ!!
そして僕は僕に戻った。
そんな過去。そんな……黒歴史っ!
そう、ピノさんがその時の僕になるんじゃあないかって、本気で思ったから。
本気で心配したから。
だって付与してる時のあの姿…………ねえ?
まあそういう訳で一人だけの部屋の中、僕はずっとグラスに話し掛けてたってわけ。
それから何度も何度も失敗して、色々言い方を工夫してそれでも失敗して、どうやったら上手に説得出来るだろう……そんな試行錯誤の数時間の後、僕は一つの事に気付いた。
あ……魔力注いでないや。
いや、だって話し掛けるあのインパクトが凄すぎて、頭から『ぽーん』って飛んでたんだよ。……話し掛けながら付与する物へと魔力を注ぐんだって事を。
うん……仕方ない仕方ない。だってほら、インパクトが……ね?
真剣にお鍋を応援している(ように見える)ピノ姉さん――ふふっ、可愛かったなあ。
そしてさっきまでの僕って……
ホントにただグラスに話しかけるだけの人、だったんだよなあ。
ははは…………はぁぁ、今日はもう寝よ。
「おはようございます!」
今日もいつもの調査団の部屋。
まあ本当はギルドの個室なんだけどね。
職員の皆さん、朝の混雑で忙しかったみたいで、僕を見ると笑顔でこの部屋を指さした。
僕も笑顔で会釈して部屋まで来たけど……うーん、顔パスってやつ?
部屋に入るともうみんな勢揃いしていた。
「ああ、おはようございます。カルア殿」
「いやあ、おはようカルア君。僕達も今来たところだから、みんなほぼ同着だよ。何だろうねえ、こうして揃って同じ時間に集まるってさ、チームって感じがしていいねえ。ん? チーム……チームか。うん、そうだね。今回の件ってさ、初めからカルア君が中心だったじゃない。カルア君が転送トラップを見つけて、カルア君が【スティール】スキルを進化させて、カルア君が透明な魔石を採取して、カルア君が時空間魔法の才能を炸裂させて、カルア君が魔石の錬成とかやっちゃって、ね。だからもしチームに名前をつけるのならば、須らくチームカルアとすべきだろうって僕は思うよ」
いや僕のチームって……僕はみなさんを率いても取り纏めてもいませんけど!?
「勿論チームリーダーをやって欲しいとかじゃあないよ? そうじゃなくって……何て言うかな、君はこのチームに於いては『目的』であり『対象』であり『重心』なんだよ。だからさ、チームを象徴する名前って考えると……やっぱり君の名前になるんだよねえ」
いやチームを作るとかって話自体がもう……
「うむ、『チームカルア』か。ならば当然私もメンバー入りしているのだろうな?」
ちょっ!?
「ギルマスまで何さらっとモリスさんの冗談に乗っかってきてるんですか! もう、みんなして揶揄わないで下さいよ」
「いや、別に揶揄ったりとかではありませんよカルア殿。もう既にここにいる皆さんの目的はダンジョンからあなたにシフトしているのですから」
清々しい笑顔でそんな事を言わないで下さいオートカさん!
「――と言っても私がここにいられるのはあと僅かですけどね。今日でおそらく現地調査は一旦完了となるでしょうから。その後は時々モリスに同行して来るくらいでしょうか」
「え? そうなんですか?」
今日で終わり……?
「ええ。今回の我々の目的は『フィラストダンジョンに新しく発見された転送トラップの調査』でしたからね。調査する項目としてはその実在と構造、そして発動条件あたりでしたが、今日これから行う閾値の絞り込みで、それらはほぼ完了します。調査対象がカルア殿であったのなら、これからが本番と言ったところなんですが、そういう訳にはいかないのがとても残念です」
そうか、ここ最近ずっと一緒だったけど……
もうすぐお別れなんだ。
僕の寂しそうな表情に気付いたのか、オートカさんが優しい表情でこう続けた。
「まあ先程も言った通り時々モリスについてきますよ。モリスはもう暫くこちらと王都を往復する筈ですからね、そうでしょうモリス?」
「勿論だよ。将来有望な時空間魔法師の育成だ。何を置いてもやらなくっちゃね。まあこう見えて僕も色々とやらなきゃならない仕事があるから何とか頑張って一週間ってところだろうけど、その間にある程度は詰め込むよ? ちゃんとついてきてね、カルア君!」
「はいっ!」
それはもう全身全霊全力全開で!
「まあ本格的に始めるのはフィラストダンジョンの調査が終わってからになるけどね。今日はこれから僕達と一緒にフィラストに向かってもらうけど、その道中は時空間魔法の講義の時間だよ。到着したら僕達は調査に入るから、その間カルア君は訓練の時間だ。今日の調査は現地で合流する他の人員と一緒にやるから、カルア君はダンジョンへは入らないようにね。彼らに君の【スティール】を見せるわけにはいかないからさ」
ああ、そういえば昨日そんな事言ってたっけ。
「その『他の人員』ってどんな人なんですか?」
「僕の部下達さ。みんなギルドのインフラ技術室のメンバーだよ。現地に到着してから僕が彼らを本部に迎えに行く事になってるんだ。後で君にも紹介するけど、彼らには君の事はあくまで転送トラップの発見者で調査協力者として紹介するから、カルア君も君の抱えているヤバい秘密を彼らに喋らないように気を付けてね。彼らも当然信用出来る連中ではあるけれど、それでもやっぱり知らないままでいるのがお互いの身を守るには一番だからね」
そんな話をしていた僕達の横で、ギルドの人がギルマスに伝言を伝えに来た。
「さて、どうやら馬車の準備が出来たようだからそろそろ出発してはどうかな。今日は私も同行するつもりだ」
「おー、それはいいね。ブラック君が同行してくれると僕としても助かるよ。今回の調査ではうちの連中を一人ずつダンジョンに連れて行く事になるからさ、どうしても毎回数人ずつは外で待つことになるんだ。カルア君には訓練に集中して欲しいし、彼らの警護をしてもらえると助かるよ。まあそれは建前でカルア君との接触を防いで欲しいってのが本音だけど。カルア君ってほら、凄く大事な事でもついうっかり気軽に喋っちゃいそうじゃない?」
うん、自分でもそんな気がする。
「そうだな。もしも魔物に襲われたら考えるより先に【スティール】してしまいそうだしな」
うん、自分でもそんな気がする。
「まあどれだけ僕達が気を回して注意して準備しても、それを全部飛び越えて無邪気に想定外な事をしちゃいそうな気もするんだけどね。実績あるし」
……うん、自分でも、そんな気が……する。
「まあカルア君も気を付けてね。何たってほら、掛かっているのは自分の命だから」
「……気を付けます」
「取り敢えずこれだけ脅かしておけば多少は安心かな? ……よし、じゃあ出発しよう」
そうして僕達は今、馬車に乗ってフィラストダンジョンに向かっている。
僕が乗っているのは勿論モリスさんと同じ馬車、なのだけど今日はギルマスも一緒に乗っている。
そして始まるモリスさんの講義。
楽しい時間。
「いいかいカルア君、時空間魔法ってのは大きく空間魔法と時間魔法に分類されるんだ。で、まず空間魔法だけど……。カルア君も空間把握した時に感じたと思うけど、空間っていうのは幅と奥行きと高さで成り立っているじゃない? そしてその空間に干渉するのが空間魔法だね。次に時間魔法だけど、時間魔法はその空間の中を流れる時間に干渉する魔法なんだよ。だから空間魔法の先に時間魔法があり、それらを合わせて時空間魔法って呼ぶんだ。……どうかな、ここまでは分かるかい?」
ええっと――
「空間はイメージしやすいけど、時間っていうのがふわっとしてイメージしにくいです」
「まあそうだろうね。だからまずは空間魔法から始めるのが時空間魔法習得のセオリーなんだよ。空間の把握に慣れてくるとね、みんな何となく時間との関係が感じ取れるようになってくるんだ。だから最初は時間については深く考えなくても大丈夫。そのうち自然と理解出来るようになる筈さ」
へえ、そういうものなんだ……
「ただひとつだけ例外があってね、それが回復魔法なんだよ。回復魔法は時間魔法の括りである筈なんだけど、何故か時空間魔法の適性を持ってなくっても習得出来ちゃうんだ。その理由は未だ分かっていないけど。もしかしたら時空間魔法じゃなく独立した別の魔法なんじゃないか、なんて説もあるんだけどね。でもその説だって何の確証も得られてないから、今のところは時間魔法って事になってるんだ。まあでも僕としては回復は時間魔法だと思ってるよ。だって回復魔法の得意な人って、時空間魔法の適性がある人が多いからね」
ふむふむ。
「それで時空間魔法にどんなのがあるかって言うと……」
そう言ってモリスさんが説明してくれた、代表的な時空間魔法がこれ。
【回復】傷を治して体力を回復する。初級、中級、上級がある。
【俯瞰】空間を把握して視点を設定できる。
【探知】遠く離れた場所で指定したものを見つける。
【収納】特殊な空間に物を入れる。習得するとボックススキルが派生する。
【遠見】遠く離れた場所の様子を見る。
【転移】遠見した場所に移動する。自分以外を移動させることもできる。
【固定】指定した範囲内の時間を停止する。
【復元】指定した範囲内を指定した時間の状態に戻す。
「このうち既に君が使えてるのは【回復】【俯瞰】【探知】だよね。【探知】はまだ初歩だけど。そして今日これから君に教えるのが【収納】だ。これは君も聞いている通り【スティール】スキルを隠蔽する為に覚えてもらうよ。これから君が持つスキルは、公式には【ボックス】スキルって事になるからそのつもりでね」
凄いや。そしたら魔法の鞄がいらなくなっちゃうよ!
「その次に覚えるのが【遠見】だよ。その覚え方は【探知】を繰り返し練習する事なんだ。身体が【探知】を完全に理解したら、自然と【遠見】に至る事が出来るよ。そして【遠見】した場所に瞬間的に移動するのが【転移】だね。【転移】自体は目に見える範囲に対して行うこともできるから、短距離の【転移】だけを先に練習してもいいかもね」
「そしていよいよここからが時間魔法だよ。まずは【固定】。これは【収納】魔法とセットで使うととても便利な魔法なんだ。何と収納したものの時間を停止する事が出来ちゃうんだ。そしてボックススキルの追加機能としても使用できる。ボックススキルの一部として組み込まれるんだよ」
待って、それってボックスの中でいつまでも新鮮なまま保存できるって事!?
ナニソレ便利すぎ!!
「もちろん通常の魔法としても使えるよ。でも時間を止めている間はその範囲内に対して何の干渉も出来ないから使いどころが難しいけどね。そして次は【復元】。壊れたものを壊れる前に戻したりできる魔法だね。時間の流れは【回復】の真逆となる魔法だけど、【回復】の代わりとしても使用できる。ただし、この魔法は必要な魔力がもの凄く多いんだ。しかも遡る時間は使う魔力に比例するから、あまり前の状態には戻せない。もし【回復】の代わりに使わなきゃならない時が来たら、一秒でも早く使う事。じゃないと後悔する事になるかもしれないからね」
「まあ他にもいくつかの魔法があるんだけどね。それらはどちらかと言うと派生とか応用といった感じだね。君も色々と応用を考えてみるといいよ。ただし、人前でやる前に必ず僕に相談すること。これは絶対約束だ。君の場合、下手をすると『時空間魔法が上達したら人類の天敵になりました』なんて事になりかねないからね」
……人類の天敵にはなりたくないよ。絶対に気を付けなきゃ。
「おっと、どうやら到着したようだね。それじゃあ馬車を降りようか」
どうやら講義はここまでのようだ。
僕達は揃って馬車から降りた。
「さてと、僕はこれからメンバーを連れに行ってくるから少し待っててくれよ。オートカ、戻ったら彼らを軽く紹介してそのままダンジョンに入るから、準備よろしく。それでカルア君、実は収納魔法ってさ、概念的には時間魔法の先にある魔法なんだ。だから本当は習得は難しいんだけど、幸いな事にここには魔法の鞄があって、君もそれを使った事がある。いいかい? 今日の君の訓練はイメージする事だ。君の手のひらの上に目に見えない魔法の鞄があってその中に物を入れる、それをイメージするんだ。入れる物はそこらの石ころとかで構わない。大事なのはイメージだからね。理屈は後からついていてくるはずさ。まずはひたすら繰り返して体で覚えるんだ」
そしてモリスさんは転移していった。
「カルア君、大変に内容の濃い講義だったが、どうだった?」
「そうですね、ひとつずつやっていくしかない感じです。でも前にモリスさんが言ってましたけど、時空間魔法は全部繋がっているそうなんです。だから、モリスさんの指示してくれた順番でひとつずつやっていけば、必ず次の魔法に繋がっているんだと思います」
「そうか……きっと君ならば時空間魔法を修める事が出来ると信じている。頑張ってくれたまえ」
「はい、ありがとうございますギルマス」
そして僕達はモリスさんの戻りを待つ。
▽▽▽▽▽▽
このお話が面白いと感じてくれた方、「いいね」をお願いします。
続きが気になる方、「お気に入り」登録はいかがですか。
作者に一言ツッコみたい方やモノ申したい方、「感想コメント」お気軽にどうぞ。
268
あなたにおすすめの小説
一流冒険者トウマの道草旅譚
黒蓬
ファンタジー
主人公のトウマは世界の各地を旅しながら、旅先で依頼をこなす冒険者。
しかし、彼には旅先で気になるものを見つけると寄らずにはいられない道草癖があった。
そんな寄り道優先の自由気ままなトウマの旅は、今日も新たな出会いと波乱を連れてくる。
35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~
月神世一
ファンタジー
紹介文
「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」
そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。
失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。
「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」
手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。
電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。
さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!?
森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、
罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、
競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。
これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。
……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!
極限効率の掃除屋 ――レベル15、物理だけで理を解体する――
銀雪 華音
ファンタジー
「レベル15か? ゴミだな」
世界は男を笑い、男は世界を「解体」した。
魔力も才能も持たず、万年レベル15で停滞する掃除屋、トワ。
彼が十年の歳月を費やして辿り着いたのは、魔法という神秘を物理現象へと引きずり下ろす、狂気的なまでの**『極限効率』**だった。
一万回の反復が生み出す、予備動作ゼロの打撃。
構造の隙間を分子レベルで突く、不可視の解体。
彼にとって、レベル100超えの魔物も、神の加護を受けた聖騎士も、ただの「非効率な肉の塊」に過ぎない。
「レベルは恩恵じゃない……。人類を飼い慣らすための『制限(リミッター)』だ」
暴かれる世界の嘘。動き出すシステムの簒奪者。
管理者が定めた数値(レベル)という鎖を、たった一振りのナイフで叩き切る。
これは、最弱の掃除屋が「論理」という名の剣で、世界の理(バグ)を修正する物語。気になる方は読んでみてください。
※アルファポリスで先行で公開されます。
異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない
葉泪秋
ファンタジー
「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー)
ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。
神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。
そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。
ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。
早く穏やかに暮らしたい。
俺は今日も、規格外に育った野菜を手、皆の姿を眺めている。
【毎日18:00更新】
※表紙画像はAIを使用しています
中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた
Mr.Six
ファンタジー
仕事に疲れ、酒に溺れた主人公……。フラフラとした足取りで橋を進むと足を滑らしてしまい、川にそのままドボン。気が付くとそこは、ゲームのように広大な大地が広がる世界だった。
訳も分からなかったが、視界に現れたゲームのようなステータス画面、そして、クエストと書かれた文章……。
「夢かもしれないし、有給消化だとおもって、この世界を楽しむか!」
そう開き直り、この世界を探求することに――
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
転生したみたいなので異世界生活を楽しみます
さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。
誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。
感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
不死王はスローライフを希望します
小狐丸
ファンタジー
気がついたら、暗い森の中に居た男。
深夜会社から家に帰ったところまでは覚えているが、何故か自分の名前などのパーソナルな部分を覚えていない。
そこで俺は気がつく。
「俺って透けてないか?」
そう、男はゴーストになっていた。
最底辺のゴーストから成り上がる男の物語。
その最終目標は、世界征服でも英雄でもなく、ノンビリと畑を耕し自給自足するスローライフだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
暇になったので、駄文ですが勢いで書いてしまいました。
設定等ユルユルでガバガバですが、暇つぶしと割り切って読んで頂ければと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる