スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木

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第96話 ラルがやって来る ヤァヤァヤァ #3

出会ったコボルトやケットシーを無差別に拉致したピノさん!
他の女性陣と一緒に、その子達を無理矢理全身隈無く撫で回す、ピノさん!!
ぐったりと動けなくなった彼らをその場に残し、次の獲物に襲い掛かる……ピノさん!!!

その繰り返しによりセントラルダンジョンでは4階層に渡って被害者が続出、彼らは今でも動くモノが視界に入るとビクッと怯えた顔をするらしい。

「……可哀想ですけどあの子達はもう、ダンジョンの魔物としては終わっちゃってるです。じっくり時間をかけてケアしてあげて……それで心の傷が癒せればいいですけど、多分それは叶わない望みな気がするです」

そういえば聞いた事がある。
同じ症状で冒険者を引退する人達もいるって……

「だからせめて、あの子達の心の負担にならないセカンドキャリアを見つけてあげたい……です」

その人達、次は穏やかな仕事を探すって……

にしても――
「ピノさん……普通にエンカウントした魔物を……モフってきちゃったんですか」
確かに『そおっと抱き寄せて優しく撫でてあげただけ』かもしれないけど……

「だって……だって可愛かったん、だもん……」
胸の前で絡ませた両手の指をモジモジと動かしながら、視線を落として気まずそうにそう答えるピノさん。その仕草は、何だかいつものピノさんと違って……

「冒険者に殺されるのならいいです、それは循環の環に戻るだけですから。でも管理者の私にそれは出来ないです。だってそれは管理者による削除、つまり消滅って事になっちゃうです。でもだからと言ってあの状態のあの子達を冒険者の前に出すのは流石に……」

ラルがじっとピノさんを見てそう続けた。
さっきまでの勢い任せと違って今は落ち着いてるみたいだけど、今のラルに怯えた様子はない。
ピノさんが見せた反応に、危険は無さそうだと思ったのかな?

でも……
冒険者を怖がるようになっちゃったコボルトやケットシー、しかも撫でられる気持ち良さを強制的に覚え込まされちゃった、かぁ……

「じゃあさ、その子達を第10階層の『ふれあいボスの間』の担当にしたら?」

それなら戦わなくてすむし、優しく撫でてもらえるだろうし。うん、我ながら名案かも。

「それも考えたですけど――」

あれ? 何か問題が?

「そしたらビクビク怯える子達が遠巻きに眺めてくるだけの部屋になっちゃうですよ?」

あ……
そもそも触れ合えないのか……

「……じゃあ一度に全員じゃなくって、他の子達に混ぜて少しずつ入れてみるとかは? あと最初は短時間でローテーションしたり。他の人懐っこい子達と一緒なら、その子達も自分のペースでゆっくりと馴れていけるんじゃないかな」

「そうか、一度に全員とかじゃなければ……」
軽く視線を下げて考え込むラル。
何となくいけそうな気がするけど、プロの目から見てどうだろう?

「うん、それだったら! さっすがカルアお兄ちゃんです! そこのトラウマインプランターなんかにはもっったいない、最高のお兄ちゃんです!!」
と、大はしゃぎのラル。
よかった、大丈夫みたい。

でも、それとは対照的に――
「……トラウマインプランター」
ガックリと肩を落とすピノさん。
うーん、こちらは頑張れとしか……



そんなピノさんだったけど、暫くするとガバッと顔を上げ、ラルの目をじっと見つめた。
「ラルちゃん!」
「はっ、はいぃ!?」ビクビクッ
ラルがビクッとしたのは驚いたから? それともまた恐怖が再来?

「ラルちゃん、ごめんなさい! 私、あの子達がそんなに怖がって嫌がってるなんて気付かなくって……」
「ぅぇえ?」
急な謝罪に戸惑った声を上げるラル。でもそんなピノさんの真剣な表情に一つ溜め息を吐き、そして――
「……仕方ないです。そういう事なら赦してやらない事もないです」
大人の対応。見た目は子供なのにね。

その返事に凄くホッとした表情を見せるピノさん。
「ホントっ!? じゃ、じゃあ」
「た・だ・し!」
「え?」
「当分は『ふれあいボスの間』は入室禁止です!」
でもそこから一転、今度は愕然とした表情に。
「ええっ、どうして……」

「どうして、って……あのですね、さっきのカルアお兄ちゃんの話、聞いてたです? これからあそこへは、強制モフ被害者の子達が配属されるですよ? もしそこにあなたが現れたりしたら、その子達がどうなるか……分かるですよね?」
「……はい、ごめんなさい」

シュンと小さくなるピノさん。
反論の余地は無いっぽい。

「それと、同行した他の連中は1ヶ月間の入室禁止です。あの人達は本当に撫でてただけですから、多分それくらい経てばあの子達も受け入れられる筈です。連中にはちゃんとあなたから伝えとくですよ?」
「はい……」
「ならこの話はこれでおしまいです。仮にもあなたはカルアお兄ちゃんのお姉さんという立場ですから、当方には敵対関係を続ける意思は無いです」

そして少し間を空ると、あらためて柔らかな微笑みを浮かべた。
「だから、お互いの自己紹介からやり直すです」

ホント、見た目は子供、対応は超大人だよ、ラル。
でも……よかったあ!



それからピノさんとラルはお互い少しずつ話し始め、やがてその話は少しずつ弾んでゆき、そしてお互い少しずつ打ち解けていった。

「……ところで、あの時確かに目が合ったです。あれは絶対気のせいとかじゃ無かったです」

あの時? ってどの時?

「それってもしかして、ケットラちゃんが出てきた時の事?」
「ですです」
「うん。あの時、視線っていうか気配っていうか、何だか見られてるなって分かったの。その気配の発信元を見てた感じかな」

「…………」
変な顔で固まるラル。

「どうしたのラルちゃん?」
「あれ、ダンジョンの管理者権限で『絶対気付かれない監視機能』を使ってたですよ? いいです? 『絶対気付かれない』が売りの機能ですよ?」

『信じられない』って感じのラルと、『うーん』って考え込むピノさん。

「そういうのタイプの相手とは昔よくやりあったから……えっと、慣れちゃったのかな?」
「そんな……あり得ないです! だってダンジョン管理用ですよ? それこそ時空間魔法の【隠蔽】にだって――」

「ああっ!!」
そうだよ! さっきだって――

「っ!? ビックリしたぁ……カルアお兄ちゃん、急にどうしたです?」
「ねえラル、さっきピノさんが来た時さ、ラル【隠蔽】掛けてたよね?」
「ええ、もちろんちゃんと……って、ああっ!!」

そう、【隠蔽】してた筈のラルをピノさんが捕まえたんだ。それもあっさりと。
「何で【隠蔽】してたのに捕まえられたです? しかもあの時、剥がされた布団の動きに合わせてその場から離れたのに」
「だって気配が――」
「する訳ないです。だってカルアお兄ちゃんの【隠蔽】って、薄っすら【空間遮断】までやってるトンデモ仕様ですよ?」

校長先生の真似なんだけどね。

「そんな事言っても――」
「理屈に合わないです。感じ取れる要素なんて何処にも無い筈です!」
「えっと……理屈じゃないの、感じるんだもの」
「……理屈じゃ……ない……?」

ひどく恐ろしいモノを見るような目でピノさんを見るラル。
もしかして最初に逆戻り? ここまで打ち解けてきたのに……

「今はっきり分かったです、一緒にいた連中がこの人の事を『ピノ様』って呼んでた理由。ただの愛称とか思ってたですけど……この得体の知れない恐怖と底が知れない能力、これこそがその理由だったです。君臨する者に対する敬称として『様』を付けてたです!」

えっ、そうだったの!?
ピノさん!?

「ちょっとラルちゃんそれ誤解! カルア君もそんな顔しないで――」
「どう呼ぼうか悩んでたですけど、こうなったら仕方ないです。今から私も『ピノ様』とお呼びするです。でもこの心はカルアお兄ちゃんのもの、それだけは売り渡さないです!」
「ええぇぇ……」

そしてラルはピノさんにビシッと人差し指を突きつける! 軽く背を反らせながら。

「いいですね、はこれから『ピノ様』の事を『ピノ様』って呼ぶです!」
「うう、イヤだなあ」
「返事はハイかイエスかオーケーの三択です!」
「それって実質一択――」
「い・い・で・す・ね!?」
「はい! ぅぅもう、分かったよ……」
「オーケー、分かればいいですよ、ピノ様」

上からなのか下からなのかよく分からない立ち位置のラル。もしかしてこれ、単なる勢い任せとか?
でもひとつだけ確実なのは、この時からラルが自分の事を『ラル』って呼ぶようになったってこと。その後の話でもずっと自分の事をそう呼んでたから。



そして夜。
ピノさんも帰って僕と二人きりになったラルは放心したような表情で、呟くように囁くように――

「カルアお兄ちゃん、ラル頑張ったです。とってもとっても怖かったけど、最後まで頑張れたです。ラル、ちゃんと頑張れてた……ですよね?」

そう僕を見上げてきたラルに、僕は勿論――
「うん、よく頑張ったねラル。僕ちゃんと見てたから。すっごく偉かったよ」
って頭を撫でてあげる。

暫く気持ち良さそうにしてたラルだったけど、やがて笑顔で帰っていった。
「じゃあカルアお兄ちゃんバイバイ。また明日です」
あ、もちろん部屋からそのまま【転移】でシュンとね。

さてと、じゃあ僕もそろそろ寝ようかな……



……ってあれ?
ラル、明日また来るって言った?



▽▽▽▽▽▽
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