天才騎士候補生、自分探しの旅に出る

戸山紫煙

文字の大きさ
5 / 7

これから

しおりを挟む
リリーは食事の度、生活の提案をした。
「真面目に勉強するのも、剣の技を磨くのも良いことだわ。でも、もう少し何かした方がいいんじゃないかしら。」
その後に続く文句は決まって芸事のことばかりである。楽器を習ってみること、絵を描くこと、そのいずれもアランには興味がなかった。
「うーん、そうだね。」
上の空でいつも同じ返答ばかりを返していた。まるで卒業を経ても変わらない会話にリリーもアランも飽き飽きしていた。
親子の空気は冷め切っていた。はじめは飛び級卒業をした“優秀な息子”を持ったリリーも喜んでいたが、次第にそれからの進展をしない息子に悩みと苛立ちを覚えていたのだ。同様に、そんな母親の感情を感じ取り、アランは焦りと不安を覚えていた。
『僕って、何なのだろう?』
この年で11歳となるアランには難しい問いだった。外では同年代の少年たちがカバンを背負って学校への往来をする。そうあった方がよかったのではないか、自分は何をすべきなのか、そんなことを決めるには幼すぎた。
リリーもアランの行く末に不安を感じていたら。
『彼は何になら興味を持つのかしら。』
とにかく街中の習い事を調べた。しかし、夕飯のときのアランの返答に変化はなかった。見た目には見えないところでリリーは消耗し、やつれていった。

もはや長い時が流れ、卒業から3年が経った。食卓での会話は殺伐とし、アランとリリーは必要な言葉しか交わさなくなっていた。二人は互いに疲れ切っていた。
食事を終えて、無心に木刀を振るうアランは13歳になったになってもいまだにすべきことを考えていた。
『こんなことなら、普通に学生をしていればよかった。“天才”なんて、いいことなかったじゃないか。』
最近の彼はひたすらに周りの人々の呼ぶ“天才”という言葉を恨んでいた。しかし、恨みは募っても将来のことは何も見えなかった。
外を歩く学生を見るとアランは身を隠すようになった。同級生と出会ってしまったときに合わせる顔がないからだ。日が暮れて家の前の通りを学生が通るようになると、それまでしていた剣の訓練をやめて、家の中へ戻るのだった。
自分の部屋に篭ってからはこれまで学んできたことの復習をしていた。たまに図書館へ赴いては歴史書を借りてきて、一通り目を通すのだ。
『どの本も似たようなことばかり、ここの話は前に他の本で読んだな…』
アランはため息をついて本を閉じた。もう外は暗くなっていた。
「アラン、夕飯よ。」
いつものようにリリーが声をかけるとアランは階段を降りて食卓へ向かった。
『いつからこんなに食事は静かになったんだっけ。』
アランはふとそんなことを考えた。気にも留めなかったことを気にすると、寂しくなった。
「ごちそうさま。」
アランは早々に食事を終えて、自室へ戻った。自室の扉を閉めると、アランはベッドに横になって外の月明かりにうっすら照らされた天井を眺めた。
『また1日終わった。明日は何をしよう。図書館にまた行こうかな。』
ぼんやりと近い未来のことを考える。ひたすら変化のない毎日を考えてアランはまた深いため息をついた。
『やっぱり、家にいればいいや。』
眠くない瞳を閉じてアランは寝返りをうった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

処理中です...