上 下
12 / 23
龍星本山編

十話 修行って思ったより長続きするもんじゃない

しおりを挟む
2日目

ノルマを終わらし、今日の分の仕事が無くなった俺は運動場にいた。

もちろん、レッスンのためである。

当たり前だが、タイムカードは通していない。だって、
これも仕事の一環だもーん。

「すみませぇん。遅れましたぁ。」

清嶺地先輩に相当傷付けられていたはずなのに、柊さんはピンピンした状態で運動場に現れた。

あの後、先輩をさりげに自室に運び込もうとしていた俺なのだが、疲れ切って寝てしまっていただけらしく輸送中に起きた先輩にセクハラと勘違いされてしまった。

全く失礼な話である。

先輩曰く、自分は武器ありきで戦うのが前提のため仕方のない敗北だったという。

そして、先輩から柊宛の手紙を受け取った。

「柊さん。先輩からのお手紙を預かっております。どーぞ。」

そうして、受け取って中を見た柊の顔がいつもの笑顔から真顔になる。

「何が書いてあったんすか?」

柊に見せてもらうと、そこには

『誰がテメェみたいな体だけ柔らかくて胸の硬い女に教わるかよ、一生行かねーよクソが。』

と書いてあった。

こりゃひでぇ。

「えっとぉ。どうやらぁキーラちゃんはもう来ないみたいなのでぇ。私たちだけでやりましょうかぁ。」

今日もひたすらに受け身の練習を行う。

「はいぃ。基本の受け身はバッチリですねぇ。なのでぇ、実際に受け身をとる練習をしましょうかぁ。」

そう言って近づいてきていきなり俺を掴む柊。

「いっきますよぉ。」

「うっそぉ。」

俺の体が思いっきり上に投げ上げられる。

「受け身って普通こんな高さからとるものじゃないと思うんですけどぉぉぉ!?」

バッシーン

「痛いぃぃ!!!」

受け身はなんとかとれたものの、手のひらがジンジンの10倍近く痛む。

「うーん。及第点ってところですねぇ。じゃあもう一回いきますよぉ。」

「ちょっと待ってぇー!?」

こんなことが、この後1時間ほど続いた。

「さて、こんだけやれば十分ですね。じゃあ次行きますよぉ。」

「えぇ?まだ、やるんすかぁ!?」

「はいぃ。あと、流しと捌きを覚えて、それの実践をやったら今日は終わりですぅ。」

「はぁ!?」

そして、3時間後。ズタボロになって運動場で倒れている俺が発見された。



「まったく、貴方ねぇ、施設料払ってるからっていくらでも使っていいってわけじゃないのよ?」

久しぶりの登場である内海先生にお叱りを受ける。

「使うもんは使わなきゃもったいないじゃないすか。」

「まぁ、とりあえず大丈夫そうなら帰りなさいよ。」

「ありがとーございました。」

3日目

今日は仕事が多く、学校もあったため23時からのスタートだった。

残念なことに、この残念なお胸の監察官は疲れというものを知らないらしい。

今日も容赦なく投げられ、容赦なく殴ってくる。

本人曰く、「実践に近い練習をすることでぇ、いざという時発揮できるんですよぉ。」ということらしいが練習で死んでしまっては意味がない気がする。

「さぁてぇ、次行きますよぉ~」

はっと気がついた時には目の前に拳。

「ああぁっ!!」



「ちょっとぉ、昨日言ったこと覚えてる?」

起きると、目の前には内海先生。何かデジャヴを感じる。

「いやぁ、先生に会いたくてついつい。」

「深夜に呼び出される身にもなってみなさい!」

4日目

ワイワイギャーギャー

学校の屋上での俺の安らかな睡眠を妨げる愚かものどもがいる。

いわゆるスクールカーストトップ組だ。屋上でみんなで記念撮影ですか。

あいつらはいいなぁ、どうせ将来の心配とか明日生きてるかどうかとか気にせず、今を謳歌してるんだろうなぁ。

羨まし。

そんなこと考えてると非常にムカついてきた。

なんで、俺は全て持ってるやつらに睡眠の時間まで奪われなきゃいかんのだろうか。

こっちは毎日、大量の仕事と訓練の毎日でまともに睡眠も取れてないっていうのによぉ。

ちょっとばかし怖い思いしてもらおうかな。

取り出したのは、こちらのベレッタM92。拳銃でございます。こちらはですね、フェデーレさんが護身用にとくださり、ご丁寧にも使い方まで教えてくださりました。

そして、こちらに弾を込めてですね。

物陰からよーく狙ってぇー。

パンッ

「えぇっ!?」「どうしたっ!?」

あそれ、もう一発。

「ヒヤアッ!?」 「えっ、ちょっと待って、、。落ちてるこれ、銃弾じゃない?」

我先へと必死に屋上から出て行く奴ら。

あースッキリした。楽しかったー。あぁ、見ていて虚しくなるな。何やってんだろ、俺。



帰宅後、卍原自室前



「卍原くーん!今日もぉ、やりますよぉ~!」

笑いながら扉を叩く柊の姿がそこにあった。

しかし、目は笑っていない。

扉を中から必死に抑えながら答える。

「えっとーちょっと今日はいいかなーって思うんすけどー。」

「えぇ?駄目ですよぉー。毎日しっかり練習しなきゃぁ~。」

「な、ならですよ、ちょっとパンチの威力と投げを一般人レベルに落としてもらいたいなぁって。」

「んぅ?それじゃあ、かえって私のストレスが溜まっちゃうじゃないですかぁ。」

「やっぱり、そうか!アンタ、わざと俺のことボコしてやがったな!?」

「レッスン料ってことで。」

「いやだぁ!絶対に、君が諦めるまで僕は抵抗をやめないっ!!!」

「はいはい。私は人間をやめますよぉ~。だから扉を開けてくださぁい。」

数分後

ドナドナドーナ ドーナー

子牛をのせーてー

こっから かーしーわかんーなーいーよー

柊に襟首を掴まれて廊下を引きずられる俺。

流石に石仮面被させるわけにはいかないからね。

嘘です。普通に力負けしました。


合同演習会、開始まで後3日。
レッスン終了まで後2日。
しおりを挟む

処理中です...