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15:ピロートーク ―約束―
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二人とも星明かりの忍び込む暗がりの中で、マットレスの上にその身を横たえていた。
ラフマニが左腕を枕として差し出して、ローラはそれに身を預けている。
さざ波のように引いていく暑かった体温をその身に感じながら、ポツリと漏らしたのはローラであった。
彼女はラフマニに詫びるようにこう言葉を漏らした。
「ラフマニ」
「ん?」
「あたし、ずっと思ってたことがあるの」
その言葉にまさかの不安を感じながらもラフマニは尋ね返す。
「なんだ?」
「私ね〝女〟としての自分の体、ずっと嫌だったの」
「―――」
ラフマニはローラの語るその言葉に沈黙を守りつつも視線でその言葉の先を促すように見つめていた。
それを一つの〝許し〟と信じてローラは言葉を紡いだ。
「そもそも私が、女としてのシルエットと必要な機能をみんな持たされていたのは、あくまでもただ単に『作戦目的』として必要だったからなの」
「―――」
ラフマニはなおも声を発さない。ただじっとローラの言葉を聞きいるのみである。
「なんでもやったわ。命じられれば。ストリートガールの真似もしたし、地下組織に潜り込むために極秘オークションに紛れ込んだこともある。大金持ちの作った私設ハーレムに入り込んだこともある。VIPの愛人になりすますことも――、この体が誰かを幸せにすることなんて絶対になかった。誰かを傷つけ、誰かを陥れるためだけに体はあった」
ローラは言った――
『私は殺戮アンドロイド』
――だと。誰にも言えない決して明かすことのできない現実だった。
「だからどこかの見知らぬ男に一緒にいても何も感じなかったし、心地よいと思ったこともない。プログラミングされたとおりに〝演じる〟だけであって、体もそう反応するように作られているだけだった」
そしてローラの語る言葉は、かつての自分自身を語り始める。
「かつての主人に命じられて、黙々と命令をこなす日々――そこに満足はなかったし、私自身に心が芽生えるようなものもない。ただ命令者への忠誠を認められる事で、わずかに自分の存在への承認欲求が満たされるだけ。私の心は冷えて冷たいマリオネットが居るだけだった。でも――そんな私の居場所も終りを迎えた」
視線はじっとラフマニの顔を見つめていた。視線をそらすこともなくローラは言葉を続ける。
「かつての私の所有者は死に、組織も壊滅した。残された私はあの死の道化師に救われたけど、けっきょく一人で街をさまようことになった。自分が空っぽのマネキンになったような錯覚を覚えながら大都会の片隅を一人で歩いていた。街を行き交う幸せそうな恋人たちを見つめながら」
いつしかローラの目に涙にじむ。それをラフマニが指先でそっと拭ってやる。
「人間でない私はどこにも帰れない。仲間にしてもらうこともできない。ましてや街で眺めた彼らのように、異性と手をつないで恋人になる事を望んだとしても――私はその男性に受け入れてもらえるのだろうか? 満足してもらえるのだろうか? 心を満たしてあげられるのだろうか? ずっとそんなことばかり頭の中をよぎっていたの。だって私は――」
そこでローラは声をつまらせて、その両目から二筋の涙をこぼす。
「誰かのために〝子供〟を生むこともできない」
それが現実だった。悲しい現実だった。ローラだけが背負わされた十字架であり、どんなに人間らしい立ち振舞ができたとしても永遠に変わることのない現実だったのだ。なぜなら彼女はアンドロイドでありマリオネットなのだから。
「ただ快楽と死を提供する人形でしか無い――自分が今までしてきたことを思い出すたびに、胸をかきむしりたいくらいに痛みを感じた。だからね――」
ローラは気持ちを落ち着けるように一息つきながら、言葉を続ける。
「――わたしね〝こう言う事〟に恐れと憧れがあったの」
恐れとは異性へとその体をさらけだし全てを委ねることへの恐怖と嫌悪――
憧れとは異性とつながりあい、身も心もされるがままに受け入れてもらうことへの願望と願い――
ローラはその2つを隠さずに口にした。
「どんなに願っても望んでも、私はアンドロイド、本物にはなれない。人間と違う存在だということが嫌でもわかってしまう。でもあなたと知り合ってともに暮らし始めて、同じ屋根の下で時を送るにつれて自分の中にある願望が――、いいえ〝欲望〟が生まれたの」
それまでじっと聞きっていたラフマニだったが、そこでローラの頬をなでながらそっと問いかける。
「それって?」
優しい語り口にローラは思わずラフマニの瞳を見つめ返す。そして安堵と不安を入り混じらせながら、言葉の続きを口にした。
「あなたとともにあること、あなたと寄り添い逢うこと、そして、本当の意味であなたの生涯の伴侶になること――でも――」
そこまで〝憧れ〟を口にしていたローラだったが、それにつづいて口にしたのはまさに〝恐れ〟であった。
「――アンドロイドのあたしが、造り物のあたしが、あなたの本当の伴侶になれるのか不安でたまらなかった。あなたに抱きしめてほしかった。口づけてほしかった。あなたのささやく愛を信じて、あたしも自分のすべてをあなたに打ち明けたかった。でも――」
ローラはその体をラフマニの方へと寄せていく。そしてその顔をラフマニの厚い胸にそっとうずめるとこう告げるのだ。
「私がニセ物だと見抜かれて、あなたにがっかりされるのがずっと怖かった」
人の心でもっとも打ち明けにくいものがある。
それは〝恐怖〟だ。
人は己の心の中に恐れを宿していても、それを自覚することも、打ち明けることも容易ではない。
ラフマニの胸の中でローラが震えている。恐怖に怯えている。ローラが自らの心の中にやどした怯えが事実だと、愛する人から語られるのが何よりも怖かったのだ。
その次に訪れた沈黙は数秒ほどだ。だがローラにとってそれは永遠に続くような長さだったろう。その沈黙をやぶってラフマニは、ローラのその震える肩をつよく抱き締めながら、その耳元に答えたのである。
「お前、あんがい馬鹿なんだな――」
「えっ?」
軽いため息。少し冷やかすように、それでいてしっかりとなだめるように、ラフマニはローラへと語りかけた。
「俺がお前を偽物だなんて思うかよ。確かに体は人の手で作られたものかもしれねぇ。でも――」
ラフマニに強く抱き締められる中で、ローラはラフマニの心臓の鼓動を耳にする。
「――お前の中に宿った〝心〟は紛れもなく本物なんだよ。だれがなんと言おうとお前が宿した心は本物だ。人間が人間らしくなれるのは体が生身かどうかなんてのは意味はねぇ。どんなに立派な体をもってたって、そこいらのロボットよりもひどい心を持ってる奴らは大勢いる。人を人とは思わない、ぶっ壊れた機械みたいなイカれたやつはいくらでもいるんだ。第一さ――」
ローラを抱きしめるラフマニの手が、ローラの髪をそっと撫でながらこう囁いたのだ。
「ニセモノの心をもったやつに、子どもたちがあんなになつくと思うか?」
その言葉は魔法のようにローラの心の奥底へと響いていた。ラフマニはなおもささやきかける。
「これ、おまえには内緒にしててくれてって言われてるんだが――、あいつら5月の母の日にお前になにか贈り物したいって言ってるんだよ。何がいいか、何が喜ばれるか、そればかり話していた。みんなで声をあげて笑いながらさ。この家でそんな事初めてだった。あいつらがお前の事を本当に心の底から〝母親〟だって認めてるってことなんだよ。それだけの〝絆〟を結ぶことができたんだよ。そんなお前をさ――」
そしてラフマニは大きく息を吸うと、すぐにゆっくりと息を吐きながらこう告げたのだ。
「心まで偽物だなんて思うかよ」
ローラはその言葉を聞いて顔をあげる。視線がラフマニと向かい合った。
「ラフマニ――」
「あぁ」
「じゃあ、いいの? あたしで本当にいいの?」
「当たり前だろう? お前以外いねえよ」
それが答えだった。ラフマニと言う男の偽らざる本音だった。そしてそれは形を変えて溢れんばかりの喜びとなる。喜びは歓喜となり新たな涙を溢れさせる。
「うん」
ローラはすすり泣きながら笑みを浮かべる。ラフマニがさらに語りかけた。
「お前は俺の〝女〟だ。もう絶対に離さねぇからな」
「うん――」
もう迷いはなかった。不安や怖れは完全にはなくなっていないが、この人と一緒ならそれも乗り越えていける。そう感じずには居られなかった。答えは導き出されたのだ。
だがラフマニはさらに言葉を続けた。今度はラフマニが心の中の不安を吐露する番であった。
「ローラ――、お前、今日子供らに何を話して聞かせた?」
ローラが寝物語に子供らに語って聞かせたもの。それは――
「え? 〝月のうさぎ〟だけど?」
その答えを聞いてラフマニの顔は真剣味を帯びていた。彼は力強くしっかりと告げる。
「お前は〝うさぎ〟になるなよ――、絶対に『自分だけが全てを背負えばいい』なんて思うなよ? お前はもうあいつらの母親なんだよ。一緒に居てやらなきゃ与えられないものがたくさんあるんだよ。いいか?」
ラフマニはローラの瞳をじっと見つめながら、髪をなでつつ諭したのである。
「絶対に間違いは犯すなよ」
それがラフマニが抱いた唯一の不安であった。ローラが子どもたちと真剣に向かい合うほど。ローラが自分のことよりも子どもたちのことだけを常に心を砕くほど、その後姿にラフマニは不安を抱かずには居られなかったのだ。
当然の疑念であった。ラフマニに指摘されてその可能性とその時の悲劇の大きさにハッとせざるを得なかった。
ローラはもう子どもたちにとって、無くてはならない存在となっていたのである。
明確にはっきりとローラは誓った。
「うん、絶対にしない。そんな事をしても子どもたちは誰も微笑まないから」
「頼むぜ、約束だからな」
「うん――」
一つの結論が導き出されて、その後に訪れたのは沈黙である。
抱き合い、寄り添い合いながら、二人は一つの毛布の中で温もりを分かち合っていた。
そしてそのまま、二人は眠りの縁へと落ちていく。
軽い吐息が漏れ聞こえ、そして、二人ともやすらかな眠りの中へと落ちていく。
こうしてローラとラフマニの秘密の夜は終わりを告げたのである。
ラフマニが左腕を枕として差し出して、ローラはそれに身を預けている。
さざ波のように引いていく暑かった体温をその身に感じながら、ポツリと漏らしたのはローラであった。
彼女はラフマニに詫びるようにこう言葉を漏らした。
「ラフマニ」
「ん?」
「あたし、ずっと思ってたことがあるの」
その言葉にまさかの不安を感じながらもラフマニは尋ね返す。
「なんだ?」
「私ね〝女〟としての自分の体、ずっと嫌だったの」
「―――」
ラフマニはローラの語るその言葉に沈黙を守りつつも視線でその言葉の先を促すように見つめていた。
それを一つの〝許し〟と信じてローラは言葉を紡いだ。
「そもそも私が、女としてのシルエットと必要な機能をみんな持たされていたのは、あくまでもただ単に『作戦目的』として必要だったからなの」
「―――」
ラフマニはなおも声を発さない。ただじっとローラの言葉を聞きいるのみである。
「なんでもやったわ。命じられれば。ストリートガールの真似もしたし、地下組織に潜り込むために極秘オークションに紛れ込んだこともある。大金持ちの作った私設ハーレムに入り込んだこともある。VIPの愛人になりすますことも――、この体が誰かを幸せにすることなんて絶対になかった。誰かを傷つけ、誰かを陥れるためだけに体はあった」
ローラは言った――
『私は殺戮アンドロイド』
――だと。誰にも言えない決して明かすことのできない現実だった。
「だからどこかの見知らぬ男に一緒にいても何も感じなかったし、心地よいと思ったこともない。プログラミングされたとおりに〝演じる〟だけであって、体もそう反応するように作られているだけだった」
そしてローラの語る言葉は、かつての自分自身を語り始める。
「かつての主人に命じられて、黙々と命令をこなす日々――そこに満足はなかったし、私自身に心が芽生えるようなものもない。ただ命令者への忠誠を認められる事で、わずかに自分の存在への承認欲求が満たされるだけ。私の心は冷えて冷たいマリオネットが居るだけだった。でも――そんな私の居場所も終りを迎えた」
視線はじっとラフマニの顔を見つめていた。視線をそらすこともなくローラは言葉を続ける。
「かつての私の所有者は死に、組織も壊滅した。残された私はあの死の道化師に救われたけど、けっきょく一人で街をさまようことになった。自分が空っぽのマネキンになったような錯覚を覚えながら大都会の片隅を一人で歩いていた。街を行き交う幸せそうな恋人たちを見つめながら」
いつしかローラの目に涙にじむ。それをラフマニが指先でそっと拭ってやる。
「人間でない私はどこにも帰れない。仲間にしてもらうこともできない。ましてや街で眺めた彼らのように、異性と手をつないで恋人になる事を望んだとしても――私はその男性に受け入れてもらえるのだろうか? 満足してもらえるのだろうか? 心を満たしてあげられるのだろうか? ずっとそんなことばかり頭の中をよぎっていたの。だって私は――」
そこでローラは声をつまらせて、その両目から二筋の涙をこぼす。
「誰かのために〝子供〟を生むこともできない」
それが現実だった。悲しい現実だった。ローラだけが背負わされた十字架であり、どんなに人間らしい立ち振舞ができたとしても永遠に変わることのない現実だったのだ。なぜなら彼女はアンドロイドでありマリオネットなのだから。
「ただ快楽と死を提供する人形でしか無い――自分が今までしてきたことを思い出すたびに、胸をかきむしりたいくらいに痛みを感じた。だからね――」
ローラは気持ちを落ち着けるように一息つきながら、言葉を続ける。
「――わたしね〝こう言う事〟に恐れと憧れがあったの」
恐れとは異性へとその体をさらけだし全てを委ねることへの恐怖と嫌悪――
憧れとは異性とつながりあい、身も心もされるがままに受け入れてもらうことへの願望と願い――
ローラはその2つを隠さずに口にした。
「どんなに願っても望んでも、私はアンドロイド、本物にはなれない。人間と違う存在だということが嫌でもわかってしまう。でもあなたと知り合ってともに暮らし始めて、同じ屋根の下で時を送るにつれて自分の中にある願望が――、いいえ〝欲望〟が生まれたの」
それまでじっと聞きっていたラフマニだったが、そこでローラの頬をなでながらそっと問いかける。
「それって?」
優しい語り口にローラは思わずラフマニの瞳を見つめ返す。そして安堵と不安を入り混じらせながら、言葉の続きを口にした。
「あなたとともにあること、あなたと寄り添い逢うこと、そして、本当の意味であなたの生涯の伴侶になること――でも――」
そこまで〝憧れ〟を口にしていたローラだったが、それにつづいて口にしたのはまさに〝恐れ〟であった。
「――アンドロイドのあたしが、造り物のあたしが、あなたの本当の伴侶になれるのか不安でたまらなかった。あなたに抱きしめてほしかった。口づけてほしかった。あなたのささやく愛を信じて、あたしも自分のすべてをあなたに打ち明けたかった。でも――」
ローラはその体をラフマニの方へと寄せていく。そしてその顔をラフマニの厚い胸にそっとうずめるとこう告げるのだ。
「私がニセ物だと見抜かれて、あなたにがっかりされるのがずっと怖かった」
人の心でもっとも打ち明けにくいものがある。
それは〝恐怖〟だ。
人は己の心の中に恐れを宿していても、それを自覚することも、打ち明けることも容易ではない。
ラフマニの胸の中でローラが震えている。恐怖に怯えている。ローラが自らの心の中にやどした怯えが事実だと、愛する人から語られるのが何よりも怖かったのだ。
その次に訪れた沈黙は数秒ほどだ。だがローラにとってそれは永遠に続くような長さだったろう。その沈黙をやぶってラフマニは、ローラのその震える肩をつよく抱き締めながら、その耳元に答えたのである。
「お前、あんがい馬鹿なんだな――」
「えっ?」
軽いため息。少し冷やかすように、それでいてしっかりとなだめるように、ラフマニはローラへと語りかけた。
「俺がお前を偽物だなんて思うかよ。確かに体は人の手で作られたものかもしれねぇ。でも――」
ラフマニに強く抱き締められる中で、ローラはラフマニの心臓の鼓動を耳にする。
「――お前の中に宿った〝心〟は紛れもなく本物なんだよ。だれがなんと言おうとお前が宿した心は本物だ。人間が人間らしくなれるのは体が生身かどうかなんてのは意味はねぇ。どんなに立派な体をもってたって、そこいらのロボットよりもひどい心を持ってる奴らは大勢いる。人を人とは思わない、ぶっ壊れた機械みたいなイカれたやつはいくらでもいるんだ。第一さ――」
ローラを抱きしめるラフマニの手が、ローラの髪をそっと撫でながらこう囁いたのだ。
「ニセモノの心をもったやつに、子どもたちがあんなになつくと思うか?」
その言葉は魔法のようにローラの心の奥底へと響いていた。ラフマニはなおもささやきかける。
「これ、おまえには内緒にしててくれてって言われてるんだが――、あいつら5月の母の日にお前になにか贈り物したいって言ってるんだよ。何がいいか、何が喜ばれるか、そればかり話していた。みんなで声をあげて笑いながらさ。この家でそんな事初めてだった。あいつらがお前の事を本当に心の底から〝母親〟だって認めてるってことなんだよ。それだけの〝絆〟を結ぶことができたんだよ。そんなお前をさ――」
そしてラフマニは大きく息を吸うと、すぐにゆっくりと息を吐きながらこう告げたのだ。
「心まで偽物だなんて思うかよ」
ローラはその言葉を聞いて顔をあげる。視線がラフマニと向かい合った。
「ラフマニ――」
「あぁ」
「じゃあ、いいの? あたしで本当にいいの?」
「当たり前だろう? お前以外いねえよ」
それが答えだった。ラフマニと言う男の偽らざる本音だった。そしてそれは形を変えて溢れんばかりの喜びとなる。喜びは歓喜となり新たな涙を溢れさせる。
「うん」
ローラはすすり泣きながら笑みを浮かべる。ラフマニがさらに語りかけた。
「お前は俺の〝女〟だ。もう絶対に離さねぇからな」
「うん――」
もう迷いはなかった。不安や怖れは完全にはなくなっていないが、この人と一緒ならそれも乗り越えていける。そう感じずには居られなかった。答えは導き出されたのだ。
だがラフマニはさらに言葉を続けた。今度はラフマニが心の中の不安を吐露する番であった。
「ローラ――、お前、今日子供らに何を話して聞かせた?」
ローラが寝物語に子供らに語って聞かせたもの。それは――
「え? 〝月のうさぎ〟だけど?」
その答えを聞いてラフマニの顔は真剣味を帯びていた。彼は力強くしっかりと告げる。
「お前は〝うさぎ〟になるなよ――、絶対に『自分だけが全てを背負えばいい』なんて思うなよ? お前はもうあいつらの母親なんだよ。一緒に居てやらなきゃ与えられないものがたくさんあるんだよ。いいか?」
ラフマニはローラの瞳をじっと見つめながら、髪をなでつつ諭したのである。
「絶対に間違いは犯すなよ」
それがラフマニが抱いた唯一の不安であった。ローラが子どもたちと真剣に向かい合うほど。ローラが自分のことよりも子どもたちのことだけを常に心を砕くほど、その後姿にラフマニは不安を抱かずには居られなかったのだ。
当然の疑念であった。ラフマニに指摘されてその可能性とその時の悲劇の大きさにハッとせざるを得なかった。
ローラはもう子どもたちにとって、無くてはならない存在となっていたのである。
明確にはっきりとローラは誓った。
「うん、絶対にしない。そんな事をしても子どもたちは誰も微笑まないから」
「頼むぜ、約束だからな」
「うん――」
一つの結論が導き出されて、その後に訪れたのは沈黙である。
抱き合い、寄り添い合いながら、二人は一つの毛布の中で温もりを分かち合っていた。
そしてそのまま、二人は眠りの縁へと落ちていく。
軽い吐息が漏れ聞こえ、そして、二人ともやすらかな眠りの中へと落ちていく。
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