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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の洋上楼閣都市/潜入編
Part3 潜入調査海上ルート/特攻装警の鉄則
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「さて、それじゃアトラス、エリオット――、アバディーンへの上陸前に頭のなかに叩き込んで貰いたい事がある。耳かっぽじってよく聞いてくれ」
荒真田が再び場を仕切った。上陸ポイントが迫ってくる中で、アトラスもエリオットも沈黙してじっと聞き入っている。
「今回の東京アバディーン上陸に際して、捜査の足がかりとして調査しなければならない事がいくつかある。まず、新興勢力の実態をその目に焼き付ける事が重要だというのはさっき話したとおりだ」
そして、人差し指を地図の上に置くと具体的に場所を指し示しながら話を続ける。
「基本的に東京アバディーンは4つのエリアに別れる。一つが北西側の工場地帯。ここは傷害や殺人のよく起きるところだがここを拠点にしているのはせいぜいがホームレス程度だ。重要なのは幹線道路に隔てられた南東側のエリアだ。そして、この南東の市街地エリアは斜めにカーブしたメインストリートにより中央街区と弓状外部街区の2つに、さらに東南方面に広がる未開発地域とに分けられる。中央街区は高層ビルや高級マンション、ペンシルビルなどが立ちながらび金持ちや実力者、あるいは非合法組織の構成員たちが根城にしているエリアだ。一見して、真面目なビジネスエリアに見えなくもないが、内情はかつて新宿にあったヤクザマンションと大して変わらん。メインストリートに面した周辺エリアに下部構成員が、中心に近づくにつれて組織内での階級が上がっていくと言われている。
そして、中央街区の中心地には上級幹部が隠れ住んでいる高層マンションが並び、さらにそのど真ん中にあるのが高さ200mを誇るゴールデンセントラル200と言う高層ビルだ。ここにこの東京アバディーンを実質支配する連中が集まっていると言われている。最終的にはこの中央街区の内部に潜り込まなければならない」
そう語る荒真田の右の人差し指は地図の上に記された重要点を何度もなぞっていた。
「そして、もう一つが、この中央街区の周辺に広がるように存在し、メインストリートで隔てられ貧しい連中が立てこもる弓状外部街区と呼ばれているエリアだ。いわばスラムと言えなくもないが、ペンシルビルとバラックが立ち並び、不法在留者のメッカと化している。東京全域で不法在留者の掃討作戦が行われて以降、不法残留外国人がこの島に移動してこういう状況になっている。最近では島から溢れてジャンク船で洋上で暮らしているスラム民が出ているとまで言われている。出入国管理局のイミグレで対応に頭を悩ませている重要エリアだ。このあたりはベルトコーネの潜伏も考えられる。これは非公式な密告情報だが、東京アバディーン付近にて洋上で抗争事件で起きた際に、アンドロイドによる肉弾戦闘が発生していることも判明している。合同捜査本部ではそのアンドロイドがベルトコーネである可能性を考慮しているのはアトラスもエリオットもすでに知っていると思う。
さらにその先の南東には開発がストップしたままの未開発地域が広がっている。人も住まず工場もない。不法投棄の温床となっているって噂だ。まともな神経ならまず近寄らん」
そして、荒真田の指は東京アバディーンの周辺の洋上をなぞっていた。
「俺達はこの偽装船を使って東京アバディーンの北側から西へ回り込み、さらに南側へと向かう。そして、あえて人気の最も少ない南南東側から上陸を試みる。その際に米軍で開発された特殊作戦用途の簡易ゴムボートを使う。ホログラム迷彩機能を持ち、不要になれば自壊して海底に自分から沈んでくれる。夜の暗がりの中なら見つかる確率を格段に下げてくれるはずだ。人目を避けて接岸上陸し、その後、弓状外部街区を探索、ベルトコーネについて調査する。しかるのちに得られた情報をもとにして中央街区へと進んで、さらに潜入調査を続ける。行動概要としてはこんな感じだ」
荒真田は目的地の概要について語り終えると、さらに説明を続けた。
「そして、これがもっとも重要だが。最近の新興勢力の中にアメリカのFBIやイギリスのスコットランドヤードなどでも最重要項目として調査されている組織がある。組織名を『十三会』とも『サーティーン』とも呼ばれている。まだ存在が確認されたばかりで概要は殆ど解ってない。しかし、彼らには他組織との抗争のための実働戦闘部隊が存在している事は確実だと言われている」
荒真田の説明にアトラスは掘り下げるように尋ねた。
「戦闘部隊? どんな連中だ」
「さあな、本庁の外事関連でもインターポール経由で世界中のあちこちの法執行機関に問い合わせているらしいが、存在が確認されただけで詳細はCIAやFSBですらも掴みあぐねている。ただ、それでも名称だけは把握できたらしい」
「その名前は?」
「俺が入手した情報では、部隊名は『翁龍』とも『オールドドラゴン』とも呼ばれているらしい。戦闘能力レベルは極めて高くメンバーのサイボーグ化率も高レベルの可能性がある。連中がこの日本のこの街で何をしているかは不明だが、まぁ大してろくなことはしてない事は確かだ」
「だろうな――」
荒真田の言葉に頷くアトラスだったが、エリオットにも視線を向ける。
「聞いたな? エリオット」
「はい」
兄からの問いかけにエリオットは力強い視線で答える。
「おそらく、これから向かう場所では俺達の存在は早々に見つかるかもしれん。どんな連中が監視の目を光らせているか判らんからな。だが、だからこそ――」
アトラスは不意に両手を胸のあたりに掲げると左手で拳を作り、広げた右掌にソレをぶつけた。
「――万が一の戦闘が発生したら、矢面に立つべきは俺とおまえだ。俺達、特攻装警が人間の警官と行動をともにする場合はアンドロイドである俺達が身を挺して相棒を守るのは絶対鉄則だ。相棒の人間が血を流すことは最大の恥だと心得ろ。まずはソレを忘れるな」
それは重要な訓示である。長年に渡り生身の人間である荒真田と行動を共にしてきたアトラスであるからこそ得られた重要な事実である。アトラスが相方である荒真田を身を挺して守る一方で、行動方針を決めたり対人コミニュケーションへの対応を行うのは人間である荒真田の役目だった。互いが互いに足りないところを補い合い、50+50が100にしかならないところを、120にも200にもする。それがパートナーシップでありコンビネーションというものだ。そして、それは警備部の機動隊と言う戦闘組織の中で単独行動を義務付けられていたエリオットには、どうしても身につけられない物であった。
エリオットは感じていた。その〝己に足りない物〟が目の前に存在しているということを。
この偽装船に乗り込んでからのミーティング、その言葉のやり取りの中にすらも、感じ取ることができた。今まさに、それを身につける最大のチャンスであるのだ。
「はい」
エリオットは力強く答える。そして、アトラスと荒真田が頷いたとき、いよいよ目的地へと近づきつつ合った。周囲の状況から目立たないようにするためか船内の明かりが落とされたのだ。荒真田が言う。
「いよいよだな」
「あぁ」
「よし、上陸準備だ。俺とエリオットはそのままでいいとして、アトラスお前はそのまま行くのか?」
アトラスのメカニカルで総金属製の外見はあまりにも目立ちすぎる。その外見を見ただけで、即時、正体が露見するだろう。
「大丈夫だ。抜かりはない。〝実家〟に頼んで色々と準備してもらった」
予め、第2科警研から送られてきていたのだろう。船室内の片隅に【第2科警研】の銘が記されたジュラルミンケースが置かれてあった。それを視認して歩み寄り開けると、その中から取り出したのはフード付きの特大サイズのロングコートジャケットと〝手袋〟と〝マスク〟――いずれもアトラスに向けて作られた特注品である。
普段から着ているフライトジャケットを脱ぎ、頭部に被せてあるヘルメットとマスクを外す。アトラスの頭部は一枚板の装甲板ではない。スキンヘッドを想起させるシンプルな頭部の上に防護用のヘルメットと顔面を防護する装甲マスクをセットで装着している。鼻梁がなくスキンヘッドの様な頭部が不気味がられて、着任当初、周囲から敬遠されてからの苦肉の策として作られたものだ。それにより多少は見られるうようになったのかアトラスの顔と頭を怖がるものは急速に減っていった。
そして、メットとマスクを外したアトラスの素顔は、スリット状の目元に片目が異様に目立ち、チタン製の禿頭と相まって確かに少々怖い印象がある。だが、アトラスはジュラルミンケースの中から取り出した新型のマスクを広げると、まるでニット製の目出し帽をすっぽりと被るように自らの頭部へとかぶらせていく。新型マスクは顔面部のマスク部と頭部全体を覆う頭部用カバーから成っている。頭部用カバーは疑似人造皮膚で装着すれば本物の禿頭と殆ど変わりは無かった。そして顔面部のマスクプレートは目元がゴーグルスタイルの横細長のサングラスで隠されていて、鼻と口元はガスマスクを模したような物で覆われていた。マスクとゴーグルの隙間から垣間見える人造皮膚により確かに人間が目鼻を隠しているようにしか見えなかった。
次いで、取り出した手袋もまた疑似人造皮膚製であった。それを両手にはめることで生身の両手のように見せる事ができる。さらにロングコートジャケットを着込み、頭部にフードを目深にかぶる。
そして仕上げに襟元の内側に有った小さなタッチスイッチを操作すれば、隙間から垣間見えていたアトラスの正体を、コートに内蔵されていたホログラム映像装置が隠しきる。
「ほう? かなりいけるな」
「だろ? 呉川の親父の苦心作だ。他の街では目立ちすぎるが、あの東京アバディーンなら十分にイケるはずだ」
「たしかに」
かなり接近してもサイボーグボディのアフリカ系人種にしか見えない。これなら潜入任務にもなんとか対応可能なはずだ。それにこれから上陸しようとしているあの街なら、異国人もイカれたサイボーグ崩れにも事欠かない。森に紛れる木の如く、正体を押し隠しきれるだろう。
荒真田がアトラスの変装を確認している傍らで、エリオットが甲板からの呼び声に対応していた。
「分かった。すぐ行く」
振り返りアトラスたちに声をかける。
「康介さん、兄さん、ゴムボートが準備できたそうです」
「分かった今行く」
エリオットの問いに答え返すと、傍らの相棒に対して己の左の掌を出す。
「行くぞ、康介」
荒真田もまた気合を入れるが如く、右の手をかかげ上げてアトラスの左の手のひらへと思い切り振り下ろす。
「おう」
――パァン!――
心地よいまでの甲高い音を響かせて、二人はあるき出した。
一人は、特攻装警第1号機・アトラス、
もう一人は、警視庁組織犯罪対策部組織犯罪対策4課・荒真田康介警部補、
日本警察初のアンドロイドと人間のペアによるコンビだ。
長年の任務により積み上げてきた実績は誰にも口を挟ませない凄みを帯びて二人の評価を押し上げていた。
エリオットは、ただ二人並んで歩いているだけでも気圧されるものを感じずには居られなかった。
アトラスたちが先に出てエリオットが二人の後を追う。向かう先にはすでに洋上に立体映像による隠体機能を有した特殊ゴムボートが浮かべてある。
それへの移乗をのさいに警察官たちが補助をする。3人が乗り込み終えると、船長の水神がアトラスたちを敬礼で見送っていた。
「御武運を」
水神は小さくもはっきりとした声でアトラスたちに告げていた。この洋上の治安ですらも特攻装警たちに託さねばならない程に状況は切迫しているのだ。水神に続いて他の乗員たちも敬礼で3人を見送っていく。アトラスたちはソレに答えるようにはっきりと頷き返していた。
「行くぞ」
静音型の電動エンジンを作動させてゴムボートを発進させる。今、こげ茶色の1隻のゴムボートは洋上の楼閣都市へと向かった。
そして、ボートに装備されたホログラム隠体装置を作動させる。三人たちの姿は夜の波間に消えていったのである。
荒真田が再び場を仕切った。上陸ポイントが迫ってくる中で、アトラスもエリオットも沈黙してじっと聞き入っている。
「今回の東京アバディーン上陸に際して、捜査の足がかりとして調査しなければならない事がいくつかある。まず、新興勢力の実態をその目に焼き付ける事が重要だというのはさっき話したとおりだ」
そして、人差し指を地図の上に置くと具体的に場所を指し示しながら話を続ける。
「基本的に東京アバディーンは4つのエリアに別れる。一つが北西側の工場地帯。ここは傷害や殺人のよく起きるところだがここを拠点にしているのはせいぜいがホームレス程度だ。重要なのは幹線道路に隔てられた南東側のエリアだ。そして、この南東の市街地エリアは斜めにカーブしたメインストリートにより中央街区と弓状外部街区の2つに、さらに東南方面に広がる未開発地域とに分けられる。中央街区は高層ビルや高級マンション、ペンシルビルなどが立ちながらび金持ちや実力者、あるいは非合法組織の構成員たちが根城にしているエリアだ。一見して、真面目なビジネスエリアに見えなくもないが、内情はかつて新宿にあったヤクザマンションと大して変わらん。メインストリートに面した周辺エリアに下部構成員が、中心に近づくにつれて組織内での階級が上がっていくと言われている。
そして、中央街区の中心地には上級幹部が隠れ住んでいる高層マンションが並び、さらにそのど真ん中にあるのが高さ200mを誇るゴールデンセントラル200と言う高層ビルだ。ここにこの東京アバディーンを実質支配する連中が集まっていると言われている。最終的にはこの中央街区の内部に潜り込まなければならない」
そう語る荒真田の右の人差し指は地図の上に記された重要点を何度もなぞっていた。
「そして、もう一つが、この中央街区の周辺に広がるように存在し、メインストリートで隔てられ貧しい連中が立てこもる弓状外部街区と呼ばれているエリアだ。いわばスラムと言えなくもないが、ペンシルビルとバラックが立ち並び、不法在留者のメッカと化している。東京全域で不法在留者の掃討作戦が行われて以降、不法残留外国人がこの島に移動してこういう状況になっている。最近では島から溢れてジャンク船で洋上で暮らしているスラム民が出ているとまで言われている。出入国管理局のイミグレで対応に頭を悩ませている重要エリアだ。このあたりはベルトコーネの潜伏も考えられる。これは非公式な密告情報だが、東京アバディーン付近にて洋上で抗争事件で起きた際に、アンドロイドによる肉弾戦闘が発生していることも判明している。合同捜査本部ではそのアンドロイドがベルトコーネである可能性を考慮しているのはアトラスもエリオットもすでに知っていると思う。
さらにその先の南東には開発がストップしたままの未開発地域が広がっている。人も住まず工場もない。不法投棄の温床となっているって噂だ。まともな神経ならまず近寄らん」
そして、荒真田の指は東京アバディーンの周辺の洋上をなぞっていた。
「俺達はこの偽装船を使って東京アバディーンの北側から西へ回り込み、さらに南側へと向かう。そして、あえて人気の最も少ない南南東側から上陸を試みる。その際に米軍で開発された特殊作戦用途の簡易ゴムボートを使う。ホログラム迷彩機能を持ち、不要になれば自壊して海底に自分から沈んでくれる。夜の暗がりの中なら見つかる確率を格段に下げてくれるはずだ。人目を避けて接岸上陸し、その後、弓状外部街区を探索、ベルトコーネについて調査する。しかるのちに得られた情報をもとにして中央街区へと進んで、さらに潜入調査を続ける。行動概要としてはこんな感じだ」
荒真田は目的地の概要について語り終えると、さらに説明を続けた。
「そして、これがもっとも重要だが。最近の新興勢力の中にアメリカのFBIやイギリスのスコットランドヤードなどでも最重要項目として調査されている組織がある。組織名を『十三会』とも『サーティーン』とも呼ばれている。まだ存在が確認されたばかりで概要は殆ど解ってない。しかし、彼らには他組織との抗争のための実働戦闘部隊が存在している事は確実だと言われている」
荒真田の説明にアトラスは掘り下げるように尋ねた。
「戦闘部隊? どんな連中だ」
「さあな、本庁の外事関連でもインターポール経由で世界中のあちこちの法執行機関に問い合わせているらしいが、存在が確認されただけで詳細はCIAやFSBですらも掴みあぐねている。ただ、それでも名称だけは把握できたらしい」
「その名前は?」
「俺が入手した情報では、部隊名は『翁龍』とも『オールドドラゴン』とも呼ばれているらしい。戦闘能力レベルは極めて高くメンバーのサイボーグ化率も高レベルの可能性がある。連中がこの日本のこの街で何をしているかは不明だが、まぁ大してろくなことはしてない事は確かだ」
「だろうな――」
荒真田の言葉に頷くアトラスだったが、エリオットにも視線を向ける。
「聞いたな? エリオット」
「はい」
兄からの問いかけにエリオットは力強い視線で答える。
「おそらく、これから向かう場所では俺達の存在は早々に見つかるかもしれん。どんな連中が監視の目を光らせているか判らんからな。だが、だからこそ――」
アトラスは不意に両手を胸のあたりに掲げると左手で拳を作り、広げた右掌にソレをぶつけた。
「――万が一の戦闘が発生したら、矢面に立つべきは俺とおまえだ。俺達、特攻装警が人間の警官と行動をともにする場合はアンドロイドである俺達が身を挺して相棒を守るのは絶対鉄則だ。相棒の人間が血を流すことは最大の恥だと心得ろ。まずはソレを忘れるな」
それは重要な訓示である。長年に渡り生身の人間である荒真田と行動を共にしてきたアトラスであるからこそ得られた重要な事実である。アトラスが相方である荒真田を身を挺して守る一方で、行動方針を決めたり対人コミニュケーションへの対応を行うのは人間である荒真田の役目だった。互いが互いに足りないところを補い合い、50+50が100にしかならないところを、120にも200にもする。それがパートナーシップでありコンビネーションというものだ。そして、それは警備部の機動隊と言う戦闘組織の中で単独行動を義務付けられていたエリオットには、どうしても身につけられない物であった。
エリオットは感じていた。その〝己に足りない物〟が目の前に存在しているということを。
この偽装船に乗り込んでからのミーティング、その言葉のやり取りの中にすらも、感じ取ることができた。今まさに、それを身につける最大のチャンスであるのだ。
「はい」
エリオットは力強く答える。そして、アトラスと荒真田が頷いたとき、いよいよ目的地へと近づきつつ合った。周囲の状況から目立たないようにするためか船内の明かりが落とされたのだ。荒真田が言う。
「いよいよだな」
「あぁ」
「よし、上陸準備だ。俺とエリオットはそのままでいいとして、アトラスお前はそのまま行くのか?」
アトラスのメカニカルで総金属製の外見はあまりにも目立ちすぎる。その外見を見ただけで、即時、正体が露見するだろう。
「大丈夫だ。抜かりはない。〝実家〟に頼んで色々と準備してもらった」
予め、第2科警研から送られてきていたのだろう。船室内の片隅に【第2科警研】の銘が記されたジュラルミンケースが置かれてあった。それを視認して歩み寄り開けると、その中から取り出したのはフード付きの特大サイズのロングコートジャケットと〝手袋〟と〝マスク〟――いずれもアトラスに向けて作られた特注品である。
普段から着ているフライトジャケットを脱ぎ、頭部に被せてあるヘルメットとマスクを外す。アトラスの頭部は一枚板の装甲板ではない。スキンヘッドを想起させるシンプルな頭部の上に防護用のヘルメットと顔面を防護する装甲マスクをセットで装着している。鼻梁がなくスキンヘッドの様な頭部が不気味がられて、着任当初、周囲から敬遠されてからの苦肉の策として作られたものだ。それにより多少は見られるうようになったのかアトラスの顔と頭を怖がるものは急速に減っていった。
そして、メットとマスクを外したアトラスの素顔は、スリット状の目元に片目が異様に目立ち、チタン製の禿頭と相まって確かに少々怖い印象がある。だが、アトラスはジュラルミンケースの中から取り出した新型のマスクを広げると、まるでニット製の目出し帽をすっぽりと被るように自らの頭部へとかぶらせていく。新型マスクは顔面部のマスク部と頭部全体を覆う頭部用カバーから成っている。頭部用カバーは疑似人造皮膚で装着すれば本物の禿頭と殆ど変わりは無かった。そして顔面部のマスクプレートは目元がゴーグルスタイルの横細長のサングラスで隠されていて、鼻と口元はガスマスクを模したような物で覆われていた。マスクとゴーグルの隙間から垣間見える人造皮膚により確かに人間が目鼻を隠しているようにしか見えなかった。
次いで、取り出した手袋もまた疑似人造皮膚製であった。それを両手にはめることで生身の両手のように見せる事ができる。さらにロングコートジャケットを着込み、頭部にフードを目深にかぶる。
そして仕上げに襟元の内側に有った小さなタッチスイッチを操作すれば、隙間から垣間見えていたアトラスの正体を、コートに内蔵されていたホログラム映像装置が隠しきる。
「ほう? かなりいけるな」
「だろ? 呉川の親父の苦心作だ。他の街では目立ちすぎるが、あの東京アバディーンなら十分にイケるはずだ」
「たしかに」
かなり接近してもサイボーグボディのアフリカ系人種にしか見えない。これなら潜入任務にもなんとか対応可能なはずだ。それにこれから上陸しようとしているあの街なら、異国人もイカれたサイボーグ崩れにも事欠かない。森に紛れる木の如く、正体を押し隠しきれるだろう。
荒真田がアトラスの変装を確認している傍らで、エリオットが甲板からの呼び声に対応していた。
「分かった。すぐ行く」
振り返りアトラスたちに声をかける。
「康介さん、兄さん、ゴムボートが準備できたそうです」
「分かった今行く」
エリオットの問いに答え返すと、傍らの相棒に対して己の左の掌を出す。
「行くぞ、康介」
荒真田もまた気合を入れるが如く、右の手をかかげ上げてアトラスの左の手のひらへと思い切り振り下ろす。
「おう」
――パァン!――
心地よいまでの甲高い音を響かせて、二人はあるき出した。
一人は、特攻装警第1号機・アトラス、
もう一人は、警視庁組織犯罪対策部組織犯罪対策4課・荒真田康介警部補、
日本警察初のアンドロイドと人間のペアによるコンビだ。
長年の任務により積み上げてきた実績は誰にも口を挟ませない凄みを帯びて二人の評価を押し上げていた。
エリオットは、ただ二人並んで歩いているだけでも気圧されるものを感じずには居られなかった。
アトラスたちが先に出てエリオットが二人の後を追う。向かう先にはすでに洋上に立体映像による隠体機能を有した特殊ゴムボートが浮かべてある。
それへの移乗をのさいに警察官たちが補助をする。3人が乗り込み終えると、船長の水神がアトラスたちを敬礼で見送っていた。
「御武運を」
水神は小さくもはっきりとした声でアトラスたちに告げていた。この洋上の治安ですらも特攻装警たちに託さねばならない程に状況は切迫しているのだ。水神に続いて他の乗員たちも敬礼で3人を見送っていく。アトラスたちはソレに答えるようにはっきりと頷き返していた。
「行くぞ」
静音型の電動エンジンを作動させてゴムボートを発進させる。今、こげ茶色の1隻のゴムボートは洋上の楼閣都市へと向かった。
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