メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]

美風慶伍

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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の洋上楼閣都市/洋上スラム編

Part8 母親/〝おかあさん〟

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 それは単なる光ではない。濃密にして強力な破壊の力だ。一切の熱を伴わず、数十トンのインパクトを持ち、目標物に接触時に全質量を開放させ、攻撃対象を吹き飛ばす大技である。そしてそれは今のローラが全精力をもってして繰り出すことのできる唯一の大技でもあるのだ。
 
「お願い、もうこれで倒れて――」

 ローラは自覚していた。己の限界を。
 
「もうこれでおしまいにして」

 ローラは焦っていた。力のリミットを。
 
「もうここから消え失せて!」

 そしてローラは渾身の願いを込めて叫んだのである。
 
「もうこの子たちに近寄らないで!! 悪魔!!!」

 限界が訪れて力のリミットが来た時、子どもたちを守るための手段はローラには残されていないのだ。
 今、ローラは、髪振り乱し必死の形相で敵であるベルトコーネへと立ち向かっている。
 その胸に血まみれの我が子を抱いて、その背中に数多の子どもたちの視線を受けながら毅然として立ちはだかっていた。その様を見ていたのは、あのハイヘイズの廃ビルに住む全ての子供達であった。
 窓がそっと開けられて小さな視線が覗いている。
 ビルの壁の隙間からも覗いている子も居る。
 耳をふさぎうずくまり恐怖に震えている子もいる、
 そして、ローラママの名を呟きながら玄関ドアをそっと開けて外を覗いている子もいた。
 玄関ドアを開けて外をそっと覗いていたのはエリカ、スラブ系とブラジル系のハーフの女の子でかつて爆弾テロで右足を吹き飛ばされ義足を付けたファントムペインに苦しむあの子である。
 右足を引きずりながらローラママの姿を求めてドアを開けると、外の様子をそっと垣間見る。その小さな2つの視線は今まさに巨大な襲撃者へと攻撃を加えるローラの姿を目の当たりにしていたのだ。

「ママ……」
 
 いつでも優しかったローラママ。
 昼も夜も、いつでも笑ってくれるローラママ。
 寒さに震えていれば抱きしめて温めてくれる。
 お腹が空いたら必ず何かを食べさせてくれる。
 服を汚したらきれいにしてくれる。
 他の子と喧嘩をしたら仲直りさせてくれる。
 世の中の事を教えてくれてやって良いこと悪いことを聞かせてくれる。
 風邪を引いて熱を出したら看病してくれる。
 そして、無くなってしまった足が痛くて寝れない夜はずっとそばにいて慰めてくれる。
 その優しいローラママが戦っている。見たこともない表情で、聞いたこともない言葉を叫びながら、不思議な力を使って戦っている。
 その光景にエリカが抱いたのは決して好意だけではなかった。
 
「怖い――」

 ポツリとエリカが言葉を漏らす。戦闘という行為がもたらす結果は、決して勝利のカタルシスだけでは無いのだ。
 エリカはドアを閉めて目を背けようとした。そこにあの優しかったローラママは居ないのだと諦めようとしていた。だが、そんなローラの手を背後からそっと掴んでドアをふたたび開けさせようとする者がいた。
 
「目を背けちゃだめよ」

 エリカはその声に背後を振り返った。そこにいたのは北欧系と黒人系のハーフでアルビノの因子を持つ白い素肌のアンジェリカである。アルビノの純白の容姿を嫌った父親に見放されて捨てられた経緯を持つ子だ。年の頃は14でジーナより年下である。アルビノの因子のせいで紫外線に弱くめったに外には出てこない。身体も弱いため無理が効かない。それでもジーナと手分けをして必死の思いで子どもたちの世話を続けてきた。ジーナ同様、ローラママの存在に心から感謝をしていた一人である。
 
「なんで?」

 エリカが疑問の声を上げる。エリカは怯えながら告げる。
 
「あんなママ怖いよ。見たくない」

 抗議してくるエリカをアンジェリカはそっと背中から抱きしめた。そして、エリカの右手を握ってやりながら、再びドアを開けると外の光景へと視線を向けさせる。
 
「うん分かるよ。でもね――」

 アンジェリカはローラの姿を指差しながらそっと語りかけた。
 
「あれも〝おかあさん〟なんだよ」
「おかあさん?」
「えぇ。そうよ」

 アンジェリカは軽く息を吸い込むと感情を込めながら語り始めた。
 
「おかあさんって言うのね、大切なこどもを守るためなら戦おうとするの。決して諦めず、自分が死ぬことも恐れずにどんな強い相手にも立ち向かおうとするの。自分のお腹が空いていても子供に食べさせてくれる。寒さに震えていても子供が寒かったら自分の毛布を被せてくれる。いつでも自分の子供の事を一番に思ってくれて、こどものためならなんだってやろうとするの」
「それがおかあさん?」
 
 エリカの疑問の声にアンジェリカははっきりと頷いていた。
 エリカは母の顔を知らない。エリカが物心が付く前にエリカの右足を奪った爆発物により致命傷を負わされて死んでしまっている。そんなエリカは母と言うものを理想と願望でしか知らないのだ。 アンジェリカはエリカに畳み掛けるようにつげる。
 
「ローラママはね。私達のために戦ってくれてるの。自分が死ぬかもしれないのに、勝てないかもしれないのに、それでも戦ってくれているの。自分の背中の後ろにいる私達を守るために――、ときには恐ろしいくらいに強く怒って――、叫んで、立ち向かって、命をかけて、例え自分が命を落としても、死ぬ程の思いをしても――、自分の子供達が無事に生きているなら喜んでくれるの。笑ってくれるの。それがおかあさんって言うものなの」

 アンジェリカは涙声で語っていた。その脳裏には今は亡き実母の姿が思い出されていた。
 北欧系で闇風俗に身をやつしていた女性だ。それが黒人系の男に気に入られて一緒に暮らしていた。だがその男は、生まれてきた子供がアルビノだったために不吉だとしてあっさりと捨てようとした冷酷で身勝手な人物だった。
 1歳にもならないアンジェリカは路上に放置されたが、その後を追って母はすぐに助けに来てくれた。そして父親であるはずの男に追い回されながらも路上生活を続けてアンジェリカを守り育ててきた。だが、最後は追っ手に捕まりアンジェリカもろとも殺されそうになる。その最後のギリギリの状況で父親の黒人男性と刺し違えて自らも返り討ちにあいながらも、アンジェリカを守りきったのだ。飢えにより死のふちにひんしていたがアンジェリカの母は最後まで毅然として我が子を守り通したのだ。
 今、アンジェリカには、敵に立ち向かい立ちはだかるローラの姿が、今は亡き実母の姿に重なって見えていたのだ。
 
「だからね――怖がっちゃだめ。目を背けちゃだめ。ローラおかあさんの姿をしっかりと見なきゃいけないの。私達のために戦ってくれているローラママのためにも!」

 アンジェリカの言葉を耳にしながら、エリカははっきりと頷いていた。そして、いつしか恐怖心は去り、戦う姿を見せるローラに対して言葉をかけ始めたのだ。
 左手に抱いているのは、同じ屋根の下で暮らしているカチュアだ。エリカよりも3つ年下で、頭が良くて素直で面倒見が良くて、自分が歳上なのにいつでも優しくしてくれた。自分の右足が痛くて辛くて泣いている時は、ローラママの真似をして励ましてくれていた。
 そんなカチュアが怪我をしている。血を流している。そして、それを抱いて守っているのはローラママだ。カチュアを助けようとしながら、カチュアを傷つけたあの恐ろしい大男と闘っている。
 あれは何のためだろう? あれは何のためにしているのだろう?
 見たこともない恐ろしい顔をして言えるのはなぜ?
 聞いたこともない言葉で叫んでいるのはなぜ?
 見たこともない不思議な力を使っているのはなぜ?
 いつも着ているあの白いドレスを真っ赤に染めてまでもカチュアを抱いているのはなぜ?
 恐れが消える、疑問が消える。そして、エリカの心の中に最後の残ったものは――
 
「がんばれ」

 小さな声が漏れる。
 
「ママ、がんばれ」

 声は少しづつ大きくなる。
 
「ママ、がんばって!」

 声は叫びになる。そして、エリカの声が悲劇に包まれた倉庫街のストリートに響いたのだ。
 
「ローラママ! 負けないで!」

 小さな叫びは残響を残して倉庫街の夜空に響いた。そして、まるでその声に吹き飛ばされるかのように、ローラの発した光子塊によってベルトコーネは吹き飛ばされたのである。
 ベルトコーネの巨体が放物線を描いて吹き飛んでいく。そして、路面の上で激しく横転し転げ回った。ベルトコーネの全身から白煙が上がっている。それは明らかに致命的なダメージを負った証であった。
 ローラは眼前の敵の行く末を確かめつつ、背後からかけられた声を耳にして静かに振り向いていた。そして彼女が目にしたのは決してエリカの姿だけではなかったのである。
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