メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]

美風慶伍

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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の洋上楼閣都市/グラウザー編 

Part18 サイドストーリー・ファミリー/アラクネ

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 2人で病院の地下通路を歩きながら言葉をかわし合う。そしてモンスターが過去を思い出してしみじみと呟いた。
 
「そういや、12だったな」

 兄貴分のモンスターの言葉にジニーロックが答える。
 
「覚えてたのか」
「当たり前だろう? お前の娘が死んだ時の歳だ」
「あぁ、くそったれポリスに撃たれてそのまま天国に行っちまった。おれはあの時、その場に居なかった。アイツを抱きしめてやれなかった」
「だったら――」

 モンスターが足を止める。そしてジニーロックの肩を強く叩いた。
 
「今度はしっかりと抱いてやれ。そして約束を果たしてやれ。必要なものは俺が用意してやる。思う存分やってみろ! 俺たちの新しいファミリーのためにもな」

 その言葉にジニーロックが頷いていた。兄貴分として全幅の信頼を置く男からの善意を受けてジニーロックはこう答えたのだ。
 
「ありがとうよ。兄貴――、この俺のスキル。フルに使わせてもらうぜ」
「期待してるぜ――〝ダイダロス〟」

 ダイダロス、それがジニーロックのもう一つの名だった。
 ギリシャ神話に登場する優れた技術をもった職人であり発明家の名だった。
 モンスターとジニーロックは互いに言葉をかわし合い、頷き合いながら再び歩き出す。
 そしてそれは彼らの新たな仲間の誕生へとつながっていくのである。


 @     @     @


 そして、一ヶ月近い歳月が流れ去った。
 〝ジズ〟と呼ばれていた女は何処かへと姿を消した。その消息は誰も知らない。警察に身柄を拘束されている間に痛めつけられたサイボーグボディの修復に失敗して命を落としたのだと言う噂もいずこからともなく流れ聞こえていた。
 実際、警察の身辺警護のスキを突いての奪還劇は警察自身がマスコミに対して箝口令を敷いた事もあり、ジズ自身の出自の面倒さもあってか比較的短い期間に風化していった。遺体が悲惨な状態で発見されたとも言われた。
 いずれにせよ、血まみれのキラースパイダーと呼び称された一人のイカれた女は、大都市の闇の中へと消え去っていったのである。

 だがその代わりに聞こえてきた新たな噂があった。
 ブラックブラッドのボス、モンスターことジョン・ガントに新たな幹部ファミリーが現れた。モンスターの全幅の信頼を得て辣腕を奮っていると言う。
 一人は凄腕の闇エンジニアで〝ダイダロス〟と呼ばれる男。サイボーグボディから最新ハイテク兵器まで、あらゆる技術知識を持ち、ブラックブラッドの戦闘力の底上げに絶大な影響を行使している。モンスターとは義兄弟分でありモンスターを〝兄貴〟と呼べる唯一の人物だと言う。
 もう一人が、ダイダロスをダディと呼び、モンスターを叔父様と呼ぶ小柄な少女で歳の頃は12歳程度、身長140くらいの黒い肌の美少女。名前は不確かだが親しいものからは〝アニー〟とも〝アラクネ〟と呼ばれていた。
 二人はいつも連れ立って行動しており、ダイダロスが現れる場所にはアラクネの姿があった。巨漢のダイダロスと小柄な美少女のアラクネ。その特徴的なシルエットが街の噂になるまでさしたる時間はかからなかった。
 そして、アラクネの持つ最大のスキル。それは神がかり的なまでの単分子ワイヤーテクニックで闇社会においては他の追随を許さないと言う。そのワイヤーテクニックを目の当たりにした者は声を潜めて言う。

『姿を消したジズもワイヤーテクニックの使い手だった』――と、

 だがジズは成人女性、アラクネは12歳程度の子供、あまりにも違いすぎた。その真偽は確かめられる事もなくすぐに風化することになった。今やモンスターのそばにダイダロスとアラクネ有りとまで言われるほどになっていたのである。


 @     @     @


 そこは東京湾の羽田空港に望む倉庫街の一角で外国人の在留者は多い区画だった。
 倉庫を改装したデザインマンション。その一つに彼女は居た。
 時刻は夕暮れ、まだ日が沈まりきらない頃だ。10階建ての最上階、その一つに彼女の住む部屋はあった。
 広さ12畳ほどの絨毯張りの部屋、クリーム色の床にはところ狭しとぬいぐるみが並べられている。洋の東西から様々なキャラクター物から動物までありとあらゆる物が集められている。そしてそれは一つ一つが丁寧に並べられていて、普段から大切にされているのが痛いほどに伝わってくる。
 その部屋の窓辺、床に座り込みながら、一つのぬいぐるみを修復している少女が居る。
 背丈は140くらい、痩せた細いシルエットで髪は長い黒髪を丁寧に編みこんだ〝コーンロウ〟と呼ばれるドレッドヘアの一種で、うねる様な模様が彼女の頭に美しく描かれていた。
 黒人系の黒い肌は若々しく艷やかで、独特の野性的な美しさと色香を兼ね備えていた。その黒い素肌の上にオーバーサイズの男性物のTシャツを両肩を露出させてはおっている。その下には何も着ておらず、それが彼女の部屋着であることを物語っていた。
 手にしているのは古ぼけたクマのぬいぐるみでテディベアと呼ばれる物だ。造られた年代は1900年のヨーロッパでブランド名をシュタイフと呼ぶ高級アンティーク品である。よく見ると耳の端が少しばかりほつれている。少女はそのほつれ場所を自らの両手で丁寧に修復している。
 だがよく見ると奇妙である。その手には針もハサミも握られていない。まるで糸その物を指先で扱うかのようにして縫っている。仔細を知らない物が見れば不思議に思うだろう。少女はまるで魔法のようにぬいぐるみを修復する。なおした後には追加の縫い跡など一切感じられない。オリジナルの姿そのままに仕上げていた。
 その巧みな指先の動きによりテディベアのぬいぐるみを修復すると両手でそっと持ち上げて確かめる。出来上がりに不満は無いようだ。
 その部屋には彼女一人だったが、その部屋の入口がノックされる。
 ドアを叩く音に気づくと振り向き返事を返した。
 
「どうぞ」

 静かで落ち着いた語り口だった。安息と生きがいの中に身を置いているのがよく分かる。そしてその声に導かれる様にドアが開いた。
 
「ここに居たのか」
 
 ドアを開けて中へと入ってきたのは一人の黒人男性だった。ドレッドヘアにフード付きのウィンドブレーカー、目元にはガーゴイルズのサングラス。特徴的なファッションを身にまとった男はジニーロックである。
 落ち着いて平静を守っていた少女だったが、ドアを開けて現れた人物に、少女の顔はにわかに明るくなる。彼女が胸のうちに秘めた親愛の情のほどが判ろうと言うものだ。
 
「ダディ!」
「帰ったぜ。アリー、元気にしてたか?」
「うん。いい子にしてたよ」
「そうか」
 
 ダディという言葉はその少女がジニーロックと父娘の関係であることを物語っていた。実子なのか養子なのかはわからない。だが、2人が深い愛情をもって互いを信頼しているのだけはハッキリとわかった。
 
「しかし、また増えたな。誰からもらったんだ?」

 ジニーロックはアリーと呼ばれた少女の部屋の中に整然と並べられたぬいぐるみたちを眺めて半ば呆れ気味に問いかける。その問いにアリーは嬉しそうに微笑みながら答えた。

「コンステレーションのお兄ちゃんたち。トレーニングしてくれた時に貰ったの」
「そうか、ちゃんとお礼は言ったか?」
「うん、したよ。大切なことだから忘れてないよ」
「そうか、いい子だ。それでこそ俺の子だ」

 ジニーロックの口から少女を褒める言葉が出る。それが彼女には嬉しかったのだろう。相好を崩して笑いながら抱きついていく。背丈が190を超えるジニーロックと140有るか無いかの小柄なアリー、その身長差もまた2人が親子であることを示していた。そしてアリーはジニーロックの顔を見上げながらこう告げた。

「ダディ、今度の仕事はちょっと長かったね」

 その言葉はジニーロックがこの部屋に訪れたのが久しぶりだったということを示していた。そしてそれだけの手間を掛けなければならない必然性も合ったのだ。
 
「まぁな、今度ガントのヤツが直々に動いて大きなヤマを張ることになった。そのための準備だったからな。それで――ガントの奴がお前を呼んでるんだ」
「ジョンおじさんが?」
「あぁ」

 それまで親しい親子の会話だったのだが、〝父親〟の語る言葉に何かを悟って不意に冷静な表情を浮かべた。アリーは聡明な少女だった。そして素直な子だった。

「〝仕事〟だね?」
「そうだ」

 少女は何かを悟ったらしく頷いている。
 
「待っててすぐ支度する」
「あぁ」

 父にそう告げるとアリーは部屋を出る。そして部屋着にしていたオーバーサイズのダボダボのTシャツを脱ぐと、その下の妖精のような可憐な裸身をさらした。ムダ肉のない端正で鍛え上げられた純粋な野生を宿したその体。一糸まとわぬ姿のまま向かう先はシャワールームだ。ジニーロックは〝娘〟の挙動に関心を払いつつ、リビングのソファに腰掛けて娘が戻ってくるのをじっと待つ。そしてシャワールームの中の娘へと声をかける。
 
「アリー」
「なにー?」
「いつもそんな格好してるのか?」
「部屋の中だけだよ。この格好が楽だから。でも人と会う時はもっとまともな格好してるから安心して」
「そうか、ならいいんだ」

 そう言葉をやり取りする間もお湯が流れる音が聞こえてくる。そして生身の人間よりは遥かに短い時間でシャワーを終えると、タオルで体を拭いているのが気配で伝わってきた。姿を見せぬままアリーからの声がする。
 
「ねぇ、今度の相手はだれ?」

 それはひどく冷静で落ちつている。利発な子供と言うよりは少しばかり大人びていた。
 
「ベルトコーネって聞いたことあるか?」

 ベルトコーネ、ここしばらく闇の世界で噂の的となっている存在だった。
 
「知ってる。とっても面倒なやつでしょ?」
「あぁ、戦闘能力の限界が異常に高く、追い詰められるとすぐに暴走する。この間、有明の1000mビルで大暴れしてとっ捕まったんだが、まんまと逃げおおせたらしい。それがガントの奴のお膝元に現れたそうだ」
「捕まえるんでしょ? それとも壊すの?」
「捕まえる。捕まえて生け捕らないとクライアントが納得しないだろうって言うのがガントのヤツの〝読み〟だ」
「だろうね。アイツに煮え湯飲まされているやつは世界中にいるから」

 バスタオルで体を拭き終えてアリーが姿を現す。何も身に纏わずに幅広なブレスレットの様なアイテムを2つ手にしている。そしてそのブレスレットを両手首に嵌めながら言葉を続ける。その語り口には恨みめいたニュアンスが垣間見えている。
 
「飼い主の居なくなったテロロボットなんてとっとと死ねばいいのに」

 そう吐き捨て、裸体のままジニーロックへと歩み寄るとソファの背後から父たる男に抱きついていく。そしてジニーロックの耳元でそっと甘えるようにささやきかける。
 
「ね、こっち向いて」
「バカ! 見れるわけねえだろ?」
「えー、なんで?」
「今のお前の姿を見たら襲いたくなっちまう」

 ジョークなのか本気なのか笑いながらの返答に、アリーは苦笑しつつもジニーロックの背中を愛おしそうに強く抱きしめていた。
 
「いいよ。襲っても。ダディだったら」
「襲わねえよ」
「なんで?」
「お前は俺の大切な娘だからな」
「うん」
「娘を襲っちまったら父親じゃねえ。俺はお前の父親だ」
「うん、わかってる」

 アリーにはジニーロックの言葉が心底嬉しかったのだろう。抱きついたまま身を乗り出し、後ろ側からジニーロックの脇に顔を出すと横合いからそっと唇を寄せていく。その仕草に気づいてジニーロックもアリーに口づけを返した。
 それはそっと触れる口づけであり、男女の情愛というよりも、家族愛を確かめるためのソフトなものだ。そして唇を離すとジニーロックはそっと諭した。
 
「支度を終えろ。終わったらすぐに出る」
「うん。分かった」

 アリーは頷くとジニーロックから体を離す。そして両手首の幅広ブレスレットにささやきかけた。
 
「アラクネから宣言。装備展開スタンバイ」

 その言葉に反応してブレスレットがかすかな電子音を奏でたかと思うと、電子音声でインフォメーションを語り始めた。
 
『作戦行動用スーツシステム。ウェアラブルプロセススタート』

 そしてブレスレットが微かに青白い光を放ったかと思うと、アリーの全身を青白い光が幾条もの光の粒となって広がり、アリーの体の上へと瞬く間に装着装備を再現して行く。
 両足を覆う半透明なストッキング・タイツ。膝上までの編上げのブーツ。胴体全体を首筋まで覆う厚手のレザー風の黒いハイレグボディスーツ。両手には指を露出させ肘まで覆う保護用のグローブも嵌められている。最後に何処からともなく空間から現出させたかの如く、ロングコートが現れる。それを自ら袖を通して準備は完了だった。
 
『ウェアラブルプロセス完了、コンディションチェックオールグリーン』

 ブレスレットの電子音声が告げる。彼女の仕事の支度は完了である。

「できたよ」

 そのシンプルな言葉にジニーロックは立ち上がり背後を振り返るとアリーに告げた。
 
「オーケィ、それじゃ行こうか、〝アラクネ〟」

 アラクネ、それが彼女の本当の名だった。ジニーロックの言葉にうなずき返すと素早く歩み寄り彼の左隣へと並び立った。

「うん行こう」
 
 2人は静かに歩き出す。その彼らが向かう先は首都圏下の闇であった。
 そして〝2人〟は〝彼ら〟を待ち受けていたのである。
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