アーヴィン

テル

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取り替え子

異変

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 取り替え子の伝説というのを聞いたことがあるだろうか。この世界ではしばしば妖精が人間の赤ん坊を盗むということがある。
 申し遅れたが私の名前はロイド・アルブレア、しがない小説家だ。
 今宵は実際に私が体験した物語を皆様にお聞かせするとしよう。

 私の従妹のエレナには生まれたばかりの息子がおり名前をアランと言う。エレナが一度私の家にその子を連れてきた時のことは今でもよく覚えている。
 その子はとてもよく笑う元気な赤ん坊だった。髪は母に似て美しい金色で、つぶらな瞳は父に似て澄んだ青色だった。
 そんな幸せに包まれた一家にある奇妙な事件が起きた。
 ある朝エレナが目覚めるとベッドに居たはずの息子の姿が消えていた。
 夫のハボックと共に家中を探し回ったところなんと息子は食料の貯蔵庫の中で見つかったのだ。
 翌日もそのまた翌日も同じような事が起きたので、不審に思ったハボックは夜中の間中ずっと息子を見張ることにした。
 けれどもそんなハボックを嘲笑うかのように彼が見張っている時に限って何も起こらないのだ。
 
 私が偶然エレナの元を訪ねた時、精神的に追い詰められたエレナとハボックは酷く弱っているようだった。
 事情を全て私に打ち明けどうか助けてくれと懇願するエレナ夫婦を見捨てる事が出来るはずもなく、ひとまず私は問題の息子アランに会ってみることにした。
 再会したアランの見た目は以前会った時とそう変わりないように見えたが明らかに様子が異なっていた。
 まず以前と違い全く笑おうとしない、それどころか私の方を見ようともしない、まるで表情から私に何かを読み取られるのを恐れるかのように……。
 そして私の疑念を決定的にしたのは私がハボックに勧められたワインを飲んでいた時のことだ。
 それまで私に対しては無関心を貫いてきたアランが急に私の元へと這い寄って来たのだ。
 けれどアランの興味を引いたのは当然私ではなく、私の持っていたワインのグラスであったことはその時のアランの表情が物語っていた。
 まるで酒を飲むことにしか生き甲斐を見いだせない病人のようなその必死の形相は、この赤ん坊の姿をした生き物がアランではないと私に確信させた。
 
 古い言い伝えに取り替え子というものがある。
 取材の最中、偶然聞きかじったその伝説が今まさに目の前で起きていた。

 そして私は妹にその事を伝え、私が戻るまで決してアランから目を離さぬようにと念入りに忠告した。
 翌日、エレナ夫婦に別れを告げ私は朝早く村を出て都へと向かった。
 道中馬車を拾った私は御者にフロスト通りへ向かうよう告げた。
 以前私は取材である魔術師の元を訪ねた事がある。
 彼の名はアーヴィン、私が知る中では最も風変わりな人物で、見た目こそ若いが本当の年齢は数百歳とも言われている。
 何かしらの魔法によるものなのか、或いはそもそも彼は人ではないのかもしれない。
 何にせよ今回の事件において私が頼ることが出来る人物が彼しかいないのは否定し難い事実である。
「着きましたよ旦那」
 御者にチップを払うと私はその古びた屋敷の扉を叩いた。
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