僕の彼女はヒーローなんです

テル

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勇気

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 現在の状況を整理しよう。僕達が囚われているのはビルの2階。犯人は2人、1人は全身爬虫類のような鱗に覆われたミュータント、もう1人は炎を自在に操るミュータント。それに対してヒーロは冷気を自在に操るフリーズガールただ1人。
 炎と氷、相反する能力を持った2人の戦いは互角だった。フリーズガールが放つ氷は犯人の炎で溶かされ、犯人の放つ炎は氷の壁で阻まれる。
 しかし問題はもう1人のトカゲ男だ。フリーズガールの隙を突いて放たれる拳を彼女は氷の盾で受ける。けれどその衝撃が彼女を苦しめていた。
「ヒーローといっても所詮その程度かよ!」
 犯人の放つ炎の熱気がこちらまで伝わってくる。間近で戦っているフリーズガールはさらに強烈な熱気に晒されているに違いない。
「なあおい、お前もヒーローなんて辞めて俺達と組もうぜ。そうすりゃこの力でどんなことでも出来るんだぜ!」
「そんな戯言に興味はありません!」
 余裕の犯人とは対照的にフリーズガールはとても苦しそうだった。
(せめてあの炎さえどうにか出来れば……)
 僕にも能力があれば、そんなことを考えても何の意味もないことは分かっていた。それにもし仮に能力があったとして、あのヒーローと同じように戦う勇気が僕にあるだろうか。自分の無力さを噛み締め、思わず泣きそうになるのをぐっと堪えた。
 そんな時だった。ポケットに入れていたスマホが振動した。
「翔太!」
 画面に写されていたのは外に居る翔太からのメッセージだった。
『入口が炎に囲まれて警察が入れない。今屋上からの突入を試みようとしてるけど中の状況が分からないらしい』
 そのメッセージを見て少しだけ冷静さを取り戻すことが出来た。
 犯人に気づかれぬよう体勢を低くし他の人質の影でスマホにメッセージを入力した。
『犯人は2人、今目の前でフリーズガールが戦っている』
 翔太からの返信は早かった。
『中の様子を出来るだけ詳しく教えてくれ』
 僕は焦る鼓動を抑えながら出来るだけ詳細な情報を送り続けた。犯人の特徴、人質達の位置、フリーズガールが追い詰められていることも。
 翔太は僕からのメッセージを警察に見せているようだった。送られてきたメッセージは僕を勇気づけてくれた。
『準備が出来次第突入する』
 微かに見えた希望、ほっと安堵する僕を突如響いた悲鳴が現実へと引き戻した。
「あ、あ……」
 顔を上げ僕は見た。トカゲ男に首根っこを捕まれ絶体絶命のフリーズガールの姿を。
「残念だったなヒーロー。正義が勝つとは限らないのさ」
 犯人の笑い声とフリーズガールの嗚咽が入り混じり人質達もパニックを起こしていた。
「僕に力がないから……」
 違う。そんなのは言い訳に過ぎない。そんなことは分かっていた。
「くそっ!」
 僕と彼女の違いは能力の有り無しじゃなかった。大事なのは力ではなく心なのだ。
 僕は動きだした。群衆の間に身を隠し目的の場所まで慎重に進んだ。
 彼女を、フリーズガールを助けたいその一心で。
「怖いけど、やるしかないじゃないか……」
 震える手を抑えつけ、唇を噛みしめ、勇気を奮い立たせる。
「神様。僕に勇気を……!」
 僕の心は決まった。
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