上 下
3 / 13

episode02 sideクロ

しおりを挟む
 君は植物の知識が豊富で、三角屋根のお家にはいつもゴリゴリと薬草をすり潰す音や、調合した怪しげな液体をコポコポと火にかける音に満ちていた。

 僕からすれば、そんな生活音? も眠気を誘う導眠剤。
 窓辺の特等席で丸くなりながら、楽しそうに調薬する君を眺めながら眠りの国に赴く。

 君は僕の視線に気がつくと、楽しそうに薬の説明をしてくれる。
 擦り傷に効く軟膏、冷え性に効く飲み薬、頭痛薬に睡眠導入剤。保湿クリームや髪をツヤツヤにするオイルなんかも作っていて、手作りの木の棚には色んな小瓶がズラリと並んでいる。

 今日はどんな薬を調合しているのだろう?
 ふぁぁ……だめだ、眠たくなってきた。

「ふふっ、クロはいつも寝てるね。とっても気持ちよさそうで見てるこっちも眠くなるよ」

 だって仕方ないだろう?
 ゴリゴリと規則的に響く音、窓の外から差し込む陽光、君の鼻歌。どれもこれも心地よくて寝るなという方が無理って話。

 くああ、と欠伸をすれば、君は朗らかに笑う。
 この平和で穏やかなひとときが僕の胸をじんわり温めてくれる。


 君はたまに、脚の下にカーブした板がついた奇妙な椅子に座って、ゆらゆら揺れながら僕と一緒に微睡んだ。

 ろっきんぐちぇあ? とか言うらしいんだけど、その揺れがなんとも気持ちよくて、僕は君がこの椅子に座ると膝の上にお邪魔して背中を撫でてもらう。
 サラリとした君の長い黒髪が鼻先を掠めてくすぐったい。君の髪はふわりと優しい花の香りがする。
 
 僕の艶々の毛並みを撫でる手はとても優しくて、ついついゴロゴロと喉を鳴らしてしまう。さりげなく喉をそらすと、今度はその喉を撫でてくれて、なんともたまらない。

 君の膝の上は陽だまりみたいで、うん、最高だにゃあ。
しおりを挟む

処理中です...