9 / 13
episode08 sideクロ
しおりを挟む
ある日のこと、僕は君の些細な変化に気がついた。
「どうもこんにちは、頼んでいた薬の進捗はいかがでしょう?」
むむ、この男は最近よく家に来る、確か町長の息子だったかな。病に伏せる大事な人のためにと薬を求めて足繁く通ってくる朗らかな男だ。
「こ、こんにちは……その、今月の分は既に用意ができてます……」
「ありがとう! 魔女さんのおかげでアリスもだいぶ元気になったんだ。この間なんて数年ぶりに外に散歩に出て、あの嬉しそうな顔ときたら……おっと、ごめん。支払いを済ませないと」
「あ、ありがとうございます。ではまた来月……」
「ああ、また」
この男と話す時、君はいつも三角帽子を目深に被り、声も消え入るほどに小さくなる。
ふむ、確かに栗色の少し癖毛な髪、同じく栗色で切れ長な瞳は僕に似ていないこともないし、人の良いこの男に君が惹かれるのも分からなくもない。
男が出て行ったあとも、君はぼーっと蕩けた視線をドアに向けていて、いつも「にゃあ」と鳴いて現実世界に引き戻してあげなきゃならない。
つまるところ、君は今、初めて恋とやらをしているんだ。
「はぁ……マクベルさんには大切な人がいるんだもの。この気持ちは封じなきゃね」
君はいつもそう言ってため息をつくけど、誰かを想う温かな気持ちは無理に閉じ込めなくてもいいと思うよ?
その気持ちは君だけのものだから、大事にしなきゃ。
でもね、僕は知っているんだよ。
「ねぇ、猫くん。魔女さんは誰か好きな人がいるのかな? やっぱり魔女さんの相手は魔法使いじゃないとダメなのかなあ……」
この男の大切な人ってのは妹で、その妹の病状が良くなってからもここに通うのは君に会いたいがためってことをね。
マクベルとか言う男は、君が薬を紙に包んでいる間、ぽけっと君に見惚れながら僕にコソコソ話しかけてくる。仕方がないので「にゃあ」と相槌を打つ優しい僕。
聞く(聞かされた)ところによると、どうやらこの男は幼い頃に君に助けられたことがあるらしい。それからずっと君に憧れていて、いつしか憧憬が恋慕に変わっていったんだって。
「でも、魔女さんに僕が想いを寄せるなんて……きっと叶わない恋なんだろうね。彼女は初めて出会ったあの日から全く外見が変わらない。僕たちは同じ時間を歩むことはできないんだな……」
やれやれ、お互いに片想いだと思ってるんだから世話が焼けるにゃあ。確かに魔女と人間じゃ寿命が違い過ぎる。魔女は人間の何倍もの長き時を生きる。
だけど、それでもいいじゃないか。
好きなんだろう?
気持ちを伝えないと始まるものも始まらないぜい?
ちょっぴりお節介な僕は、ひらりと特等席から降りると、薬を手渡すために男に近づく君の後ろに回り込んだ。そしてぴょーんと飛び上がって、君の背中をタンッと蹴った。
「わぁっ!?」
「魔女さん!?」
君は転ぶまいとたたらを踏むが、大事な薬が入った袋を両手に抱えている。抵抗虚しく君の身体は傾いて男の腕の中にすっぽりと収まった。
「あ、す、すみません……ありがとうございます」
「いえ、大丈夫ですか?」
「え、ええ……」
抱き合ったまま熱を孕んだ目で見つめ合う二人。そして同時にハッと我に返って慌てて身体を離した。
ちぇ、いいじゃないかもう少しくっついていたってさ。
照れ屋な二人だねえ。
僕のナイスな後押し(物理的に)により、この日から二人の距離は少しずつ縮んでいった。
「どうもこんにちは、頼んでいた薬の進捗はいかがでしょう?」
むむ、この男は最近よく家に来る、確か町長の息子だったかな。病に伏せる大事な人のためにと薬を求めて足繁く通ってくる朗らかな男だ。
「こ、こんにちは……その、今月の分は既に用意ができてます……」
「ありがとう! 魔女さんのおかげでアリスもだいぶ元気になったんだ。この間なんて数年ぶりに外に散歩に出て、あの嬉しそうな顔ときたら……おっと、ごめん。支払いを済ませないと」
「あ、ありがとうございます。ではまた来月……」
「ああ、また」
この男と話す時、君はいつも三角帽子を目深に被り、声も消え入るほどに小さくなる。
ふむ、確かに栗色の少し癖毛な髪、同じく栗色で切れ長な瞳は僕に似ていないこともないし、人の良いこの男に君が惹かれるのも分からなくもない。
男が出て行ったあとも、君はぼーっと蕩けた視線をドアに向けていて、いつも「にゃあ」と鳴いて現実世界に引き戻してあげなきゃならない。
つまるところ、君は今、初めて恋とやらをしているんだ。
「はぁ……マクベルさんには大切な人がいるんだもの。この気持ちは封じなきゃね」
君はいつもそう言ってため息をつくけど、誰かを想う温かな気持ちは無理に閉じ込めなくてもいいと思うよ?
その気持ちは君だけのものだから、大事にしなきゃ。
でもね、僕は知っているんだよ。
「ねぇ、猫くん。魔女さんは誰か好きな人がいるのかな? やっぱり魔女さんの相手は魔法使いじゃないとダメなのかなあ……」
この男の大切な人ってのは妹で、その妹の病状が良くなってからもここに通うのは君に会いたいがためってことをね。
マクベルとか言う男は、君が薬を紙に包んでいる間、ぽけっと君に見惚れながら僕にコソコソ話しかけてくる。仕方がないので「にゃあ」と相槌を打つ優しい僕。
聞く(聞かされた)ところによると、どうやらこの男は幼い頃に君に助けられたことがあるらしい。それからずっと君に憧れていて、いつしか憧憬が恋慕に変わっていったんだって。
「でも、魔女さんに僕が想いを寄せるなんて……きっと叶わない恋なんだろうね。彼女は初めて出会ったあの日から全く外見が変わらない。僕たちは同じ時間を歩むことはできないんだな……」
やれやれ、お互いに片想いだと思ってるんだから世話が焼けるにゃあ。確かに魔女と人間じゃ寿命が違い過ぎる。魔女は人間の何倍もの長き時を生きる。
だけど、それでもいいじゃないか。
好きなんだろう?
気持ちを伝えないと始まるものも始まらないぜい?
ちょっぴりお節介な僕は、ひらりと特等席から降りると、薬を手渡すために男に近づく君の後ろに回り込んだ。そしてぴょーんと飛び上がって、君の背中をタンッと蹴った。
「わぁっ!?」
「魔女さん!?」
君は転ぶまいとたたらを踏むが、大事な薬が入った袋を両手に抱えている。抵抗虚しく君の身体は傾いて男の腕の中にすっぽりと収まった。
「あ、す、すみません……ありがとうございます」
「いえ、大丈夫ですか?」
「え、ええ……」
抱き合ったまま熱を孕んだ目で見つめ合う二人。そして同時にハッと我に返って慌てて身体を離した。
ちぇ、いいじゃないかもう少しくっついていたってさ。
照れ屋な二人だねえ。
僕のナイスな後押し(物理的に)により、この日から二人の距離は少しずつ縮んでいった。
11
あなたにおすすめの小説
行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる
春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。
夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。
形のない愛は信じない。
でも、出来立ての肉は信じてしまう。
肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。
これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。
聖女は聞いてしまった
夕景あき
ファンタジー
「道具に心は不要だ」
父である国王に、そう言われて育った聖女。
彼女の周囲には、彼女を心を持つ人間として扱う人は、ほとんどいなくなっていた。
聖女自身も、自分の心の動きを無視して、聖女という治癒道具になりきり何も考えず、言われた事をただやり、ただ生きているだけの日々を過ごしていた。
そんな日々が10年過ぎた後、勇者と賢者と魔法使いと共に聖女は魔王討伐の旅に出ることになる。
旅の中で心をとり戻し、勇者に恋をする聖女。
しかし、勇者の本音を聞いてしまった聖女は絶望するのだった·····。
ネガティブ思考系聖女の恋愛ストーリー!
※ハッピーエンドなので、安心してお読みください!
冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?
由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。
皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。
ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。
「誰が、お前を愛していないと言った」
守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。
これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
契約妻に「愛さない」と言い放った冷酷騎士、一分後に彼女の健気さが性癖に刺さって理性が崩壊した件
水月
恋愛
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件の旦那様視点短編となります。
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる