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第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される
07. エレインの実力①
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「はっ、夢か…」
エレインが目覚めると、そこはよく見知った質素な宿屋の天井ーーーー…ではなかった。
「夢じゃないですよ。さっさと起きてください」
エレインの顔を覗き込むようにして、頬をペチペチ叩いている子供は、火竜のアグニと言ったか。その紅蓮の瞳に映る自分の顔が絶望に染まっている。
「うっ、夢であって欲しかった…ズビッ」
「はぁ…僕もですよ。何で冒険者と一緒に住むことになるんだか…」
寝起き数秒で涙目になるエレインと、ゲンナリとした表情のアグニ。
そんな二人と対照的に、鼻歌を歌いながら灼刀を素振りしているのは、ここ70階層の主である鬼神のホムラだ。
「ったく、よく寝る冒険者だぜ。ここで生きていくからには、まずはすぐに失神する癖を治すんだな。毎度驚かれて気絶されるのも面倒だわ」
「うぐぅ…すみません…」
ホムラは刀を鞘に収め、エレインに歩み寄る。エレインは身を縮こまらせながらも、ようやく周囲の様子に目を向けた。
「え…っと、ここって本当にダンジョンの中なんですか?」
エレインが疑問を持つのもそのはず。先ほどからエレインがお世話になっているのは、深く身体を包み込むような上質なベッド。少し離れたところにはダイニングテーブルと椅子らしきもの、キッチンや居間まで完備されている。見渡す限り、まさに居住空間そのものである。
「ああ、安心しろ。ダンジョンで間違いねぇよ。ただし、本来冒険者が踏み入れることのないダンジョンの裏だけどな」
「だ、ダンジョンの裏?」
首を傾げるエレインの側に木製の椅子を置いて腰掛けるホムラ。アグニも同様にホムラの横に鎮座した。
「ま、と言ってもボスの間だけの特別仕様だ。低階層の階層主は知性が無ぇから、ダンジョン内の魔獣どもと同じく通常ダンジョン内で生活してる。だが、俺らみたいな知性を持つ魔神や上位の魔物の場合、殺伐としたダンジョン内で暮らすのはどうも物足りねぇ。そんなことを考えてたら、ダンジョンが用意してくれたんだわ」
「はい?ダンジョンが?え…生きてるんですか?」
ホムラの話に、エレインは何が何だか分からずに首を捻る。
「ははっ、流石にこのデケェ塔自体が生き物って訳はねぇよ。だが、面白いことに、ダンジョンは常に変化している。俺たちが望むように姿を変え、冒険者が手こずるようにマップが変わる。それを俺たちは、『ダンジョンの意志』って呼んでる。ボロボロになったフロアが、時間が経てば再生するのも、ダンジョン内のマップが不定期に変容するのも、全てダンジョンが俺らのために環境を整えてるように思えるだろ?」
何ともとんでもない話である。
冒険者である自分が聞いていい話なのかと、エレインは戦々恐々とした。まるで、冒険者や魔物、階層主は皆ダンジョンを盛り上げるための役者であり、ダンジョン自体がその舞台を整えているようなーーーエレインはぞくりと背に冷たいものが走った、気がした。
「ま、実際のところは俺らにも分かんねぇから、そういうもんだと思ってりゃいい」
このホムラという男は、戦い方だけでなく考え方も豪快なようだ。椅子の上で胡座をかき、肘をついてのほほんとしている。というか、本当にこれが噂の『破壊魔神』なのか?
エレインが訝しんでいると、ホムラはほっと椅子から降りた。
「とまあ、ここの説明はこんなところにして…ともかくお前の実力を見せてみろ」
「………………ひぇ?」
先ほどまでの穏やかな表情から一転、顔に影を作りつつ、ゴキゴキと指を鳴らすホムラ。
一方のエレインは冷や汗ダラダラである。
(ひーん!やっぱり『破壊魔神』の名前は伊達じゃないよぉぉ!めっちゃ顔怖いし!)
「さて、ここだと暴れらんねぇから、ボスの間に戻るぞー」
「いやぁぁぁ!」
首根っこを掴まれ、引き摺られるようにして、エレインはボスの間へと舞い戻ってきてしまった。
◇◇◇
「それで、おチビ。お前は何の魔法を使えるんだ?」
手のひらに火球を出しては握り潰してを繰り返しつつ、ホムラが問うた。
おチビ呼ばわりに異議を唱えたいが、エレインは鬼神相手に楯突こうなど、そんな命知らずでは無い。
「え…っと、初級魔法…と補助魔法を少し」
長い杖を抱えるように持つエレインは、今にも消え入りそうな声で応えた。
「ふーん。とりあえず初級魔法全部使ってぶつかってこい」
面倒臭そうに、でもどこか楽しそうにエレインに向き合うホムラ。
「うぅ…じゃあ、ええと…火の初級魔法からいきます…」
エレインは観念して杖を構えた。
初級魔法に詠唱は不要だ。魔力を練り上げ、呪文を発するだけでいい。
エレインは杖の先に意識を集中させる。身体の中で魔力が練り上げられるのを感じる。そのままその魔力を維持しつつ、杖の先へと移動する。
「ふぁ、《火球》!」
そしても燃え盛る火の玉がホムラに襲い掛かる!…ことはなく。手のひらサイズの火球がひょろひょろと空中散歩をしながらホムラへと向かっていく。
「ほっ」
ホムラがぺちんと手で払うと、火球はアッサリと地面に落ちて燃え尽きた。
「おら、まだまだ!どんどん打ってこい!」
ホムラがちょいちょいと挑発するように人差し指を動かす。エレインは言われるがまま魔法を放ち続けた。
「《水刃》!」
「ふんっ」
「《雷》!」
「効かん」
「《疾風》!」
「ん?そよ風か?」
「《土撃》!」
「よっと」
5大属性の初級魔法を一通り放ったエレインは、膝に手をついて肩で息をしていた。
一方のホムラは涼しい顔をして耳を掻いている。どの魔法もホムラに到達する前に全て薙ぎ払われてしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ…うぅぅ」
(ぐすっ、やっぱり全然効いてないぃ…)
アレク達にも散々使い物にならないだの、へぼいだのボロクソに言われた魔法の腕である。だが、かすり傷ひとつ付けられないとは情けない。
(やっぱり、冒険者に向いてないんだ…うっうっ)
またポタポタと目から涙が溢れてボスの間の床を濡らす。
「なるほどなるほど。じゃあ次は補助魔法とやらを見せてみろ」
そんなエレインにはお構いなしに、ホムラは新たな注文をする。
「えっと…自分にかけることもできますけど…私の補助魔法は誰か別の人の強化の方がより効果が出ますので…」
ビクビクしながら答えると、ホムラは少し考える素振りをした後、今日一の悪い顔をした。
「対象者がいればいいんだな?アグニ!お前ちょっと被験体になれ」
「はぁぁぁぁ!?」
そして、ホムラの後方でのんびり二人の様子を観察していたアグニが、今日一の叫び声を上げた。
エレインが目覚めると、そこはよく見知った質素な宿屋の天井ーーーー…ではなかった。
「夢じゃないですよ。さっさと起きてください」
エレインの顔を覗き込むようにして、頬をペチペチ叩いている子供は、火竜のアグニと言ったか。その紅蓮の瞳に映る自分の顔が絶望に染まっている。
「うっ、夢であって欲しかった…ズビッ」
「はぁ…僕もですよ。何で冒険者と一緒に住むことになるんだか…」
寝起き数秒で涙目になるエレインと、ゲンナリとした表情のアグニ。
そんな二人と対照的に、鼻歌を歌いながら灼刀を素振りしているのは、ここ70階層の主である鬼神のホムラだ。
「ったく、よく寝る冒険者だぜ。ここで生きていくからには、まずはすぐに失神する癖を治すんだな。毎度驚かれて気絶されるのも面倒だわ」
「うぐぅ…すみません…」
ホムラは刀を鞘に収め、エレインに歩み寄る。エレインは身を縮こまらせながらも、ようやく周囲の様子に目を向けた。
「え…っと、ここって本当にダンジョンの中なんですか?」
エレインが疑問を持つのもそのはず。先ほどからエレインがお世話になっているのは、深く身体を包み込むような上質なベッド。少し離れたところにはダイニングテーブルと椅子らしきもの、キッチンや居間まで完備されている。見渡す限り、まさに居住空間そのものである。
「ああ、安心しろ。ダンジョンで間違いねぇよ。ただし、本来冒険者が踏み入れることのないダンジョンの裏だけどな」
「だ、ダンジョンの裏?」
首を傾げるエレインの側に木製の椅子を置いて腰掛けるホムラ。アグニも同様にホムラの横に鎮座した。
「ま、と言ってもボスの間だけの特別仕様だ。低階層の階層主は知性が無ぇから、ダンジョン内の魔獣どもと同じく通常ダンジョン内で生活してる。だが、俺らみたいな知性を持つ魔神や上位の魔物の場合、殺伐としたダンジョン内で暮らすのはどうも物足りねぇ。そんなことを考えてたら、ダンジョンが用意してくれたんだわ」
「はい?ダンジョンが?え…生きてるんですか?」
ホムラの話に、エレインは何が何だか分からずに首を捻る。
「ははっ、流石にこのデケェ塔自体が生き物って訳はねぇよ。だが、面白いことに、ダンジョンは常に変化している。俺たちが望むように姿を変え、冒険者が手こずるようにマップが変わる。それを俺たちは、『ダンジョンの意志』って呼んでる。ボロボロになったフロアが、時間が経てば再生するのも、ダンジョン内のマップが不定期に変容するのも、全てダンジョンが俺らのために環境を整えてるように思えるだろ?」
何ともとんでもない話である。
冒険者である自分が聞いていい話なのかと、エレインは戦々恐々とした。まるで、冒険者や魔物、階層主は皆ダンジョンを盛り上げるための役者であり、ダンジョン自体がその舞台を整えているようなーーーエレインはぞくりと背に冷たいものが走った、気がした。
「ま、実際のところは俺らにも分かんねぇから、そういうもんだと思ってりゃいい」
このホムラという男は、戦い方だけでなく考え方も豪快なようだ。椅子の上で胡座をかき、肘をついてのほほんとしている。というか、本当にこれが噂の『破壊魔神』なのか?
エレインが訝しんでいると、ホムラはほっと椅子から降りた。
「とまあ、ここの説明はこんなところにして…ともかくお前の実力を見せてみろ」
「………………ひぇ?」
先ほどまでの穏やかな表情から一転、顔に影を作りつつ、ゴキゴキと指を鳴らすホムラ。
一方のエレインは冷や汗ダラダラである。
(ひーん!やっぱり『破壊魔神』の名前は伊達じゃないよぉぉ!めっちゃ顔怖いし!)
「さて、ここだと暴れらんねぇから、ボスの間に戻るぞー」
「いやぁぁぁ!」
首根っこを掴まれ、引き摺られるようにして、エレインはボスの間へと舞い戻ってきてしまった。
◇◇◇
「それで、おチビ。お前は何の魔法を使えるんだ?」
手のひらに火球を出しては握り潰してを繰り返しつつ、ホムラが問うた。
おチビ呼ばわりに異議を唱えたいが、エレインは鬼神相手に楯突こうなど、そんな命知らずでは無い。
「え…っと、初級魔法…と補助魔法を少し」
長い杖を抱えるように持つエレインは、今にも消え入りそうな声で応えた。
「ふーん。とりあえず初級魔法全部使ってぶつかってこい」
面倒臭そうに、でもどこか楽しそうにエレインに向き合うホムラ。
「うぅ…じゃあ、ええと…火の初級魔法からいきます…」
エレインは観念して杖を構えた。
初級魔法に詠唱は不要だ。魔力を練り上げ、呪文を発するだけでいい。
エレインは杖の先に意識を集中させる。身体の中で魔力が練り上げられるのを感じる。そのままその魔力を維持しつつ、杖の先へと移動する。
「ふぁ、《火球》!」
そしても燃え盛る火の玉がホムラに襲い掛かる!…ことはなく。手のひらサイズの火球がひょろひょろと空中散歩をしながらホムラへと向かっていく。
「ほっ」
ホムラがぺちんと手で払うと、火球はアッサリと地面に落ちて燃え尽きた。
「おら、まだまだ!どんどん打ってこい!」
ホムラがちょいちょいと挑発するように人差し指を動かす。エレインは言われるがまま魔法を放ち続けた。
「《水刃》!」
「ふんっ」
「《雷》!」
「効かん」
「《疾風》!」
「ん?そよ風か?」
「《土撃》!」
「よっと」
5大属性の初級魔法を一通り放ったエレインは、膝に手をついて肩で息をしていた。
一方のホムラは涼しい顔をして耳を掻いている。どの魔法もホムラに到達する前に全て薙ぎ払われてしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ…うぅぅ」
(ぐすっ、やっぱり全然効いてないぃ…)
アレク達にも散々使い物にならないだの、へぼいだのボロクソに言われた魔法の腕である。だが、かすり傷ひとつ付けられないとは情けない。
(やっぱり、冒険者に向いてないんだ…うっうっ)
またポタポタと目から涙が溢れてボスの間の床を濡らす。
「なるほどなるほど。じゃあ次は補助魔法とやらを見せてみろ」
そんなエレインにはお構いなしに、ホムラは新たな注文をする。
「えっと…自分にかけることもできますけど…私の補助魔法は誰か別の人の強化の方がより効果が出ますので…」
ビクビクしながら答えると、ホムラは少し考える素振りをした後、今日一の悪い顔をした。
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