【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

水都 ミナト

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第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される

08. エレインの実力②

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「ホムラ様!?何と言いましたか!?」
「あ?聞こえなかったか?お前がおチビの補助魔法を受けて俺と戦え」
「んなぁぁぁあ!?」

 飄々と答えるホムラに絶句するアグニ。何か反論しようと口を開くが、そんなアグニの主張を聞き入れる主人であるはずもなく。アグニは諦めてガクリと肩を落とした。

(アグニちゃん…苦労してるんだ…)

 しれっと火竜をちゃん付けで呼ぶエレインである。恐ろしいドラゴンとはいえ、今は背中に羽を生やした幼子の姿をしているのだ。どこからどう見てもその姿は愛くるしい。

 やがて諦めたようにトボトボとエレインに近づいて来るアグニ。エレインは反射的に杖を構えて後ずさる。

「あー…先に言っておきます。この姿では戦えないので、元の姿に戻ります。くれぐれも気絶しないでくださいね!?」
「ひっ、も、元の姿…!?」

 ボスの間で初めて気を失った時の眼前に迫った恐ろしい火竜の姿を思い出し、エレインは既に卒倒寸前である。

「…ダメだ、絶対気絶する。どうしましょうかね…」

 エレインの様子を見て、アグニは諦めたように深く息を吐いた。

「見なかったらいいだろ」
「え?」
「別に見なくても対象者に魔法かけれるだろ?」
「あ…でき、ます」

 すると、ホムラがあっけからんとした態度でそう言った。エレインも思わず肯定したが、確かにしっかりとイメージをすれば、対象者を見る必要はない。

「あ、そんな簡単に解決するんですか?まあいいか。ともかくやるならサッサと始めてしまいましょう。戻りますよ?後ろ向くか下向くかしておいてくださいね」

 半ば呆れたようそう言ったアグニの足元に、ぶわりと風が巻き起こった。エレインは慌てて俯く。そしてアグニを包み込むように竜巻が巻き起こり、次の瞬間には風の渦を跳ね飛ばすように巨大な翼を広げて火竜が姿を現した。

「よし、おチビ、補助魔法とやらをかけろ!」
「ヒィィ…《強化》!」

 ホムラに促され、エレインは慌てて杖を掲げると、目線を上げないようにして、竜化したアグニに向かって補助魔法を放った。杖の先から細かな光の粒子が溢れ出し、アグニの巨躯を包み込む。

「お?なんかあったかいですね」

 魔法に包まれたアグニはそんなことを言っているが、その声は先ほどまでの可愛い幼い声ではなく、野太く響く竜のそれであった。

「ぴぃっ!?こっ、怖くない怖くない怖くない怖くない…」

 ブツブツと自分に言い聞かせるように呟くエレイン。アグニが光の膜を纏ったと確認すると、ホムラは早速灼刀を抜刀した。

「よぉし、掛かってこい!」
「はぁ、仕方ないですね…行きますよ!」

 灼刀を構えるホムラに、アグニが突進する。ホムラは難なく後方に飛び退いて回避をする。アグニはそのまま急旋回し、上空で口を大きく開いた。喉の奥で魔力が炎となり溢れ出す。

「《炎の息吹フレイムブレス》!!」
「はっ、そんなもん…おぉ!?」

 アグニ得意のブレスであったが、いつもであればホムラの灼刀一振りで跳ね返されていた。が、いつものように刀を構えてブレスに対面したホムラは何か違和感を感じた。

 このブレスはいつもと違う・・・・・・
 燃え盛る炎の勢い、温度、恐らく威力も。そのどれもが通常時を遥かに上回っていると思われた。

 跳ね返そうとしていたが、即座に体勢を変え、強く地面を蹴って退避した。

 ゴォォォォン!!

 直後、ホムラが立っていた場所にブレスが直撃し、床を抉って尚も炎は勢いよく燃え盛った。その威力はホムラの少し本気を出した時の火球と同等レベルか。

 たらりとホムラの額に汗が流れた。

「こりゃ、舐めてかかると怪我するのは俺の方だな」

 ピリッとホムラの雰囲気が変わる。エレインはビクッと肩を震わせると、そそくさと柱の影へと退避した。恐る恐る戦況を見守る。

(わ、私の補助魔法…効いてるのかな?)

 アレク達は危なっかしくてダンジョン内ではほぼ常時と言っていいほど補助魔法をかけていた。戦闘では彼らのチームワークもあり、さほど窮地に陥ることはなかったのだが、補助魔法のおかげなのか、彼ら自身の技量のおかげなのか、エレインには判別がついていなかった。

「何だかいつもより調子がいいですね。ホムラ様!続けていきますよ!」

 アグニは大きな手を握ったり開いたりして力の感触を確かめているようだ。
 そして鋭い爪を構えると、勢いよく腕を振り抜いた。空気を裂いて衝撃波がホムラを襲う。

「ははっ!やるじゃねぇかアグニ!今度はこっちの番だ!」

 ホムラは灼刀で難なく衝撃波をいなし、地面を強く蹴って大きく跳躍した。そのまま落下の勢いを利用し、アグニに切りかかる。

「グワァァァァァァァ!!…ん?思ったほど痛く、ない?」

 太刀を浴びたアグニは苦しそうに胸を押さえたが、切られたと思った場所に刀傷はなかった。

「へぇ、防御力もかなり強化されてるってことかァ?戦りがいがあるな、こりゃ」

 ホムラは加虐的な笑みを浮かべると、灼刀に炎を纏わせた。アグニも普段やられてばかりだが、今ならホムラと渡り合えると、好戦的な表情へと変わる。

 そこからの戦いは熾烈を極めた。
 アグニのブレスがフィールドを焼き、ホムラの刃が柱や壁を切り刻む。ホムラが切った箇所は鬼の炎が燃え移り、激しく燃え盛った。あっという間にボスの間は炎に包まれ、正に地獄絵図と化した。そんな中、ホムラの灼刀と、アグニの爪が激しく交わる音が部屋に響く。開き切った二人の紅蓮の瞳には、揺らめく炎が反射していた。

 勝負を決めたのは、ホムラの鋭い踵落としであった。灼刀でアグニの腕を薙ぎ払い、高く飛び上がった勢いのままに素早く何回転もして脳天に踵を落とした。アグニは軽い脳震盪を起こし、その巨体を燃え盛る床に沈ませた。力尽きたアグニは、竜化が解けて幼い子供の姿に戻って倒れ込んでいる。

 ホムラは肩で息をし、朱色の髪をかき上げて汗を払った。その表情は恍惚として、頬は紅潮していた。

「ははっ、久々に思いっきり戦えたぜ!おチビ、お前案外やるじゃねぇか!ん?おチビどこに行った?」

 ホムラが辺りを見回すがエレインの姿がない。思う存分暴れ、破壊し尽くしたため、フィールドはボロボロだ。時間が経てばすぐに元通りなのだが。

 ホムラは唯一無事だった玉座に手をかけて、その後ろを覗き込んだ。

「怖くない、怖くない、怖くない…怖い怖い怖い…グスッ、グスッ」

 するとそこには、三角帽を目深に被り、涙で顔をぐしょぐしょにしたエレインがいた。耳を押さえてブツブツと自分に言い聞かせることで、何とか意識を保っていたようだ。
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