【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

水都 ミナト

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第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される

16. エレインの火球とアグニ

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 スンスン鼻を鳴らしながらも、ようやく涙が落ち着いたエレイン。袖元でグイッと目元を拭う。

 ちょうどその時、玉座の裏が淡く光り、アグニがひょっこり顔を出した。

「すごい音が裏まで響いてましたよ…って、ホムラ様また好き勝手に暴れたんですか?」

 やれやれと溜息をつきつつ、ホムラとエレインの元にやって来た。

「ちげーよ。これは全部おチビの魔法がやったんだよ」
「え~そんな見えすいた嘘を…」

 困った人ですよと呆れ顔で首を左右に振るアグニだが、嘘つき呼ばわりされたホムラの額には小さな青筋が浮かんでいた。

「おチビ、やれ」
「エェッ!?ひっ……わ、わかりました…《火球ファイアボール》!」
「ん?って、えぇぇぇぇ!?」

 ホムラがにっこりと笑ってエレインに指示を出す。目が笑っていないホムラの表情にびくつきながらも、エレインは足を踏ん張って呪文を唱えた。
 みるみるうちに出来上がった巨大な火球を見たアグニはあんぐりと口を開けている。

「あっ、やばい…ひゃわわわ!に、逃げてアグニちゃ…!」

 額に汗を滲ませながら、火球をコントロールしようとしたエレインであったが、杖の先に火球を留めきれず、あっと思った時にはアグニ目がけて火球を放ってしまっていた。アグニは避ける素振りを見せず、火球がクリーンヒットしてしまった。

「アグニちゃん!!!」

 エレインが慌てて炎に包まれるアグニに駆け寄ろうとして、ホムラに手で制された。

「で、でも…」
「大丈夫だ。アグニが何者か忘れたのか?」

 顔を真っ青にして焦るエレインを他所に、心配する様子もなく飄々とホムラが言った。
 至近距離で高火力の火球を食らって、流石のアグニも無事では済まないだろう。エレインが目を凝らしてアグニを見ると、アグニの口の辺りがしゅうううと音を立てていることに気づいた。そして驚くべきことに、アグニに纏わりついた炎が渦を巻きながら口の中に吸い込まれていった。

 瞬く間に炎を飲み込み、ぽふっと黒い煙を吐いたアグニは、

「ぷはぁ、あーびっくりした。中々いい火加減でしたね。ご馳走様でした」

と、ペロリと口をひと舐めして、ポンっとお腹を叩いた。

「あ、アグニちゃん…?あぁっ、無事でよかった…!」

 何が起きたのか理解が追いつかず、数度目を瞬かせたエレインは、ハッとするとアグニに駆け寄り怪我はないか身体中を確かめた。

「ちょっと、やめてくださいよ」

 怪我どころか火傷の一つもないアグニは鬱陶しそうにエレインを押しのけている。その様子に吹き出しながらホムラが解説してくれた。

「アグニは火竜だからな。火を吐くし、もちろん火を喰う。火属性の魔法はこいつには効かねえから安心しろ」
「そ、そうなんですか…あぁ、びっくりした…」
「ま、やっぱり当面の課題は魔法を維持することとコントロールだな」
「うぅ…努力しますぅ」

 アグニが無事でホッとするエレインであるが、ホムラからのごもっともなお言葉にしおしおと項垂れた。

「まあ、的当てだけじゃつまんねぇし、たまにはアグニと実践形式の模擬戦をするのもアリだな」
「げっ」

 うんうん一人で納得して勝手に話を進めるホムラに対し、苦虫を噛み潰した顔をしているのはアグニだ。

「まあ、元の姿に戻ってもエレインが気絶しないなら考えてあげますよ」
「う、保証はいたしかねる…」

 そして可愛い子供の姿でニヤリと笑うアグニであるが、本来の姿は巨大な恐ろしい火竜である。エレインは火竜姿のアグニを前に正気を保てる自信は皆無だった。

 そんなエレインを眺めつつ、ふと、思い出したようにホムラが口を開く。

「そういやぁ、お前の元パーティはいつになったら挑みに来るんだァ?全然こねぇじゃねーか」
「あぁ…色々買い出しとか、武器のメンテナンスとか…その辺りの準備をしてるのかと…」

 エレインは顎に手を当てて、今までのアレクのパーティの傾向を思い起こす。
 何せ慎重に、確実に勝てる勝負にしか挑まないアレクである。徹底的に準備を整えてから70階層のボスの間の扉を開けるのだろうとエレインは推測していた。
 よく素材集めや資金集めのため、単身ダンジョンに放り込まれたものだ。思い出してまた苦い気持ちがシミのように胸に広がった。不快感に飲み込まれないようにブンブンと首を振る。
 そしてエレインは個人的な予想を口にする。

「まだ70階層に到達して2日しか経っていないので、多分ですけどあと5日ほどしたらやってくるんじゃないですかね」

 ーーー5日後、そんなエレインの予想は見事に的中するのであった。
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