【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

水都 ミナト

文字の大きさ
18 / 109
第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される

17. エレインのいないパーティ①

しおりを挟む
「うぅ~ん…いてて」

 アレクは二日酔いで痛む頭を抑えつつ、ゆっくりとベッドから身体を起こした。ずきりと頭に鈍い痛みが走る。
 チラリと視線を投げた先の床には脱ぎ散らかした服が散乱しており、アレクは服を纏っていなかった。

 パーティのお荷物だったエレインをダンジョンへ置き去りにして早くも3日目の朝。ここ2日間は計画をやり遂げた祝杯と、休息のためにダンジョンへは潜らずに食って飲んで眠ってを繰り返していた。

 ふと隣を見やると、アレクと同様一糸纏わぬリリスが気持ちよさそうにスヤスヤと眠っている。昨夜は飲み過ぎてつい盛り上がってしまった。
 リリスとは同郷のメンバーでダンジョン攻略を始めてしばらくしてから、深い関係を持つようになった。パーティの調和を乱さないためにも、自分達の関係はロイドやルナには秘密にしている。
 アレクはふわふわとしたリリスの髪をひと撫ですると、ベッドから起き上がり、シャワーを浴びるために浴室に向かった。


(ノロマでグズなエレインのことだ、もう『破壊魔神』にズタズタにやられているだろうな)

 シャァァ…と頭から熱めの湯を浴びながら、元パーティメンバーの最期に思いを馳せる。が、罪悪感は微塵も感じていなかった。むしろ70階層まで一緒に旅ができたことを半人前であれ冒険者であるならば感謝して欲しいものだ。

 ーーーアレクは70階層まで到達できた影に、エレインの努力や補助魔法の効果が存在していたことには未だ気付いていない。そして、己の力に慢心するが故に、『破壊魔神』と呼ばれる戦闘狂の鬼神が、不殺の信条を持ち、戦った冒険者は殺さず地上へ送還している事実も知らない。だからこそ、エレインはすでにこの世にいないものと信じきっていた。

 シャワーを浴びてさっぱりしたアレクが部屋に戻ると、目を擦りながらリリスも身体を起こしていた。

「ん…アレク、おはようございます」
「ああ、おはよう。俺は着替えたら先に自室に戻る。また後でな」

 ふわりと柔らかく微笑むリリスを軽く抱きしめ、アレクは素早く服を着ると、静かにリリスの部屋を後にした。



◇◇◇

「さて、リフレッシュは昨日までで十分できたな?そろそろボスの間攻略に向けて準備を整えていこう」
「ああ、休み過ぎて身体が鈍っちまいそうだ」
「ルナは準備万端。いつでも行ける」
「ルナったら。今度の相手は、あの『破壊魔神』ですよ?装備やアイテムをしっかりと揃えて万全の態勢で挑まなければいけませんよ」

 朝食がてら、定食屋で今後のことについて話すアレク達。

「ロイド、盾はもう武器屋に預けてるんだよな?」
「ああ、思ったより値が張るが、あと5日ほどでメンテナンスが終わるらしい」
「ルナは《転移門ポータル》用の魔石やポーションをすでに注文済。支払いは受け取る時」
「ふむ、そうか…」

 パーティの懐事情は厳しいわけではないが、決して余裕があるというわけでもない。何故なら、それなりに整った装備、必要なアイテムやポーション、そして飲み食い代が少なからず掛かっているからだ。
 武器の整備にあと5日かかるならば、ボスの間に挑むのはその後だ。それまでの5日間は時間に余裕がある。

「まあいいだろう。またエレインをダンジョンに放り込んで、魔物を倒して魔石を採取させればすぐに取り戻せるさ、ははっ」

 ニヤリと口角を上げながら珈琲を口に含むアレクの言葉に、他の3人は気まずそうに視線を交わした。

「その、アレク?エレインはもう…」

 リリスにやんわりと指摘され、アレクはハッとした。

 そうだった。エレインはもう
 アレクがこの手でボスの間に突き飛ばしたのだった。

「チッ、そうだったな。居なくなって清清するが、小金稼ぎや荷物持ちが居なくなったと思うとちっと不便だな」

 居ても居なくてもアレクを苛立たせるエレインの存在を疎ましく感じながら、ロイドに向き合った。

「じゃあよ、ロイド。盾の料金分ダンジョンでサクッと稼いでこいよ」
「なっ…俺1人で魔石狩りをしてこいってことか?」
「ん?なんだ?それぐらいお前なら余裕だろう?」
「ま、まあそうだが……はぁ、分かったよ」

 ロイドは始めは怪訝な顔をして乗り気ではなかったが、平然としているアレクの様子に、諦めたように頷いた。
 アレクは満足げに頷くと、何かを思いついたかのようにポンっと手を叩いた。

「ああ、そうだ。70階層に挑む前に各々レベルを確認しとこうぜ!もうレベリングは済んでるよな?」
「ふ、もちろん。レベリングは基本中の基本。ルナはダンジョンから出たらすぐに経験値を振っている」
「その通りだな。もちろん俺も対応済みだ」
「ふふ、レベルの確認も久しぶりですね」

 皆はそれぞれ自分のレベルに自信があるのか、何処か得意げにしている。そして、一様にブゥンと《ウィンドウ》を開いた。

「では、私からいきますわね。えぇと…レベルは55、ですね」
「ふふん、次はルナ。ルナのレベルは58。」
「マジか。俺は57だな…で、アレクはどうなんだ?」

 3人の期待に満ちた視線を集めるアレクは、勿体ぶったように《ウィンドウ》を開いた。

「ふ、俺は…レベル60だ!」
「「「おおっ!」」」

 パーティ唯一のレベル60台に湧く面々。戦闘時、トドメを指すのは大抵アレクな為、獲得経験値が多めなのは必然であった。だが、アレク達は自分達のレベルしか知らないため、レベルが到達階層の水準に達しているかどうかも、パーティ内という狭い世界での判断となっていた。

 そして、レベルがこともあり、アレク達はレベル50を超えていることは強者の証であると認識していた。
 ーーー戦闘や窮地をエレインに頼ることがなければ、本来なら皆70レベル近くに到達していただろうことは、知るよしもなかった。

 鼻高々でロイド、ルナ、リリスからの羨望の眼差しを集めるアレク。

「みんな強くなったな!これだけのレベルがあれば、きっとボス戦も余裕だぜ!じゃあ、この後はそれぞれ準備を進めよう」

 アレクの言葉を契機に、綺麗に朝食を食べ終わった面々は、ダンジョン、教会、雑貨屋など各々の目的地へ向かって行った。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

処理中です...