【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

水都 ミナト

文字の大きさ
19 / 109
第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される

18. エレインのいないパーティ②

しおりを挟む
「おいおいおい、ふっざけるなよ…!!!」

 ダンジョンの52階層。全力で駆けながら奥歯を噛み締めるのはロイドである。

 洞窟メインのこの階層には、高く売れる魔石をドロップするキラーアントが多く生息する。全長1.5メートルはあろうかという巨大な蟻型モンスターである。アレクから資金稼ぎにダンジョンに単身潜ってこいと言われ、ロイドは迷わずこの階層を選択した。
 エレインがいた頃は、よくキラーアントの群れを狩って多くの魔石を手にして帰って来ていた。エレインは満身創痍で衣服もボロボロ、杖をついて何とか歩けるといった状態であったが、ロイドはアレク達と共にその様子を馬鹿にしたように笑っていた。

 が、いざ1人で52階層に来てみればどうだ。
 キラーアントは基本群れで行動し、その数も多ければ10では効かない。さながら軍隊のように統率の取れた動きで地形を利用し、あっという間に追い詰められたのはロイドの方であった。

「ちぃっ!」

 ガキィンと、キラーアントの鎌のような脚を盾で防ぎながら洞窟を駆け回る。次第に道幅が狭くなって来ているようで、ロイドは焦り始める。

(俺よりレベルの低いエレインは、こんなモンスターをどうやって1人で倒していたんだ?)

 そういえば一度、ふとした好奇心でキラーアントの攻略法を聞いたような気もする。どうせ自分はそんな状況に陥らないと聞き流していたのが悔やまれる。

 ギリッと再び歯を噛み締めて、ロイドは人1人通れる広さの横穴に飛び込んだ。
 咄嗟の判断であったが、キラーアント達も1匹ずつしか倒れないようで、取り囲まれる心配は無くなった。が、安心したのも束の間。ロイドが前方を目を凝らして確認するとどうやら行き止まりのようだ。

「くっ、そぉぉぉ!!」

 ロイドは壁を背にして振り返り、その勢いのまま先頭のキラーアントの関節に盾を振りかざした。

ギャァァァァァア!!

 耳をつん裂くような悲鳴と共に、盾が刺さったキラーアントが黒いモヤとなって霧散した。カラン、と音を立てて琥珀に似た結晶がドロップした。これがキラーアントが落とす魔石である。
 ロイドは慌てて魔石を回収し、次の敵に備えて盾を構えた。先頭の仲間がやられて警戒をしているのか、キラーアントは長い触覚をぴくぴくと動かしながらロイドの動向を観察している。

 ちなみにエレインは細い横穴の先に、落とし穴といった罠を事前に用意しておき、1匹ずつ確実に始末できる環境を整えて戦っていた。レベルの低さを戦術の工夫で補っていたのだ。
 奇しくもロイドはエレインと似た戦法に行き着いたのであった。

「来ないならこっちから行くぞ!!うぉぉぉ!!」

 ロイドは先程と同じように盾を突き刺してはキラーアントを倒していく。5体ほど倒した時には、もう疲労困憊で肩を大きく上下させていた。なぜだか、のだ。

(ちくしょう…蟻ごときにみっともねぇ…!もうこれ以上来るんじゃねぇぞ…)

 仲間が次々に消滅し、指揮系統を失ったキラーアント達は、流石に命が惜しかったのかロイドの願い通りに横穴を後退して逃げて行った。

「…っはぁーーー」

 その場に片膝をついて座り込むロイドの手には、3個の魔石が鈍く輝いていた。魔石がドロップするのも運次第なので、5体で3個は運が良かった方だろう。エレインは多い時には10個は持ち帰っていただろうか。

「…チィッ」

 何とも言えない悔しさと疲労感が、ロイドの胸の奥でモヤモヤと渦巻いていた。



◇◇◇

「おや、ルナちゃんじゃないか?」
「む、いかにもルナはルナ」

 一方、道具屋に向かって街中を歩くルナは、街の住人に声をかけられていた。
 『彗星の新人コメットルーキー』は今や人気のパーティのため、稀にこうして声をかけられることがある。

「いやぁ、ダンジョン攻略は順調かい?」
「ふ、愚問。準備が整ったらルナ達は70階層を攻略する」
「おおっ!いよいよ前人未到の『破壊魔神』に挑戦か!応援してるよ」
「感謝」

 ルナはふふんと少し胸を反らせて満足げに答えた。

「そういえば、最近エレインちゃんを見ないが元気にしてるか?あの子が頑張って駆け回っているのを見ると何だか励まされるんだよなあ」
「………エレインは、元気。じゃあ、ルナはもう行く」
「ああ、頑張ってな!エレインちゃんにもよろしく頼むよ!」

 チヤホヤされて得意げだったルナは一転して顔を曇らせたが、住人はその変化には気づいていないようだった。

 ルナは、住人と別れると少し歩いたところにある道具屋に到着し、古びたドアを開けた。

 ギィ、と錆びついたドアが軋んだ音を立てる。店主の趣味で、店はどことなく妖しい雰囲気を醸し出している。

「おや、ルナちゃん。いらっしゃい」
「注文していた道具を取りに来た」
「はいよ、揃っているよ」

 たっぷりの灰色の口髭を蓄えた初老の店主は、店の棚から風呂敷に包まれた道具一式を取り出した。

「《転移門ポータル》用の魔石が4つに、ポーションが10本、耐火の外套4着に火傷治しが5つ」
「む、間違いない」

 カウンターに並べられた道具を店主と確認するルナ。懐から巾着袋を取り出し、注文時に言われていた金額を支払った。

「それにしても…魔石が4つじゃ5人パーティの君たちと数が合わないが大丈夫なのかい?外套も4着だし…注文時から気になっておっての」

 広げられた道具を再び風呂敷に包みながら、店主が心配そうに眉根を下げている。ルナの眉がピクリと反応した。

「……問題ない。今回は4人で挑戦することになった」
「ええっ、そうなのかい…?まあ深くは詮索せんが…道具もいつもはエレインちゃんが買いに来て居たし…少し心配になっての」

 確かにいつもは買い出しという雑務はエレインの仕事であった。ルナは薄く目を細めながら口を開いた。

「…エレインは風邪を引いて寝込んでいる。しばらく回復しそうにないから今回は置いていく」
「おや、それは心配だ。ちょっと待っておくれ…よいしょ」

 ルナの言葉に目を見開いた店主は、カウンターの中にしゃがみ込み、ガサガサと何やら探しているようだ。

「あったあった、ほら、よく効く風邪薬だ。お代はいらないからエレインちゃんに渡してやってくれ」
「…預かる」

 ルナは差し出された小瓶をしばらく見つめた後、小さくため息を吐いて小瓶を受け取った。

「では、また」
「はいよ、今後ともご贔屓に」

 包んだ風呂敷を受け取り、再びドアを軋ませてルナは道具屋を後にした。

「……エレインは死んだ。これはもう不要」

 道具屋が見えなくなってから、ルナはポケットから取り出した小瓶を道端のゴミ箱に放り込んだ。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

処理中です...