【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

水都 ミナト

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第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される

22. 決別とこれから

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「やっと状況が理解できたか?」

 膝をつき、言葉を失っているアレク達にホムラが問いかける。

 アレクは虚な目で、ホムラをぼんやりと見上げていた。その様子から、ようやくことの次第を理解したように見える。

「とにかく、お前らは自分達にとって都合のいい時だけエレインを利用し、正当な評価をせずに蔑み、見下していた。俺は正々堂々とした冒険者は好きだが、お前らみたいな利己的で傲慢かつ非人道的な奴には反吐が出そうだぜ。ま、やっと自分達の過ちに気付いたんじゃねえか?」

 吐き捨てるようにホムラが発した言葉は、それぞれの解釈は違えど、各自の胸に深く突き刺さった。

 ロイドは悲痛な面持ちをしている。
 ルナはギリッと奥歯を噛み締めている。
 リリスはポロポロと絶え間なく涙を流している。
 呆然としているアレクからは、その感情は読み取れない。

「ともかく、今までのことを振り返ってよーく反省するんだな。心身共に鍛え直して出直してくるなら、また挑戦を受けてやる。アグニ、後始末頼むわ」
「え、いいんですか?じゃあ、遠慮なく」

 ホムラに言われ、アグニはぐぐぐと翼に力を込める。途端にメキメキと身体が巨大化し、本来の姿に戻ったアグニは天に向かって咆哮した。

「ひっ…」

 空気を揺るがす咆哮に、ルナとリリスは抱き合いながら、ガチガチと歯を鳴らして震え上がっている。顔からは血の気がひき、浅く呼吸をしながら恐ろしい火竜の姿を見上げている。
 アレクとロイドも情けなく口を開けてアグニを見ていた。

「こ、こんなもん…勝てるわけが…」
「では、さようなら」

 ロイドが言い終わるのを待たず、アグニは口から業火を吐き出した。

「「うわぁぁぁぁぁ」」
「「きゃぁぁあっ」」

 4人はあっという間に炎に包まれ、気を失って倒れた。4人が倒れたことを確認すると、アグニは口を閉じて炎を飲み込んだ。吐き出した炎も燻りながらもすぐに鎮火した。

「加減はしたか?」
「ええ、耐火の装備もつけているみたいですし、身体には大きなダメージはないはずです」

 ホムラがアレク達に歩み寄り、しゃがみ込んで状態を確認する。アグニの言う通り、ところどころに煤が付いているものの、彼らに目立った外傷はなかった。皆、あまりの恐怖から失神してしまったようだ。

「で、こいつらどうする?…ってマジかよ」

 ホムラがエレインの方を振り向くと、アグニが巨大化した姿を見たためか、泡を吹いて倒れていた。小さいサイズならまだしも、まだ巨大な火竜は恐ろしかったようだ。

「ったく、おい!起きろ!」

 ホムラはエレインの胸ぐらを掴んで頬をぺちぺちと叩く。起きてもまた気絶されては困るので、アグニはその隙に子供の姿に変身しておいた。

「う、うぅ~…ん」
「起きたか」
「はっ!アレク達は…?」

 エレインは薄く目を開くと、数度目を瞬かせた後、勢いよく飛び起きた。辺りを見回してアレク達を確認すると、ほうっと息をついた。

「生きて、ますよね…?」
「ああ、不殺が俺の信条だからな」

 ホムラの言葉に、エレインは小さく微笑んだ。いくら酷い扱いを受けたとは言え、エレインはアレク達を恨んではいなかった。心を通わせたり、背を預けて戦ったりすることは叶わなかったが、生まれ育った地から遠く離れたウィルダリアで、アレク達は一応はエレインが身を寄せる居場所を作ってくれたからだ。
 思い描いた冒険者パーティのようになれず、疎まれコキ使われたことは本当に辛かったし悲しかったが、とはいえ復讐しようとは思っていなかった。

「こいつら、地上に帰すがいいか?」
「…はい。お願いします」

 エレインの許可を得ると、ホムラはひょいっとアレクとロイドを担ぎ上げた。残る2人は子供のサイズに戻ったアグニが魔法陣まで運ぶ。

 ホムラが魔法陣にアレク達を投げ入れようとした時、

「あっ!少し待ってください…!」

 エレインが慌ててその手を制止した。

「あ?どうかしたか?」

 ホムラが問うと、エレインは服の裾をギュッと握りしめて、ホムラの肩に乗るアレクに歩み寄った。そして、目を閉じて深呼吸をすると、真っ直ぐにアレクを見つめて口を開いた。

「…私、強くなるから。もう誰にも、馬鹿にされないような立派な冒険者になるから」

 声は震えていたが、しっかりと紡いだ言葉に、ホムラもアグニも微笑した。

「じゃあ、帰すぞ」
「…はい」

 ホムラとアグニが、アレク達を魔法陣に放り投げると、眩い光に包まれて、彼らの姿はシュンッとそ光の中に消えた。
 消える瞬間ーーーアレクの目が薄く開き、その目が鋭くエレインを捉えていたことには誰も気が付かなかった。

「よっしゃ、いっちょ上がりだな!」

 ようやくエレインを捨てたパーティを凝らしめることが叶い、ホムラはどこか上機嫌だ。

 一方のエレインは、アレク達に一泡吹かせたにも関わらず、その表情は晴れなかった。

「あ?どうしたんだ?」

 エレインの表情変化の機微に聡いホムラが尋ねると、エレインは躊躇いながらも、おずおずと話し始めた。

「私…パーティの役に立ちたい一心で、補助魔法を使ってたんですけど、アレク達が慢心していたのはそのせいなのかな…って」
「あー…なるほどね」

 つまりエレインは、自分のせいでアレク達が長らく力量を見誤ってしまったのだと自責しているのだ。

 ホムラはやれやれと軽く頭を掻きながら小さく息を吐くと、エレインに問うた。

「お前、補助魔法を使い始めた時、ちゃんとアイツらに言ったんだろ?」
「あ…はい。補助魔法で少しでも手助けをしたいと…でもお前の魔法が役に立つわけないって鼻で笑われて…」
「あのな、確かにアイツらがあそこまで天狗になったのは、補助魔法ありきの力が当たり前だったからなんだろう。だがな、そもそも仲間としてお前の補助魔法について、理解を深めようとしなかったのはアイツらだ。お前にも一因はあるが、結局お前を小馬鹿にして蔑ろにしていた報いを受けたんだよ」
「でも…そう、ですかね…」
「だからそこまで自分を責めなくていい。お前があんな奴らの為に心を痛める必要はない」
「ホムラさん……っうぅっ…」
「って、また泣くのかァ?本当に手が掛かる奴だな…」

 ホムラは悪態をつきながらも、ポロポロ涙を流すエレインの頭をガシガシと掻きむしった。その手はやっぱり乱暴だけど、どこか優しかった。

「あー…あとな、一つ謝らねぇといけねぇことがあるんだが…」
「えっ!?ホムラさんでも謝るんですか!?」

 驚きのあまり涙も引っ込み目を見開くエレイン。

「お前な…ボコボコにすんぞ」
「ひいっ!すみません…っ!」

 ホムラは笑顔を貼り付けたまま、額に青筋を浮かべて低い声で脅しをかけた。エレインはピャッと肩を縮み上がらせて腰を90度に曲げて詫びた。

「ったく…そのー、なんだ。ついカッとなっちまってほぼ俺が戦っちまって悪かったな。今更だが、お前に最後は任せても良かったなと思ってな…ちゃんと自分の手でケリを付けるべきだったな、とよ」
「あ…そんなこと考える余裕なかったです……それに、その」
「ん?なんだ?」

 エレインは少し気まずそうに、恥ずかしそうにモジモジしながら、小声で答えた。

「わ、私のために怒ってくれてるんだなって…その、嬉しかった、です」
「っ!」

 へへへとだらし無く笑うエレイン。ホムラは少し目を見開くと、そっけなく顔を逸らした。

「おや?ホムラ様照れてます?…ったぁ!」

 ホムラの顔を下から覗き込むようにしてニヤニヤとアグニが冷やかすと、返事の代わりに鋭いゲンコツがアグニの脳天に降ってきた。

「ひ、ひどい…」
「馬鹿なこと言うからだろうが」
「…ぷっ」

 そんな2人のやり取りに、エレインは思わず吹き出してしまったが、2人の視線を感じて慌てて口元を隠す。

「…ったく、で、どうすんだ?」
「はい?何がですか?」

 ホムラの言葉に、エレインはキョトンと首を傾げる。

「いや、だから。どうすんだ、お前、これから」
「あ…」
「別に、地上に帰るなら帰ってもいいんだぜ?」

 そう言われて、エレインは黙り込んだ。

 地上にはアレク達がいる。ある程度精算はしたとはいえ、顔を合わすのはまだ気まずいし、嫌な思い出もたくさんある。それに、地上には頼れる人はいない。
 ホムラの修行は辛いけど、強くなっている実感が確かにある。それに、ここでの生活はなんだか温かい。アグニの料理もとても美味しい。

 エレインの中で、答えはすぐに出た。

「私は…ーーーー」
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