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第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される
48. 決着
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「ぐ…やるじゃねぇか…」
ホムラは覚醒したエレインの魔法により、身体から呪詛が抜け、傷口も塞がった。だが、なにせ大量に出血をしたため、すぐに立ち上がる事は叶わない。何とか上半身だけを起こして事の顛末を見守ろうとしていた。
エレインは、肩越しにホムラの方を振り返ると、ニコリと笑みを浮かべた。そして再びアレクに向き合った。
「ホムラさんに教えてもらった事、それを全部この魔法に込める!」
アレクは既に涙や鼻水で顔面がぐしょぐしょになっているが、水分が溢れるそばから蒸発してしまっている。取り乱し狼狽するアレクは、ふと、あることを思い出したようで、慌てて懐から魔道具の鏡を取り出して叫んだ。
「こっ、この鏡には魔法を反射する効果があるのを忘れたのかっ!?そ、そんなもの…この鏡で跳ね返してやる…!」
少し余裕が生まれたのか、頬をひくつかせながらも無理やり笑みを作ろうとするアレク。だが、表情筋がうまく機能しないのか、ぐにゃりとその表情は歪んでいる。
「跳ね返せるものなら、跳ね返してみなさい」
エレインは、ホムラの最大の魔法があんなちっぽけな鏡に負けるとは露ほども思っていなかった。これまでの厳しい修行に耐え、食らいつき、少しずつ習得していった大切な魔法。
エレインは深く息を吐き出し、内から湧き出る魔力に意識を集中した。爆炎を維持しつつ、廃墟街を包み込むように補助魔法を発動した。
(耐久力を、《強化》!)
極大魔法なんて撃ち込んだ日には、ここら一帯は吹き飛んでしまうだろう。補助魔法の使用は、思い切り極大魔法を撃つためにも必要な措置であった。
エレインが魔法を発動すると、辺りの廃屋が金色の光の粒子に包み込まれる。増幅されたエレインの魔力により、補助魔法の効果も格段に高まっているのだ。
「アレク、覚悟はできた?」
「あ、あ…あああ!!やめろォォォ!!!」
準備が整ったエレインが杖を振りかぶると、アレクは鏡を持った手をがむしゃらに振り回した。
「極大魔法《爆炎》!!!」
エレインが叫び、杖を振り下ろすと、生み出された小さな太陽は、アレクの真上から隕石のように落下していった。
「うわぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」
アレクが決死の形相で掲げた鏡は、豪炎に触れた途端、ジュワッと瞬く間に溶けて消えてしまった。豪炎はアレクを押しつぶすと、巨大な火柱となり、空に向かって激しく渦巻き立ち上っていった。
耳をつん裂く悲鳴とも言い難いアレクの叫び声が、夜の静寂を破壊する。
炎は激しく燃え盛ると、やがて爆発して爆風を巻き起こした。
「っ!」
ホムラは頭を低くし、爆発の熱波をやり過ごした。エレインも強化した杖を前に突き出し、爆風に耐えている。
「収まったか…?」
肌を焼くような熱風が収まり、やがて辺りに静けさが戻った。
ホムラが周囲を見回すと、ところどころ屋根や扉が吹き飛ばされているが、廃屋は何とかその形状を保っているようだった。エレインの補助魔法の効果が窺える。
「ぐっ…」
ホムラは足に力を込めて、よろけながら立ち上がった。
「ホムラさん…っ!無理しちゃダメですよ」
そのことに気づいたエレインが慌てて駆け寄って来て、肩を支える。
「へっ…大したもんじゃねぇか。助けに来たつもりが、すっかり助けられちまったな」
ホムラが苦笑すると、エレインはぶんぶんと首を振った。
「そんなことないです…!ホムラさんが来てくれなかったら、今頃私はこの世にいなかったです…ホムラさんは、また…私を救ってくれたんですよ」
目に涙を滲ませながら、へらりとエレインが笑う。
「また…?」
ホムラが首を傾げると、エレインが言う。
「アレク達に捨てられて、行く当てもなくした私を拾ってくれたでしょう?」
「…ああ。ふっ」
ホムラもようやく思い当たり、その時のことを思い出してか、小さく笑みを漏らした。
「泣きべそばっかりかいてたおチビが、随分と立派になったもんだな」
「えへへへ…ホムラさんに鍛えられましたから」
照れ臭そうに笑うエレインに、ホムラも笑みを深める。
「それで、アイツはどうなった…?」
アレクがいた場所は、爆炎によりクレーターのように陥没していた。ホムラはエレインに支えられながら、窪みに近付き、中を覗き込んだ。
「なっ…」
凹みの中心には、全身ボロボロになって白目を剥いて横たわるアレクの姿があった。
あの爆炎が直撃して塵にならない筈がない。ホムラは反射的にピリッと警戒心を剥き出すが、ふと、あることに思い当たり、警戒を解いた。
「ったく…お前らしいっちゃらしいな」
「えへへ…アレクにはしっかり反省して、罪を償ってもらわないと」
そう、エレインは廃墟街だけでなく、アレクに対しても補助魔法を行使していたのだ。
散々馬鹿にして来たエレインの補助魔法に、命を救われる結果となったアレク。
我が身を振り返り、法の裁きのもと、しっかりと反省をして欲しい。そしていつか、真っ当に生きていけるようになって欲しい。エレインは心からそう思っていた。
ふと眩しさを感じて空を見上げると、東の空が白んで来ていた。深い藍色の空に溶け込むように空が明るくなっていく。
いつの間にか、夜が明けていたようだ。朝日に照らされ、エレインの黄金の瞳が淡く輝いて見えた。
ようやく、エレインの長い夜が明けたのだった。
「エレイン」
「っ!」
「…帰るぞ」
「…はい」
朝日に向かってエレインとホムラが歩き出そうとした時、エレインの視界がぐにゃりと反転した。
「おいっ…!」
ホムラが咄嗟に抱き止めたが、ホムラ自身ももう限界が来ていたようで、2人は重なるようにして地面に倒れて意識を失った。
ホムラは覚醒したエレインの魔法により、身体から呪詛が抜け、傷口も塞がった。だが、なにせ大量に出血をしたため、すぐに立ち上がる事は叶わない。何とか上半身だけを起こして事の顛末を見守ろうとしていた。
エレインは、肩越しにホムラの方を振り返ると、ニコリと笑みを浮かべた。そして再びアレクに向き合った。
「ホムラさんに教えてもらった事、それを全部この魔法に込める!」
アレクは既に涙や鼻水で顔面がぐしょぐしょになっているが、水分が溢れるそばから蒸発してしまっている。取り乱し狼狽するアレクは、ふと、あることを思い出したようで、慌てて懐から魔道具の鏡を取り出して叫んだ。
「こっ、この鏡には魔法を反射する効果があるのを忘れたのかっ!?そ、そんなもの…この鏡で跳ね返してやる…!」
少し余裕が生まれたのか、頬をひくつかせながらも無理やり笑みを作ろうとするアレク。だが、表情筋がうまく機能しないのか、ぐにゃりとその表情は歪んでいる。
「跳ね返せるものなら、跳ね返してみなさい」
エレインは、ホムラの最大の魔法があんなちっぽけな鏡に負けるとは露ほども思っていなかった。これまでの厳しい修行に耐え、食らいつき、少しずつ習得していった大切な魔法。
エレインは深く息を吐き出し、内から湧き出る魔力に意識を集中した。爆炎を維持しつつ、廃墟街を包み込むように補助魔法を発動した。
(耐久力を、《強化》!)
極大魔法なんて撃ち込んだ日には、ここら一帯は吹き飛んでしまうだろう。補助魔法の使用は、思い切り極大魔法を撃つためにも必要な措置であった。
エレインが魔法を発動すると、辺りの廃屋が金色の光の粒子に包み込まれる。増幅されたエレインの魔力により、補助魔法の効果も格段に高まっているのだ。
「アレク、覚悟はできた?」
「あ、あ…あああ!!やめろォォォ!!!」
準備が整ったエレインが杖を振りかぶると、アレクは鏡を持った手をがむしゃらに振り回した。
「極大魔法《爆炎》!!!」
エレインが叫び、杖を振り下ろすと、生み出された小さな太陽は、アレクの真上から隕石のように落下していった。
「うわぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」
アレクが決死の形相で掲げた鏡は、豪炎に触れた途端、ジュワッと瞬く間に溶けて消えてしまった。豪炎はアレクを押しつぶすと、巨大な火柱となり、空に向かって激しく渦巻き立ち上っていった。
耳をつん裂く悲鳴とも言い難いアレクの叫び声が、夜の静寂を破壊する。
炎は激しく燃え盛ると、やがて爆発して爆風を巻き起こした。
「っ!」
ホムラは頭を低くし、爆発の熱波をやり過ごした。エレインも強化した杖を前に突き出し、爆風に耐えている。
「収まったか…?」
肌を焼くような熱風が収まり、やがて辺りに静けさが戻った。
ホムラが周囲を見回すと、ところどころ屋根や扉が吹き飛ばされているが、廃屋は何とかその形状を保っているようだった。エレインの補助魔法の効果が窺える。
「ぐっ…」
ホムラは足に力を込めて、よろけながら立ち上がった。
「ホムラさん…っ!無理しちゃダメですよ」
そのことに気づいたエレインが慌てて駆け寄って来て、肩を支える。
「へっ…大したもんじゃねぇか。助けに来たつもりが、すっかり助けられちまったな」
ホムラが苦笑すると、エレインはぶんぶんと首を振った。
「そんなことないです…!ホムラさんが来てくれなかったら、今頃私はこの世にいなかったです…ホムラさんは、また…私を救ってくれたんですよ」
目に涙を滲ませながら、へらりとエレインが笑う。
「また…?」
ホムラが首を傾げると、エレインが言う。
「アレク達に捨てられて、行く当てもなくした私を拾ってくれたでしょう?」
「…ああ。ふっ」
ホムラもようやく思い当たり、その時のことを思い出してか、小さく笑みを漏らした。
「泣きべそばっかりかいてたおチビが、随分と立派になったもんだな」
「えへへへ…ホムラさんに鍛えられましたから」
照れ臭そうに笑うエレインに、ホムラも笑みを深める。
「それで、アイツはどうなった…?」
アレクがいた場所は、爆炎によりクレーターのように陥没していた。ホムラはエレインに支えられながら、窪みに近付き、中を覗き込んだ。
「なっ…」
凹みの中心には、全身ボロボロになって白目を剥いて横たわるアレクの姿があった。
あの爆炎が直撃して塵にならない筈がない。ホムラは反射的にピリッと警戒心を剥き出すが、ふと、あることに思い当たり、警戒を解いた。
「ったく…お前らしいっちゃらしいな」
「えへへ…アレクにはしっかり反省して、罪を償ってもらわないと」
そう、エレインは廃墟街だけでなく、アレクに対しても補助魔法を行使していたのだ。
散々馬鹿にして来たエレインの補助魔法に、命を救われる結果となったアレク。
我が身を振り返り、法の裁きのもと、しっかりと反省をして欲しい。そしていつか、真っ当に生きていけるようになって欲しい。エレインは心からそう思っていた。
ふと眩しさを感じて空を見上げると、東の空が白んで来ていた。深い藍色の空に溶け込むように空が明るくなっていく。
いつの間にか、夜が明けていたようだ。朝日に照らされ、エレインの黄金の瞳が淡く輝いて見えた。
ようやく、エレインの長い夜が明けたのだった。
「エレイン」
「っ!」
「…帰るぞ」
「…はい」
朝日に向かってエレインとホムラが歩き出そうとした時、エレインの視界がぐにゃりと反転した。
「おいっ…!」
ホムラが咄嗟に抱き止めたが、ホムラ自身ももう限界が来ていたようで、2人は重なるようにして地面に倒れて意識を失った。
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