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第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される
番外編②アグニの1日
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ダンジョンでのとある1日の様子。
まったりのんびりとお楽しみください。
--------------------
日の出と共に目を覚まし、朝食を作り始めるところからアグニの1日は始まる。
口から程よい火加減の炎を吐き出し、釜戸に火をつける。尖嘴鳥の卵を3つフライパンに落とすと、じゅわぁという音を立てて卵が踊り出す。
次第にぷっくりと白身が膨らみ始めるため、まずは1つ取り出す。アグニは半熟が好みなのだ。あと2つにはしっかりと火を通す。ホムラとエレインはよく焼いた卵を好む。
嗜好は人それぞれなので、アグニは極力好みに合わせて調理をする。それが彼のモットーであった。
そして、昨夜ダンジョンで採取した山草を皿に盛り付けて、軽く塩を振る。焼いた卵も皿に移し、空いたフライパンに今度はベーコンを敷き詰める。これはヒートスタンプの肉をアグニが燻製した自信作だ。
パチパチと油を跳ねながら次第に縮んでいくベーコン。アグニは芳ばしい香りを目一杯吸い込む。それから、しっかり焼き色がついたことを確認して、さらに皿へと盛り付ける。
調理が終わると、バゲットが入った籠をテーブルの中心に置き、それぞれの席に皿を並べる。
「ふむ、こんなものですかね」
準備が整った頃を見計らい、先ずはホムラが欠伸をしながら起きてくる。そしてドカッと椅子に座るので、アグニはサッと暖かいミルクを差し出す。ついでに寝癖で跳ねた毛を整えてやる。髪がボサボサの階層主など格好がつかないからだ。
エレインはというと、毎夜の修行で疲れ切っているため、朝に弱い。今日も一向に起きてくる気配がないため、アグにはやれやれとエレインのベッドに向かう。
「ほら、朝ですよ。起きてください」
「う~ん…あと5分…」
「はぁ、全く。アナタの分のご飯食べちゃいますからね」
「それは困るぅ…」
毎朝同じやりとりをして、エレインがのそりと起き上がる。エレインはそのままの足で洗面台に向かってバシャリと顔を洗って目を覚まし、席につく。これもいつも通りの光景だ。
「ふわぁ~今日も美味しそう。アグニちゃん、いつもありがとう!」
エレインはキラキラ目を輝かせ、少し涎を垂らしながらアグニに微笑みかけた。
「ふまいぞ、アグニ」
ホムラは待ちきれずに先に食べ始めている。困った主である。
まぁ、美味だと言われるのはやぶさかではないのでアグニは得意げに鼻の穴を膨らませた。
「では改めて、いただきます」
「おう」
「いただきまーす!」
テーブルを囲んで朝食を取る図はえらく平和じみて見えるが、ここはダンジョン70階層。且つテーブルを囲むうちの1人はその階層主ときた。
のんびり食事を楽しんでいるが、既に日が昇っているため、いつ挑戦者がやって来るか分からない。
「ん?」
ギィィィ…
そんなことを思っていたら、早速挑戦者がやって来たようだ。ボスの間から重い扉が開く音が響いて来た。
「ったく、ゆっくり朝飯ぐらい食わせろよな」
ホムラは行儀悪くベーコンをつまんで口に放り込むと、咀嚼しながらボスの間へと消えて行った。
「あらあら、今日の挑戦者は随分早起きなのね」
「ドリューさん!」
ホムラと入れ替わりに部屋の中に現れたのは、樹人族のドリューさんことドリューンである。突然の来訪であるが、アグニもエレインもすっかり慣れたもので、アグニはササっと新しいカップを取り出してホットミルクを差し出した。
「あら、ありがとう」
ドリューンはニコリと微笑むと、カップにふーふーと息を吹きかけてから口をつけた。
「エレインちゃん、早速だけど、ご飯が済んだら手記の解読作業をしましょうか」
「はひっ!」
硬めの卵焼きを頬張りながら、エレインは元気よく返事をした。ドリューンが気ままに訪ねてくるので、やって来た日はこうしてハイエルフの手記の解読に勤しんでいる。
アグニとエレインは朝食を済ませると、空いた皿を重ねて台所へと運んだ。洗い物はエレインがすることもあるが、今日はドリューンが訪ねて来ているのでアグニが引き受けた。
エレインは地上で覚醒し、その時に幾つか読めなかった文章が脳裏に浮かんだそうなのだが、元に戻ってからは全く思い出せないのだと言う。覚醒に至った増幅魔法の呪文も忘れてしまったらしく、それっきり使えていない状況だ。
それもあり、ドリューンとの手記解読作業は引き続き行われているわけだ。
アグニは慣れた手つきで皿を洗って拭き、棚に片すとボスの間へと顔を出した。
「おらおらァァ!!そんなもんかよ!もっと抗え!闘志を掻き立てろォォ!!」
「ギャァァァァ!!」
「うわぁぁぁあ!!」
ホムラは朝早いというのに絶好調のようで、瞳孔を開きながら火球を撃ち放っていた。今日の挑戦者は7人パーティのようだが、いつもの如くホムラが圧倒しているようだ。
アグニがボスの間に入る頃には、そこは火の海と化していた。いつものことなので驚きもしないが、この破壊し尽くされた部屋が終戦後は瞬く間に修復されるのだからダンジョンという場所は不思議だ。
(さて、久々に本来の姿に戻りますかね)
ホムラ一人で十分なのだが、たまには実戦をしないと腕が鈍ってしまう。
アグニは目を閉じるとメキメキと背の翼を広げ、身体を膨張させて行く。
そして巨大な火竜の姿に戻ると、大きく咆哮した。
「ん?なんだァ、アグニも暴れたいのか?」
ようやくアグニに気づいたホムラが、ギラギラと加虐的な表情で笑う。
「まあ、そうですね。でももうみんな気絶しちゃったみたいです」
「あ?カーッ!根性ねぇ奴らだなァ!」
アグニの咆哮でパーティは全員気絶してしまったようだ。少し張り切りすぎたか。
仕方がないので順番に咥えて魔法陣へと放り込んで地上へ返す。束の間の変身だった。
◇◇◇
それ以降挑戦者は訪れなかったため、簡単に昼食を済ませると、ホムラとエレインの修行が始まった。
「おら!俺の火球を相殺してみろ!」
「きゃぁぁぁ!!無理無理無理ィィー!」
どうやら今日はホムラが放つ異なる威力の火球に対して、その威力を見極めて同等の威力に調整した水魔法で相殺する修行のようだ。
玉座の前の段差に腰掛けて、アグニはその様子を眺める。
うまく相殺できたものは火球と水球がぶつかった拍子に水蒸気となり蒸発するが、威力が足りなければ火球はエレインを襲う。かと言って威力が大きければホムラに攻撃することとなってしまう。
(ふむ、繊細なコントロールの修行になりそうですね)
アグニは2人の修行の様子を観察するのは嫌いではなかった。たまに混ざって模擬戦もするのだが、客観的に修行の目的や手段を分析するのも案外楽しかった。
「おら!これはどうだ!」
「え、ちょ…大きすぎない…!?わわわ…ウォ、《水球》!!」
「あ、まずそうですね」
ホムラが繰り出した火球は人一人ほどの大きさ。エレインも同じ威力の水球を放ったのだが、あの威力の魔法がぶつかり合うとーーー
ドォォォォン!!!
アグニの思った通り激しい水蒸気爆発を巻き起こした。
「うぎゃぁぁあ!?」
巻き起こる白煙の中、エレインの悲鳴がこだまする。アグニは素早く玉座の影に避難したので無事だったが、2人は大丈夫だろうか。
「悪ィ悪ィ、気合い入りすぎたわ」
心配して玉座の影から様子を窺ったが、すぐ真横でホムラの声がした。見上げると、エレインを抱き抱えるホムラの姿があった。
「きゅう…」
横抱きされているエレインはというと、目を回して白目を剥いている。気を失っているが、見たところ外傷は無いので、爆発間際にホムラが抱き抱えて退避したのだろう。
「ったく、しょうがねぇな」
ホムラはため息を吐きながらも、目元を和ませて腕の中のエレインを見つめている。最近よく見せる表情だ。
(ふむ、地上の一件からより一層仲良しになったみたいですね。いいことです)
アグニは友達同士が仲良くなるのはいいことだと思っている。だからホムラとエレインが仲良しなのも、良きかな良きかなと考えているのだった。
◇◇◇
日が沈むと、ダンジョンの魔物は凶暴化するため、冒険者はダンジョンから離脱する。
冒険者が居なくなるその時間帯は、アグニ達の狩りの時間である。ホムラやアグニなど、上位の魔物は日夜の違いで気性が荒くなることはないので、いつものようにエレインとダンジョンを散策する。今日は比較的低階層の22階の川辺にいた。
「今日は魚なんてどうでしょうか」
「わー!いいね!じゃあ釣りかなぁ」
魚と聞いてエレインは周りを見渡す。手頃な枝を拾い、蔓を巻き付けて簡単な釣竿を作っていた。意外と器用だ。アグニの分も作ってくれたようで、ニコリと笑顔で釣竿を手渡してくれた。
「ありがとうございます」
そして2人並んで岩場に腰掛けて竿を垂らす。釣り餌はアグニが捕まえた虫やミミズだ。
しばらく竿を垂らしていると、アグニの竿がくんっとしなった。
「!」
ぐいぐいと竿が引っ張られる。慌ててエレインもアグニの腰に手を回して2人で竿を引く。竿がミシミシと折れそうになったため、エレインが急いで補助魔法をかける。
「んーー!えーいっ!」
思い切り竿を振り上げると、巨大な水魚が宙に放り出された。2人が釣り上げたのは、食用としても美味な淡水魚であった。
「わーい!大漁だねっ!」
エレインは目をキラキラ輝かせてビチビチ跳ねる魚を眺めている。アグニもつられて笑みを漏らしてしまう。
簡単に魚の血抜きを済ませると、2人は魔法陣で70階層へと帰還した。
「おー、今日は魚か。随分とデカい魚を捕まえたもんだな」
居住空間でダラダラ横になっていたホムラが、帰還した2人と魚を見ると、顎に手を当てて舌舐めずりをした。
「ふふふ、ササッと用意するのでしばしお待ちくださいね!」
「お手伝いできることがあったら言ってね?」
「んー、では、お皿を出しておいてください」
「かしこまりました!」
アグニが鼻歌混じりで魚を捌いていると、何やらエレインとホムラが言い争う声がした。どうやらエレインが手伝う気のないホムラをせっついているようだった。やいやい言い合いをした後、諦めたようにホムラが起き上がって2人でテーブルの用意を始めた。思わずアグニは笑みを漏らす。
「さあ、刺身にフライ、あとはシンプルに焼き魚ですよー!」
「わぁぁあ!美味しそう~!」
「へぇ、美味そうだな」
「あらあら美味しそう」
いつの間にかシレッとエレインの隣に着席していたドリューンの分も、皿や箸を出して4人で席についた。
揃って両手を合わせて食事が始まった。
「それで、手記の解読は進んでるのかよ」
「全然です…」
「不思議なのよねぇ、文字の羅列に法則がありそうで見つからないのよ」
「ホムラさんの方は今日の挑戦者どうでしたか?」
「あーダメだな。アグニが吼えて気絶するようじゃまだまだだわ」
「ボクも戦いたかったですよ」
「いやぁ…火竜の状態だとそりゃ気も失いたくなりますよ…」
「そういえばおチビも初めてアグニを見た時は泡吹いて倒れたっけか?」
「失礼しちゃいますよ」
「いやいやいや!普通に怖いからね!?」
「うふふ、今はもう大丈夫なんでしょう?」
「えっと…急に出てこられたら…分かんないです」
「ぶはっ、ダメじゃねえか」
とりとめのない話で盛り上がる食卓。皆笑顔で魚料理にも舌鼓を打つ。部屋は温かな笑い声で満ちていた。
◇◇◇
アグニは、エレインと風呂に入り、寝支度をして自分のベッドに潜り込んだ。毎日一緒に入るわけではないが、その日の気分で入ったり入らなかったりする。
アグニがエレインのいる浴室に向かうと、ホムラは何とも複雑な表情をするのだが、アグニは気にしていない。一緒に入りたいのならホムラも入ればいいのに、とそう思っている。
ベッドは3つ壁際に並んでおり、奥からエレイン、アグニ、ホムラが使用している。エレインの分は、住み着いたその日のうちにダンジョンが生成してくれたのだ。
エレインは既に布団を被ってスヤスヤ眠っている。ホムラもいびきをかいて眠っているようだ。
(今日も平和な一日でした)
鼻の辺りまで布団を引き上げたアグニは、自分が自然と笑みを溢していることに気づいていない。
(こんな平和な日々が、ずっと続いてほしいものです)
ホムラとエレイン、そしてドリューンと過ごす何ともない日々を、アグニはそれなりに気に入っている。
(さて、明日は何を作りましょうかね)
温かな気持ちを抱えて、明日の献立を考えながら、アグニは睡魔に身を委ねたのだった。
まったりのんびりとお楽しみください。
--------------------
日の出と共に目を覚まし、朝食を作り始めるところからアグニの1日は始まる。
口から程よい火加減の炎を吐き出し、釜戸に火をつける。尖嘴鳥の卵を3つフライパンに落とすと、じゅわぁという音を立てて卵が踊り出す。
次第にぷっくりと白身が膨らみ始めるため、まずは1つ取り出す。アグニは半熟が好みなのだ。あと2つにはしっかりと火を通す。ホムラとエレインはよく焼いた卵を好む。
嗜好は人それぞれなので、アグニは極力好みに合わせて調理をする。それが彼のモットーであった。
そして、昨夜ダンジョンで採取した山草を皿に盛り付けて、軽く塩を振る。焼いた卵も皿に移し、空いたフライパンに今度はベーコンを敷き詰める。これはヒートスタンプの肉をアグニが燻製した自信作だ。
パチパチと油を跳ねながら次第に縮んでいくベーコン。アグニは芳ばしい香りを目一杯吸い込む。それから、しっかり焼き色がついたことを確認して、さらに皿へと盛り付ける。
調理が終わると、バゲットが入った籠をテーブルの中心に置き、それぞれの席に皿を並べる。
「ふむ、こんなものですかね」
準備が整った頃を見計らい、先ずはホムラが欠伸をしながら起きてくる。そしてドカッと椅子に座るので、アグニはサッと暖かいミルクを差し出す。ついでに寝癖で跳ねた毛を整えてやる。髪がボサボサの階層主など格好がつかないからだ。
エレインはというと、毎夜の修行で疲れ切っているため、朝に弱い。今日も一向に起きてくる気配がないため、アグにはやれやれとエレインのベッドに向かう。
「ほら、朝ですよ。起きてください」
「う~ん…あと5分…」
「はぁ、全く。アナタの分のご飯食べちゃいますからね」
「それは困るぅ…」
毎朝同じやりとりをして、エレインがのそりと起き上がる。エレインはそのままの足で洗面台に向かってバシャリと顔を洗って目を覚まし、席につく。これもいつも通りの光景だ。
「ふわぁ~今日も美味しそう。アグニちゃん、いつもありがとう!」
エレインはキラキラ目を輝かせ、少し涎を垂らしながらアグニに微笑みかけた。
「ふまいぞ、アグニ」
ホムラは待ちきれずに先に食べ始めている。困った主である。
まぁ、美味だと言われるのはやぶさかではないのでアグニは得意げに鼻の穴を膨らませた。
「では改めて、いただきます」
「おう」
「いただきまーす!」
テーブルを囲んで朝食を取る図はえらく平和じみて見えるが、ここはダンジョン70階層。且つテーブルを囲むうちの1人はその階層主ときた。
のんびり食事を楽しんでいるが、既に日が昇っているため、いつ挑戦者がやって来るか分からない。
「ん?」
ギィィィ…
そんなことを思っていたら、早速挑戦者がやって来たようだ。ボスの間から重い扉が開く音が響いて来た。
「ったく、ゆっくり朝飯ぐらい食わせろよな」
ホムラは行儀悪くベーコンをつまんで口に放り込むと、咀嚼しながらボスの間へと消えて行った。
「あらあら、今日の挑戦者は随分早起きなのね」
「ドリューさん!」
ホムラと入れ替わりに部屋の中に現れたのは、樹人族のドリューさんことドリューンである。突然の来訪であるが、アグニもエレインもすっかり慣れたもので、アグニはササっと新しいカップを取り出してホットミルクを差し出した。
「あら、ありがとう」
ドリューンはニコリと微笑むと、カップにふーふーと息を吹きかけてから口をつけた。
「エレインちゃん、早速だけど、ご飯が済んだら手記の解読作業をしましょうか」
「はひっ!」
硬めの卵焼きを頬張りながら、エレインは元気よく返事をした。ドリューンが気ままに訪ねてくるので、やって来た日はこうしてハイエルフの手記の解読に勤しんでいる。
アグニとエレインは朝食を済ませると、空いた皿を重ねて台所へと運んだ。洗い物はエレインがすることもあるが、今日はドリューンが訪ねて来ているのでアグニが引き受けた。
エレインは地上で覚醒し、その時に幾つか読めなかった文章が脳裏に浮かんだそうなのだが、元に戻ってからは全く思い出せないのだと言う。覚醒に至った増幅魔法の呪文も忘れてしまったらしく、それっきり使えていない状況だ。
それもあり、ドリューンとの手記解読作業は引き続き行われているわけだ。
アグニは慣れた手つきで皿を洗って拭き、棚に片すとボスの間へと顔を出した。
「おらおらァァ!!そんなもんかよ!もっと抗え!闘志を掻き立てろォォ!!」
「ギャァァァァ!!」
「うわぁぁぁあ!!」
ホムラは朝早いというのに絶好調のようで、瞳孔を開きながら火球を撃ち放っていた。今日の挑戦者は7人パーティのようだが、いつもの如くホムラが圧倒しているようだ。
アグニがボスの間に入る頃には、そこは火の海と化していた。いつものことなので驚きもしないが、この破壊し尽くされた部屋が終戦後は瞬く間に修復されるのだからダンジョンという場所は不思議だ。
(さて、久々に本来の姿に戻りますかね)
ホムラ一人で十分なのだが、たまには実戦をしないと腕が鈍ってしまう。
アグニは目を閉じるとメキメキと背の翼を広げ、身体を膨張させて行く。
そして巨大な火竜の姿に戻ると、大きく咆哮した。
「ん?なんだァ、アグニも暴れたいのか?」
ようやくアグニに気づいたホムラが、ギラギラと加虐的な表情で笑う。
「まあ、そうですね。でももうみんな気絶しちゃったみたいです」
「あ?カーッ!根性ねぇ奴らだなァ!」
アグニの咆哮でパーティは全員気絶してしまったようだ。少し張り切りすぎたか。
仕方がないので順番に咥えて魔法陣へと放り込んで地上へ返す。束の間の変身だった。
◇◇◇
それ以降挑戦者は訪れなかったため、簡単に昼食を済ませると、ホムラとエレインの修行が始まった。
「おら!俺の火球を相殺してみろ!」
「きゃぁぁぁ!!無理無理無理ィィー!」
どうやら今日はホムラが放つ異なる威力の火球に対して、その威力を見極めて同等の威力に調整した水魔法で相殺する修行のようだ。
玉座の前の段差に腰掛けて、アグニはその様子を眺める。
うまく相殺できたものは火球と水球がぶつかった拍子に水蒸気となり蒸発するが、威力が足りなければ火球はエレインを襲う。かと言って威力が大きければホムラに攻撃することとなってしまう。
(ふむ、繊細なコントロールの修行になりそうですね)
アグニは2人の修行の様子を観察するのは嫌いではなかった。たまに混ざって模擬戦もするのだが、客観的に修行の目的や手段を分析するのも案外楽しかった。
「おら!これはどうだ!」
「え、ちょ…大きすぎない…!?わわわ…ウォ、《水球》!!」
「あ、まずそうですね」
ホムラが繰り出した火球は人一人ほどの大きさ。エレインも同じ威力の水球を放ったのだが、あの威力の魔法がぶつかり合うとーーー
ドォォォォン!!!
アグニの思った通り激しい水蒸気爆発を巻き起こした。
「うぎゃぁぁあ!?」
巻き起こる白煙の中、エレインの悲鳴がこだまする。アグニは素早く玉座の影に避難したので無事だったが、2人は大丈夫だろうか。
「悪ィ悪ィ、気合い入りすぎたわ」
心配して玉座の影から様子を窺ったが、すぐ真横でホムラの声がした。見上げると、エレインを抱き抱えるホムラの姿があった。
「きゅう…」
横抱きされているエレインはというと、目を回して白目を剥いている。気を失っているが、見たところ外傷は無いので、爆発間際にホムラが抱き抱えて退避したのだろう。
「ったく、しょうがねぇな」
ホムラはため息を吐きながらも、目元を和ませて腕の中のエレインを見つめている。最近よく見せる表情だ。
(ふむ、地上の一件からより一層仲良しになったみたいですね。いいことです)
アグニは友達同士が仲良くなるのはいいことだと思っている。だからホムラとエレインが仲良しなのも、良きかな良きかなと考えているのだった。
◇◇◇
日が沈むと、ダンジョンの魔物は凶暴化するため、冒険者はダンジョンから離脱する。
冒険者が居なくなるその時間帯は、アグニ達の狩りの時間である。ホムラやアグニなど、上位の魔物は日夜の違いで気性が荒くなることはないので、いつものようにエレインとダンジョンを散策する。今日は比較的低階層の22階の川辺にいた。
「今日は魚なんてどうでしょうか」
「わー!いいね!じゃあ釣りかなぁ」
魚と聞いてエレインは周りを見渡す。手頃な枝を拾い、蔓を巻き付けて簡単な釣竿を作っていた。意外と器用だ。アグニの分も作ってくれたようで、ニコリと笑顔で釣竿を手渡してくれた。
「ありがとうございます」
そして2人並んで岩場に腰掛けて竿を垂らす。釣り餌はアグニが捕まえた虫やミミズだ。
しばらく竿を垂らしていると、アグニの竿がくんっとしなった。
「!」
ぐいぐいと竿が引っ張られる。慌ててエレインもアグニの腰に手を回して2人で竿を引く。竿がミシミシと折れそうになったため、エレインが急いで補助魔法をかける。
「んーー!えーいっ!」
思い切り竿を振り上げると、巨大な水魚が宙に放り出された。2人が釣り上げたのは、食用としても美味な淡水魚であった。
「わーい!大漁だねっ!」
エレインは目をキラキラ輝かせてビチビチ跳ねる魚を眺めている。アグニもつられて笑みを漏らしてしまう。
簡単に魚の血抜きを済ませると、2人は魔法陣で70階層へと帰還した。
「おー、今日は魚か。随分とデカい魚を捕まえたもんだな」
居住空間でダラダラ横になっていたホムラが、帰還した2人と魚を見ると、顎に手を当てて舌舐めずりをした。
「ふふふ、ササッと用意するのでしばしお待ちくださいね!」
「お手伝いできることがあったら言ってね?」
「んー、では、お皿を出しておいてください」
「かしこまりました!」
アグニが鼻歌混じりで魚を捌いていると、何やらエレインとホムラが言い争う声がした。どうやらエレインが手伝う気のないホムラをせっついているようだった。やいやい言い合いをした後、諦めたようにホムラが起き上がって2人でテーブルの用意を始めた。思わずアグニは笑みを漏らす。
「さあ、刺身にフライ、あとはシンプルに焼き魚ですよー!」
「わぁぁあ!美味しそう~!」
「へぇ、美味そうだな」
「あらあら美味しそう」
いつの間にかシレッとエレインの隣に着席していたドリューンの分も、皿や箸を出して4人で席についた。
揃って両手を合わせて食事が始まった。
「それで、手記の解読は進んでるのかよ」
「全然です…」
「不思議なのよねぇ、文字の羅列に法則がありそうで見つからないのよ」
「ホムラさんの方は今日の挑戦者どうでしたか?」
「あーダメだな。アグニが吼えて気絶するようじゃまだまだだわ」
「ボクも戦いたかったですよ」
「いやぁ…火竜の状態だとそりゃ気も失いたくなりますよ…」
「そういえばおチビも初めてアグニを見た時は泡吹いて倒れたっけか?」
「失礼しちゃいますよ」
「いやいやいや!普通に怖いからね!?」
「うふふ、今はもう大丈夫なんでしょう?」
「えっと…急に出てこられたら…分かんないです」
「ぶはっ、ダメじゃねえか」
とりとめのない話で盛り上がる食卓。皆笑顔で魚料理にも舌鼓を打つ。部屋は温かな笑い声で満ちていた。
◇◇◇
アグニは、エレインと風呂に入り、寝支度をして自分のベッドに潜り込んだ。毎日一緒に入るわけではないが、その日の気分で入ったり入らなかったりする。
アグニがエレインのいる浴室に向かうと、ホムラは何とも複雑な表情をするのだが、アグニは気にしていない。一緒に入りたいのならホムラも入ればいいのに、とそう思っている。
ベッドは3つ壁際に並んでおり、奥からエレイン、アグニ、ホムラが使用している。エレインの分は、住み着いたその日のうちにダンジョンが生成してくれたのだ。
エレインは既に布団を被ってスヤスヤ眠っている。ホムラもいびきをかいて眠っているようだ。
(今日も平和な一日でした)
鼻の辺りまで布団を引き上げたアグニは、自分が自然と笑みを溢していることに気づいていない。
(こんな平和な日々が、ずっと続いてほしいものです)
ホムラとエレイン、そしてドリューンと過ごす何ともない日々を、アグニはそれなりに気に入っている。
(さて、明日は何を作りましょうかね)
温かな気持ちを抱えて、明日の献立を考えながら、アグニは睡魔に身を委ねたのだった。
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元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。
ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、
理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。
今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。
様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。
カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。
ハーレム要素多め。
※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。
よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz
他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。
たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。
物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz
今後とも応援よろしくお願い致します。
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
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アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
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その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
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そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
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