【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

水都 ミナト

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第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される

番外編③ロイドがゆく

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「うぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」

 ダンジョン31階層。乾いてひび割れた地面が目立つ、荒野の階層である。

 1人の《騎士ナイト》の男が盾を構えて巨大な魔鳥と戦っていた。
 細くしなやかだが筋肉質な2本の足、茶色い羽毛に包まれた身体、ツルハシのように鋭く尖った嘴、その大きさは大の大人の倍はあるだろう。

 盾を振りかぶって攻撃を試みるが、魔鳥は瞬足ですぐに躱されてしまう。攻撃の手を止めれば、今度は鋭い嘴が頭上から勢いよく降ってくるため盾を持ち替えて防御する。
 先程から攻防が入れ替わりながら、一進一退の戦いを繰り広げていた。

(クソッ、なんて重い攻撃なんだ…)

 その男は魔鳥の嘴を盾で弾きながら、肩で息をしていた。このままでは消耗してやられるのはこちらだ。盾の影から魔鳥の特徴を観察する。

(ったく、デカい図体してやがるのに…あんな2本の足だけで支えてるとかどんな筋肉してんだよ……ん?足…そうか!)

 男はあることを閃くと、盾を魔鳥に押し付けるように突き出し、怯んだところを思い切り足払いした。

「ケェェーッ!!」

 魔鳥はバランスを取ろうとバサバサ羽をはためかせたが、健闘虚しく地面に倒れてしまった。その隙を逃すまいと、腰に帯刀していた剣を引き抜くと、体重を乗せて魔鳥の首めがけて振り下ろした。ザシュッという鈍い音を立てて、魔鳥の首がゴロンと地面に転がった。

「っはぁーーー…」

 男は深く息を吐くと、地面に仰向けになって倒れ込んだ。

 男の名は、ロイド。職業は《騎士ナイト》で、現在ソロでダンジョンを攻略する冒険者である。

 以前は同郷の仲間と共に『彗星の新人コメットルーキー』というパーティを組んでいたのだが、格下だと蔑んでいた魔法使いをダンジョンに捨ててからあらゆる歯車が狂ってしまった。
 これまで実力だと思っていた自分の力は、彼女の魔法によって底上げされたものだと分かった。周囲にチヤホヤされ、意気揚々と挑んだ70階層では、これまで培ってきた自信も全て木っ端微塵に吹き飛ばされてしまった。

 それからパーティの在り方に疑問を感じるようになり、仲違いをして、間もなくパーティは解散となった。

 ロイドは自分の力を一から鍛え直すため、ソロでダンジョンの1階層から攻略を再開した。流石にレベル50以上ともなれば、下層階はそれほど苦労せずに踏破できた。
 だが、25階層に差し掛かった辺りから魔物の群れや、単一でも強力な魔物が現れるようになり、戦闘で苦労するようになっていた。流石にソロの攻略は簡単ではなかったのだ。

(ありがたいことにこんな俺でもパーティに誘う声は多い。だが、俺は一人で出来るところまで行ってやると決めたんだ)

『君がロイドかい?ちょうど《騎士ナイト》の人数が不足しているんだが、どうだい?一緒にダンジョンを攻略しようじゃないか』

『あら、元『彗星の新人コメットルーキー』のロイド様じゃない。今お一人なの?じゃあ私たちのパーティに入らない?』

 声をかけてくれたパーティは、どこも活気に溢れており、その瞳は皆希望の光に満ちていた。メンバー同士も信頼関係で固く結ばれているようで、『彗星の新人コメットルーキー』との違いをまざまざと見せつけられる心地がして居た堪れなかった。
 パーティ時代を振り返ると、富や名声の上に胡座をかき、努力を怠っていたのだと今となってようやく理解できた。

(エレインには悪いことをしたな。もう二度と会うことはないだろうが…せめて詫びの言葉の一つでも伝えたかった)

 ロイドは身体を起こし、ショルダーバッグから水筒を取り出すと、ぐびぐびと水を飲んだ。
 そろそろ日が落ちる頃だ。ダンジョンから出なければならない。そう思い、バッグの中の《転移門ポータル》の魔石を探る。が、それらしきものが見つからない。ロイドは焦りの表情を浮かべながら、バッグの中身をひっくり返したが、いくら探しても魔石が見当たらない。
 そこでようやくバッグの底に穴が開いていることに気がついた。

(やられた!魔鳥と戦っている時に突かれたんだ…ということはそう遠くに落ちていないはず)

 ロイドは慌てて周囲を見渡すが、目視できる範囲には魔石は落ちていないようだ。

「くそっ!どこか安全なところで夜を明かすか…?」

 ここは荒野の階層。隠れるための木は見当たらないが、所々地面が窪んでおり、穴になっている箇所がある。そこならば隠れることができるかもしれない。

 ロイドが身体を起こして穴に向かおうとした時だった。

「いやぁぁぁぁぁぁあ!!!来ないでぇぇぇぇ!!!」

 聞き覚えのある叫び声が階層内にこだましたのだ。

(こ、この声…まさか!?)

 ロイドは慌てて声の方向を振り向いた。目を眇めてよく見ると、思った通りエレインが全力疾走しているとこだった。その背後には、先ほどロイドが苦戦を強いられた魔鳥が5羽、群れを成してエレインを追いかけ回していた。

(ハァァ!?何やってんだアイツ…大丈夫なのか!?)

 ロイドはエレインの助太刀をするか頭を悩ませた。
 相手は魔鳥5羽だ。1羽であればロイドの盾でその動きを封じることはできるだろう。だが、複数となると間違いなく抑えきれずに突破されてしまう。

(どうする…)

 ロイドは、たらりと背に冷や汗が流れたのを感じた。このままではエレインが殺されてしまうかもしれない。
 それだけはさせてはならないと、覚悟を決めて盾を構えて駆け出した、その時ーーー

「もぉぉ!!焼き鳥になっても文句は言わないでよね…!《火球ファイアボール》!!」

 エレインが急旋回したかと思うと、5羽の魔鳥目掛けて魔法を撃ち放ったのだ。ロイドを飲み込むほどの大きさの火球が5つ、真っ直ぐに魔鳥に向かって飛んで行く。至近距離からの攻撃であったため、魔鳥は躱す間もなく炎に包まれてしまった。

「ギィェェェェェ!!!」

 甲高い叫び声を上げながら、5羽の魔鳥は息絶え、ズゥンと地響きをさせて地面に倒れ伏した。

「す、すげぇ…」

 ロイドはあんぐりと口を開けて呆然と立ち尽くした。ロイドは1羽相手に死闘を繰り広げていたが、エレインはそんな相手を纏めて5羽返り討ちにしてしまったのだ。

「アグニちゃん、無事卵回収できたのかな…うーん、火力は調整したけど…この鳥って食べれるんだっけ?」

 ロイドが呆気に取られていると、エレインは丸焼きになった魔鳥を杖でツンツンと突き出した。そして、ふとロイドの方に視線を投げたため、バタンと目が合ってしまった。

「…ん?えっ!?ろ、ロイド…?何でこんなところに…というかもう日暮れだけど大丈夫なの?」

 エレインの反応に、ロイドは苦笑しながら事情を説明した。

「そういうことなら、予備の魔石があるからあげようか?」
「ほ、本当か!?助かる…!」

 地獄に仏とはこのことか。
 エレインは背負っていたリュックから予備の魔石を取り出して、ほい、とロイドに手渡した。

 ロイドは受け取ろうとして、ピタリとその手を止めた。

「…何で、助けてくれるんだ?」
「え?」

 ロイドの問いに、エレインはキョトンと首を傾げる。

「俺は、その…これまでお前に酷いことばかりしてきただろう。本来救われるべき人間ではない」
「あー…」

 ギリっと歯を食いしばるロイドに、エレインは困ったように頬を掻いた。

「あの頃は確かに辛かったけど…でも、もういいの!私今はそれなりに楽しくやってるし。困っている人がいたら放っておけないでしょう?ロイドだって私のことを助けようとしてくれたんじゃないの?」
「っ!」

 ロイドは構えたままの盾を気まずそうに下ろし、エレインは、えへへ、と少し照れくさそうに笑った。そんなエレインの笑顔をロイドは初めて見た気がした。

 ロイドが知るエレインは、いつもビクビクおどおどしており、人目ばかり気にして頼りない魔法使いであった。だが、今目の前にいるのはその面影すら残っていない、強く決意に満ちた目をした少女であった。

「…ありがたく使わせてもらうよ」

 ロイドはエレインの手のひらに置かれた魔石をそっと握りしめた。エレインは返事の代わりにニコリと笑みを浮かべた。

「転移、地上へ」

 ロイドの身体が転移の光に包まれた時、ロイドは真っ直ぐにエレインの目を見て言った。

「今まで済まなかった。元気でな」

 そう言うと同時にロイドは31階層から姿を消した。ロイドが最後に見たのは、驚き目を見開きながらも、嬉しそうに手を振るエレインの姿であった。

「はぁ、俺はまだまだ弱いな…」

 エレインの魔法を思い返し、ロイドは夜空を見上げながら更に強くなる決心を固めたのだった。
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