【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

水都 ミナト

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第二部 パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

53. アンデッド

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「う…ここは…」

 階段を登り切り、71階層に足を踏み入れた途端に視界が開け、エレインは目を細めた。

 視界は真っ白な霧で覆われていた。真横にいるホムラとアグニの姿が辛うじて分かる程の濃霧だ。

 地面は土のようで、アグニが右手で掬い、指を擦ってその状態を確かめている。

「随分と湿っていますね」
「この濃霧だからな…そうか、ここは…」

 ホムラはこの階層の特徴を思い出したらしく、目を見開き笑みを浮かべた。

「おチビ、早速光魔法の特訓ができそうだなァ」
「え…?どういうことですか?」

 要領を得ないエレインは首を傾げる。

「ま、とにかくこの霧だ。離れるんじゃねぇぞ」
「わっ」

 ホムラは辺りを警戒しつつ、ぐいっとエレインの肩を抱き寄せた。アグニも、しっかとホムラの足にしがみついている。

 ホムラは歩きにくそうにしつつも2人を率いて濃霧に足を踏み出した。湿った土に靴が沈み込んで、くっきりと足形を残していく。

「ホムラ様、ここはもしや…?」
「ああ、ここは恐らく…」
「ひゃわっ!?」

 アグニとホムラの会話を全て聞く前に、何者かがエレインの首筋に息を吹きかけたため、エレインは情けない悲鳴をあげた。

「だ、だだだ誰っ!?」

 エレインが慌てて振り返るが、そこには誰も居ない。目を凝らして見るも一面真っ白で何も見えない。
 エレインが首を傾げて唸っていると、今度は首筋を何か冷たいもので撫でられる感触がして、ぞわりと背筋が泡立った。

「さ、さっきから何ですか!?」

 エレインは咄嗟にホムラにしがみついて誰もいない後方に向かって叫んだ。だが、エレインの叫びは濃霧に吸い込まれて消えて行くばかりだ。

「なんだァ?早速奴らの洗礼を受けたか?」
「奴ら…?」

 キョロキョロ辺りを睨みつけながらエレインが尋ねる。

「まあ、まずはこの濃霧をどうにかしねぇとな。どうだ?お前の風魔法で吹き飛ばせねぇか?」
「!やってみます!」

 ホムラに言われ、エレインは目を閉じて魔力を集中させる。全身から噴き出すイメージで、風を巻き起こし一帯の霧を吹き飛ばす。

「えいっ!」

 杖を高く掲げると、イメージ通りにエレインを中心に風が巻き起こり、濃霧を吹き飛ばしていった。

「やった!うまくいった……え」
「よくやったじゃねぇか、これで敵さんの姿も確認できるだろ」

 霧が晴れて71階層の全容がようやく露わになり、エレインは絶句した。

 葉が枯れ落ちて枝が剥き出しになった柳の木、あちこちに規則正しく並ぶ四角い石碑、乱雑に置かれた黒い棺、所々掘り起こされたようにボコボコ盛り上がった地面。

 そう、ここはーーー

「墓地ですね」
「墓地だな」
「ぼぼぼぼ墓地っ!?」

 墓地であった。
 エレインが叫んだと同時に、カラスのような真っ黒な鳥獣がけたたましく鳴いた。エレインは飛び上がって再びホムラにしがみつく。

「なんだよ、歩きづれぇだろ」

 ホムラが苦言を呈すが、エレインはそれどころではない。ここが墓地の階層であるならば、ここにいるのは間違いなくエレインの苦手とする者たちであるからだ。

 恐怖のあまり呼吸が浅くなり、じわりと目に涙が滲む。エレインの顔色はすっかり青ざめている。

 その時、ボッボッと音を立てながら青い炎が幾つか宙に浮かんだ。そして怪しく漂う青い炎を囲むように、半透明の人影が姿を現した。くすくすと怪しい笑い声を響かせながら、ふわりとエレインの頬を撫でていく。

「いっ、いやぁぁぁぁぁ!!!お化けぇぇぇっ!!」

 エレインの最も苦手とする魔物、それはお化けもとい死霊であった。
 悲鳴をあげて勢いよく逃げ出したエレインに、焦りを見せたのはホムラである。

「あ、おい!馬鹿野郎、離れるなって言っただろうが!」

 ホムラはアグニを小脇に抱えて、エレインが駆けて行った方向に向かって走り出した。エレインはパニックに陥っているようで、ホムラの呼び止める声が届いていない様子だ。

「あの野郎…足速ぇな…」

 湿気を多く含んだ土は重たく、思うように脚が回らない。ホムラが舌打ちをした時、急に前方を走っていたエレインが地面にべちんと音を立てて突っ伏した。

「ぎゃふん!」
「おい!大丈夫か!?」

 ようやく追いついて抱き起こそうとしたが、何だかエレインの様子がおかしかった。

「ほ、ほほほホムラさん…あ、あし、足…っ」
「あ?足がどうかしたのか…ああ」

 涙と土でぐしょぐしょになったエレインの顔を着物の袖で拭いながら、エレインの足首に視線を移す。そこでようやくエレインが転んだ理由に合点がいった。

 土から伸びた血の気のない手が、エレインの足首を掴んでいたのだ。

 ボコボコという不穏な音に振り返ると、先程駆けてきた墓地の土の中からも、続々と腐りかけた死体が這い出るところだった。青白く皮膚は爛れ、眼球があった場所には深い暗闇が広がっている。
 オォォォ…と唸り声を上げて、ズルズルと足を引き摺りながら、無数の死体がホムラ達の方へとにじり寄って来ている。

「チッ、アンデッドか、厄介だな」

 ホムラは手のひらに炎を灯してエレインを捕らえる手首を焼き落とした。アンデッドに火は効果的だが、元々死体なので完全に消滅させねば何度でも蘇る。更に、死霊には物理攻撃どころか大抵の魔法も通じない。
 どちらも簡単に攻略できる相手ではなかった。

 唯一、奴らの弱点となるのはーーー

「おら、起きろ。お前の光魔法が頼りだ」
「ぐす、え…光、魔法?」

 光魔法の浄化の光であった。
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