【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

水都 ミナト

文字の大きさ
58 / 109
第二部 パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

54. 光魔法

しおりを挟む
「えと、光魔法と言われましても…私あの時使ったきりなんですが…!」

 エレインの光魔法が唯一アンデッド達に対抗する術であると言われても、地上で一度使って以来光魔法を使えた試しがなかった。
 狼狽えるエレインの頭をガシガシと掻き撫でながら、ホムラがエレインに顔を寄せて言った。

「だから修行なんだろが、窮地に追い込まれてこそ才能が開花するってもんだ。地上でのことを思い出してみろ、何かヒントになるかもしれねぇ」

 ホムラに言われて、エレインは光魔法を発動した時のことを考える。
 あの時、ホムラはアレクが突き刺した短剣の呪詛を受け、瀕死状態であった。あのままだと、ホムラを失うかもしれない、その思いがエレインを高みへと押し上げた。

「あ、あの時はホムラさんを助けたくて必死だったから…」

 ボソリと漏らした声に、ホムラは笑みを漏らした。

「今だって、お前の魔法が頼りなんだ。エレイン、お前ならできるさ」

 急に優しく名前を呼ばれ、エレインは弾けるように顔を上げた。目の前のホムラの瞳には、エレインへの信頼の色で満ちていた。

「ホムラさん…」
「いい感じのところ悪いんですけど、周り見て貰えますか!?」

 見つめ合っていた2人は、アグニの悲痛な叫びで我に返ると、慌てて周りを見渡した。いつの間にか死霊やアンデッドが集まり、四方を囲まれてしまっていた。

「ヒィィィィ…!」
「わ、ぶっ、おい!前が見えね…」

 エレインは思わずホムラの頭を抱え込むようにしてしがみついてしまい、ホムラは息が出来ずに身じろぎした。アグニも足元でアワアワ狼狽えている。

「あわわわわわっ、どどどどうしよ…!」
「ぶはっ!てめ…落ち着け!」

 混乱して目を回すエレインのホールドから何とか抜け出したホムラは、べシンとエレインの両頬を叩くようにして両手で挟み込んだ。力強く両頬を押されたエレインは、口がタコのように突き出てしまって何とも情けない顔になっている。

「俺はお前を信じる。だからお前も自分の力を信じろ!」
「っ!」

 アンデッド達はあと2メートル程にまで迫って来ている。エレインはようやく頭に血液が循環し、周囲を冷静に見る事ができた。

(自分を、信じる…そうだ。私が自分で『出来ない』って決めつけてたら、何にも出来なくなる…!)

 地上で光魔法を使った時の感覚を思い起こす。
 温かな浄化の光。慈悲の光。癒しの光。光魔法を使うためには、誰かを慈しむ気持ちが必要なのかもしれない。

(私の大切なもの、大切な人たち…)

 エレインは目を閉じて自分の想いが強いものを思い描く。厳しかったが慈愛に満ちた祖母、祖母が残してくれた大切な手記、アグニにドリューン、リリスやローラ、そして…

 いつもエレインの背中を押してくれる強く気高い鬼神。

(いける…!)

 エレインは胸に温かな光が満ち満ちるのを感じた。その想いを循環させて杖に集中させる。

「《浄化パージ》!!!」

 エレインは目を見開き、杖を天高く突き上げて叫んだ。と同時に、眩い光が周囲を包み込み、眼前まで迫っていたアンデッドや死霊たちを飲み込んでいく。
 ギャァァァァ…!と断末魔のような叫びが階層に響き渡る。光が収束した時には、エレイン達の周りには魔物の1匹も残ってはいなかった。

「やっ、た…?」

 エレインは肩で息をしながら、脱力して杖を下ろす。と、その時、ホムラとアグニがガバッとエレインに抱き着いた。

「やればできるじゃねぇか!」
「エレイン、凄いです!」

 頬を上気させる2人につられて、エレインもふにゃりと微笑んだ。

「えへへ、みんなのおかげです…ホムラさんやアグニちゃん、大切な人たちのことを考えたら、胸が温かくなって…魔法に繋げることができたんです!」

 面と向かって『大切な人たち』と言われたホムラとアグニは、虚を突かれたように目を瞬かせたが、顔を見合わせて吹き出した。

「まあ、なにせ光魔法のきっかけが掴めたんだ。大した成果じゃねえか」
「えへへ…ありがとうございます」

 エレインは照れ臭そうに頭を掻いた。

 和やかな空気が満ちる中、不意に地面がボコッと波打った。3人は音がした方を恐る恐る振り向いた。すると、あちこちの地面が盛り上がっており、今にも新たなアンデッドが生まれそうである。

「あー…アンデッドは無尽蔵だからな…とにかく、新手が来る前に上層への階段を見つけるぞ!」
「はっ、はいぃ!!」

 アンデッドや死霊に囲まれるのは二度とごめんなので、エレインは血眼で階段を探し始めた。
 この階層はそこまでの広さは無いようだ。アンデッド達の足は鈍いので、余り広すぎると冒険者を追い詰める事が難しいからだろう。階層ごとにそこに出現する魔物に適した構造になっているのだ。

 すぐに上がって来た階段と対面側に壁を見つけ、壁伝いに探すと間もなく階段が見つかった。

「ありましたー!」
「よし、とにかく階段に入るぞ」

 階段にさえ入ってしまえば、アンデッドに襲われることはない。エレイン達は続々と階段に飛び込んだ。そして、エレインはへなへなとへたり込んだ。

「はーーー…つ、疲れた」
「流石にこの階層には食材はありませんでしたね」
「おう、お疲れさん。今日はこの辺にして《転移門ポータル》の登録しとけ」
「あ、そうでした!」

 今回上層階に挑むにあたり、エレインが決めたルールが幾つかある。
 主な2つがホムラが前線で戦わないことと、攻略した場所の記憶は冒険者と同様に《転移門ポータル》の魔石を使うということ。これで自分が到達したところまでが正しく記録される。次回からはその記録地点から攻略を再開する寸法だ。

「登録しました!」
「よし、そんじゃ帰るか」
「準備できてますよー」

 エレインの記録が完了したことを確認し、ホムラ達はアグニが用意しておいた帰還の魔法陣で70階層へと戻ったのだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

処理中です...