【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

水都 ミナト

文字の大きさ
73 / 109
第二部 パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

69. 変貌

しおりを挟む
「さてと、おチビも新しい魔法を覚えた事だし、久々にダンジョン攻略でも進めるか?」
「是非!何だか久々ですね…!」
「地上に呼び出されたり手鏡の騒動があったりでバタバタしてましたしね」

 翌朝、朝食を取りながらのホムラの提案に、エレインもアグニも頷いた。

「よっしゃ、じゃあ今夜ダンジョンに入るぞ」
「おー!」

 エレインは個人的に75階層に何度も訪れていたため、久々とは厳密には違うのだが、遊びに行くのと攻略に乗り出すのとでは意味が全く違う。
 75階層を攻略するために風魔法を覚えたも同然なので、エレインはどれ程自分の力が通用するのかワクワクしていた。


◇◇◇

 その夜、75階層に転移した3人は、早速探索を開始した。

「今回は前みたいにはぐれないようにしないとな」
「アグニちゃん、気になる木の実があってもどこかに行かないでね」
「分かってますよぉ」

 エレインに釘を刺されて、アグニは不服そうに唇を尖らせた。

 ちなみに、エレインは攻略時に最後に記録した場所と、ウォンの住処それぞれを《転移門ポータル》に登録しており、今回は前者へと転移していた。

(もしかしたら何処かでウォンが見てるかも…)

 エレインはウォンの住処の方に小さく手を振った。

「何やってんだ、行くぞ」
「あ、はーい!」

 ホムラに呼ばれてエレインは2人の元へと駆け寄った。エレインが手を振った方角で、風がそよりと靡いたことには気付いていなかった。

「この階層もすっごく広いですよね…」
「ああ、得体の知れない植物もわんさか生えてる。アグニ、無闇に触るなよ」
「お二人だって気をつけてくださいよ」

 やいやい言い合いながら背丈ほどの草を掻き分けて進む。方向が全く分からないので、一定の間隔でリボンを結ぶのを忘れない。

 ようやく鬱蒼とした草の森を抜けると、今度は沼地が現れた。

「いるな」
「いますね」
「何が!?」

 沼を前にし、ホムラとアグニが不穏なことを口にしたため、エレインの顔は真っ青である。沼の水面にはポコポコと幾つもの気泡が見られ、水中に何かが潜んでいることを暗示していた。

「そこに落ちてる枯れ枝でも投げ込んでみな」
「これですか?…えいっ」

 ホムラに言われた通り、エレインは枯れ枝を拾うと、えいやと投擲した。そして沼の水面に枝が触れた途端、ザバンと水柱が上がった。鋭利な牙がたくさん並んだ巨大な口が、枯れ枝を勢いよく噛み砕きボロボロにした。

「ヒィィィィ!!何ですか!?ワニ!?」
「クソでかいワニだな。確か視力は悪いはずだが、触覚がえらく敏感でちょっとした水の流れの変化で獲物に襲いかかるタチの悪い魔獣だ」

 一瞬顔を出しただけだが、それだけでもエレインを丸呑みにできるほどの大きさであった。一体全長だとどれくらいになるのか。

「かなり表皮が硬いんですよねぇ…倒せないこともありませんが、厄介です」
「チッ、面倒だがここは沼を迂回した方が懸命だな」

 ホムラとアグニの判断に、エレインはホッと息をつくと、沼地沿いに歩みを進めるホムラの傍に寄った。

「何だよ」
「えっ!?いや、盾と言いますか…」
「くっ、俺を盾にするたァ、いい度胸だな」

 沼からいつ何が襲いかかってくるとも限らないため、エレインは安全なホムラの側に寄ったのだが、そのことを素直に白状すると、ホムラは喉を鳴らして笑った。

「おら、怖いなら手でも繋いでやろうか?」
「えぇっ!?だだだ大丈夫ですっ!」

 ホムラが揶揄うようにヒラヒラと手を差し出したが、エレインは顔を赤くして激しく両手を振りながらお断りした。ホムラと手を繋いでダンジョンを歩くなど、とてもじゃないが恥ずかしすぎる。勘弁して欲しい。

「エレイン怖いんですか?じゃあボクが手を繋いでてあげますよ」
「えっ、アグニちゃん…ありがとう」
「おい」

 エレインとホムラのやり取りを見ていたアグニが、呆れたようにエレインに手を差し出すと、エレインは何の迷いもなくアグニと手を繋いだ。自分とは違った反応にホムラが解せぬと異議を唱えるが、アグニは得意げに鼻の穴を膨らませた。

「仕方ないですね。ホムラ様とも繋いであげますよ」
「…何でアグニと手を繋がなきゃなんねェんだよ」
「まあまあ、そう恥ずかしがらずに」
「チッ」

 そうして、何故かアグニを中心に3人で手を繋いで沼地の周りを歩いて進むこととなった。不服そうにホムラがブツブツと苦言を呈しているが、エレインは何だか楽しかった。アグニも満更ではなさそうで、その歩みは少し弾んでいるように見える。

 やがて沼地をぐるりと周り込み、対岸へと到着した。

「こっからはまた茂みに入らねぇとだな。縦一列で行くぞ」
「はい」

 エレインは少し名残惜しい思いを抱きつつも、アグニと繋いだ手を離した。そして腰ほどの高さの茂みに足を踏み入れる。
 不必要に草木を傷つけないように気をつけて進むのは骨が折れる。全員に少し疲れの色が見え始めた頃、視界が開け、色とりどりの花々が咲き誇る花畑に辿り着いた。

「うわぁ!すっごく綺麗…」

 エレインだけでなく、ホムラやアグニも圧巻の景色に感嘆している様子だ。だが、エレインは以前ドリューンやウォンに危険な植物が紛れていることもあるため、無闇に触れないようにと注意を受けていたので、触りたい気持ちをグッと抑えた。

「綺麗な花には毒があると言いますからね。気をつけましょう」

 アグニも警戒を怠らない。一方のホムラは、何やら鼻がむずむずするのか、しきりに鼻の下を擦っている。

「ホムラさん?」
「なんか甘ったるい匂いがしねぇか?」
「え?そうでしょうか?」

 ホムラに言われ、エレインはふんふんと鼻をひくつかせるが、辺りは花の香りに満ちており、特段気になるところはなかった。アグニの方を見やると、アグニもエレイン同様首を傾げている。

「…こっちか?」

 ホムラはふらふらと、まるで何かに吸い寄せられるように花畑に向かっていく。そして、顔ほどの大きさの花の蕾の前で立ち止まった。傍目に見れば鮮やかすぎるほど真っ赤な花の蕾である。エレインは何故か嫌な予感がした。

「この花の匂いだな」

 そして、止める間も無く、ホムラは真っ赤な蕾を指で突いた。

 ブワッ!

 刺激を受けた蕾は、弾けるように花開くと、大量の花粉をホムラに浴びせかけた。

「ホムラさん!」
「ゲホッ、ゲホッ、チッ、何だァ…うっ」

 手を仰いで花粉を払うホムラだったが、急に膝をつき、頭を抱えて苦しみ始めた。

「ホムラ様っ!?」
「ダメっ!アグニちゃん!まだ花粉が舞ってる!」

 毒性の花粉なのか、エレインとアグニは抱き合いながら固唾を飲んでホムラの様子を見守る。やがて花粉の幕が降り、ゆらりとホムラが立ち上がったため、エレインはホッと息をついた。

「よかった、何ともありませんか?」
「…グルル、に、逃げ…」
「え?」

 エレインはホムラに手を伸ばしかけたが、すぐにいつもと違う様子に気がつき、手を止めた。ホムラはふらりとよろめきながらも何かと闘うように頭を押さえている。

「ぐ…ダメだ。逃げ、ろ…グゥッ、グアァァ!!」
「ホムラさん!!」
「ホムラ様ぁっ!!」

 そして、耳をつん裂くような叫び声を上げて、ようやく顔を上げたその目は瞳孔が開ききっており、額にはじんわりと脂汗が滲んでいた。腕や首筋には青い血管が浮かび上がっており、グルルと獣のように喉を鳴らしながら、鋭く尖った犬歯を覗かせている。

「ほ、ホムラ様…?」

 アグニが声を震わせて呼びかけるが、ホムラは苦しそうに肩で息をし、エレインとアグニの方へとにじり寄ってくる。

「はぁっ、はぁっ…あ、アグニちゃん…」
「え、エレイン…どうしましょう」

 ジリジリと後退りをするエレインとアグニ。まるで凶暴な肉食獣に追い詰められた獲物の心地である。2人はあまりの緊張感から呼吸が浅くなっていた。

「に、逃げるよ!」
「はいぃっ!!」
「グルルルァァ!!」

 2人は踵を返して茂みに向かって一目散に駆け出した。それを合図に、ホムラも鋭い牙を覗かせながら後を追ってくる。

「どどどどうしよう、どうしよう!!」
「どうしましょう、どうしましょう!!?」

 逃げるエレインとアグニは半ばパニックである。まさか我を失ったホムラに襲われることになるとは思いもしなかった。走りながら振り返ると、ホムラは草木を薙ぎ倒しながらこちらへ向かって来ていた。

(だめ…!このままだと森が…とにかく70階層へ連れて帰らないと…)

 エレインはアグニに目配せをした。アグニは一呼吸遅れてエレインの考えを悟ったようで、緊張した面持ちで頷いた。

「アグニちゃん!さっきの沼地で!」
「わかりました!」

 エレインとアグニは二手に分かれた。アグニは身を屈めながら沼地を目指す。エレインの狙い通り、視界に入ったエレインの方をホムラは追って来た。

「ヒィィィィ!!ホムラさん正気に戻って…!!」

 流石に目に涙を滲ませながら、エレインは少し迂回して沼地を目指した。草木を気にしつつの逃走であるため、徐々にホムラの手が迫ってくる。

 何とか茂みを抜けて沼地へと飛び出すと、既に到着していたアグニが沼地の側に帰還用の魔法陣を設置してくれていた。

「アグニちゃーん!!!」
「エレイン!無事でしたか!準備はできています!」

 帰還用の魔法陣が使えるのは1回きり。そうでなければ誤ってダンジョンの魔物やモンスターが70階層へとやってきてしまうからだ。そのため、ホムラを連れて帰るためには3人同時に魔法陣に飛び乗る必要があった。

 エレインは走りながら後ろのホムラの位置を確認する。

(よ、よし…持ってきててよかったよ~~~)

 エレインは魔法陣との距離を目視で確認し、タイミングを見計らってホムラに捕縛の玉を投げつけた。闇の魔道具を使用した冒険者を捕縛するための粘糸の玉である。ポケットに入ったままになっていたのが幸いした。

「ガゥッ!!」

 エレインに飛びかかろうとしていたホムラは、粘着質な糸に身体を捕縛され、前のめりに倒れて来た。

「ホムラさんっ!!」

 エレインは咄嗟にホムラを受け止めると、そのまま魔法陣の上へと倒れ込んだ。アグニも同時に魔法陣に飛び乗り、3人の姿は75階層から消失した。


ーーーーーーーーー
見つけてくださり、そして読んでくださりありがとうございます!
昨日更新できていなかったことに日付が変わる前ごろに気が付きました(ショック)
本日2話更新しますので、また覗きに来ていただけると嬉しいです!
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

処理中です...