【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

水都 ミナト

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第二部 パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

77. 甘くて困惑する

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 エレインが70階層に戻って早くも数日が経過していた。
 結局、ルナの所在をはじめとして、新たな手がかりは見つかっていない。怪しい動きを見せる冒険者もなく、すっかり平和な日々に戻っていた。

 そんな中、エレインを悩ませていることがあった。

「ふぅ…」

 お風呂上がり、ソファで一息つくエレイン。
 アグニは一緒に湯浴みを済ませた後、早々にベッドに入り、既に寝息を立てている。遠目にその様子を見て思わず笑みが溢れる。

「何笑ってんだァ?」
「うひょぉ!?」

 突然、ぬっと肩越しにホムラの両腕が降ってきて、エレインは思わず変な叫び声を上げてしまった。ソファの後ろからホムラが両腕を垂らしてエレインにのしかかって来たようだ。頭に顎を乗せられ、ぐりぐりされている。

「ちょ、ちょっと!やめてくださいよ…!」

 慌ててエレインが抗議するも、ホムラは楽しそうに喉を鳴らすばかりだ。

 そう、最近のエレインの悩みとは、スキンシップ過剰なホムラのことであった。

 ホムラが好きだ、そう自覚したはいいが、エレインは今の関係を維持するためにその想いを大事に胸の内に留めておくことにした。それなのに、ホムラときたらエレインにくっつくように身を寄せたり、隙あらば手を繋いだりしてくるので、その度にエレインの心臓は飛び跳ねて激しく脈打った。

「あの…ホムラさん最近どうしたんですか?スキンシップ過剰と言いますか…ちっ、近いんですけども…」
「あァ?もう遠慮はしねぇって言っただろ?…何だよ、嫌なのかよ?」

 エレインが絞り出した問いに、怪訝な顔をして答えるホムラ。そして、顔をエレインの耳元に寄せて少し切なげな声で囁かれた言葉に、エレインの心臓は更に飛び跳ねることになった。

「いっ、嫌ってわけじゃないんですけど…!!心臓がもたないと言いますかなんというか…」

 慌ててしどろもど言い訳をするエレインに、ホムラは安心したような笑みを溢すと、だらんと垂らしていた両腕をエレインの前で組んだ。つまりギュッとエレインを抱きしめたのだ。

「くっ、もっと意識してくれてもいいんだぜ?」
「~~っ!」

 ホムラに悪戯っぽく囁かれ、益々顔に熱が集まるエレイン。ホムラは耳元に寄せていた顔をエレインの肩に乗せると甘えるように頭を擦り寄せてきた。ふわりとホムラの髪が首筋を撫でてくすぐったい。

「…いい匂いすんな」
「えっ!?あ、お、お風呂上がりだからですかねっ!?」

 そしてくんくんと匂いを嗅がれてビクッとエレインの身体がこわばった。

 心臓がバクバクと早鐘を打つ。恥ずかしすぎて死にそうだ。きっと耳まで真っ赤に染め上がっている。

「~~っ、もう、勘弁してくださいぃ」
「仕方ねぇなァ」

 真っ赤になった顔を両手で覆って降参すると、ようやくホムラはエレインを解放した。
 自分から言ったくせに、すっと離れた熱に少しの寂しさを感じるのは余りにも身勝手だろうか。

 ホムラはエレインの隣に腰掛けて、アグニお手製の果実水をぐいっと煽った。

「ぷはっ、うめぇ」

 ホムラはエレインとアグニの後に湯浴みをして上がってきたばかりだ。着物を着崩して胸元をはだけさせている。ほんのりと肌が赤らんでおり何とも色っぽい光景に、エレインはホムラの方を見れずに視線を逸らした。
 見慣れた光景であるはずが、意識した途端にこうだ。なぜ今まで平気でいられたのだろうか。最近ではホムラの一挙一動がカッコよく見えて仕方がない。

「んあ?そういえば見慣れねぇ服着てんな」
「えっ!?あ…えーっと、リリスと地上へ降りた時に買いまして…その、変…ですか?」

 エレインは、ローラに呼び出されて地上へ降りた時にリリスにゴリ押しされたひらりとした絹のワンピースを身に纏っていた。淡い水色でエレインの髪色によく馴染んでいる。
 普段色気のないシンプルな寝衣を着ているエレインには珍しい服装である。あまりにも女の子らしいその服は、しばらく箪笥の肥やしとなっていたのだが、先日リリスにまだ服を着ていないと言ったら目を怒らせて着るように凄まれたため、思い切って袖を通してみたのだ。上質な絹の生地なので、肌をやんわり包み込んでくれて着心地もとても良かった。

 ホムラは肘をついて柔らかな笑みを浮かべながらエレインを見つめた。

「よく似合ってるじゃねぇか」
「うぇっ!?あ、ありがとうございます…」

 着慣れないスカートを褒められて、なんだか気恥ずかしい。

「えっと、全部絹でできていて…すごく肌触りが良くって気持ちいいんです」
「ほぉ…」

 モジモジと照れ隠しにそんなことを言うと、ホムラは少し考える素振りをした。そしてするりとエレインの膝の裏と背中に手を滑らせてひょいと担ぎ上げたかと思うと、自らの膝の上にエレインを乗せた。

「んななななっ!?」
「本当だな、柔らかくて気持ちいいわ」

 そのまま腰に手を回してエレインを横抱きにした。
 下から見上げるホムラはお風呂上がりでまだ火照っているのか、目元がほんのり赤い。

「いい抱き枕になりそうだ。久々に添い寝でもしてやろうか?」
「なっ!?ね、眠れなくなるので大丈夫ですっ!!」

 ホムラは困惑するエレインの反応を楽しそうに見つめている。

 ホムラの言う『大切な奴』に対する距離感が近すぎて、エレインはもうパンク寸前である。

 ふとした時に、もしかしてホムラも自分と同じ気持ちなのでは?と自惚れてしまいそうになるが、ホムラの言う『大切』が恋愛感情なのか、友愛なのか、はたまた家族愛なのか、エレインには判別がつかなかった。

(それにしても…『大切な奴』に対して甘過ぎない…!?)

「あ、あの…そろそろ寝たいので、えっと…は、離していただけると…」
「あ?折角だしこのまま運んでやるよ」
「え!?きゃぁっ!?」

 遠回しに解放してほしいと訴えたつもりが、ホムラはエレインを横抱きにしたままベッドへと向かって行く。急に身体が浮かび上がり、エレインは慌ててホムラの首にしがみついた。至近距離のホムラの表情はとても優しくて、燃える炎のように紅い瞳がとても綺麗だ。思わず吸い込まれそうになる。
 ホムラはエレインのベッドの脇に到着すると、まるで割れ物を扱うかのようにそっとエレインをベッドへ横たえた。

「いい夢見ろよ。おやすみ」
「お、やすみなさい…」

 そして柔らかく微笑むと、エレインの頬をひと撫でして歯を磨くべく洗面台へと消えていった。

 エレインはホムラの姿が見えなくなると、ガバッと布団を頭から被って身体を丸めて身悶えした。ホムラが触れた場所が火傷をしたように熱い。お腹の底からぎゅうっと何かが込み上げて来るようで叫んでしまいそうだ。

(うぅ…ほんと勘違いしそうになるからやめて…)

 エレインのその日の寝つきが悪かったことは言うまでもない。




ーーーーー
いつも読んでくださりありがとうございます!
第二部はラブ要素も第一部より多めで、受け入れていただけるかドキドキしておりますゆえ、もし宜しければご感想などいただけると泣いて喜びます!(;ω;)
ファンタジー小説大賞にも畏れ多くもエントリーしておりすので、そちらも応援いただけると嬉しいです!
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